Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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16.決着

物心ついた時から競争を強いられていた。

 

俺と同じくらいの背格好の子供がたくさん狭い施設に集められ棒切れを使いどちらかが負けを認めるまで殴り合いをさせられる。勝星を増やすと周りの大人からほめられ厚遇される反面、負けが続いた子供はいつの間にか施設内で姿を見かけなくなっていった。

そこでは勝つことが正しいことだと知り、寝床で初めて片言で会話した俺と同い年ぐらいの少年でさえも殴り倒した。

 

やがて子供の数が絞られてくると動物の死体を利用して刃物の使い方を教え込まれるようになる。

 

数年がたち青年と呼ばれる年頃になると今度は突然、単身で野外に放り出され野生動物の襲撃に怯える毎日を過ごすことになった。もちろん食べる物もない。

 

俺は極度の空腹感から恐怖心が消え無我夢中で野生のボーンドッグ等を狩って餓えを凌いだ。

 

数日たつと迎えの大人が現れ無事に施設に戻ることが出来た。しかし、周りの人間はさらに数を減らしていた。戻ってきた者の中でも片腕を無くしている者さえいたので俺は運が良かったのかもしれない。

 

その頃になると自然と言葉は喋れるようになっており俺と同じ境遇の者たちとも時折話すようになっていた。寝床で初めて会話した少年もここまで生き残っており当時の俺の所業を理解し許してくれて、数少ない良き友人となっていた。

 

そしてある日、俺は施設の者に呼び出され、ここで実施してきた全ての事の説明を受ける。

 

都市連合という国家の兵士を養成するための施設だったこと。ここで一人前になった者たちは各地に派遣され奴隷兵士として任務にあたること。

 

同期の中でも優秀な成績だった俺は残る最終テストをクリアすれば特別部隊に配属されるとのことだった。しかも親しい者を一人だけ同伴することも許された。

 

そして最終テストの日がやってきて内容もその時に明かされた。

 

目の前にいる男を殺し勝利すること。相手は俺が指定した親しい者。初めて会話して初めて友人になった者だった。私情を捨て非情になることが最終テストだったのだ。

 

勝利することが我々に課された至上命題。相手の友人も同じことを言われ同じ気持ちで俺の前に立っていたことだろう。迷いのない目をしていた。どちらも負けたほうは相手を許し勝ったほうは前に進むだけだった。俺は友人との殺し合いを制し、晴れて都市連合最強組織であるアイゴア部隊に配属された。

地に倒れた友人の目がこちらを最後まで凝視していた様は今でも目に焼き付いている。

「俺の屍を乗り越えていけ」友人はそう言っていたのだと解釈することにした。そうしないと俺のなかで何かが壊れてしまうと思ったからだ。

そして俺はこの時から勝利し前に進み続けることを友に誓ったのだ。

 

 

(・・・ちっ、嫌な夢を見ていた気がするぜ。)

 

数時間がたち日もすっかり落ち込みウェイステーションの周りが暗闇に包まれた頃、ガルベスは目を覚ました。

 

人は目的がある時に自分が意図したおおよその時間に起きれることがある。いわゆる腹時計という奴だ。ガルベスは訓練してこのスキルをある程度制御できだ。

 

そしてシルバーシェイドの時と同様に2人が夜の暗闇に乗じて逃走すると踏んでいたのだ。

 

自分が起きたことを気づかれないようターバンの隙間から足元だけ確認していると、しばらくして案の定ルイたちが動き出した。

ガルベスの目を盗み2階からウェイステーションを出たのである。

 

相手が例え若者であっても全力で戦い屠る。それが自分のポリシーであり相対してきた者たちへの最大の敬意だと理解するガルベスは油断せず2階の足音に耳を傾け2人が外に出たことを把握していた。

 

ここまでの流れは両者にとっても前座に近い。ルイたちは、少しでもいいからガルベスの体力を削れれば良い、程度だったろう。ガルベスにわざと見抜かれて見つかり、逃げる過程でガルベスを用意した罠にはめる。これがルイが考えた案であったからだ。

 

対してガルベスは相手の消耗作戦を見破った後は2人をどう処分するかだけだった。

 

「俺が寝ている間に逃げるつもりだったのか?」

 

裏をかき意気揚々と2人の前に立ちはだかったガルベスだがこの時は当然、この先に罠が仕掛けられていることまでは予測できていない。

 

「くそ!トゥーラ!走って逃げるぞ!」

 

ウェイステーションの明かりが届かない暗闇の中、微かに見える岩場の山に走って逃げる2人を大きな板剣を背中から下ろしながら追い始める。

 

ルイの台詞も冷静に聞くと演技くさかったが、狩が始まった高揚感でガルベスは見抜けなかったのだ。

 

だが仕掛けたひとつ目の罠がガルベスを冷静に戻してしまう。

 

ルイ達はガルベスをまくフリをするため、見通しの悪い岩場地帯へ誘導するように走った。そして1つ目の岩陰を曲がって逃げた先に鉄屑で作った大量のマキビシを敷いていたがガルベスが発見してしまうのである。

 

「うおっと!やはり迎撃するつもりだったか!暗くなれば見落とすと思ったか?甘いやつらめ!」

 

マキビシをよく見るとかなり鋭利に作られており、ガルベスの体重でうっかり踏んでしまうと足の平を突き通してしまうほど精巧に出来ていた。

 

そしてガルベスは足下を見ながら慎重に歩こうとしたが、ふと足を止める。

目先、高さ2mぐらいにピンと伸びたロープがはってあったからだ。

ロープの先を辿ると頭上に大きな岩がぶら下がっている。

 

短剣でロープを切ると岩はズズーン・・と鈍い音をたてて落下し地面にめり込んだ。

 

(二重のトラップ・・・!足下に注意をひかせて別の罠で完全に殺りにきていた。こいつら対人用の罠もしっかりはれるんじゃねーか。まぁ大分基礎的ではあるがな。)

 

余裕の表情で見上げるとルイが冷めた表情でガルベスを見ていた。

 

罠にかからず悔しがっている表情ではない。

 

(へぇ~まだ何か仕掛けを用意しているということか。そう言えばもう一人のボウガンを使う女がいつの間にか見当たらねぇ。いいだろう上等だ!)

 

「フラットスキンどもめ!お前たちの浅知恵なんぞ全て看破してやる!」

 

ガルベスは岩を伝って再びルイを追い始める。

 

対してルイはつたない足取りで岩場をよじ登っていた。

 

そしてそのまま岩場の山頂に登り詰めると振り返り、シルバーの髪を風にたなびかせながらガルベスに声をかける。

 

「おい、鹿ツノ!こっちだ。俺はここにいる。」

 

敢えてシェク族が誇りにしている角をいじり侮辱をしたのである。

 

これに対してガルベスの顔は紅潮し怒りの形相をあらわにするが、ふと我にかえって立ち止まる。

 

崖の上からの挑発で何か罠がないなんてことはない。

しかもご丁寧に横には脇道が見え上へと続く細い通路があるのだ。

 

(このまま挑発に乗ってかけ上ったら岩を落としたりするんだろうな。かと言って人が一人通れるぐらいの脇道は恐らくボウガンや短剣を含めた罠が張り巡らされている可能性が高い。俺が激高して崖を登るのを踏みとどまったあげく、脇道を選択するという流れが恐らく裏をかいた本命の罠なのだろう。やはり脇道のほうは除外だ。そして崖のほうだが・・・ふふふ、こいつらは俺の実力を過小評価していたようだ。この勝負、俺の勝ちだ。)

 

「バカが!崖に仕掛ける罠などで俺の力を超えたつもりだったか!」

 

ガルベスは不敵に笑うと罠と知りつつ崖を一気にかけ登る。

 

「・・・!」

 

この行為により、ルイに初めて焦りの表情が出るが、手元にある縄を急いで切り落とす。

 

「罠と知って敢えて登るか!ガルベス!ではこれもお前の運命だ!死ね!」

 

複数の大きな岩が堰を切ったように転がり落ちる。逃げ場すらないこの仕掛けを食らえば確実に相手を即死に至らしめる。

ガルベスが崖を選択するとは思っていなかっただろうがこちらも充分必殺の仕掛けであったのだ。

 

 

しかしそれは通常の人間を対象にした話だった。

 

「ぬうううううん!!」

 

ガルベスの筋肉は膨張しシャツが爆発するように張り裂ける。

 

ガルベスによる板剣を使った全身全霊の一撃が転がり落ちてくる複数の大岩に繰り出され

 

ガアアアアン!!

 

という大きな音と共に辺りに砂煙を撒き散らした。

 

そして砂煙が収まり視界が開けてくるとそこにはガルベスが仁王立ちしていたのである。避けきれなかったであろう岩が直撃したのか一部の鎧は剥がされ血が滴っているが体はびくともせずピンピンしていた。

 

「バカな・・!あの大岩を・・。」

 

ルイは落胆の様子を隠せない。

 

「シェクの力を侮っていたな。侮辱した罪も万死に値する。覚悟しろ。」

 

「トゥーラ!そっちには行かなかった!お前は走って逃げろ!」

 

後ずさりし慌てながら脇道のほうに叫ぶルイを見てガルベスは確信する。

 

長い髪の女も近くにいる。

2人はこの場所で決めにきていたのだと。

 

後退したルイを追ってそのまま崖を登るとついにトゥーラも発見する。

 

(決まりだ。後は2人をまるごと追い詰めればいいだけ!)

 

トゥーラの手を引っ張ってルイは逃げようとするが、ガルベスはそれを遮り袋小路に追い詰めた。

 

「もう無理だわ!ルイだけでも逃げて!」

 

トゥーラはボウガンをガルベスに向けるとためらいなく矢を放つ。ガルベスの胸元に刺さると思われたが、構えた腕の手甲に防がれてしまう。

 

最早2人はお互いかばい合うだけで罠の仕掛けらしい物も近くにない。

 

「残念だったな。恨みはねーが、ここでお前たちを処刑させてもらう。まぁ俺も若い者の命を摘むのは気が引けるが仕事なんでな。最後に言い残したことはあるか?」

 

トゥーラが悲愴な表情を浮かべている横で、

ルイは最後まで諦めない表情をしている。

 

「意外だな。あんたは殺戮大好きな糞野郎だと思ってたよ。」

 

「ふん。俺だって好きでこの道を進んだわけじゃねー。言いたいことはそれだけか?では最後だ。」

 

ガルベスはジリジリと歩みより板剣を掲げた。

 

しかしそれを静かに見計らっている者がいた。

 

「今だ!やれ!!」

 

突然ルイが大きな声で叫んだのだ。

 

それと同時にガルベスの足元からすごい勢いで網が浮かび上がる。

 

「うおおおお!?」

 

突然のことにガルベスも全く対応が出来ていない。

 

網はそのままガルベスを包むように巻き込んだまま茂みのほうへ引きずりこみ上空へ1メートルほど浮かび吊し上げたところで停止した。

 

「馬鹿な!?何でだ!お前たちがやれるわけがない!一体誰が!?」

 

ガルベスはもがきながらルイとトゥーラを見ている。

 

「やった!本当にうまくいった!」

 

トゥーラはガルベスを捕らえたことに興奮して大喜びだ。

 

その隙にガルベスが懐から短剣を抜いて網を切ろうとするがどこからともなく声が聞こえる。

 

「ガルベス動くな!動くと殺さなければならない。」

 

カツカツと足音をたて暗闇から歩み寄ってきた

声の主はシルバーシェイドであった。




あとがき

1章残すところあと2話になりました。
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