Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
「イズミ……?」
ルイはサッドニールが発したその名前を聞き返した。ノーファクションの意志を引き継いだ人間?それにしては1度も会ったこともなく、どこにいるのかも分からない。そもそも頭領はレッドではなかったというのだろうか。
「バーンは全てが終わった後に君に伝えようとしていたようだ。イズミとの交信記録がパーツの至る所にバックアップとしてとられていた」
サッドニールの発言からもその人が重要な立ち位置にいることが理解出来る。
「イズミはスパイとしてノーブルサークルに入り込み内側から解体しようと考えた。都市連合もイズミの科学分野における知識とそのキレの良さを買い、雇い入れた」
「え!?頭領が直々に潜入してたのか!?」
「そうだ。しかしそれでもノーブルサークルは出自の分からない者を警戒したのか、常に特憲をイズミの側に置いていた」
「それは……そうだろうな」
「彼女は表向きノーファクションの頭領をレッドに演じてもらい、自分は持ち前の頭脳を使って、貴族までのし上がった。そして都市連合の資金を使いアイアンスパイダーの軍隊を操るための軍事技術の研究を進める」
彼女……イズミの名前からして女であることは連想出来ていたが、鉄蜘蛛の研究と聞いてルイの中で胸騒ぎのように心がざわついていく。
「……それって……」
「禁忌の島のアイアンスパイダー生産工場だ」
頭の整理が追いつかない。禁忌の島に関連して関わった貴族の女は思いつく限りで1人しかいない。ルイの困惑を他所にサッドニールは説明を続ける。
「彼女はその傍らで都市連合を弱めるための手をうっていく。ハウラーメイズ攻略により食糧問題が解決するのを見計らい、貴族筆頭のオオタの野心を利用して戦争を誘発させたのだ」
「イズミって誰なんだよ……その人がノーファクションを引き継いだなら今どこに?」
「ヘフトだ」
自分の心臓の音が聞こえてくるほど、鼓動が高鳴っていく。サッドニールが嘘をつくことはない。そして事実を伝えるのが上手いわけでもない。偶然にもヘフトで処刑されようとしている女性の貴族はレディ・ミズイである。
「え、いや……嘘だろ……まさか……?」
「そうだ。ミズイが我々ノーファクションの頭領イズミだ」
既にルイの頭はフリーズ寸前であったが、これまでのミズイの行動を改めて振り返る。
禁忌の島から帰還した際、ディアーから聞いた最期の言葉『判断は全てミズイに委ねろ』
あの場で敵の言う事に従え等と言うような者はいない。
「…………嘘だ。そんな馬鹿な事があるか。だってアイツは……!」
言いかけて気がつく監視の意味。
「そんな……」
「彼女はノーブルサークルを倒そうと計画している傍らで、君が世に出てきて関わり始めた事に苦心した」
「な……なんで?」
「ミズイは……いや、イズミは君のことを肉親の妹のように可愛がり守ってきたからだ。ピット地方に君を匿い支援していたのはイズミだ」
サッドニールの発言を皮切りにして、ルイの頭の中に今まで忘れていたであろう記憶が蘇り始める。
自分がニールと一緒にピット地方で暮らしていた時代。時おり赤いコートを来た女性が訪問しに来ていた。ルイは幼いながらもこの女性が定期的に来てくれるのを楽しみにしていた。この女性はニールと難しい話をした後、必ず遊んでいってくれた。そしてお土産らしきオモチャもたくさん残していってくれた。
「お姉ちゃん、今度はいつごろ来れるの?」
「ごめんね、ルイ。私がここに来れるのも今日が最後なの」
「えぇ〜!なんでよぉ?そんなの寂しいよぉ!」
赤いコートの女性はルイの目線まで腰を落とすと、優しい口調で語りだす。
「大丈夫。君には催眠をかけてこれまでの私との記憶をなくしてあげる。だから寂しさも感じないわ。それに私はいつだって遠くから見守ってるよ。君の未来は私が必ず守るからね。これまでのことは全て忘れて幸せに生きるんだよ」
「イズミお姉ちゃん!」
イズミお姉ちゃん。
忘れていてはいけない名前だった。なぜ今まで思い出せなかったのか。私のたった1人の姉のような存在だった。
「イズミ……お姉ちゃん……」
茫然とするルイに対してサッドニールの説明は終わらなかった。
「情報を開示したことで催眠が切れたようだね。ハウラーメイズの記事でルイがピット地方から出てきた事を知ったイズミはどうにかして君を守れないか考えた。そしてポートサウスの一件の際にヘッドショットとレイを派遣したのだ」
「あ……あ……」
「また禁忌の島以降、特憲の魔の手がルイに忍び寄っていることを危惧し、リドリィと手を組んで自ら特憲に介入していった。そして君の命が危ういと察知すると、強引であったがグリフィンと共謀して浮浪忍者村に閉じ込めることにしたのだ」
ルイはバストにてミズイに言われた言葉を思い出した。
『あなた何度閉じ込めても出てくるのね』
ミズイは半ば呆れた顔つきであったが、どことなく微笑みかけるような優しい表情だった。ルイの成長を喜んでいるような満足気な顔をしていたのだ。
「ちょ……っと待ってくれ……。さっきミズイは処刑されるって……」
「ああ。それが彼女の最後の仕事だ」
「何言ってんだ!助けに行かないと……!」
ルイはフラフラと拠点のほうへ戻ろうとするが、サッドニールが絶望的な事を言う。
「もう遅い。今日が処刑日だ。それにイズミは計算してこうなることを自ら望んでもいる」
「は?処刑されたいってのか?ふざけた事を言うなよ。死にたい奴なんていないだろう!」
「彼女は復讐のために多くの人間が死ぬことにケジメをつけようともしている。チャドを説得しホーリーネーションと都市連合の殺し合いをさせたのもイズミだ。そして彼女が死ぬことで君らの未来も守られる。長く続いた因縁の戦いもこれで終わるのだ」
サッドニールがいつものように担々と冷静に言いきった言葉をルイは全く理解出来なかった。イズミが死んでノーブルサークルとの関係性が断ち切れるからか?それで奴らの干渉を止められるのか?いや、そんなことはどうでもいい。今は只々、彼女に生きていて欲しいと、もう一度会ってこれまでのことを謝りたい。自分がここまで成長出来たことを見せたい。そう思っていた。
「何言っているか全然わかんねーよ!イズミお姉ちゃんが死んで何が守られるんだよ!!」
「それは……」
サッドニールはいつものように担々と理由を述べたが、その衝撃的な内容にルイは絶句した。
◆◆◆ヘフト◆◆◆
大量の鉄蜘蛛が都市を囲うように配置され、その間を貴族の一行が恐る恐る入場していく様を屋上から煙草を吸いながら眺めている男がいた。
「ここにいらしたのですか。ロンジン様。もうすぐ始まりますよ」
侍の格好をした兵士が煙草を吸う男に声をかける。
「ふん。処刑を娯楽イベントのように行う風習は実に悪質だな。つまらないショーには興味がないので退出してきた。それにこんな数の鉄蜘蛛に取り囲まれていては生きた心地もしない」
トレーダーズギルドの長ロンゲンの息子であるロンジンは見渡す限りを埋め尽くすアイアンスパイダーの群れを見て愚痴を吐いた。
「まぁまぁ。ニムラ博士が完全に制御しているようですし、これでホーリーネーションも倒せるではないですか」
「相手を減らそうと考えているだけでは、いつか人間が滅びるだけだ。秩序がないと商売も成り立たないしな。まぁいつか人が淘汰されてシェクやハイブが生き延びるのも歴史においては自然な流れなのかもしれないが」
「何を言っているのです。他の種族も従わないのであれば滅ぼせばいい」
「ふふ……視野の狭い者たちは奪い合うことしか頭にない」
ロンジンは侍には目をくれず遠くを見ながら煙草の煙を吐いた。そこにターバンを巻いた1人の男が静かに現れる。
「む!何奴!ここは貴族専用のVIPルームだぞ!名を名乗れ!」
侍は刀に手をかけながら忠告するが、颯爽と現れたターバンの男は全く動じていない。
「人を見た目で判断したらだめだぞっと。俺は特憲のクジョウって者だ」
「特憲!?あ、いや。これは失礼した。……いやしかし急に何用ですかな」
「用があるのはそっちのロンジン殿だ。あんたは向こう行っててくれ」
「む……。しかしロンジン様を1人にするわけには」
侍がチラリとロンジンを見ると、彼は特に気にしていなさそうだ。
「下がってていいよ。特憲なら私たちが束になってもどうせ勝てない」
「む……。左様ですか……」
釈然としない様子で下がる侍を見送るとクジョウが切り出す。
「ふーん。物わかりがいい。さすがロンゲンの息子ってとこですかね」
「君は南の都市から来た特憲なんだってね。誰の推薦?」
「父君から聞いておりましたか。推薦者はレディ・メリンですよ」
「メリン殿か。彼女は武勇に優れた名士だな。食糧難になっている南の都市連合を支えられているのも彼女がいるからこそだね」
「いえ、トレーダーズギルドの支援がなければとっくに崩壊してました」
「その見返りで君も父親に手伝わされているのだろ?」
「いやいや、こちらから申し出ただけですよ。ロンゲン様には大変お世話になっております」
「ふん。どうだかな。ところで君はモリの行方を知っていないか?長いこと連絡が取れていないのだが」
「存じ上げません」
「本当か?」
「はい」
一時の静寂が流れたがロンジンは話を切り替える。
「……そうか。まぁいい。それで、私に何の用だ?」
「こんな鉄蜘蛛に囲まれた都市は窮屈でしょう。ご一緒に外へ出ませんか?」
唐突な提案にロンジンも唖然とする。
「ははは、外へ出て何とする。男同士で散歩でもするのかい?この後、ミズイの処刑と鉄蜘蛛のデモンストレーション会に呼ばれている。特に処刑は私も立ち会わなければならない」
「そんなもの、他の貴族も殆ど来ているのだからバレないでしょう。ここまで来たのだから役目は果たせたようなもんですよ」
「まぁそうなのだが、そもそもお前についていって何の意味がある?もしや父親に頼まれて私を郊外で殺すつもりか?」
「そんな無意味なことするつもりないですよ。それに先ほどあなたも言ってたじゃないですか。殺るなら今やってます」
ロンジンは平静を保ちつつもクジョウの言葉を真剣に聞いている。
「正直だな。……お前についていくことが私の利するものと思っていいのだな?」
「はい。あなたは今後の帝国に必要な人材ですので。ただ、なるべく急いでもらいたいですね」
「……真意を理解できないが、今のうちに媚びを売っておこうという算段は分かった。取り敢えずついていってやる」
「聡明な判断で助かりますよ。ではこちらです」
ロンジンは足早に動き出すクジョウを追い、その場を後にした。
一方で父親のロンゲンは沢山のご馳走が並ぶ大部屋でオオタと面会をしていた。
「ロード・オオタ。おめでとうございます。機兵計画が成就したようで外は盤石な守りでした」
「うむ。ロンゲン殿もご息災で何よりだ。昔は我々もいがみ合っていたが、今後は
「はい。資金面で我々トレーダーズギルドが閣下を支えます。今後もお任せください」
低頭するロンゲンにオオタは気を良くしている。
「はははは!結構!結構!さすがロンゲン殿は物わかりがいい!ロンジンも父親を見習わないとだな!」
「息子はまだ若く世間が見えておらず、まだ血なまぐさい事にも慣れてませんが、いずれ理解するでしょう」
「うむ。式までまだ時間が少しある。楽しんでいってくだされ。俺は最後にミズイと話をしてくる」
「はい。ではまた」
ロンゲン派閥が完全に屈服したことに機嫌を良くしたオオタは衛兵を伴って地下牢へ降りていく。道中で出会う貴族や市民は見るなり立ち止まって頭を下げている。まるで皇帝のような扱いにオオタは益々気を良くしていく。
「やぁレディ・ミズイ。元気かね?」
うずくまっているミズイに対してオオタは牢ごしで見下すように語りかけるが、ミズイは久しぶりの明かりに眩しそうにしながら元気なく応える。
「……元気なわけないでしょう。やっと今日で終わりかしら?」
「ああ、そうだよ。夜は衛兵の相手もしてくれたようで助かるよ。兵士も息抜きが必要だ」
「…………」
「ああ、すまんすまん!そういう事が好きな女なのかと思っていたのだが気を害したかね」
「わざわざ嫌味を言いに来たの?別にお互い様だから問題ないけれど」
「お互い様?あいにく君が俺に出来たことは奉仕だけだよ。これまでの君の行いに感謝して最後に声をかけてやっているのだ。それに君ぐらいしか本音ベースで喋れないしね」
「自分の支配体制が整ってさぞ満足なんでしょうけど他の派閥が黙ってはいないわよ」
「ふふふ。ロンゲンは屈服したよ。皇帝派の近衛兵も収監所で減らせたし、じきに消滅だ」
「テングJr皇帝が健在なのに?」
「彼には引退して頂く」
「今回の事を知ったらハウラーメイズで独立するかもしれないわね」
「はははは!何も知らない人形が抵抗するとでも?それに彼の地へ追いやったのは此度のことを実現しやすくするための俺の作戦だ。元々ちゃんと手は打ってある」
「ふふふ、貴方の作戦……ね」
ミズイは含みを持たせるように笑った。
「ん?俺の行動をあの青二才が読んでいるとでもいうのかね?」
「どうでしょうね。前々からヘフトにいて身の危険は感じていたのかもしれないわ」
「まぁいい。君が機兵計画を成就させてくれたおかげで何とでもなるようになった。もはや今後は特別憲兵隊も近衛兵も不要となろう」
「そういえば特憲隊長のバードさんは最後に私に会いに来てくれないのかしら?彼とは因縁があったようですし」
オオタは余裕の表情を崩さなかったが、目元は笑っていない。心なしか先ほどよりも声量も落としている。
「流石に気がついていたか。残念だがあいつは任務でハウラーメイズに向かっている。昔のアイゴアと同じだよ」
この言葉を聞いてミズイは何かを察した。
「……
「我々ノーブルサークルの安穏と平和を阻害する者は誰であろうと排除する。例えそれが皇帝であってもな」
ミズイのこれまでの穏やかで悟ったような表情は見る見る鋭く確信めいたものに変わっていく。
「やはりあなた達だったのね。言質が取れてスッキリしたわ」
「我々が頂点なのだ。それ以外の者は平伏し、崇め、貢ぎ、讃えることだけが許可されている。何人たりとも我々の世界を脅かすことはまかりならない」
「ふん……勘違いも甚だしい。あなた達は人間社会に蔓延る腐った病原菌だ。取り払われるべき存在だ!」
これまでと違うミズイの感情の高ぶった言い振りにオオタは高笑いをする。
「わははは!やっと君の本音が聞けたよ!お前たちノーファクションは実に愚かな考えを持った連中だった。分をわきまえるべきだったのだ!ようし、充分だ。ではこの女を連れ出せ!」
会話が終わり、オオタの指示のもとでついにミズイは薄暗い牢獄から引っ張り出されていく。
「この体も数分後には肉の塊か。もったいねぇな」
道すがら意地汚い顔の衛兵に荒々しく胸をまさぐられても彼女は何の抵抗もせず、為すがままに連れられていく。そしてそのまま高い台座の上に拘束された。その上方には重々しいギロチンの刃が紐で引っ張り上げられており、今か今かと落ちるのを待っている。
固定されたミズイの視界にはノーブルサークルの面々やヘフトの群衆が目に入ってくる。ある者は処刑を楽しもうとしているのか気持ち悪い眼差しを送り、ある者は哀れみからか同情の眼差しを送っている。
「オオタ、ロンゲン、ミフネ……。揃いも揃ってよく集まってくれたわね」
ミズイは群衆を冷静に見下ろしながら一言呟いた。
小太鼓が鳴り響き、いよいよ処刑の瞬間が近づいてくる。オオタが片手を掲げている。あれが振り下ろされた時、私の命は終わるのだろう。
思えば色々なことをしてきた。自分の計画のため多くの人間を巻き込み、死に追いやってきた。敢えてその身を捧げてくれた仲間もいた。
これまでしてきた事は許されることではない。罪悪感がないわけでもない。
しかしだからこそ貫き通さなければならなかった。
ここまで導いてくれた彼らのためにもやり遂げなければならなかった。
(死んだら全員にお詫び行脚だな。……いや、死後の世界なんてないか)
ミズイは目をつむり、過去を思い返していく。
満足しているわけではない。
悔いがないとは決して言えない。
農作の全自動化。通信機器の開発。移動手段の確立。やりたい事は沢山あった。全て中途半端にして手を付けられなかった。出来れば都市連合との戦いに人生を費やすことなく、科学を探求していたかった。
そしてルイ……。あんなに小さかった君はいつの間にか私と同じくらいの背丈になっていた。両親に似て凛々しく元気に成長していた。妹のように可愛がってきた君の成長をこれからいつまでも見ていたかった。出来ることなら君たちと暮らしていきたかった。
じきに催眠は解けてしまい悲しい思いをさせてしまうかもしれないけれど、君たちなら大丈夫……必ず乗り越えられる。
合図によりギロチンの刃は真っ直ぐとミズイの首すじに降りていった。
ミズイは自分が殺されることを予期していた。むしろ今ここで殺されるよう自ら計画していた。信用させつつも巧妙に痕跡を残すことでオオタの警戒を高め、また彼の虚栄心とノーブルサークルの慣例を利用して公開処刑という手段を取らせるよう誘導した。
全てはこのヘフトで過去の精算をするため。そして
ミズイの都市連合における鉄蜘蛛の機兵計画は既にほぼ完成していた。当初はホーリーネーションとの戦争で2大国が疲弊した直後に起動することを想定していたが、バードに研究施設を取られた事で遂行には至らなかった。ただミズイはこれで良かったと思っている。掘り起こした古代の軍事兵器を無闇に個人が悪用することはあってはならないと考えていたのだ。これはノーファクションの、いや、ローグのポリシーでもあった。だからミズイはあらかじめ用途を限定した。鉄蜘蛛操作のプログラムにある仕掛けを施し一定の条件で作動するよう細工し眠らせておいたのである。
その仕掛けはミズイの死を契機に作動する。体内に仕込まれた装置が定期的に脈拍を測定し、衛星に伝達しており、それが途絶えた際にリセットオーダーが発動する。
リセットオーダーとは標的に定めた者と周辺の全ての人間を殺害すること。
標的はミズイの片目3回の瞬きによりマーキングされ、情報が蓄積されていた。先日ニムラに対して実施したウィンクである。またそのオーダーは工場で製造された全てのアイアンスパイダーに送信され、操作権限を無視して強制的に発動される。
つまりヘフトに配置された500を越える鉄蜘蛛による周辺にいる全ての人間に対する攻撃行為の遂行であった。
ミズイの首が処刑台を転がり落ちた数秒後にアイアンスパイダーたちのライトは赤々と光りを発しだす。処刑後の異様な雰囲気と相まって、煌々と光る鉄蜘蛛の集団はその不気味さをよりいっそうに際立たせた。
そして
歴史に語り継がれるであろう至上最大級の虐殺が開始される。鉄蜘蛛は無気味な動きを見せた後、近くにいる人間に対して見境なく襲いかかっていったのだ。面白半分に近づいていた子どもらが真っ先にその鋭利な脚で原形を留めないほどに押し潰された。それを見ていた母親らしき者が絶叫するが、数秒後にはその表情のままの首が地面に転がる事となる。男どもが機械の侵略に対抗しようと侍と協力して反撃を試みるが、為すすべもなく肉塊に変えられていった。
その様を見た者たちは恐怖の表情で我先にと中央へ逃げていき、住居などの建物に立て籠もろうとするが、鉄蜘蛛の鋭い足で扉はこじ開けられ侵入を許していく。
街を囲むように鉄蜘蛛が配置されていたこともあり、ヘフトから外へ逃げ出せる道はなく、処刑を見に来たノーブルサークルの貴族、侍、そして住民すべてが街の中央に追いやられていく。オオタ等も例外ではなく、我先にと中央へ逃げようとするが近衛兵に見捨てられその場に取り残される。そして背中から鉄蜘蛛の脚で串刺しにされ苦悶の表情で息絶えた。
恐怖は加速し、女子供を押しのける者や隣人を身代わりにする者など、生にしがみつく人間の醜い習性が露呈していく。その様は阿鼻叫喚の地獄絵図と言えた。
殺戮の黒い波は1日中悲鳴が聞こえなくなるまで続き、大都市ヘフトを否応なく飲み込んでいった。そして明け方になるとそこは全くの無音かつ不動の廃墟となっていた。鉄蜘蛛は殺戮対象の人間が全員死亡したのを確認したあと、自動的に自らの回路を破壊し停止していたのだ。これもミズイが仕込んでいた機能であり、目的の達成後に人類が利用できないようにするためであった。
こうして後に『ヘフトの惨事』と呼ばれたこの出来事は、ミズイの死を皮切りにノーブルサークルを含むその場にいた全ての人間の死亡により終了した。この一件は先日起きたテングの収監所の死闘をまるでなかった事にするかのごとく世界中に知れ渡っていく事となる。ミズイがここまでの大掛かりな仕掛けを1人で用意し遂行出来たことには未だ疑問視されており、他にも内部の協力者や共犯者の存在が噂されたが、主要人物達の度重なる死亡と失踪によって真相は闇の中へ消えていった。
最後は自己満エンドロール作ってみました
5年前に妄想で考えたストーリーをここまで描けて
割と満足しております('ω')
まだ完結ではないですけど……
ちなみにこのエピソードは
Kalafinaさんのアレルヤという曲を聞いた時に思いつきました。
歌詞が割とイズミの気持ちに近い感じがしています。
そして次がやっと最後のエピソードとなります
過去から始まった伏線をなるべく回収する予定……
ですけど、いったん休止します