Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
「では先程の質問に答えてもらおうか。いつからアイゴアの部隊にいた?」
先程の喧騒とうって変わって静まり返る岩山の麓で、網に絡まり身動きがとれないガルベスに対してルイは再度質問を繰り出した。
対してガルベスからは荒い口調が消え坦々と回答が返ってくる。
「自分の年齢が分からないが恐らく15歳ぐらいからだ。それまでは兵士養成施設にいた。毛皮商の通り道の組織とは戦ったぜ・・・最後にな。」
その回答にルイの表情は険しくなる。
やはり父親の組織にとどめを指した部隊にガルベスはいた。横にいたトゥーラも気づくほどザワザワと全身の毛が逆立つような怒りが込み上げてきているのが分かる。
「・・・どうして戦ったんだ?相手とお前たちとは業務提携していたと聞いたが。」
「戦った理由は知らねぇ。俺は確かにアイゴア部隊にいたが強制的に命令され戦わされてただけだからな。言わば奴隷兵士って奴だ。その戦いは大仕事だったらしく成功すれば自由行動が可能な傭兵にさせて貰えるってんで、勇んで参加したんだが糞悲惨な戦闘だったぜ。こちらも死人だらけで戦に勝った実感もない状態だった。アイゴアでさえ片腕持っていかれてたからな。」
「・・・・・。」
ガルベスが奴隷兵士として戦わされていたことが意外であるとともに、本人の意志では父親たちと戦っていなかったことが分かったことがルイの殺意をおさめていった。
そしてルイはニールが追っている真実を聞き出せないか質問を続けた。
「お前に命令していた奴は誰だ?」
「・・・今はアイソケットのマスターをしているミフネという人だ。」
「何?嘘をつくな。アイソケットは奴隷商の拠点だろう。奴隷商の命令で都市連合の部隊が動くはずがない。」
「いや、その人は昔アイゴア部隊の幹部だった。」
嘘をついていないかガルベスの目をジッと見ているとシルバーシェイドが口を挟む。
「都市連合の幹部が奴隷商のマスターに昇進、いや天下りってわけか。典型的な癒着って奴だな。しかし、貴族を差し置いて奴隷商のトップになるって、そいつは相当のやり手か強いコネがあるんだろうな。」
奴隷商本拠地アイソケットのマスターミフネ。
初めて聞く名だがその経歴を聞く限り只者ではないことが伺える。
都市連合の意志なのかは不明だが父親の組織を襲撃する計画に携わりその後、拠点の長になって奴隷売買を頂点で取り仕切っている人物。
そんな人間に単身乗り込んで問いただすことは不可能だろう。
「マスターミフネは権力者の上に相当頭が切れる。お前達ではどうせ手が出せないだろう。」
ガルベスの言葉にルイも納得していた。
「・・・だろうな。いずれにしろ俺たちは別にやることがある。手を出すつもりはない。そして手を出すとしたらたぶん俺たちじゃない。」
「どういうことだ?」
「いや・・こっちの話だ。」
ガルベスの問いにルイは遠くを見据えるだけではぐらかすと近くに放ってあった荷物を背負った。
「聞きたいことは聞けたのでもう行くよ。2度と俺たちの前に顔を見せないようグンダーにも伝えとけ。じゃあな。」
「ふん・・・俺も今後お前達に会うのは御免こうむる。」
心なしかいつもよりルイの口ぶりが軽かったのは奴隷商とのいざこざが解決に向かったことだけでなく、ガルベスを殺さずに済む理由があったからだろう。
対するガルベスも最早怒りの感情は消えているようで消え行く2人の影を見ながら静かに口を開いた。
「おい、シルバーシェイド。もういいだろ?そろそろ下ろしてくれ。」
忘れていたのを思い出したように振り向いたシルバーシェイドだが怪訝な表情だ。
「あんたを解き放つのか・・・ちょっと気が引けるな。」
「ふん。俺は意外と手負いだぞ?こんな状態でお前を殺れるなら苦労しないぜ。しかし見事にやられたもんだ。お前も失敗したのか?」
「まぁ失敗と言えるな。しかし、頑固なあんたが相手に教えてあげるとは意外だったよ」
「・・・あいつらは見た目に反してしっかりと考えてやがった。生死を賭けた戦いで俺の想定と戦闘力を上回る策を練ったのは事実だからな。正直お前を使うなんて案は完全に盲点だったぜ。それに敬意を評したってとこだ。」
「なるほどね。私も短い期間だが彼女の生き様に触れ、助けてやりたいと思わせる不思議な力を持った子だと思ったよ。それとお前達の会話を聞いていて思い出したが恐らくルイは毛皮商の通り道にいた組織の生き残り、いや子孫ってとこだろうな。大分昔の事だが面影がある奴と仕事をしたことがあった。」
「そういうことか。しかしそしたらなんで憎いはずの俺を殺さなかったんだ。」
「それがポリシーって奴なんだろ。大した玉だな。」
吊るされた男と老いた何でも屋の哀愁漂う会話はいつまでも尽きなかった。
こうしてグンダーの誘拐目的の罠から始まった奴隷商との一連の戦いをルイとトゥーラは勇気と知恵で凌ぎきった。
その基盤となったのはやはりトゥーラの知識とノウハウだった。
定石ではあるが初めから2人をたらしこもうとするグンダーを信用せず距離を置く方針を取り、結果としてルイが嘘を見破ることが出来た。
ウェイステーションにおいても時間稼ぎや独学で学んだ罠をはるスキルを存分に活用していた。
そしてトゥーラの知恵をベースにして想定以上の力を発揮したのがルイだ。
一般的な知識はトゥーラよりまだ劣るが、類い稀ない行動力と奇想天外な発想力から戦いのベテランであるガルベスを出し抜いたのは紛れもない事実であったのだ。
いずれにしろサッドニール抜きで若者2人が苦難を乗り越えることが出来たことは人生において大きな成長に繋がったことだろう。
そしてそんな実感を感じる暇もなく2人は次の行き先について歩きながら相談していた。
「思えば俺ら結構危なかったな。今頃奴隷として働かされてたかもしれないんだろ?こわー・・。シルバーシェイドなんて本気でこられたらなす術なかったからなぁ。」
「今回はルイの機転でなんとかなったけど、毎回上手くいくとも限らないからやはり剣術スキルは高めておきたいわね。」
「そうだなー。シルバーシェイドにお金はらって剣術見てもらえば良かったかな?」
「もう手持ちのお金はほとんど使っちゃったじゃない。それとあの人あんまり教えるの得意じゃないんじゃない?まぁ私も他に宛があるわけじゃないけど・・。ルイ他に誰か知り合いいない?」
「うーん・・・。リーバーに一人いるぐらいかな・・・?」
「リーバー!?誘拐集団じゃない!それにあなたリーバーに襲われてなかった?」
「だよな・・。そいつに会うまでが難しいし、頼るのも嫌だな。でさぁ、ちょっと思ったんだけど、強くなるのって時間かかるじゃん?世の中に必殺技ってのがあれば是が非でも覚えたいとこだけど、実際は苦労して達人になったとしても大人数に囲まれたり寝込みを襲われたら防ぎようがない気がする。だから剣技の鍛練と先生探しはある程度続けるとして、先に仲間を増やすことに力を入れるってのはどうだ?数が増えれば即戦力が上がるだろう?」
これまでの相対してきた人たちのほとんどは徒党を組んでいた。小魚が群を作って大きな魚の襲撃を分散するのと同じように、力がない者ほど人数の重要性は高い。まさにグンダーに狙われた件が良い例だった。少数で行動し弱そうなカモと判断されたから目をつけられたのだ。
「なるほど。でも中々私たちと同じ目的や志を持った人なんて見つからない気もするけど・・・。」
「そこで相談があるんだけどさ。近くに奴隷商売してるとこってあるか?」
言わんとしていることはトゥーラもすぐに分かった。奴隷を買って戦力を増やせないか、ということなのだろう。
「あなた奴隷制に否定的だったけど奴隷を買うつもりなの?それに大抵の奴隷は無気力で自分の意志を持っていないわよ?健康状態も良くないだろうし。」
「ガルベスぐらい強い男でも奴隷兵士として使われていることもあるんだろ?それに俺らみたいに無理矢理捕まえられて働かされている奴もいるかもしれないし。あと俺がいまいち奴隷制の実態を理解してないからさ、一度現場を見てみたいんだよ。」
「ガルベスのようなパターンは大分特別だと思うけど見たいと言うなら行ってもいいわよ。ただ、アイソケットはさすがに行けないから次に近いところは奴隷農地ね。」
「さっすがトゥーラ!ありがとな!じゃあ早速しゅっぱーつ!」
トゥーラはいつの間にかルイが行く先に自然と合わせるようになっていた。
不器用で非力だと自分を卑下してきたトゥーラは自ら他人に話しかけることはしなくなっていた。しかしふとしたきっかけからルイと自然にしゃべれ、仲間としてもお互い受け入れられた。
またこの世界において明るくて破天荒な言動をするルイのような人間は初めてであり、そんな彼女の性格に知らずと惹かれていたのだろう。
そしてルイはサッドニール以外の人間とまともに接するのは初めてであったが、同世代の女の子であるにも関わらず一人で自立して目標に向かって進み続けるトゥーラに尊敬の念を抱いていた。
ある程度の無茶も聞いてくれる頼り甲斐のある部分にサッドニールの面影を見ていたのもあるのだろう。
お互いに深い絆が生まれたことも意識することなく2人は暗闇の中、見渡す限り砂の一面をゆっくりと歩きだしていた。
1章が終わりました。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
妄想は次章に続きますが、ちょっとだけ間をあけるかもしれません。