Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
都市連合の一角、砂塵に囲まれた交易都市ショーバタイ。
乾いた風が石造りの城壁を撫で、夕陽に照らされた尖塔が長い影を地に落としている。その中心にそびえる政庁の一室で、今まさに世界の命運を左右する会議が開かれていた。
この地を治めるのは、皇帝派を貫き続ける領主ロード・ナガタ。
ミズイの処刑に出席しなかったのは偶然なのか必然か。結果的に彼はノーブルサークルの中でただ一人、ヘフトの惨事を免れた貴族となった。
さらに彼はかつて武名を馳せたギシュバを迎え入れ、都市の戦力を補強していた。今やショーバタイこそ、崩壊寸前の都市連合を支える最後の柱であった。
「他の都市は、兵士を回す余力がないようだな」
長机の中央、重厚な椅子に座るナガタは、低く呟いた。気難しげな表情のまま、指先で眼鏡を押し上げる。その仕草は冷静さを装っているが、内心の焦燥までは隠しきれていない。
「やはりバスト大戦の余波が出ております。どの都市も、自領を守ることで精一杯の様子」
答えたのは、椅子からはみ出すほどの巨躯を持つギシュバだった。引退したはずの身でありながら、その存在感は未だ衰えを知らない。だが鎧の下に隠れた腹回りは、わずかに平穏な日々の名残を感じさせる。
「ギシュバ殿。引退したのに駆り出してすまぬな。テックハンター協会と傭兵協会はどうかね?」
「本部待機の部隊は回してくれるそうですが……寡兵です」
室内の空気がわずかに沈む。
「やはり我らだけでは足りぬか……浮浪忍者もシェクも、ホリネの抑えで手一杯だろうな」
「ノーファクションがいます」
その一言に、ナガタの眉がぴくりと動いた。
「あり得るのか?収監所を襲撃してきたばかりではないか」
「彼らは仲間を助けるため特別憲兵隊と戦っていましたが、皇帝を救うことは彼らの目的と合致します」
「……目的か。いずれにしろ彼らに賭けるしかない、か」
ナガタは机上に指を置き、しばし沈黙した。
それから数日後
連日開かれる会議室の中に一報が飛び込んでくる。
「ノーファクションが到着しました!」
一瞬、室内にざわめきが走る。特憲のクジョウが交渉に向かっていたが、説得に成功するかは五分五分と言われていた。しかし、ノーファクションは来たのだ。当然、ナガタは慎重になっていた。
「……本当に来たのか。しかし念のため、ここへは通すな。城門前で待機させよ」
これにギシュバは苦笑を浮かべる。
「遠路はるばる援軍に駆けつけてくれたのですぞ」
「しかし今、裏切られてここを襲撃されでもしたら都市連合は終わるぞ」
「彼らはそんな卑劣な事をするような者たちではないです。礼を失して帰られてしまったら困るのはこちらです」
ナガタは低く唸り、決断する。
「……ではルイだけ入室を許可しよう」
やがて扉が開く。入ってきたのはルイとサッドニールであった。すかさず衛兵がルイに続いて歩むサッドニールに対して槍を交差して止めようと試みるが、一瞬躊躇してしまう。
サッドニールはバーンが羽織っていた衣をかぶり、背には青白く光るメイトウ杖を持っていた。見る者にはそれがテックハンター十傑の2位。バーンの姿に見えたのだ。彼の力量は都市1つ分に相当する。
それでもナガタは威厳を保とうとした。
「一人で来るよう伝えたは――」
「ギシュバさん!! お久しぶりです!」
ルイの明るい声が遮った。
ギシュバが立ち上がる。
「お、おお。ルイ!大きくなったな!見違えたぞ」
「ギシュバさんもまたでっかくなってません!?」
「ははは。休んでいた分、お腹周りがな。君は⋯⋯腕を上げたようだな」
ギシュバにはルイの成長が一瞬で見て取れたようだ。体格や眼帯など目に見える部分の事だけではない。眼光や佇まいから醸し出す雰囲気。達人の視点で、修羅場をくぐってきた者ならではの気配を察して成長具合が伺えるのだろう。
「またハウラーメイズの奪還ですね」
「そうだな。済んだらアイツの墓参りに行こう」
「⋯⋯はい!」
ルイは力強く頷く。
その名は出なかったが、二人の間には確かに共有された記憶があった。
「⋯⋯そろそろいいかね?」
ナガタが無表情のまま2人をジッと見ていた。
「あ、すみません⋯⋯」
ルイは大人しく末席に空いている椅子に座った。
サッドニールはその後ろに杖をたてて警戒するように居座る。その威圧感に押されたのか、もはやナガタはサッドニールもいることには触れなかった。
「さて」
眼鏡の奥から鋭い視線を向ける。
「ノーファクションがどういう風の吹き回しで来たのかね?我々に恩でも売ろうとでも?」
敵対する気もないが、かと言って仲間とも思っていない。気を許さない者に対する問いかけであった。
「恩?あんたらに貸しを作る気なんてないよ」
「ではどさくさに紛れて都市連合の中枢を乗っ取る算段かな?もしやヘフトは君等がやったのか?」
この言葉にルイも一瞬ドキリとする。恐らくナガタは鉄蜘蛛の暴走がイズミの計画であったことを知らない。まさか自分の命を引き金にしてあの惨事を引き起こしていたなどとは思ってもいないのだろう。クジョウはナガタにその事を伝えていなさそうだ。ルイたちが鉄蜘蛛を操作するとも考えにくいし、何も言わなければナガタもこれ以上の詮索はしてこないだろう。
ただ、イズミの計画によりノーブルサークルはヘフト市民を巻き込みつつ壊滅した。ナガタもヘフトに来ていたら死んでいた。また、収監所はノーファクション襲撃により一時の間、陥落している。ナガタの警戒は想像以上に高まっていた。
仮に史上最悪の自爆テロとして認識されてしまった場合、彼らの矛先は真っ直ぐルイたちに向けられる。
しかし、内に秘める怒りの気持ちを爆発させたいのはルイたちも同様であった。
「こんな腐った所に興味はない。あんたらの帝国や皇帝なんてどうでもいいんだ。私たちは世界の人々を助けに来ただけだ」
「なに?」
ルイの発言を聞いた衛兵たちに殺気が籠る。だが、修羅場を潜ってきたルイには最早気に留めるものではなかった。
「それよりもこっちはまた裏切られないか心配しているぐらいだ」
売り言葉に買い言葉。その場は一瞬にして凍りついていく。
「野蛮で無礼な者たちめ。やはり一掃しておいたほうが良さそうだな」
「やれるならやってみろ」
ルイは鋭く尖った隻眼をナガタに向けた。
ピシッ⋯⋯
空気が締まる音が聞こえた気がする。
衛兵の何人かが無意識に剣の柄へ手を置いていた。それに反応してサッドニールもカチャリと音を立てて杖を持ち直す。部屋の隅に置いてある金魚鉢の中で泳ぐ金魚の音さえ聞こえるほど静まり返り、空気は冷たく張り詰めていた。
まさに一触触発の状態である。
やはり先日まで 互いに傷つけ合っていた者同士が相容れるには大きな壁があったのだ。
しかし、そこに一石を投じるように動いた者がいた。
「ここらでレディ・メリンの言葉をお伝えしても宜しいでしょうか」
クジョウであった。
彼は南の都市の領主レディ・メリン推薦の特憲であり、南から派遣されてきていることは会議に参加している者たちには既に共有されていた。
「君か。南はロンゲン寄りだった気がするが言ってみたまえ」
ナガタの嫌味をスルーして彼は続けた。
「南の都市は農産物が流通してこないと飢えに苦しむのでね。トレーダーズギルドにはお世話になってるんです」
長い期間、都市連合は南と北に分断されてきた。というよりも元から人が住める南北にそれぞれ住み着いたのが起源とされているが、皇帝を含むノーブルサークルら政治の中枢は北にあり、南の都市はどちらかと言うと北の方針に付き従って来た。
その理由として南は食糧物資などの資源が枯渇しており、常に北からの食糧輸入に頼らざるを得ない状況であったからだ。
「で、レディ・メリンは何と?」
「このままでは”赤の反乱”が再来する。今こそ都市連合が生まれ変わる時だ、と」
赤の反乱
遠い昔、深刻な干ばつと食料不足、そして貴族による食料の独占が原因で発生した農民を主とした反乱だ。当時の皇帝を含む多くの貴族が死亡し、都市連合が崩壊しかけた乱である。
一時は沈静に向かったものの、未だ火の粉はくすぶり続けていた。その恐ろしさは貴族であれば誰でも理解していた。ナガタの表情もそれを表していた。
「⋯⋯そのような事、私も把握している。だからこうして陛下を助けるために日夜会議を開いているのではないか」
「では、この会議に出ている者同士で争うのはナンセンスですね」
「む⋯⋯」
ナガタはそれ以上何も言えなくなってしまった。他にテーブルの席についている者たちも同様だった。ショーバタイに籍を置く貴族や武士などの豪族は自然と皇帝派が多く、都市連合の現状を憂う者が多かった。『このままではいけない』と内心で思いつつも実行に移す度胸や実力がない者もいた。
そしてルイが頭を下げる。
「さっきは言い過ぎました。私たちはただ……」
彼女は周囲を見回した。
「戦争や飢饉で苦しむ人たちを笑顔にしたい。紛争を終わらせたいだけなんです」
その言葉は、静かに皆の胸へ染み込んでいった。
ナガタはふっと笑う。
「ふん⋯⋯。過去にも同じようなことを言った若造がいたが、あれから20年経つのか。次の世代が出てくるわけだ」
ナガタは衛兵に構えを解くように手で合図をした。同時にルイもサッドニールと目を合わせ着席した。
ナガタが首で指示をすると、執事らしき者が慌てて説明に入った。
「で、では改めまして現状を皆さまにお伝えします」
執事は壁に貼り付けてある世界地図に指示棒をあてながら喋り始める。
「現在ハウラーメイズは反旗を翻した特別憲兵隊の隊長バードにより占拠されております。その際、テングJr皇帝と領主であるロード・オラクルが人質として捕らえられてしまいました」
“反旗を翻した”という表現から、もはやここに集まる皇帝派の面々はバードを敵対視しているのは明らかであった。
「半島の入口である港町は特別憲兵隊により防衛網が敷かれております。規模的に恐らく敵はここに戦力を集中していると思われます」
説明が終わるやいなやナガタが意気込む。
「部隊が集まり次第、すぐにハウラーメイズに向けて出発させるぞ。陛下を一刻も早く救出しなければ」
その言葉に対して壁の隅からクジョウが言葉を挟んだ。
「恐れながら、少数ですと各個撃退される恐れがあります」
「ではどうすればいい?」
「奴らは港町でこちらを迎え撃つつもりです。ならば我々も奴らの思惑に乗りましょう」
クジョウは地図の港町を指差した。
「こちらもその手前で集結を続ける。そしてあえて攻め込まない」
「何を言っている」
ナガタが怪訝そうに顔をしかめる。
「港町を突破せねば何も始まらんではないか」
「我々の目的は敵の殲滅ではありません」
クジョウの声は冷静だった。
「皇帝と要人の奪還です。陛下とロード・オラクルは恐らく奥地の街に監禁されている」
「だから入口を通らねば──」
「通りません」
クジョウの言葉に室内がざわつく。
「ミズイが機兵計画を進めていた頃に保有していた船とエンジンが一隻、まだ残っています」
彼は地図の海岸線をなぞった。
「これを使い、敵の目を掻い潜って直接奥地へ向かいます」
「ほう……船か」
ナガタの眼鏡が光る。
「なるほど。何人乗れる?」
「操縦士を含めて三人」
クジョウは平然と答えた。
「つまり実戦要員は二人です」
「二人!?」
会議室に驚愕が走った。
「馬鹿な!たった二人で街を落とせというのか!もしアイゴアがいたらどうする!」
その名が出た瞬間、空気がさらに重くなる。
アイゴア。
都市連合最強の怪物。その名を知らぬ者はいない。
正面から対峙すること、それは死地に身を投じることと同義であった。
だがクジョウは冷静さを崩さない。
「斥候の情報によれば、アイゴアは港町側にいる可能性が高い」
地図上の港町を指先で叩く。
「敵も隘路となる港町を突破されたくはない。最大戦力を集中させているはずです」
「だから我々は港町で敵本隊を引きつける。その間に精鋭二名が奥地へ侵入し、人質を解放する」
クジョウは静かに言った。
「誰を選ぶか。それこそが今回の作戦の鍵になります」
ナガタは腕を組んだ。
「ふむ……。ならば最高戦力に近い者を送るべきか。目星はあるか?」
「都市連合最強はギシュバ卿でしょう」
「しかし」
クジョウは首を横に振る。
「ギシュバ殿には港町側の本隊を指揮して頂きたい」
「アイゴアがいるなら、なおさらだな」
ナガタが頷く。
すると当の本人、ギシュバが豪快に笑った。
「ははは⋯⋯アイゴア担当とは光栄ですな!」
既にアイゴアと対峙する任務が確定している事にギシュバも苦笑する。ただ、その裏には武人としての闘志が滲んでいる。
「アイゴアには猛者を複数人あてたいところですな。ルイ殿はどうかね。ノーファクションは猛者揃いと聞くが何人参加してくれるのかね」
視線が一斉に若いルイの方へ向かう。貴族や侍が集う会の中で、気負いせずに異質なオーラを放つ隻眼の若者に皆、興味津々のようだ。
「私たちは10人ぐらいで来た。カンもいる」
その名に、数名が顔を見合わせる。カンも世界に名が通っているのだろう。目には希望の光が宿っている。
「奪還組の2名は慎重に決めるとしよう。力量はもちろん隠密力が高い者が良さそうだ」
それから数日間、集結する後続部隊を待ちつつ、部隊編成と作戦の細部が詰められていった。
港町でアイゴア率いる敵本隊を食い止める者。
奥地へ潜入し、皇帝とオラクルを奪還する二人。
その選択一つで、世界の未来は大きく変わる。
誰を送り出すのか。
誰が死地へ赴くのか。
会議が終わった後も、その答えを求めて夜遅くまで灯火が消えることはなかった。
ーー夜のショーバタイ。
昼間の喧騒が嘘のように静まり返った街には、家々の窓から漏れる暖かな明かりが揺れていた。
戦支度に追われる者、酒場で明日を語る者、そして大切な人との束の間の時間を過ごす者。
そんな穏やかな夜の一角――。
ルイはトゥーラに半ば引っ張られるような形で、彼女の実家を訪れていた。
扉を開けた瞬間、鼻をくすぐる香ばしい匂いと、暖炉の優しい熱気が二人を迎える。
戦場ばかりを渡り歩いてきたルイにとって、それはどこか懐かしく、そして眩しい空間だった。
「いらっしゃい! もう出来てるから座って!」
上機嫌なトゥーラの母が、次々と料理を食卓へ運んでいく。煮込み野菜に焼き魚、香辛料を効かせたスープ。食卓いっぱいに並べられた料理を見て、ルイの隻眼がきらりと輝いた。
「うわぁ……!」
そんな彼女を見ながら、母親は嬉しそうに目を細める。
「まさか、あのルイさんがあなたのお友達だったなんてねぇ。ビックリしちゃったわ」
台所で皿を並べるトゥーラは、そっけなく肩をすくめた。
「ああ、あの時言ってなかったっけ」
「あら、言ってないわよ? 次の日には逃げるように出て行っちゃったじゃない」
「そうだっけ……」
呆れたように返す娘を見て、母はクスクス笑う。
禁忌の島へ向かう前に一度立ち寄ったことはあったが、トゥーラは結局そのまま旅立ってしまった。
実家との距離感は、今も昔も変わらない。
だからこそ今回も、「一人じゃ気まずいから一緒に来て」
と、ルイを連れてきたのである。
「あ、そうそう」
ふと思い出したように母親が顔を上げる。
「あの時いた桃色の髪の子、なんて言ったかしら。元気にしてる?」
トゥーラの手が、一瞬だけ止まった。
「ああ……シャリーね」
静かに目を伏せる。
「あの子とは……はぐれたわ」
「そう……」
この世界で、“はぐれた”という言葉は軽くない。
生き別れ。あるいは、もう二度と会えないこと。
母親もその意味を理解しているからこそ、それ以上は何も聞かなかった。
「残念ねぇ……可愛い子だったのに」
食卓に沈黙が落ちかけた、その時だった。
「シャリーかぁ」
もぐもぐ。
「変わった子だったけど、どこ行っちゃったんだろうなぁ……」
もぐもぐもぐ。
「……って、うっわ!! この料理めちゃくちゃ美味いっすね!!」
ルイの歓声に、空気が一瞬で変わる。
「ちょっとルイ!」
トゥーラが慌てて叫ぶ。
「そんな勢いで食べないの!」
「あらあら」
母親は笑いながら頬に手を当てた。
「トゥーラもお腹空いてる時はこんな感じだったわよ?」
「母さん!」
「昔なんて、出来たそばからつまみ食いしてたものねぇ」
「やめて!」
顔を真っ赤にするトゥーラ。
ルイは吹き出した。
「はははっ!」
口いっぱいに料理を頬張りながら、ニヤニヤと横目で二人を見る。
「なんだトゥーラ。全然気まずい関係じゃないじゃん」
「ちょっと!」
「もっとドロドロしてんのかと思った」
「誰のせいよ!」
「あら、私もそう思ってたわ」
「母さんまで!」
食卓に笑い声が広がる。
その光景を眺めながら、ルイはふと箸を止めた。
「……なんか、親子っていいな」
その声は、先ほどまでより少しだけ小さかった。
「私もさ……」
窓の外に目を向ける。遠くの街明かり。暖かな食卓。他愛もない親子喧嘩。
そんな当たり前の光景が、彼女には少し羨ましかった。
「もし両親が生きてたら、こういうやり取り出来てたのかなぁ」
「ルイ……」
トゥーラが息を呑む。
だが次の瞬間。
「あ!」
ルイは慌てて頭を掻いた。
「わりぃ! しんみりさせちゃったな!」
そしていつものように、明るく笑う。
「でもさ、たった一人のお母さんなんだから、トゥーラも大事にしないとな」
「……」
トゥーラは何も言えなかった。
この子は、どれだけ辛い目に遭っても、最後には笑う。仲間を失い、片目を失い、自分の夢すら何度も打ち砕かれながら、それでも前を向く。
その明るさは、ただの楽天性ではない。
生きるための強さ。誰かを守るための強さ。
その笑顔に、トゥーラの胸に残っていたわだかまりも、少しずつ溶けていく。
しばらくして。
食事も終わり、片付けをしながらトゥーラがぽつりと口を開いた。
「……母さん」
「なぁに?」
「明日、備品の買い出し付き合ってくれない?」
母親は目を丸くした。そして、柔らかく微笑む。
「ええ。もちろんよ」
「……ありがと」
「こちらこそ」
その返事に、トゥーラも少しだけ笑った。
その様子を見ていたルイは、満足そうに頷く。
「よしよし」
「何よその顔」
「いやぁ、やっぱ家族っていいもんだなって」
「他人事みたいに言わないでよ!」
三人の笑い声が、暖かな部屋に響いた。
――穏やかな夜だった。
しかし、その平穏は長くは続かない。
遠く離れたハウラーメイズでは、反乱を起こした特別憲兵隊が牙を研ぎ、バードとアイゴアが待ち受けている。
数日後には再び剣を取り、血煙舞う戦場へ向かわねばならない。
それでも。
帰る場所がある。
待ってくれる人がいる。
守りたいものがある。
だから彼らは立ち止まらない。
やがて訪れる嵐の中心へ。
それぞれの願いを胸に抱きながら。
静かな夜は、ゆっくりと更けていった。
最終回まで残り7話ぐらいとなりました・・・!