Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
リーン、リーン、リーン
暗闇で静まり返った荒野に心安らぐ虫の鳴き声が響いている。
そこに一体のスケルトンが大きなバックパックを背にゆっくり歩を進めている。
するとバックパックから声が聞こえてくる。
「まだ出ちゃいけないの?なんで隠れなきゃいけないんだっけ。サッドニールって筋力あんまないの?歩くの遅くない?」
バックからの質問攻めにスケルトンのサッドニールは一つ一つ単調に回答していく。
「まだ出てはいけない。この地域に住む組織は人間を見つけると襲ってくるからだ。私の筋力は人間が定めた最高値を100とすると大体40ぐらいだ。だから君の体重が重いことで私の足が遅くなる」
ガン!とバックの一部が付きだしサッドニールの後頭部にぶつかる。
「一応俺は年頃のレディなんだけど。ちなみに人間を襲うって言ったけどクラブレイダーがいるんじゃないの?」
「我々が住んでいた地域は生息するカニと共に生きる部族であるクラブレイダーが支配し部外者は排除していたが、ここはもうその支配が及ばない地域なのだ。そういえば君はクラブレイダー村に最後に立ち寄らなくてよかったのか?」
「うーん、村に雑貨を買いにいったりはしたけどそんなにあの人達と接点なかったしなぁ。変な人達だったし。そもそもニールだけ攻撃してくる意味わかんないし」
「スコーチランド人以外は襲うのだろうな。君はその血が流れているから大丈夫だったのだろう」
「俺ってそんな人種なのか。知らなかった」
「いや何度も教えていたよ。規則、規制に縛られず個性的な側面を持つと言うがまさに君そのものだ。ちなみに君の母親もスコーチランド人だ」
「…ニールってさぁ、なんでそんなに実の母親の話をしようとしたがるの?俺を捨てた時点で親としての繋がりなんてないじゃん」
「私自身もその思考回路がよく分からない。だが君は知っておくべきで、私は伝えておくべきだと判断しているのだ」
「いーよ、興味ないし。それよりこの辺はクラブレイダー以外だと誰がいるの?」
「スケルトン盗賊という連中だ」
サッドニールはいつも話したいことを話す前に
ルイに話題を変えられてしまうが、特に気にする様子もなく変わった話題に対して回答してくれる。
そんな個を持たない性格が自由奔放なルイにとってはストレスを感じない良き話し相手なのだろう。
「おお、スケルトンの盗賊だったら同じスケルトンのサッドニールは仲間ってことなのか!なるほど」
「いや、仲間ではない。そもそも盗賊がスケルトンというわけでは…」
心なしか少し寂しげなルイの口調を察したわけではないがサッドニールが淡々と否定しようとした時であった。
「ルイ!少し静かにしていなさい!」
サッドニールは突然、声の音量を上げ歩を止める。
視線の先の暗闇から数人の人影が近づいてくる。
「何やら話し声が聞こえると思ったらスケルトンさんではないですか。ようやくここにたどり着けたようだね。相方さんが見あたらないようですが…」
遠くから見知らぬ声が聞こえてきてバックパックの中に潜んでいるルイは大人しく耳を澄ませる。
「私はただの行商人だ。自律思考系統が少し故障していて考えていることがたまに声に出てしまうんだ」
サッドニールは先ほどのルイとの会話を誤魔化すために嘘をついた。
「なるほど、そうですか!それはお気の毒に。商人ということはスケルトンパーツは持ち歩いていないですか?出来の良いナットなど持っていれば交換したいのですが。」
見知らぬ声の者達はサッドニールの嘘を信じたようで商談を持ちかけた。
「生憎、商品を切らしていてデッドランドに調達しにいくところだ」
「それは残念ですな。バックは一杯詰まっていそうなのに」
ルイはバックに注目が集まったのを悟り、より気配を消す。
(足音からして4、5人いるな…。ニールより口調に人間味があるが、型が新しいスケルトンなのか?)
「すまないね。スケルトン工具より人間達の備品が多く入っているのだ」
このサッドニールの回答に対して見知らぬ声達は急に覇気を増す。
「滅ぼすべき人間と商売をするとはどういうことですか?」
滅ぼす?人間を?
普段は能天気であるルイだがさすがに危険を察知したのだろう。
物騒な言動をバックの中で聞いて額に一筋の汗を流す。
「君達の目的を否定するつもりはないが、私もお金が必要なのでね。思考系統を治すにはたくさん稼がねばならんのだ」
「ふむ。そういう事情がおありなら多少は目をつぶらざるを得ないですな。よろしい、我々も人間の備品を買って貢献してあげましょう。品を出してみなさい」
「……。」
サッドニールが会話を止めた。バックを開ける必要がない言い訳を考えている最中なのだろう。この場を言い逃れられる言い訳。…あるのか?普段ならすぐに回答し始めるのに固まったままだ。
ルイもない知恵を絞って必死に考える。
走って逃げるか?そのためには俺がニールのバックから出ないと遅すぎて追い付かれる。
まずはニールにバックから出してもらわないと…!
「分かりました。では品を出しますが引火性の強い物もありまして置く際に爆発するといけないので、あなた方5人は危ないので少し離れてください。」
(ニール!ナイス!離れたとこでバックから出てダッシュで逃走ってわけね。人数もついでに教えてくれたし頭いい!)
「…分かりました。では離れましょう」
そう言うと声のもの達は2歩3歩離れ始める。しかしそれはサッドニールを中心に囲うような形で輪を広げただけであった。
そしてさすがにサッドニールを警戒しているのかその者達の声にも緊張が見える。
それを見てサッドニールは何かを察したのか小さな声でルイに語りかける。
「ルイ。私が囲みを一ヶ所あけるうちにバックから出て走り出しなさい。君の足なら追いつかれることはないだろう」
「は?ニールも一緒に走ってよ」
「さすがに振り切るのは難しいから私がここで奴らを抑える。それに私はスケルトンだから何とかなる計算がある。これを持っていきなさい」
そう言うとサッドニールは小さな端末をルイに手渡す。
「なにこれ?」
不安げに見上げるルイにサッドニールは答える。
「これはGPSと言ってこの点滅が私の位置を示している。後日回収しにきておくれ」
GPS。もはや現在では復元できないテクノロジーも現存さえしていれば非常に価値のある物として今も利用されていた。
「回収って…どういう意味だよ?」
「詳しくはその時に話せる。さぁいくよ!」
ルイの決断を待つ前にサッドニールはバックの口を開けると一方向に駆け出す。
「どうしたのだね!?む!バックの中から人間が出てきたぞ!」
ルイは「ぷはっ!」とバックから顔を出す。
なるほど薄暗くてよく見えないがスケルトンのような様相の者達に周りを囲まれている。
その一人に向かってサッドニールが金属の棒を振りかざした。
ルイが気づかれてから近づくまでに距離があったせいでサッドニールの一撃は構えたサーベルで防がれてしまう。
ガキン!
「何をするのだ!同志よ!血迷ったか?」
「ルイ!いまだ、ここを走り去れ!後は予定通りに!」
ルイには最早考えている時間はなかった。これまでサッドニールに教えてきてもらったことは全てあっていた。今回も正しい判断をしているのだろう。
自分は人と戦った実戦がないし2対5で例え勝てたとしてもどちらかが致命傷を負うかもしれないのだ。取り敢えずサッドニールに従う。
それがルイの判断だった。訳もわからずサッドニールがあけた相手の隙を縫ってルイは走り出した。
「それでいい」
サッドニールの背中から聞こえる最後の言葉を聞きつつルイは闇夜の中を走り続けた。
どれだけ走っただろうか。気がつくと空が白みはじめていた。
後ろを振り返っても誰もいない。スケルトン盗賊とやらをまくことはできたらしい。
しかし、サッドニールをそこに置いてきてしまった。
言われた通りにしたとはいえ育ての親を置いてきたことでルイの表情には悲壮感が漂っている。
本当に無事なんだろうな!ニール!
先ほど渡されたGPSとやらを慌てて作動させる。
すると、中心から離れた部分がピカピカと光っている。
(さっきは中心が光っていた。こっちの方向にいけばサッドニールに会えるということか?)
ルイは迷わず走り出した。
夜通し何も食わずに走っており疲労と空腹感がピークに達していたがそんなことはどうでもよかった。
「こっちか!もうすぐだ!」
GPSの点滅が中央に重なりかけたときルイは岩影に身を潜めた。
理由は単純、先ほどまで自分達を囲んでいたであろう奴らを発見したからだ。
しかしルイはここで大きな違和感を感じる。
(一体どういうことだ!?なぜあいつらは?…ニールは…いた!奴らに何かされている?)
直立不動で立っているサッドニールを囲ってスケルトン盗賊は何かをしている。
(ニール、あんたは回収しにこいと言った。だから俺は盗賊がいようがあんたを回収する!今度は逃げないからね!)
ルイはスルスルと近くの崖をよじ登るといつもカニに対して行っている上空からの奇襲戦法を繰り出した。
「おらぁ!ニールを返せ!」
ガシャン!
不意を疲れたスケルトン盗賊の一人がルイのハンティングサーベルの餌食になる。
「ぐはぁ!」
(よし!あと4人!ニール!何やってるんだよ!つったってないで加勢しろよ!)
「ぬう、人間め!滅ぼしてやる!」
スケルトン盗賊がルイにサーベルを向ける。
(サッドニールは…まだ直立不動のまま背を向けている)
「おいおい!ニール!どうしたんだよ!心臓抜かれたのか!」
ルイが喋りかけるが応答がない。
「ん?こいつさっき逃げた人間か。生憎だがこのスケルトンはもうお前のことは覚えていないぞ」
スケルトン盗賊の不気味な言葉に対してルイも言い返す。
「何言ってやがんだ!お前ら中身は人間だろうが!何スケルトンごっこしていやがる!頭いかれてんのか!」
スケルトン盗賊に感じた違和感の正体。
それをルイは言葉にしたのだ。
最初の一人目を倒したときに確信できた。スケルトン盗賊は外見をスケルトンを模した装備で覆ってはいるが、所々肌が見え口調も人間そのものだったのだ。
「何を言っている。我々は人間を滅ぼすために活動しているスケルトンだ。」
スケルトン盗賊は先ほどまで流暢に喋っていたのに急に単調でかつ片言に台詞のような発音をし始めたのだ。
背筋がゾッとした。イカれてやがる。
目的はどうでもいいがこんな奴ら相手にせずニールを回収して撤収する!しかしどうすれば…。
その時、均衡を破る無慈悲な音声がサッドニールから聞こえてくる。
「メモリーの消去終了。初期化が完了しました。起動開始します。」
いつもの声とまったく違ってさらに無機質な音声。言葉の意味は理解できなかったが何か悪い予感を感じさせる音だということはルイにも理解できた。