Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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20.奴隷2

貿易都市ヘングまでの道中でルイたちは新人のナパーロに対して色々な質問をしたが、奴隷農地のこと以外は全て記憶が曖昧らしく明確な答えは得られなかった。

 

「じゃあさ、奴隷農地での生活はどうだったんだよ?酷いことされてたのか?」

 

「いいえ。配給される食事は少なかったですがこれといって変なことはされませんでした。」

 

「ふーん。あ、そうだ、このドライミート取り敢えず食っとけ。」

 

ナパーロはルイから食事を貰うとお辞儀をしてから無言でムシャムシャと食べ始めた。

 

「……。」

 

ルイは少年が必死に食す様子をまるで弟が出来たようにニコニコしながら見ていたが、トゥーラはやはり訝しげであった。

 

今しがた奴隷農地の監視人がムチを使って奴隷をしばいているのを見てきたが、これらの行為はナパーロにとって取るに足らないことだったと言うのだろうか。

そして奴隷農地以前の情報が記憶の消失でまったくないという不自然な状況は逆にあえて重要な情報を全てはぐらかしているのではないかとさえ思えたのだ。

 

そうこうしているうちに3人は砂漠地帯を抜け岩肌が目立つ荒涼とした大地に足を踏み入れる。

 

「もうすぐヘングね。」

 

トゥーラの言葉に合わせてすれ違う交易商の団体や都市連合の巡回部隊も増えてきた。

 

その誰しもがすれ違いざまにジロジロとルイたちの事を見ていく。恐らく10代の少年少女で構成された3人はかなり珍しいパーティーなのであろう。

 

すると急にナパーロが立ち止まり妙なことを言い出した。

 

「あ、すいません。奴隷農地に私物を忘れてきてしまって取りに戻るので二人は先に行っててくれます?後からヘングで追い付くので。」

 

これにはさすがにルイも驚く。

 

「え?まじで?取りに戻らないといけないほど大事な物なのか?」

 

「そうよ。あなただけで戻るとまた勘違いで奴隷にされてしまうかもしれないし、行かないほうがいいわ。」

 

このように言うが内心トゥーラの考えは別にあった。

この少年は我々から逃亡を計っている可能性があり、穏やかに逃亡を成功させるために別行動を提案してきたのではないかと。

そのため逃亡を阻止すべく、安全のためと偽って別行動を柔らかく否定したのだ。

 

しかしここでナパーロが予想だにしない行動に出る。一瞬の隙をついてルイの懐から短剣を引き抜いたのだ。

 

「うわ!なんだよ!?」

 

突然の事にルイとトゥーラは固まってしまっていた。

このままナパーロが殺意を持って斬りかかっていたとしたら2人とも刺し殺されていただろう。

しかしナパーロはそれから動くことなく静かに口を開く。

 

「この短剣を借ります。危なくなったら使うんで。」

 

「…なんだ!びっくりさせるなよ。しかし短剣ぐらい持っていったところで奴隷農地の奴等が捕まえようとしてきたらどうすることもできないだろう。」

 

この時トゥーラは先程のナパーロの行動を含めた一連の流れに動揺し心の整理が追い付かないでいた。

ルイの短剣を素早く抜き取った時のナパーロの目と動きが尋常でなかったからである。

また奴隷に武器を持たせる事自体がそもそも少ないこの世界において、奴隷に武器を奪われたというこの状況は限りなく異常なケースでもあったからだ。

 

これ以上引き留めたらナパーロは何をしでかすかわからない。このまま身近に置いておくほうがリスクが大きいとトゥーラは判断した。

 

「ルイ!もういいわ。その子の好きにさせてあげましょう。後から戻ると言っていることだし。」

 

一瞬、気まずい空気がトゥーラとナパーロの間に漂ったがそれに気づかないルイがそのまま了承する形で事はおさまった。

 

「うーん、じゃあ気を付けてな。」

 

「はい、暗くなってきたし時間がないのでこれで失礼します。」

 

そう言うとナパーロはもときた道を引き返していきやがて砂嵐の中に消えていった。

 

それを見届けたトゥーラは急にルイに詰め寄る。

 

「ルイ!やはりあの子おかしいわ!勝手に奴隷が短剣を抜き取ったのよ?あり得ないわ!それにあの目付きはもしかしたら主人を殺してでも逃亡しようとしていたのかもしれない。別れて正解だったわ。」

 

「ええ?別れたい時は手続きするって言ったけどなぁ。割りと礼儀正しいし言葉喋れるし奴隷でいるのが勿体ないくらいだったでしょ。」

 

「安い奴隷にしては逆に出来すぎてたのよ。とにかくもうあの子は恐らく戻って来ないだろうから気持ちをリセットしてヘングで本格的にお金稼ぎしましょう。」

 

「え、戻ってこなさそうか?」

 

「奴隷に単独行動させたらほぼ逃亡しておしまいよ。むしろ短剣で襲いかかってこなかっただけましだったわ。」

 

「そんなもんなのか…。」

 

そこからは2人で気落ちしながら歩いているとついにいりくんだ岩場の丘の上にヘングと思わしき都市が姿を見せた。

 

「中でちょっと休んだら早速鉄堀しましょう。もう今はとにかく安全に堅実にお金をある程度稼がないと一向にスタートラインにたてないわ。」

 

たしかにここまではトゥーラの言葉通りだった。ブラックスクラッチで稼いだお金は食費や奴隷代などでほとんど底をついていたのだ。

その割に現状2人の手元には何も残っていなかった。

 

「そうか…ナパーロは何か信用できる目つきをしていた気がしたんだけどな。」

 

「奴隷代の2000catぐらい勉強代と思えばいいじゃない。」

 

2人はBARで休息をとりつつ、半ば諦めながらナパーロの到着を待つことにした。

 

一方、渦中のナパーロは奴隷農地に向かうでもなく砂漠の道端で立ち尽くしていた。

 

「あー…ちょっとうざかったな。まぁ気に入らなきゃ俺が殺しちまえばいいんだが…。」

 

先ほどまでとはまったく違う口調でブツブツと独り言を呟いている。手には先ほどルイから奪った短剣を持ち器用にクルクルと回している。そこに4人組の軽い兵装をした集団が小走りで近づいてくる。そしてナパーロは臆することなく4人組の集団に話しかける。

 

「やっぱり引き返して後をつけてきたね。狙ってたんだろ?俺たちのこと。」

 

「ほう。気づいていたのか。お前ら3人とも逃亡奴隷だろ?方向からして奴隷農地から逃げてきたんだよな?ちゃんと働かなきゃダメだろう。」

 

「やっぱあんた達は人攫いの集団か。すれ違いさまに嫌にこっちをジロジロ見てて気持ち悪かったぜ。俺らの数が少なくて弱そうだから狙えると思ったか?」

 

「ガキ。お前一人じゃねーか。他の2人はどうした?見捨てられたのか?奴隷は自分のことしか考えないからなぁ。お前は大人しく捕まって戻るよな。」

 

4人組の問いかけに対してナパーロはニヤニヤしながらこたえる。

 

「きひひ…。奴隷は俺だけだよ。あの2人は俺の飼い主さ。いまあいつらがやられても困るから、お前たちはここで殺しておくことにする。」

 

「はぁ?なんだクソガキがぁ。一人で俺たちとやりろうってのか?」

 

会話が終わると同時にナパーロは走り出していた。人攫いたちは面食らっていたが各々反射的にサーベルを抜き始める。

だが、ナパーロの早さは想定を上回っていた。走りざまに一番近くの人間に向けて短剣を投げつけたのだ。

短剣は先頭でよそ見していた人間の喉元に突き刺さる。

 

「が・・・!」

 

そして短剣が刺さった男のサーベルに手をかけ、抜きざまに隣の男の脇腹を撫で斬った。

 

そして喉元から溢れでる血を押さえ息も出来ずにゴロゴロとのたうち回っている男にナパーロは平然とした表情で奪ったサーベルを突き指した。

 

「あー、やっぱ力があんま入らね。」

 

脇腹を抑えた男がナパーロに怒鳴り散らす。

 

「いてぇなクソガキが!仲間を殺しやがって!許さねぇ!」

 

「バーカ、俺もお前たちを許さねーよ。」

 

ナパーロは飄々とした表情から急に目を見開き人攫いたちに飛びかかっていった。

 

 

夜が更けルイたちはヘングのBARでナパーロを待ち続けていた。

トゥーラは既にナパーロのことを諦めかけておりテーブルの上でこれからの計画を練っていたが、ルイはいつになく落ち込んでおり真剣な表情で帰りを待っていた。

 

「あいつ遅いな…やっぱり逃げちゃったのかな…。」

 

「そうね。もうこんな時間だし諦めて2人での今後の計画をたてま…」

 

トゥーラは言いかけたところで驚きのあまり固まった。

目の前にナパーロがたたずんでいたからだ。

 

「おお!無事か?戻ってきてくれたのか!」

 

ルイは立ち上がり出迎えた。対してナパーロはキョトンとしている。

 

「あれ?ここは…どこです?」

 

「は?何言ってんだよ。忘れ物は持ってこれたのか?」

 

「忘れ物…?」

 

「自分で言ってたじゃん。まぁいいやよく帰ってきた!まずはここで食って休んで体力整えな!あんま金ねーけど!」

 

満面の笑みのルイと対称的にトゥーラは困惑した。

 

奴隷として苦労して生きてきたのに、逃げ出す絶好の機会を自ら捨てるナパーロの心情が理解できなかったのだ。

 

「あ、あなた戻ってきたってことは私たちと一緒に働きたいと決めたと思っていいのね?言っておくけれど、私たちは貴方を奴隷としては扱うつもりはないけど、私たちの意志に反した行動を取った場合は厳しく対処しますから軽はずみな行動は避けてね?わかった?」

 

「は、はい。気をつけます。」

 

ナパーロは状況を理解していないのかポカンとしながらうなずくだけあった。

 

「よーし、じゃあナパーロの加入を祝って今夜はパーッと祝杯だ!おっちゃんダストウィッチを追加で頼む!」

 

「あいよー。」

 

「ナパーロ、今日から俺たちのことはお前の姉貴だと思ってくれていいからな!そしてこれからお前は自分の思うとおり考えて行動して人生を大いに生きろ。いいな?」

 

その夜、ルイはまるで実の弟を持ったかのようにナパーロの頭や頬を撫でたりして優しく接していた。

そしてナパーロが戻ってきてくれたことがよっぽど嬉しかったのか、一人おおはしゃぎしたあと先にBARのベッドを借りて眠りについてしまった。

それを見届けてトゥーラはナパーロに声をかける。

 

「ちょっと、話があるから来てくれない?」

 

「あ、はい。分かりました。」

 

夜空の下で2人は並んで遠くの地平線を見ている。

 

「ルイはあなたを束縛しないようにするつもりのようだけど私は違うわ。一緒に働く以上ルールを守ってもらう。その前に聞いておきたいのだけど…あなたのその服についているのは血よね?何があったの?」

 

「…。」

 

トゥーラは危害を加えるわけでもなく逃げることもせず戻ってきたこの少年をやはり理解できず警戒していた。そんな中、ナパーロの服に微かについていた血を見つけてしまっていたのだ。

 

「やはりトゥーラさんには本当のことを話しておいたほうが良さそうですね。」

 

そしてナパーロは何かを観念したのか意を決してとんでもないことを語りだす。

 

「僕は時々、記憶がなくなる症状があります。今日もヘングに行く道中で発症し、気がついたらBARにいるトゥーラさん達の前にいました。」

 

「なんですって?そんなことあるはずないでしょう!そんな嘘ばかりついてて私たちがあなたを雇い続けられるはずないわ。本当の事を言わないとまた奴隷農地に戻ることになるのよ?」

 

トゥーラは一瞬面食らったが、またやり込めようと同じ嘘をついたのだと思い、つい熱くなって強い口ぶりでナパーロを攻めた。

 

「ほ、本当なんです!1日の3分の1ぐらいでしょうか…。僕が落ち込んだり嫌だなと思った時に記憶が曖昧になることがあるんです!僕もよくわからないんです。」

 

「…ナパーロ。私たちはあなたを奴隷として買ったけど、これからは同じ仲間として共に歩んでいきたいと思っているのよ。何でも記憶がないなんて言い訳されたらお互い信用しあうことが出来ないじゃない。」

 

対してナパーロは攻められたことがこたえたのか首を下にうなだれてしまった。そして突然予想だにしない反応を見せる。

 

「本当だと言ってんだろうが…!」

 

ナパーロから発せられた言葉なのか疑ってしまうほど怒気が籠った口ぶりで、トゥーラは咄嗟に刀に手をかけた。

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