Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
「久しぶりね。話は聞いていたかしら?」
トゥーラは坦々とナパーロ、いやラックルに話しかける。
「ああ、ナパーロの心が動揺し始めているのがわかりましたからね。それよりこんな公で俺に話しかけるとは少し立場をわきまえていないようですね。」
ラックルは鋭い目つきを向けるが、トゥーラはめげずに続ける。
「それまであなたはずっと眠っていたの?」
「俺の詮索はしないで頂きたい。今も半ば強引に表に出たのでナパーロの意識が眠りきっていない。だからあなたの知りたいことだけ簡潔に言っておくが、『遠征に同行してもいいが安全が確保されていること』が条件だ。下手に一人だけここに残っても生きていけないからな。」
「わかったわ。それだけ聞ければ充分よ。」
ラックルは少し口元に笑みを浮かべると首を垂らした。恐らく裏に引っ込んで再度ナパーロに交代したのだろう。
やはりラックルは消滅などしておらず、何か少しでもナパーロに問題が起こればすぐに自分の意思で出て来れることもわかった。
何にせよ一番気がかりだった者の意志も確認出来たのでトゥーラも快く同意し、結局3人一緒でハウラーメイズへの遠征隊に志願することになった。
その間、ルイはというと意味不明なトゥーラとナパーロのやり取りに首を傾げるばかりであったが2人が同意してくれたこともあり追及することはなかった。
早速、遠征について情報を集めているとどうやらその遠征部隊は都市連合の首都ヘフトから出発することが分かり、志願者もそこで面接を受ける必要があるようだ。
それは志願者全員がついていけるわけではないことを意味している。
考えてみればこのような遠征計画も疲弊した都市連合においては10年に一度、下手すれば今後開催されないかもしれない大規模な計画だ。
失敗が許されない国運をかけた事業であるがゆえ同行者も慎重に選ぶのは当然であった。
そのためまずは見た目だけで落とされないように3人は貯めたお金で質が良く酸耐性がついている装備を着て面接にのぞむことにした。
「へぇ~ナパーロお前、そのコート似合ってんな!急にかっこよくなったぞ。」
「そんな…。ルイさんこそ凄く綺麗です。」
「おま…綺麗って何だよ綺麗って!」
まんざらでもなさそうにバチコーンっとナパーロに突っ込みを入れているルイを横目にトゥーラも坦々と旅の小道具を買っている。
「2人とも雨避け用のコートは決まった?次はナパーロの武器を買いましょう。」
ナパーロは鍬ぐらいしか扱ったことがないようだったので薙刀などの長柄武器にするか悩んだが、ラックルがサーベルの扱いに慣れていると踏んで持ち運びしやすい長剣を持たせることにした。
「修理品だけどないよりマシね。残りのお金は旅費としてとっておいて早いとこ首都ヘフトに向かいましょうか。」
「おう!」
こうして3人は服を新調した後、数時間かけてヘングから首都ヘフトに乗り込んだ。
道中もヘフト方面へ向かう団体が続々と集まってきているようで、到着していないのに人の道が出来ていた。
そしてヘフトに着くとこれまでの都市とは比べ物にならないほどの人で沸き返っており、都市に入りきらない人々は門の外でテントを構えるほどであった。
「すげーな…今まで見た中で一番人が多いぞ!」
「私も一度来たことがあるけど前はここまで人がいなかったわ。たぶんハウラーメイズ遠征隊が集まり出しているんじゃないかしら!それにしてもすごい数ね。」
事前に公表されていた情報によると、今回の遠征は現地への移住という目的もあり、選ばれた都市連合の市民による数百人単位の移住が行われるようであった。
またこの遠征を企画したのはロード・オラクルという貴族であり、スポンサーとして多額の財産を今回の遠征になげうっている。
そのため、この遠征で行軍するのは、テックハンター部隊、移住市民に加えて貴族もおり、私兵や兵士も含めるとその数は計500人にのぼる大所帯になるのではないかと言われている。
そんな人数が1つの都市に集まっているのだからこの都市のごった返した状態も頷けた。
「さぁ俺たちは面接だな。これで同行できるかどうか決まっちゃうんだろ?やべぇなんか緊張してきたな。」
「ち、ちょっと!普段通り堂々と振る舞ってよ。私まで緊張してくるじゃない。」
都市の中に受付スペースのような場が臨時で設けられており3人はそこで申請を終えると呼ばれるまで隅っこで待機していた。
「見ろよ、移住市民に子供がいる。あれ家族っぽいな。」
移住市民と思われる団体は多種多様な民族で構成されており中には子供や奴隷を連れ、家財道具を全て家畜に積んで引いてきている家族もいた。
恐らく新天地で一花咲かせようとしている人たちが多く集まっており、それだけ今回の遠征ひいては移住計画は都市連合の民衆からも期待されていた。
また、都市連合の国家自体もお祭りを開くなど総出で後押しをしていて、国家プロジェクトとしての本気度が伺えた。
そしてそうこうしている内にルイ達は面接会場の小屋に行くよう指示される。
「ついに面接ね…。ギシュバかまたはロード・オラクルあたりが出てくるのかしら…。」
トゥーラは緊張を隠すために小屋のドアを勢い良く開け、先頭になって堂々と中に入っていった。すると目の前には長テーブルの前にして3人の人間が椅子に腰かけて待ち構えていた。
その3人は様々な武器を背中に背負っており、恐らくそれぞれが何らかの剣術の達人なのだろうか、他者を圧倒するオーラを放っていた。
そしてルイ達が小屋の中に入るなり、その内の真ん中にいる黒い素肌をしたスコーチランド人の面接官が喋り始める。
「うむ。君たちが同行志願者か。」
両隣にいる2人の面接官も後に続く。
「まだ子供じゃないか。何枠の志願だ?」
「いいわね。可愛らしい子たちじゃない。」
入室するなり審査が始まっているようで面接官と思われる3人は所感をそれぞれ自由に喋り出す。
何の変哲もない言葉ではあるが面接員3人の顔は笑っておらず鋭い眼差しはピリピリとルイたちを刺していた。
しかしトゥーラは気負わされながらも目の前に座っている3人を静かに分析していた。
(この3人は服装からしてテックハンターよね。となると最初に発言した真ん中の男がギシュバかしら?さすがは十傑の一人…。威圧感が違うわ。)
トゥーラはまだ会ったことのないギシュバがどんな人間か気になっていた。
都市連合のお抱えハンターではあるが、長く生きれるスケルトンでもないのに短い期間で十傑に名を連ね人類の発展に大きく貢献している人物。
過去に命を救ってくれた尊敬する女冒険家リドリー以上に貢献ptを稼ぐことが出来る人は一体どんな人物なのか前から興味があったのだ。
そんな中面接官の真ん中にいる男が少しの間の後、口を開いた。
「一般公募は全部後続の荷駄隊に配属だ。重い物は荷物用ガルに運ばせるが小物などすぐ取り出したい物とかを運んでもらう。若いが大丈夫なのではないか?」
この言葉にルイ達は内心ホッとした。初めての面接であったが、3人とも十代の若者であり下手したら保護者なしで不採用になるのではないかと危惧していたからだ。
だが喜んだのも束の間。左隣のいるグリーンランド人が口を挟む。
「いや、若すぎるだろ?それに見たところ剣もろくに扱いない初心者だぜ。いくら後続部隊だからと言って戦闘力がない者達を多く配備するのはやはり不安がある。万が一先行チームが崩れた場合、後続部隊を使って立て直せるようにしておくべきだなぁ。」
この初心者という言葉に敏感に反応したのはやはりトゥーラだった。
「し、失礼ですが、私たちは一応剣士ですしテックハンターです!それなりの修羅場も切り抜けてきました。何の根拠があって初心者と断定するのですか!」
案の定興奮したトゥーラの横でルイは苦い顔をした。
トゥーラは冷静に見えて意外と激情的なのだ。
これでは面接官に悪印象を与えてしまう。
しかし熱くなって反抗的になったトゥーラに対して面接官は険悪な表情で凄む。
「ほーう。粋の良い初心者だなぁ。じゃあ根拠を上げてやろうかぁ?まずお前だが刀を帯刀している位置から右利きだろうがその場合、左手の中指から下3本に手マメぐらい出来ていてもいいのに全く綺麗な左手だ。刀の持ち方がなっていない証拠だ。そして後にいるシルバー色の女と小さいガキの2人。お前らは直前に服を新調しただろ。古着だが汚れがついていない服を着ている。面接のために見映えをよくしようとしたのだろうが、ここには使い慣れた装備で来るんだったなぁ。またガキは元奴隷か?足枷痕がまだ新しいな。それと知らない部屋に入るときは最初はドアを少しだけ開けて中の様子を確認してから入るクセはつけろよぉ。テックハンターならばトラップだらけの古代遺跡に行くこともあるだろーが?分かったか?お前たちが初心者と判断できる理由は初見でもこれぐらいあった。ちなみに聞くまでもないがお前たちの貢献ptは何ポイントだぁ?」
この短期間の内にこちらの力量を完全に見通されていた。
まさかこの左隣にいる口の汚いグリーンランド人が実はギシュバであり名を隠しているだけなのではないかと思えるほどだ。
となるとこの男に反抗したのはまずかった。
トゥーラは何も言えなくなり押し黙った。
すると、面接官の右隣にいたおばさんのテックハンターが口を開く。
「おいおい、こんなにかわいいこをいじめるのはよしときな。先行チームは私たちなんだからそっちが崩れないようにすればいいだけの話だろ?後続部隊にもしもの時の事を頼るもんじゃないよ。」
「いや、俺はどの部隊もなるべく万全にしておくべきだと言っているだけだ。新参の婆さんは黙っててくれ。」
「何だと?もう一片言ってみな。ネイルの錆にしてやるよ。」
そう言うとおばさんの面接官は背負っている野太刀のつかに手をかける。対してグリーンランド人の面接官も負けていない。
「ネイルってその野太刀のことか?いい歳して自分の武器に名前つけるなよ。」
何やら真ん中の男を挟んで面接官同士の口論が始まり、採用されるか怪しい雰囲気になってきた。
ルイ達は会話の成り行きを小さくなりながら見守っていたが、それに気づいた真ん中の面接官が声をかけてくる。
「うむ。見苦しいところ見せてしまい申し訳ない。本当はギシュバ隊長や副隊長に見てもらうのが一番なんだが彼らは忙しくてね。それで私たちギシュバのチームメンバーが面接官をやっているのだが、たまに意見があわないのだよ。」
これを聞いてトゥーラは落胆した。
面接官はギシュバではなかったことが一番の理由だが、目の前の3人もギシュバなのかと勘違いするほど洞察力も高く猛者の雰囲気をまとっていたことも追い討ちとなった。
おばさんのテックハンターでさえ背中に二刀の野太刀を背負いただならぬ気配を醸し出している。
十傑までの道のりは果てしなく遠く感じた。
しかしそんなことを考えている場合ではなかった。
「君たち貢献ptはゼロだろう?採用しようにも実績を表す数字が一つもない。さてどうしたものかね。」
見通しが甘かったのか、ルイの同行計画はいきなり雲行きが怪しくなってきていた。