Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
この遠征移住計画は必ず成功させようとする都市連合の意思が感じられる。
そのため、志願者は重大な問題さえなければ逆に何人たりとも受け入れる姿勢なのかと思っていた。
しかし、蓋を開けてみるとギシュバの部下にすら認めて貰えない状況となっているのだ。
このままでは不採用になる可能性が高い。
ここでルイが苦し紛れにこれまでの経歴を語り始める。
「そうだ!ガルベスって奴を知ってるか?俺たちはそいつを一度倒したんだ!」
「うむ?ガルベス…賞金首か?知らないな…。」
「じゃ、じゃあシルバーシェイドは?そいつとも剣を交えたことがある。負けたけど。」
「その者も知らない。君たち残念だが志願兵としてはやはり若すぎだな。また次の機会を探してくれたまえ。」
面接官は席を立とうと書類をまとめ始めるが、
このタイミングを逃したら次の機会なんて早々あるものではない。
ルイはさらにしがみついた。
「俺たちはブラックスクラッチで奴隷商の罠を見破ったりもしたぞ!」
「ほう、どんな罠を見破ったんだい?」
これに食いついたのは右隣にいるおばさんの面接官だ。
前のめりになって次の言葉を待っている。
ルイはここぞとばかりにこれまでの経緯を説明した。
もはやこの話をしても面接官の興味だけで終わるのではないかと踏んでいたが予想外のことが起こる。
この話に対しておばさん面接官は震えながら叫び出したのだ。
「あんた達!それで奴隷商から無事逃げ延びることが出来たんだね!辛かったねぇ!モーリス!この子達、採用しましょう。私も昔はめられて奴隷にされたことがあるからこの子たちの心情は大いに分かるわ!」
大声でまくしたてるおばさんの面接官に若干引きながらモーリスと呼ばれる真ん中の面接官がこたえる。
「と言ってもねハーモトーさん。ギシュバからは3人一致の時に採用するようにと言われています。同情で採用するわけにはいきません。」
真ん中の面接官が異議を唱えるがハーモトーというおばさん面接官は引き下がらない。
「馬鹿言ってんじゃないよ!そんな体験をしたからこそ一皮剥けているって言ってんのよ!私も後続部隊担当だし、私がこの子達の面倒と責任をとるわ!分かったら採用しなさい!」
「ったく、これだから婆ぁは困るんだよ…。」
左隣のグリーンランド人が小言を言ったがハーモトーと呼ばれるおばさんの面接官には聞こえていないようだった。
「うむ…。責任取ると言うのなら承認しようか?ワイアット。」
「あぁ、どうせ反論しても長引くだけだ。」
「うむ。じゃあ君たち取り敢えず採用するよ。仕事内容はもう知っているだろうけど、後続部隊の荷物運搬兼護衛だ。詳しい話はハーモトーから聞いておいてくれたまえ。3日後の朝に出発するからそれまでここで待機なりしててくれ。以上だ。解散。」
「新参同士、仲良くやってくれ。」
2人の男の面接官は面倒事を避けるように小言を言うとそそくさとその場を離れていった。
「ふん。ちょっとばかりギシュバに気に入られているからっていい気になりやがって。これだから男は信用ならないね。」
後に残ったハーモトーと呼ばれるおばさんの面接官は立ち去った2人に向けて中指をたてている。
ルイ達は一連の流れに唖然としながらもどうやらこの面接官の一人に気に入られうまく採用されたことに喜びの笑みが隠せないでいた。
そんな心境を余所にそのハーモトーと呼ばれている面接官が説明を始める。
「さて、改めてだけど入隊おめでとう。私は元々行商人だったのだが最近ギシュバ隊のテックハンターになったハーモトーと言う。もう52歳の婆だがよろしくな。さっき真ん中にいた男が言っていたように3日後には出発だ。当日は後続部隊の点呼を私がとるから朝8時に遅れずにここに来てちょうだい。それまではこの都市を観光するなり準備するなり好きにしていなさい。」
ハーモトーは元々世話好きなのか若者好きなのかわからないが、ルイたちに遠征計画について詳しく説明してくれた。
やはり今回の目標は元都市連合領土だったハウラーメイズ地方の占領にあり、古都に出没すると言われているメガクラブという巨大なカニの討伐が最終目的であった。
カニと言う言葉が出る度にルイはウキウキしていたが、討伐は先行するギシュバ8人衆と呼ばれるギシュバの精鋭対策チームがあたるようで、後続部隊は出番はおろかメガクラブの生きた姿すら拝めないだろうとのことだった。
「あなたいつまでガッカリしてるのよ?」
トゥーラはBARにて食事しながらルイに話しかけた。
「だってさ…巨大カニ見れないんだろ…。遠征に志願した半分の理由が失われた気がするぜ…。」
「理由の半分もカニがしめていたんですか。」
ナパーロも変なところに感心している。
「でも考えてみたらルイのこの案はかなり良策ね。後続部隊とは言え大人数で比較的安全に未開の地に行けるし食事も出るし、何よりテックハンターとしての仕事をやっと出来て嬉しいわ。」
「まぁお宝はあいつらが根こそぎ持っていきそうだけどな。」
「少しでも人類復興の助力になるのが重要なの。じゃあルイは後の半分はどういう理由で志願したかったのよ?」
「うーん、いや大人数の移動って珍しくてあんまりないだろ?どんな感じでギシュバとか大物が大部隊の指揮するのか見てみたくてさ。」
「あなた変なところに興味があるのね…。」
するとどこからともなく下品で大きな笑い声が聞こえてくる。
「ぎゃはははははは!」
驚いて声のする方を見ると発声源はどうやらこちらを見ている四人組のようだ。
軽鎧にそれぞれ武器を背負っており様相を見るからにテックハンターと思わしかった。
年齢層も若干年上ぐらいかの青年たちだ。
突然の事に戸惑いつつもトゥーラは声をかける。
「あ、あの。何かようですか?」
すると四人組の中の一人がニヤニヤしながら返事をする。
「お前ら志願して後続に配置された奴らだろ?俺らも志願したテックハンターでよ。」
「おお、仲間じゃねーか!宜しくな!」
ルイは素直に喜んでいるが、相手の反応が少しおかしい。
「仲間?いや俺たちは前衛に配置された選抜組だからお前らとはちょ~っと違うかなぁ。」
それに合わせて取り巻きがまたゲラゲラと笑うのである。
「選抜ってどういうことだ?ギシュバが選んだのか?」
「お前ら貢献ptゼロだろ?俺らはある程度稼いでるから志願した時点で自動的にお偉いさん方の目に留まるんだよね。それで俺らの世代からもゆくゆくは大部隊を指揮できる後継をある程度作っておきたいみたいだから前衛の近いところで勉強させて貰えるってわけなんだ。だからお前らみたいなえせテックハンターは部隊の運営なんて気にせず後続で荷物運びしてくれていればいいわけ。おわかり?」
まるで自分たちは境遇も実績も違うと言わんばかりでルイ達を見下しているのである。
「じゃあお前らの貢献ptって奴はいくつなんだよ?」
「3年間で837ptだ。俺らは十傑に届くペースで活動を続けている。今回の遠征においても歴史に残る成果を上げるつもりだぜ。くれぐれも遠征隊の足を引っ張って邪魔をするなよ。」
勝ち気なルイが我慢できるのはここまでだった。
「うるせー!お前らも前衛に配属されたなら余計にギシュバ隊の邪魔になんねーようにしろよ!」
これに先程から喋っているリーダー格と思われる青年が反応する。
「なんだこら?誰に口聞いてんだてめぇ。」
「少しばかり貢献ptを稼げたからって調子にのってんじゃねーってことだ!」
「…身の程を知らないようだな。」
青年のテックハンター達がルイに詰め寄り、それに合わせてルイも立ち上がりガンを垂れ始める。
さすがに相手は人類に貢献活動をしているテックハンターを名乗っている団体だ。
斬りあいになるとは思えないが互いににらみ合い一触即発の状況となってきていた。
そこにトゥーラが懸念していた出来事が起きる。
ナパーロの気配が変わったのだ。
第二人格のラックルが出てきたのだろう。
こいつが出てくるタイミングは大体分かってきた。
恐らく今回のように穏やかなナパーロの性格を動揺させるような出来事が起こるとナパーロはそのプレッシャーに耐えきれず自分の殻に閉じ籠りやすくなる。
それを察知し見計らってラックルが出てくるのだ。
しかし、いま出てきたのは最悪のタイミングだ。
ラックルは既に自分の長剣に手をかけている。
そしてそれに気づいた相手のテックハンターがラックルの胸ぐらを掴む。
「おいチビすけ。てめぇ、なに剣を抜こうとしてんだ?」
これを見てトゥーラは顔面蒼白になる。ラックルはこの4人を殺しかねない。
「やめなさい!あなた達の為よ・・!」
トゥーラの気迫あまる声と表情に一瞬男たちは圧倒されるが立ち直って悪態をつく。
「揃いも揃って舐めた目付きで俺にたてつきやがって!」
「トゥーラ、邪魔はするなよ。」
『邪魔はするな』とはこれから起こそうとしている戦闘に介入するな、ということだろう。
声とともにラックルが素早く立ち上がった。
「ま、待ちなさい…!」
終わった。完全に破滅だ。
このままラックルは4人の男を血祭りにあげるだろう。
それだけの実力を恐らく有している。
しかしここはBARの中だ。
店舗護衛なども介入してくるだろう
。最早トゥーラにはここから修羅場への道を止める術が思い付かなかったのだ。
だがここで予想もしない人物がラックルを止める。
「待たれよ!そこまでだ!」
その人物は絡んできた4人のテックハンターの一人であった。
どちらかと言うとこの男だけ他のメンバーと一緒に笑ってもいなかったし飛び抜けた長身とガタイで初めから4人の中で浮いて見えていた。
その男が素早くラックルに近づき長剣を抜こうとする腕をガッチリと掴んだのだ。
これにはラックルでさえ目を見開き驚いている。
男は間に割って入りさらに続けた。
「若。我々は子供と遊びにきたわけではないのですぞ。この辺にしておきなさい。」
最初につっかかってきたリーダー格のテックハンターの男を叱りつけたのだ。
「…ちっ!分かった。いくぞ。」
若と呼ばれた青年はそのまま振り向き足早に去っていってしまった。
ラックルを止めた男も「邪魔したな」と一言呟くと後を追うように周りのテックハンターを連れてその場をあとにした。
その様子をルイは睨み付けるように見届けていた。