Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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25.ハウラーメイズ(雲行き)

ハウラーメイズ地方は都市連合領の東側に半島のようにつきだしており、そこへの遠征計画は大きく3段階に分かれていた。

1段階はハウラーメイズ地方に入ってすぐの廃墟となった港町の拠点化。

2段階は港町から半島中央に入っていき古都に巣くうメガクラブという大きなカニの討伐とその後の拠点化であった。

そこを中心に安全領域を広げていき、その後の帰路で都市連合領内への道を確保することが3段階であった。

 

【挿絵表示】

 

遠征隊がヘフトを出発してから2日が経過していたが、ここまでルイ達後続隊には何もトラブルは発生しておらず平和で順調な行軍となっていた。

それは都市連合領内をまだ出ていないこともあったが、先発隊のテックハンターや兵士が奮闘してくれているおかげであったのだろう。

道中には盗賊や猛獣スキマー等の斬擊痕のある死体が転がっていたのである。

 

しかしいくら後続であるからと言って敵に襲われる可能性がないわけではない。

むしろ盗賊や海賊は戦闘力がなく物資を多く持つ後続隊を狙うことの方が多いのだ。

そのため死体を見るたびに従者たちに緊張が走る。もし襲ってきた場合は自分達の力で防戦しなければならないからだ。

ただ、そもそも30人という後続部隊も十分人数が多い方でありまたハーモトー含む数人の重武装兵士も同行していたためルイたちにとってこれまでの逃避行と比べるとかなり心強さがあった。

また安心している理由は他にもあった。

それは野宿中にハーモトーから聞いた話ではあるが、先を行くギシュバのテックハンター集団は斥候として常に先に現地入りし、遠征隊の歩行ルートにいる敵対分子を排除しながら進んでいたからだ。

 

 

そして現在、最前線を行くギシュバのテックハンターの斥候はハウラーメイズ地方に差し掛かろうとしていた。

 

「はーくしょん!誰かいま俺のことを想っている奴がいるなぁ?」

 

忍者のような出で立ちで口元までマスクのように覆った服を着た男が前方を警戒しながら

軽口を叩いた。それに対して近くにいる黒い素肌の男はあっさりと否定する。

 

「それはないだろ。それよりそろそろ領内を出るぞ。ここからは正真正銘、未知の領域。ハウラーメイズだ。気を引き閉めてかかろう。」

 

この先行していち早くハウラーメイズに入った二人は名をモーリスとワイアットと言い、ハーモトーと一緒にルイ達の面接官を担当した者達だ。

 

ギシュバ8人衆として信頼され腕を買われており、遠征隊の人選作業を任されると共に本業である斥候任務にあたっていた。

 

モーリスはしゃがんで地面の土を掴みとるとパラパラと落とす。

 

「虫もいるな。うむ。報告通りだ。酸性雨は長いこと降っていないようだ。」

 

「ああ、ここに来るのは長いこと待ったぜぇ。雨さえなけりゃあ後はカニ野郎だけだなぁ。」

 

「うむ。この地域には人間大ほどまで成長する狂暴なカニが出没するらしいからな。」

 

「人間大ぐらいなら何ともねぇだろ。問題は伝説のメガクラブだ。2階建ての建物ぐらいの大きさでハサミの一振りだけで人が跡形も残らないほど潰されるって話だ。」

 

「メガクラブはギシュバが長年かけて対策を練ってきたのだ。大丈夫だろう。」

 

「旦那がいればいけると思うがよぉ。やっぱ何か気になるんだよなぁ。この遠征を失敗させようとする勢力が隊に混じっているかもしれないんだろ?副隊長も元行商人のハーモトーなんかをスカウトして8人衆に加えるしよぉ。」

 

「うむ、そのことか。都市連合の反対勢力と言えば反乱農民か反奴隷主義者だな。彼らがスパイを養成できるとは思えないし、ハーモトーは後続部隊で戦闘には加わらん。紛れ込んでいるとしても公募した後続部隊までだろうから戦闘においては問題ないだろう。それにお前、私達と同じ8人衆に新参のハーモトーが入ったことが気にいらないだけだろ?」

 

「ふん。感情的になる婆ぁがうざいだけだ。お、早速前方に旨そうな奴らがいるぜ。どうする?」

 

ワイアットは前方に赤く群がる数匹に小カニ集団を発見する。

 

「海賊など人間は私達で対処してきたが、カニは初めてだし数が多い。念のためスキマークラスとして扱う。」

 

「俺たちだけで充分だけどなぁ。じゃあニムに手旗信号を送るぜ。あー、トランシーバーが欲しい…。」

 

「今時そんな高価な電子部品がどこにあるのだ。…よし、ニムロッドは…あの丘にいたぞ。」

 

モーリスが鏡の反射を使って丘を照らすと、丘もそれに呼応してチカチカと太陽の光が反射する。どうやら丘の頂上に誰かが待機しているようだ。

 

「おーけー」

 

ワイアットはそれを望遠鏡で確認すると、鞄から赤白の旗を二本取り出し、丘に向けて手旗信号を送り始める。

古典的ではあるが衛星や電波塔を使った無線等の通信技術が衰退したこの世界において遠距離連携を行うには必須な手段であった。

 

その数分後だろうか。丘からカニの集団に向けて何かが放たれる。

それは一定間隔でカニの集団に撃ち込まれ続ける。そしてカニはしばらく混乱したように右往左往していたが、じきに動かなくなった。

 

「ニムは相変わらずすげぇ射撃能力だなぁ。300メートルは距離があるぜ」

 

2人は丘に向かって合図を送るとカニの集団に近づいた。見るとカニは全て矢が刺さって死んでいるのだ。

 

「やはりこれぐらいの大きさのカニならばニムロッドのボウガンも有効のようだな。地味だが被害を出さずに確実に仕留めるにはこれが一番のようだ。小さいカニは全部彼にやってもらうとしよう。」

 

「ははは。ニムも忙しいな」

 

「彼がスナイパーとして我々8人衆に加わってくれて大分助かっているよ。これで地点Bは確保できた。一旦休憩しよう。」

 

そう言うとモーリスは丘の上に小さく見えるニムロッドと呼ばれる射撃手に手を振った。

 

彼らの戦法は一見非効率ではあるが慎重で万全を期していた。

知能が低い猛獣であれば後方の高い場所で待機している射撃手により遠巻きに敵を倒すことで味方の被害を最小限に抑えつつルートの安全を確保していたのだ。

その成果もあってここまでの工程で遠征隊における死傷者はゼロを保っており、まさに百戦錬磨のベテランテックハンター集団のみが為せる所業と言えた。

 

 

そんな彼らに倒された猛獣などの肉は遠征隊の貴重な食糧源にもなっており、このカニの肉も数日後にはルイ達の食事にも行き届いていた。

 

「うおお?この味は!?」

 

焚き火を囲う夜の野営地でルイの奇声が響き渡った。隣の焚き火のグループからも何事かと冷たい視線が向けられる。

 

「ルイ、もうちょっと静かに食べてよ。あ、この肉旨いわね。何の肉かしら。」

 

「決まっているだろ、これはカニだよ!」

 

そう言うとルイは漆黒の夜空に浮かぶ星を見上げてもの寂しげな表情になる。

 

「どうしたのですか?」

 

ナパーロは心配して声をかけるとルイは目を腕でぬぐいながらこたえる。

 

「あ、いや、カニ食べたら故郷を思い出しちゃってよ。よくニールの横で食べてたなぁって。」

 

「ルイさんを育ててくれたスケルトンさんのことですね。」

 

「そーそー前に話したろ。今頃どこにいんのかなぁ。俺たち大分離れた辺鄙な地に来てしまったけど同じこの夜空を見てんのかなぁ。」

 

暗黒の夜空に囲まれ虫の声が静かに音を奏で始めると3人は何とも言えない気持ちになった。

 

見知らぬ大地で外部からの襲撃の心配をしながら過ごす日々は、慣れていない者達にとっては無意識にもストレスと疲労を蓄積させる要因となっていた。

 

そこにルイにも負けない元気の良い声が割って入ってくる。

 

「おいおい、なにしんみりしてるんだい?ホームシックになってるのか?」

 

声の主は後続部隊を指揮しているギシュバ8人衆の1人ハーモトーだ。

 

副隊長アウロラにスカウトされた後、新参でありながら、その知識と経験を買われ後続部隊を任されるほど信任を得ているようだ。また使い古された二本の野太刀を軽々しく背中に背負う様を見る限り腕前も高いことを物語っている。

 

「いえ、ルイはクラブレイダーがいるピット地方の出身なんです。だからカニの味は懐かしかったみたいで」

 

「ほう。お前はクラブレイダーだったのか?」

 

「あ、いや…違います。カニも食べてましたし。」

 

「ハハハハ!あいつらはカニをペットとして飼って共存する奴らだからね!」

 

豪快に笑うハーモトーにルイたちはタジタジだ。

 

「あの、遠征は順調なんですか?」

 

「ん?ああ、順調だよ!先鋒隊から第1段階の港町制圧が完了したと連絡が入った!いまは既に拠点化に着手していると思うよ。明日我々も拠点に到着する予定よ。」

 

「ええ!マジっすか、すげー!めっちゃ楽勝じゃないですか!」

 

「ルイ、私達はまだ何も発見できていないじゃない」

 

「あ、そうか!俺たちの探索できる余地残して欲しいよな!」

 

「あっはっは!あんた達素直だねぇ。まだ子供だしこりゃあ白だな。」

 

「え?何ですか?」

 

トゥーラの問いかけにハーモトーは視線をそらし答える。

 

「いや、何でもないよ。それよりあそこで一人で飯を食ってる爺さんは知り合いかい?出発時に話していたようだけど。」

 

「爺さんって…ああ!無限のワンワンのことか」

 

「ルイさん。ウィンワンですよ。」

 

「うん、そんな感じ。荷物持ってやろうって言ったのに断られたんですよ!」

 

「そうかい。じゃあ知り合いってわけでもないんだね。分かった。食事の邪魔して悪かったね。明日は早いからもう寝るんだよ、じゃあね。」

 

そう言うとハーモトーはその場を去っていった。

 

「それにしてもあのウィンワンって爺さんはあの年齢なのに一人でこの遠征隊に志願したのかな?年寄りにはきつそうな気がするんだけど」

 

「そうね。それにあの人おそらく本当に刀の剣豪よ。刀を何万回も振ってきたような手をしていたもの」

 

「ひひひ、トゥーラそれって面接官の受け売りでしょ?手マメのことじゃん」

 

「う、うるさいわね。剣豪なら用心棒でもしていればいいのになぜ体力仕事の遠征隊に志願したのかってことよ!」

 

「あーたしかにそうだな。ハーモトーもそれに気づいて不思議がってたのかもしれないな。まぁ俺たちには関係ないしそろそろ寝よーぜ」

 

「そうね。少し雲ってきたわ。酸性雨ではないと思うけどコートは深く被って寝ましょう」

 

先ほどまで煌々と輝いていた星空にはいつの間にか雲がかかり始めていた。

 




あとがき(2021/4/24時点)
ここまで目を通して頂きありがとうございます!
始めから読んでくださっている方に申し訳ないのですが、
「1.はじまり」の冒頭に物語の根幹に関連する話を追加編集しました。

元々書こうとしていた内容ではありますが、
内容的に悲しい部分であり嫌煙されるイメージがあったので触れないでいました。
しかし、どうせ今後訪れるシーンでもあり、
最初の冒頭でインパクトを出してみようと思い追加しました。
ここに来てのぶっこんだネタバレっぽい追加をしてすみません_(._.)_

※ただし、悲劇のまま物語を終わらせるつもりはありません・・!
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