Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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26.ハウラーメイズ(宴)

遠征が始まってから15日が経った。既に第一ポイントの拠点化も進行しており順調に進んでしまっている。

立場を偽ってこの都市連合の遠征部隊に潜入したが、もはや遠征隊員として溶け込めており、周りは俺が反乱農民軍のスパイだなんて誰も疑っていないだろう。

大分時間はかかったがこれでようやく行動を起こせるようになったわけだ。

ここまで遠征計画を進めてきた者達には申し訳ないが俺は私情を捨てる。

都市連合を弱体化させるためにはこの遠征計画は必ず失敗させなければならないのだ。

どうせ遠征が成功したとしても貧民層の暮らしがよくなるわけではなく、都市連合の貴族たちをさらに肥えさせるためだけでしかない。

死んでいった者達を弔うためにはこの帝国は何としても潰さなければならないのだ。

そして今宵は宴会だが…。これから滅ぼそうとしている相手と一緒に飲むのは気が引けるが疑われないようにするためには致し方ない。情がうつらないよう適当にあわせてやり過ごしてやる。

 

 

ルイたち後続部隊はついに第一ポイントの拠点化された港町に到着した。

ここでは先行部隊から後続部隊まで全ての遠征隊員が数日間常駐して休憩すると共に、今後の計画修正や調整を行う期間となっている。

また、初めて一同が会する場面でもあり第一ポイントが無事に拠点化されたこともあって、今夜は貴族のロード・オラクル主催の元で宴会が催されることになっていた。

 

「いやぁギシュバ卿の手際は素晴らしいな!全てが予定通りじゃないか!これで都市連合最大の問題も解決が近いな!」

 

男にもかかわらずサラリとした髪をたなびかせ、きらびやかな服を纏いながらしなやかな足取りで第一拠点を悠々と歩くのはこの遠征計画のスポンサーでもある貴族のロード・オラクルだ。

 

【挿絵表示】

 

数人の私兵を伴いながら徐々に復活していく港町を視察し満足げな表情をしている。

 

「はっ。ギシュバ殿は現存する人間のテックハンターにおいてはもはやトップクラスの人物と思われます。しかしこれもオラクル様の多大なお力添えがあったからこそ実現できたのですぞ。」

 

側を歩く付き人の侍はここぞとばかりにオラクルを持ち上げる。

 

「ハハハ!冗談を言うな。余は金を出資しただけに過ぎん。それより今宵の宴会におけるスピーチ文は出来ているのか?」

 

「はっ。ぬかりなく」

 

「よし。後で幕内で練習しておこう!む?あそこにいるのは後続部隊か?ついに全軍が無事ここに到着できたようだな!」

 

ロード・オラクルは到着したばかりの後続部隊を見つけると何気なく隊に近づいていった。

 

「あ、待て待て、そこの若いの!廃墟のドアは開けてはならぬとギシュバが言っていたぞ!」

 

ロード・オラクルが指摘したのはルイであった。ハーモトーから一時、自由に待機しているよう命令が出たため、休むための廃住宅を探していたのである。

 

「ええ?折角廃墟の家があるのに使わないんですか?」

 

「うむ!何でも中にまだカニが潜んでいるそうだ!そちらは閉じ込めて後回しにしておいて今は急ピッチで外壁の建造を行う必要があるからな!」

 

「ええー、じゃあまた野ざらしってことかぁ」

 

「ん?君たちは女性か!よかったら今夜は余のテントに来るが良い!」

 

ロード・オラクルはピカーンと白い歯を輝かせながらニヒルな笑顔を向けるがルイたちは引き気味だ。

そしてオラクルが知らない人間と話しているのを見て側近らしき侍が駆け寄ってくる。

 

「オラクル様。そんな素性の知れない者を幕内に入れるわけにはいきませんぞ」

 

「じいは相変わらず頭が固いなぁ。だからずっと独り身なのだよ」

 

「せ、拙者のことはどうでもいいのです!平民を簡単に入れては威厳に関わると言っているのです」

 

「分かった分かった。それよりそこの廃墟には猛獣がでるため解放厳禁とでも貼り紙をしておきなさい!」

 

「承知しました」

 

「よし!万事解決!次に行こう!」

 

一向はロード・オラクルの高らかな笑いと共にその場を去っていった。

それを見送ったルイとトゥーラは休憩しながら軽く雑談をしている。

 

「あれがこの遠征のスポンサー貴族か。からみが暑苦しかったけど悪い奴じゃなさそうだったな」

 

「そうね。貴族というだけで平民を蔑んで口も聞かない人たちもいるぐらいなのに割りとフランクに話しかけてきたわね」

 

「しかし、すげーな。もう外壁がほとんど出来てて砦みたくなってきたじゃん」

 

「先行部隊や移民が大分頑張ってくれたようね。それを労うために今夜、貴重なお酒を皆に振る舞ってくれるらしいわ」

 

「ロード・オラクルは気前もいいんだな。俺たち飲めないけど飯は一杯食わせてもらおーぜ!」

 

「もう。私達このまま荷物運びのまま平和に終わっちゃうかもしれないわね…」

 

日が暮れ、皆が必死に構築したであろう急ごしらえの外壁は等間隔につけられた松明の明かりによって幻想的に輝き始める。

 

第一拠点の完成祝いとして無料でお酒が振る舞われるということもあり移民や兵士、従者たちはソワソワし始める。

それだけ資源が枯渇しつつあるこの世界においてお酒は貴重な嗜好品となっていたのだ。

今や警備担当の兵士以外は港町の中央に集まり宴の開始を待っていた。

いくつもの酒樽が用意され人々のボルテージも自然と高まっていく中、ロード・オラクルが全員を見渡せる小高い丘に登った。

 

「諸君!私はこのハウラーメイズ遠征計画出資者のオラクルである。この計画に賛同し強力してくれている諸君のお陰でこの遠征は順調に第一段階を終えようとしている。引き続きハウラーメイズを攻略するまでは気を抜かず最後まで尽力して頂きたいところだが、この遠征計画は長期間の長旅だ。今日だけはこの港町の拠点化に成功したことを祝って軽く祝杯をあげても良いと思いここに酒樽とたくさんの食事を用意した。今宵は朝まで酔いつぶれるがよいぞ!乾杯!」

 

オラクルのかけ声で遠征隊員は歓声をあげながら酒や食事にがっつきはじめた。

ルイも負けじとそれに加わって様々な料理を手当たり次第に食している。

トゥーラとナパーロはその勢いに押され隅っこでチビチビと食事をしていた。

すると、そこにハーモトーが通りかかり声をかけてきた。

 

「おう!食べてるかい?あんた達は未成年だからまだ酒が飲めないからねぇ、そのかわり料理を一杯食べときな!…ってルイはもうやってんな」

 

呆れるハーモトーにトゥーラが尋ねる。

 

「ハーモトーさんは飲まないんですか?」

 

「ん?私かい?これからアウロラ達と思う存分飲むつもりだよ!」

 

「副隊長のアウロラさんですね。ということはギシュバさん達と一緒にですか?」

 

「ああ。男は飲んだら変なことしかしないからいらないんだけどね!そうだ!あんた達も来るかい?あんたなんか一度ギシュバに会ってみたいんだろ?目を輝かせてたの知ってるよ!」

 

トゥーラは予想もしなかったまさかのハーモトーの提案に頭が真っ白になった。まさかこんな形でギシュバと会えるなんて想定していなかったのである。

 

「え?え?いいんですか!?私達名も無きテックハンターなんですよ?」

 

「はははは!会話するのに位が必要かい?ほれ、ルイもいくよ!」

 

「え?な、なんすか?」

 

念のためナパーロにはここで待っていてもらい、トゥーラとルイでお邪魔することになった。

そしてルイは何事か状況も理解出来ずに口に食べ物を突っ込んだまま腕を引っ張られていくのであった。

 

連れていかれた先はギシュバチーム専用の軍事用テントであった。

先が尖っているのは通常テントと変わりないが何より違うのは円柱型に大きく広がっており人が30人は入れるのではないかと思わせるほど巨大なところであった。

また周りは縄で固定されちょっとやそっとの嵐ではびくともせずまるで簡易的な家とも言えた。

 

そして入り口には警備兵の侍が2人たっているのである。

 

「で、でけぇ…。やはり偉い人は寝袋では寝ないんだな」

 

「考えてみればギシュバさんは都市連合専属ハンターとなってその財をなしたのよね…金持ちですごい苦手のタイプの予感…」

 

「確かに…嫌みな奴かもしれないしな。居心地悪くなったらすぐに帰れるようにしようぜ」

 

ハーモトーの後ろを歩きながら2人はこそこそと会話した。

そしてジロリと警備兵に睨まれつつも勇気を振り絞りハーモトーに続いて天幕の中に入っていった。

 

そこに待ち受けていたのは眼帯をつけた小柄な剣士、ギシュバチーム副隊長アウロラであった。

金髪の髪から覗く鋭い一つの目がルイ達を捕捉すると、読んでいたであろう本を置いて間髪いれずにハーモトーに問いただす。

 

「ハーモトー。その者たちは誰だ?なぜここに連れてきている?」

 

すました声で短く簡潔に放たれるその質問は、敵視すら無いものの始めて見る部外者に対する警戒と疑念が入り交じり、圧倒的な威圧感と相まってルイ達を存分に萎縮させた。

事前情報通り初対面でも相当怖い人だと理解できた。

 

ゴゴゴゴゴゴ…

 

(な…なんでこの人はこんな小さな体でここまで圧を出せるの?なんか効果音すら聞こえてきそうなくらい滅茶苦茶恐いじゃないの…!)

 

「そんなに威圧すると怖がってしまうよアウロラ。この子達は私の後続部隊に所属している志願兵さ。尊敬するテックハンターたちと一度お会いしたいって言うんで連れてきたのさ」

 

アウロラはジロリとルイ達を見るとツカツカと近づいてきて喋りかける。

 

「非力な女は使い物にならん。荷物持ちの仕事はこなせているのか?」

 

「は、はい。原鉄堀してたら鍛えられたみたいで一応は…」

 

トゥーラの回答にアウロラはさらに目を細くして問いかける。

 

「一応とは何だ?こなせているならそう答えれば良いだろう」

 

「は、はい…こなせてます!」

 

トゥーラは会話だけで完全に気負わされていたが理由は察しがついていた。

 

(目だわ…!この人、小柄だけど異様に眼力が強いのよ…!)

 

喋るときに眼帯の片側にある大きな瞳がこちらを真っ直ぐに見据えつつ、言葉の抑揚に合わせて細まったり見開いたりすることで会話の内容にインパクトが加わっているのだ。

アウロラと話していると何かこちらが喋らなくても心の中が読まれている気持ちになるのだ。

 

「ふむ。ハーモトー、この子達は大丈夫なのか?」

 

「ああ!私が保証するよ!」

 

「…では宴会だけ参加を許そう。ちょうどギシュバ達もロード・オラクルとの挨拶を終えて戻ってくる頃だろう。そちらのテーブルで支度を手伝ってくれ」

 

この時トゥーラはギシュバに会える嬉しさで一杯であったが、ルイはというと副隊長のアウロラに関心していた。

決して立場が低いわけでもないのに気取らずに兵士や従者ではなく自分で宴会の支度をすると言っていたアウロラに親近感を覚えていたのだ。

そして宴会の用意をしているうちに天幕の外がガヤガヤと騒がしくなる。どうやらギシュバ一向が戻ってきたようだ。

ルイ達はゴクリと唾を飲んでギシュバ達の入場を待った。

 

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