Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
「がっはっはっは!」
大きな笑い声で一番に天幕に入ってきたのは他を凌駕するほど巨躯の持ち主であった。
恐らくこれまで会ったどの剣士よりも大柄でガルベスの背丈をも上回っていた。
「おう!アウロラ!ロード・オラクルは意外と酒もいける奴で気に入ったぞ!」
開口一番に副隊長アウロラにタメ口をはれるということはハーモトーと同じか年上の位置。
紛れもなくギシュバチームの8人衆の一人なのだろう。直感的にギシュバではないと思った。
ルイ達の中ではギシュバは利己的で計算高い人間だったので知的な容姿を想像していたのだ。
(下品な笑いとどことなく田舎臭い容姿…この人は恐らく8人衆で怪力担当のポジションだろう)
その後にゾロゾロと人が続いて入ってくるが、やはり皆、一人一人が強者のオーラを放っている。面接官だった見覚えのある男2人もいた。
「全員揃ったな?向こうのテーブルに酒と食事を用意してある。用意してくれたのはこいつらだ。」
アウロラがルイ達を指差す。
「あぁ?お前ら後続部隊に志願したガキたちかぁ?なんでここにいる?」
反応したのはトゥーラを面接した時にダメ出しをしてきたワイアットという男だ。
「私が連れてきたんだよ。尊敬する十傑のギシュバ様を一目見てみたいってんでね」
「ハーモトーの婆ぁ!またあんたか!この遠征は社会科見学のツアーじゃないんだぞ?お守りなら後続部隊でやれよ!」
ハーモトーとワイアットは仲が悪いのだろうか。また喧嘩が始まる気配を見せている。しかし、それにこたえたのは副隊長アウロラであった。
「ワイアット、少し黙っていろ」
「は、はい」
アウロラに一括されワイアットは従順にも黙りこむ。面接官の時の威勢はどこにもなくなっていた。
「副隊長の私が宴会だけ同席を許可した。一流のテックハンターと交流することは若手にとって刺激になるし、我々も後輩には育ってもらいたいだろう?」
「し、しかしクジョウのとこに選抜組のテックハンターがいるじゃないですか。それにそいつら志願兵です。紛れこんだスパイでは…」
「ワイアット。黙れと言っただろう」
ピンと空気が張りつき誰もが喋らなくなった。
「まったくお前はペラペラと余計なことまで喋りおって。こいつらは白だ。私が保証しよう。スパイなら我々を調べてから遠征に参加して来るはずだが、こいつらはギシュバが誰かすら知らないんだぞ。試しに当てさせてみようか?」
ニヤリと笑って発せられたこのアウロラの言葉に部屋の中は再度活気づく。
「おもしれぇ!それはいいっすね!」
ワイアットも叱られたことを忘れてノリノリだ。
「お前たち。ルイとトゥーラと言ったな?いまこの部屋にはギシュバと8人衆が揃っている。その中からギシュバだと思う人を当ててみろ。大物の気配が漏れ出ているはずだ。もし当たったら明日からもしばらく同行する許可をあたえよう。私が鍛えてやる」
すました声で突拍子もないことを言い放つアウロラに対して、さすがに同行はまずいと思ったのかその場にいる全員が驚愕している。
「本当にスパイだったらどうするんですか!」
8人衆はほとんどが反対のようだ。ルイたちも嬉しさの反面、戸惑いを隠せないでいる。
本当にギシュバチームの副隊長に同行し鍛えてもらうことが出来たとしたらこの先様々な経験が出来るし、お宝も先に見つけられるかもしれない。
しかし本気なのか冗談でからかっているだけなのか読めないのだ。
ただ、これは滅多にないチャンスであることは間違いないため、ルイたちの表情も本気だ。
「えっと…トゥーラわかるか?」
しかしルイのほうはまったく見当がつかずお手上げのようでトゥーラに期待をかけている。
「いいえ…でも消去法で推測ができるわ」
トゥーラは集中して考えた。
いまここに私達以外に9人いるからギシュバと8人衆であることは間違いないだろう。
そのうち後続部隊のハーモトー、副隊長アウロラ、面接官ワイアットとモーリスは既に知っている。
あと5人だが、最初に入ってきた大男はやはり怪力担当のポジションだから外してよいと思っている。だから残る4人を慎重に見定める。
(確率は25%だ。これで当たれば一流テックハンターたちの行動を間近で見れるなんて…焦らずいくわよ…)
ギシュバは世渡りに長けており、ある程度年を重ねた男であることは経歴上間違いない。4人の中には女が一人いたが名前的にこれも省ける。
残る3人の特徴は一人は50代で蓄えられた白い特徴的な口髭、二人目は狡猾そうな兄貴肌、三人目はボウガンを背負った男だ。
ボウガンの男は髪がボサボサで清潔感がなく貴族と渡り合うのは苦手だろう。
(残る2人…ここがわからない…。どちらもギシュバっぽいのよね…)
あまりのトゥーラの長考にワイアットが苛立ち声をあげる。
「おいおい、まだかぁ?あたりはどこまでついてんだよ」
「ふ、ふたりまで絞ったわ」
「ほう。誰と誰だ?回答としてカウントしないから言ってみ?」
トゥーラは正直に該当の2人を指差した。その行為により反応を探るためだ。
しかし、初めからニヤついている者はいるものの予想に反して誰も大きな動きをしなかった。
「ではとっとと指名しろ。時間の無駄だ」
このやり取りを始めたアウロラでさえ理不尽なことを言い始める始末だ。
すると突然ルイが狡猾そうな兄貴肌の男を指差して突拍子もないことを言う。
「トゥーラ、たぶんこっちはクジョウって人だぞ」
「……!」
ルイの発言にその場が静まる。
「な、なんで知ってるの?」
「いや、さっきチラッとクジョウって名前が会話の中で出たときこの人が一瞬反応してたんだ」
確かにクジョウという名前は出ていた。その時の反応をルイが見れたのは偶然だと思うが何という運だろう。
二択のうち片方が判明したのだ。残された50代白ひげの男。この人がギシュバだ。
トゥーラは興奮を隠せずに声が上ずりながら叫ぶ。
「こ、この方です。この方がギシュバさんだと思います!」
この消去法による選択は根拠があるぶん自信があった。8人衆はアウロラの反応を伺っている。
すると片方しかない彼女の鋭い瞳の目尻が下がり三日月じょうになると嬉しそうに喋りだす。
「ほら、スパイじゃないだろ?もしギシュバを知っているスパイだったなら私達に接近するため当てに来ていたはずだが見事に全力で外してくれた」
「やっぱ大抵の奴はクジョウかローガンを指しますね」
アウロラの冷酷な面と無邪気な笑顔のギャップに面食らいながらも8人衆のやり取りを聞いて正解を外してしまったことが把握できた。
チャンスを逃した。愕然とするトゥーラにアウロラが話しかける。
「気を落とすな。洞察力のセンスは良かったぞ。だが、情報の内容に惑わされず、多角的に真偽を見定められるようにすることだな。世の中には意図して嘘の情報が出回っていることも多々ある」
「は、はい…」
「では、本物のギシュバから紹介を頂くとしよう。お願いします」
そう言うとアウロラは一歩後ろに下がった。
「がっはっはっは!このパターンって人生で何回目だ?わしってそんなに大物オーラでてないの?」
声の主は最初に天幕に入ってきた大男であった。ズンズンと足音をたて前に歩みでるとこれまた大きな声で自己紹介始めた。
「わしがギシュバだ!嬢ちゃん達よろしくな!」
「ええマジっすか!?」
ルイの大きな声がテント内に響き渡る。
完全に予想外だった。まさかこんな貴族とは無縁そうで田舎者のようなこの男が称号持ちで都市連合専属ハンターをやっていようとは。
「ははは。お前たち目が点になってるぞ。クジョウのように狡猾で打算的な男を想像してたのだろう?」
「ちょっと姉御、それ悪口」
先ほどルイが言い当てた男が反応した。やはりこの狡猾そうな男がクジョウという名前なのだろう。
「経歴や噂でギシュバのイメージが固まっていたようだが、国のお抱えハンターとしてギシュバが称号を貰ったりいまのその地位にいるのは私が資金調達のために勝手にやったまでのこと。実際のギシュバはテックハンターとして失われし古代技術を人類のために純粋に探し求める最強の剣士だ。」
アウロラの自白に対してギシュバがフォローする。
「まぁ最初は貴族の対応がめんどくさかったが今は慣れてきたしお前の尽力には感謝してるぞ」
「代表に仕立てあげ息苦しくさせてすまないな」
「ようし!では前座はここまでにして早く飲もう!腹がペコペコなんだ!嬢ちゃんたちの宴会への参加もわしが許可しよう!」
こうしてギシュバ一向との宴会が始まった。前座のこともありルイ達にとっては終始いじられながらの飲み会となったがギシュバ達の人柄に直に触れることができた。
これまで都市連合の専属ハンターに対する誤解と偏見があったが、ギシュバのように志を持って活動しているハンターも少なからずいることがわかったのだ。
ギシュバ達はスポンサー契約をして活動資金を集め、持ち帰った宝や技術で貴族への見返り金を払うだけでなく貧民層の救済活動を別途行っていた。
そしてギシュバは街中で聞いていた性格とは正反対であり、稼いだお金をテックハンター養成所や農地再生事業に費やすような漢であった。噂や情報はその経歴からのイメージが先行して歪んでいたのだ。
そして副隊長アウロラだ。この女性に出会えたことは2人にとって最大の収穫だったと言える。
ルイ達とかわらない体格にも関わらずその知恵と高い志で一流テックハンター集団をまとめあげているその様はルイにとってまさに目指すべく理想像だったのだのである。
期せずしてギシュバ一向の宴会に参加した2人はここでぼんやりとしていた目標を明確にできたのだ。