Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
「おお、リセットが終わったか。スケルトンさん、名前はデフォルトかな?」
スケルトン盗賊の一人が問いかけると「ジジジ・・」という読み込み音と共にサッドニールが反応する。
「基本設定をバックアップから読み込みます。私の名前はサッドニールと言います。よろしくお願い致します」
「うむ。これから宜しく頼むぞ同志よ」
悠長にスケルトン盗賊と挨拶を交わすサッドニールを見てルイの表情は絶望に変わっていく。
「呑気に会話なんてしてんじゃねーよ!早くここからずらかるぞ!」
ルイの呼び掛けを無視してサッドニールは会話を続ける。
「私のマスターはそこに倒れている方ですね。生命反応がない」
「そうだ!サッドニール!そこにいる人間にお前のマスターが殺されてしまったんだ。人間を始末しよう」
指を指されているルイをサッドニールは一瞥した。
「なんという恐ろしいことを・・・。しかし私はソルジャー型ではありません。あなた方は警察ですか?捕まえてください。または私をソルジャー型にアップデートしてください」
「む、お前は労働型か。仕方ない、あとで長老にアップデートしてもらおう。我々でこの人間を始末するぞ」
スケルトン盗賊達はルイのほうに向き直ると一斉にサーベルを構える。
しかし、対するルイは・・・もう武器を構えるほどの戦意はなくなっていた。
「ニール・・・冗談だよな?忘れてないよな?俺は覚えてるよ・・初めてカニを一緒に捕らえたことも、風邪を引いた時に看病してくれたことも・・・」
問いかけられたサッドニールは無慈悲に回答する。
「申し訳ありませんがあなたと行動を共にした記録はありません。」
ルイは膝をつき、瞳からポロポロと涙をこぼす。
「そうか・・・ごめんな。あんたは最初から行きたくなかったのに俺が安易に旅に出たいなんて言うからこんなことになってしまって・・・。俺はいつもあんたの教えを真面目に聞かないで外の世界はこんなにも危険だと言うことも聞き流していたんだろうね。本当にバカだったよ・・・。」
やり取りを見ていたスケルトン盗賊が割ってはいる。
「人間よ。この世から排除されるべき生物だと自覚したようだな。抵抗はするな。せめて痛覚を感じないように処分してやろう」
ジリジリと間を詰めるスケルトン盗賊。
それを後ろで傍観していたサッドニールであったが1つ口を挟む。
「この世における殺人は即、死刑の対象なのでしょうか?」
「新入りよ。殺人ではない。スケルトンの破壊罪だ」
「なるほど、そうですか。ではそこにいる人間に問いたい」
ルイはぐすっと鼻をススリながらサッドニールを見上げる。
「人間社会にはおこなった罪を法律に基づいて刑務所等で償うフローがあります。まず、君は今回のスケルトン破壊罪や言うことを聞かないで好き放題やっていた罪を懺悔する気持ちはありますか?」
サッドニールが勝手に裁き始めたことに対してスケルトン盗賊がまたも割ってはいる。
「待て待て!今スケルトンの世の中に人間の法律などない!あるのは理由を問わず人間を抹殺することだけだ」
「了解しました」
対してサッドニールはいつものように食い下がることなく受け入れてしまう。
「リセット後のスケルトンは旧世界基準のデフォルト設定なのか!まったく面倒なことだ。」
気を取り直したようにスケルトン盗賊がルイのほうを向き武器を振り上げる。
その瞬間がルイにはスローモーションのように遅く感じた。
スケルトン盗賊の顔まで覆ったヘルムの間から見える人間の目がこちらを凝視していることさえ分かる。
最早、こいつらがスケルトンを装い続けている理由などどうでも良かった。
残酷だと知ったこの世界が早く終わってほしい。
サーベルの刃先が自分の首に到達するまでの時間が長くさえ感じていた。
ガシッ
切られるであろう瞬間はさすがに恐怖で目を閉じていた。
自分の首が切られた感覚はなかったが、痛みも感じず案外あっけないものだと思った。
もう死後の世界があるならば到着したのだろうか。それにしても意識がこんなにもはっきりしている。死とはこんなものなのか。
ルイは恐る恐る目をあけると、目の前にはサッドニールが立っていた。
傍らにはスケルトン盗賊が2体追加で転がっている。
「え・・・」
ルイは状況が理解出来ず固まった。
「引き続き人間を抹殺します」
残る2人のスケルトン盗賊はギョッとして固まっている。
我にかえる暇を与えずサッドニールは片方の盗賊に鉄の棒による殴打を繰り出す。
さすがに盗賊も武器を使って応じるが防戦一方だ。
サッドニールの棒術による連撃は流麗で反撃ができないほどいとまがなかった。
殴打が防がれるとクルリと棒を回して反対側の端に遠心力をのせて次の攻撃をする。
盗賊は2、3度防いだがついに4撃目を足にくらいバランスを崩すと5撃目を頭部にもらい絶命した。
闘気さながらプシューとサッドニールの骨格や鉄の筋肉から蒸気がほとばしる。
ルイはこんなサッドニールを見るのは初めてであった。
「う、あ…」
最後の一人になった盗賊は転がる仲間から血がにじみ広がっているのを見てろくに声も出せずにその場を逃走した。
その場にはルイとサッドニールだけが残された。
そして棒を構えたサッドニールがルイを見やる。
「あなたには法律が適用されます。これまでの行為を反省し、罪の償いをしますか?」
別人格となったサッドニールを前にしてもルイは救われた気持ちになった。
これまで自分と一緒に過ごしてきたニールはもういないけれど、新しいサッドニールはスケルトン盗賊の仲間にならず独自の考えを持って真っ当に活動を開始している。
それだけでもよかった。
「はい…。心に刻み反省して生きていきます」
「他人が親切に教えようとしたことは素直に聞く心を持ちますか?」
「はい。そうします…」
「今後、油さしなど私の定期メンテナンスをやってくれますか?」
「はい、やります…ん?そんなこともやるんですか?」
「録音しました」
「………」
「ルイよ。どうだい?迫真の演技だったろう?」
ギギギギギ
無表情ながらサッドニールの頭は小刻みに揺れ笑っていることが分かる。
「もしかして…」
「そうだ。私のこれまでの記憶は残ったままだ。リセットしても記憶が消えないバグが私にはあるのだ。このせいで嫌な記憶が永遠に消去できないでいるがな。まぁ今回は役に立ったが」
ルイは力が抜けてへなへなと座り込んだ。
「そして運も良かった。私のマスターとして顔認証登録されたスケルトン盗賊をルイが最初に倒してくれたおかげでスムーズに壊滅できたよ。さすがにマスター登録された者には反抗できない仕組みになっているからね」
半分上の空で聞いていたが流暢に話すサッドニールのいつもの声に安心したのかルイもやっと事態が飲み込めた。
「よ、ようするに俺含めてニールは全員を騙していたんだな?」
「これぐらい狡猾にやらないとこの世界では生きていけないからね。覚えておくように」
「くそー・・・やられたー・・・」
いつもだと怒っていたかもしれないルイだが、今回は晴れやかな表情に目元にはうっすらと涙を残したままであった。
「さて、ここまでは上手くいったが次にどうするか決めないといけない」
「え、なんで?」
「一人逃げたので我々に追手がかかることが予想される」
「襲ってきてもニールが追い返せちゃうでしょ?あんなに強かったなんて知らなかったよ。」
「不意討ちが効いただけだし、あんな棒術は旅をしていれば自然に身に付く。強いうちには入らないよ」
「まじか・・・。世界は広いんだな」
ガッカリと肩を落とすルイをサッドニールが励ます。
「君は才能があるはずだから私の言うことをよく聞いて学んでいけば良いさ」
「む~・・・」
今日はもう何も言えない。というか今後、ニールに頭が上がらなくなるのか?とルイは思ったのであった。