Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
「あの、具体的な任務は何ですか?」
トゥーラは恐る恐るアウロラに質問した。
「これから都度指示する。トゥーラお前はハーモトーのもとで一緒に任務をこなせ。あの人はお前と同じく太刀を使う。ついでに剣術を教えてもらうといい。そうだ、たしか刀を折ったと聞いたぞ。この忍者刀を代用しろ。ワイアットの予備だから好きに使っていい」
アウロラはそう言って世界に名高い名工カタンスクラップマスター製の武器をトゥーラに手渡した。
この状況に追い付いていない2人はしどろもどろになる。
「え、どういうことですか?一緒に?」
「ようは一緒に同行する付き人になれということだ。ベテランを間近で見るのはお前達も望んでいたことだろう?現状の我々も人手が欲しい。利害が一致したと思え」
「ま、マジっすか!」
過剰な反応をするルイにアウロラの目付きは険しくなる。
「なんだ?嫌なのか?まぁこき使うがな。それとお前はサーベルを扱うようだから私がミッチリと鍛えてやる。血反吐を吐くぐらいにな」
ルイの表情はみるみると蒼白になっていく。
アウロラは理想像のテックハンターではあった。が、厳しさに加えて酒乱の気があったのだ。ルイは宴会の時に酔ったアウロラにあんなことこんなことをされたのを思い出していた。
「あ、トゥーラ、思い出した。俺、ハーモトーさんに刀の扱いも教えてもらいたかったんだ」
これにトゥーラもギョッとして反応する。
「と、取り敢えずルイはメインのサーベルからでしょ?私も折角忍者刀を借りれたんだしまずはハーモトーさんについてみるわよ。ギシュバ隊の副隊長のもとでなんて滅多にできない経験よ?」
「じゃあトゥーラが…」
「何をゴチャゴチャやっている!トゥーラは早くハーモトーのところへ行け!既に話はついている。ルイ!お前はこっちだ」
悲壮感漂うルイにトゥーラは「酔ってなきゃ大丈夫よ…」と励ましの言葉を送った。
ルイは去り行くトゥーラの後ろ姿を恨めしそうに見送った。
「なぜ死にそうな顔をしてるんだ。何もお前のような初心者に危険な任務を与えたりはしない。
今朝の騒動については大事に至らず落ち着きつつあるしな。お前は門にいって再度何か痕跡が残っていないか探してきてくれ」
「どういうことです?門を再度調べる意味があるのですか?もう調べ尽くされているのでは…」
「行方不明である容疑者の門兵だが外の世界で一人で生きていけるはずがないし、外からカニを港町に誘導し、廃墟の扉を開けてまわったと思われる者を暗闇で数人の歩哨が目撃している。となるとスパイが港町を出れるタイミングがないのだ」
「まさか門兵がまだ中にいるということですか?」
「…いや、中はくまなく探した現状それは考えにくい。可能性があるとすれば門兵の他に別のスパイがいるということ。そしてそいつは門兵に罪を着せて自分は潜伏しようとしていることだ」
「まさかそんな奴が…!」
「あくまで可能性の話だ。だからお前は門兵の足取りが何か掴めないか探してくれ。まぁ手がかりを残してくれているとは思えんがな」
この言葉をもとにルイは門の付近を調べることになった。港町はまだ少し騒然としていたが、時がたつと落ち着きを取り戻し、門は人の出入りも増えてきた。通りすぎる人たちは怪訝そうにルイを見ながらその場を通っていく。
しばらく門付近を探し回ったが結局何も手がかりになるようなものは見つけることが出来ずルイはいったんアウロラの元に戻ることにした。
しかしアウロラは戦果をあまり期待していなかったようで、気にせず次の任務を言い渡してきたのだ。なお、ルイが戻る頃にはナパーロ含めて今後の任務が決まっていたようで結局ナパーロは後続部隊として当分港町にて積み荷の整理や区画整理などの仕事に携わることになった。そのため3人はそれぞれ別の仕事を当分行うことになった。
そしてルイの次の任務はというと…
「伝令…ですか?」
「そうだ。この地図を見ろ」
言われるがままにルイは机上に広げられた地図を覗きこむ。そこにはハウラーメイズ遠征における現状の部隊配置や調査状況が記載されているようであった。
「うお、これ後続部隊の俺が見ちゃっていいんすか?」
「確かに志願組の後続部隊メンバーは疑いの対象にはなるが、お前たちは人を騙せるような性格じゃないだろう。それにこの情報をスパイが知ったところでどうすることも出来まい」
「う…そうですか」
「続けるぞ。いま私達テックハンターはこの第一拠点を中心として付近にある増えすぎたカニの巣を減らしているところだ。お前は巣の情報を斥候班から聞いたら討伐班にその情報を伝える役目だ。斥候と討伐の班は複数あり、せわしなく情報が来ている最中で手が回ってないのだ」
「わかりました」
「では早速だが最初の伝令だ。ここのポイントにいま討伐班がいるのだが、近くに新たな巣を発見したので討伐に向かうよういってきてくれ。討伐班の班長は8人衆のクジョウだ。覚えているだろ?」
シンプルな任務ではあるが、思えば未開の地にてルイ一人の単独任務は初だ。港町を出る前に心細くなっていたルイはトゥーラとナパーロに挨拶していこうとしたが、2人ともハーモトーの付き添いで留守だったためやむなく出発した。
地図を頼りに指示された場所に歩き始めるが地形が複雑で見通しが悪い上に見慣れぬ土地だ。数歩あるいてから港町に戻ってこれるのか不安になる。
振り返りと既に港町は見えない。言い知れぬ不安に襲われつつもルイは先へ進んだ。
するといくつかのカニの死体と遠くに数名の剣士が立っているのを発見する。
恐らくあれが討伐班なのだろう。積み重なったカニの死体がこの剣士達の強さを物語っている。広い荒野の中に人がいることだけで安心したのかルイは全速力で駆け寄る。
「おーい、あんた達の中にクジョウって人いるか……って、ああーーーー!!?」
「お前は…!」
ルイは話しかけて絶句する。
佇んでいた男達は酒場で絡んできた自称選抜組のテックハンター達だったのだ。
「んー?誰かと思えば俺たちの宴会に混ざってた嬢ちゃんたちか。なんでここにいるんだ?」
飄々と問いかけてきたのはやはり見た目が狡猾そうに見える8人衆のクジョウだ。
恐らくこのクジョウという男が選抜組テックハンター達を牽引してカニの討伐を行っているのであろう。
「いや、俺はアウロラに頼まれて次の討伐ポイントを伝えに来たんだ」
「副隊長にだと?お前のような奴にそんな任務を任せるはずがないだろう」
酒場で絡んできた青年が悪態をつくが、ルイは証明するように伝令書をクジョウに手渡した。
「ほほー。伝令は本当のようだ。姉御が会ったばかりの奴を使うなんて珍しいな。お前気に入られたな」
ルイはその言葉に嬉しいのか不安なのか複雑な心境になった。
「馬鹿な!俺たち選抜組と同じ8人衆直下扱いだと?しかも副隊長が直々に弟子にするとは…!」
「キアロッシ君。弟子だなんて大袈裟だぞ。姉御はたまに気まぐれで動くこともある。君達がテックハンターの未来を担う選抜組であることにはかわりないので君達のペースで成長してくれればいいのさ。さてルイ君。君はまた港町に戻るだろ?伝令は承知したと姉御に伝えておいてくれ」
このキアロッシと呼ばれる青年テックハンターとルイをこれ以上一緒にしておくのはよくないと思ったのかクジョウは早々とルイを帰らせた。
ルイはキアロッシにガンを飛ばすともと来た道を全速力でかけ戻りアウロラに報告した。
「よし、クジョウには伝えられたか。夕飯を食べたら次の任務だ」
「え?ここで夕飯ですか?後続部隊に帰って食べるんじゃ…?」
「いまトゥーラはハーモトーと別の遠い場所に行っている。わざわざ一緒に食べる必要もなかろう。ほら、時間がないんだ。早く食べてしまうぞ」
見るとテーブルの上に2人分の食事が置いてありアウロラが食事を始めている。
「アウロラさんと一緒ですか…お酒飲まないですよね…?」
「貴様、酒が毎日飲めるはずないだろう!しかもお前は未成年だろうが!」
「は、はい!」
渋々対面で食事を始めるルイは何気なくアウロラに質問をする。
「あ、あの。何で俺達を使ってるんですか?伝令は侍新兵にも出きるのでは?」
この質問にアウロラは食べていたパンを置き口を拭くと神妙な面持ちでルイに質問を投げ返す。
「お前はテックハンターの殉職率を知っているか?」
「いえ…。知りません」
「43%だ。半数近いハンターが引退を前に命を落としている」
「そ、そんなに亡くなっているんですか!」
「ただでさえ活動人数が少ないのに昨今はさらに年々質のよいハンターの総数も減少している。だからお前たちのような若手に死なれては困るのさ」
「え、それって俺たちが…」
「もう無駄口はいいから早く食え。食べないのであればそれは私が貰うぞ!」
「はい!あ、いえ俺が食べます!」
アウロラは夜も仕事で忙しかった。カニの生態系を崩さないよう慎重に今後の巣を減らす計画をたてたり、それに合わせた都市連合兵の配置計画をロード・オラクルに提案しにいったり、移民が速やかに漁業や農業などの仕事に移れるよう港町の区画整理を行ったり、日中帯はカニの除去を始めとして遠征の進捗確認、食糧の確保状況や防壁の強化状況の確認とまさに馬車馬のごとき働きぶりであった。
ルイはその間ついてくるよう言われていたが自分がなぜアウロラの下につけられたのか分からなくなるほどあまり役に立てることがなく、ただただアウロラの仕事ぶりを見させられていた。
「あの、ハーモトーさんもアウロラさんと同じような仕事してるんですか?」
ルイはふと何気なくアウロラに質問した。トゥーラが何をしているのか気になったからだ。この3日間ほどトゥーラとナパーロにも会えていないのだ。
「いや、ハーモトー達の後続部隊は移民の活動をフォローする実務を担当している」
この回答はルイにとって意外であった。いま現在アウロラがやっているような遠征全体を管理するような業務は確かに自分も興味はあったのだが実際に目の当たりにすると貴族や移民との調整や折衝、それを受けた検討、検証など、何も答えがないところからどうするべきかを自ら考える必要があり、ルイが最も苦手とする内容であったからだ。
(どう考えてもアウロラの仕事はトゥーラのほうが適任だろ。扱う武器種で決めたんだろうけど俺とトゥーラを交換したほうがいいじゃないかなぁ)
「お前も実務をやりたいのか?」
表情からルイの心情を悟られてしまったのかアウロラが鋭い口調で尋問する。
「あ、いや、はい…。何も考えずに体を動かすのが好きなんで…」
「お前が管理業務が苦手そうなのは分かっていた。だから敢えてこの業務をやってもらっているのだ」
「ええ?」
「若いうちから得意なことだけ選んでやっていても対して成長はしない。まぁ1つの事を追求して極めるのは将来的には大事な事だが、今後大きな事をやっていきたいと考えているのならば今はあらゆる事を経験しておくことだ。その多くの経験が今後のお前の活動を助ける糧となるはずだ」
この時ルイは具体的な目標はなかったがこの言葉に感嘆した。思ったよりアウロラは何事も深く考えて決めている。ここ数日出会っただけの相手の今後の人生を考えて、いまルイに何が必要か、足りていないのかまでも検討している。恐らくアウロラの仕事は論理的な思考ができるトゥーラに手伝わせたほうが効率的に進められた筈なのにも関わらず、長期的な視野で仕事を考えてくれていたのだ。
見ている世界が違う。
ルイは剣の強さとは違うトップクラスのテックハンターの姿を垣間見た。
「まぁ管理ばかりじゃ退屈なのは気持ちはわかるぞ。これから私達もカニの巣の排除に向かう。ついてこい」
ルイが感心していると、急にとんでもないことを言ってアウロラはニヤリと不敵に笑った。