Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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31.ハウラーメイズ(無想剣舞)

「え?カニと戦うのですか?」

 

急なアウロラの宣言にルイの背中はピンと張りつめる。

 

「そうだ。思ったより巣が多く報告されていてな。除去に手が回っておらず計画に遅れがでているのだ」

 

「計画に遅れが出ていても慎重に進めるべきではないのですか?何もアウロラさんが危険な場所にいく必要はないのでは…」

 

ルイが否定的な回答をした理由はカニと戦うことに恐怖したわけではなかった。

ここまで来るとルイでさえこの遠征計画が誰によって立案され実行までもってこれたのか、つまりキーマンが誰なのか理解できていたのだ。ギシュバのカリスマやオラクルの財力もそうだが、これらを上手くコントロールし、この計画事態を牽引しているのは恐らくアウロラだ。この人を失うとこの計画自体も破綻する。そんな気さえ起こさせるほどこの人の手腕は群を抜いていたのだ。

 

「ほう、お前もやっとお前なりに考えるようになったな。しかし本質を見抜くことはまだまだのようだ」

 

アウロラの言葉通り、これまでのルイは遠征計画に関する自分の意見などまったく考えてもいないし興味がなかった。しかしここ数日、遠征に関して様々な側面を見させられ、自然と色々な視野で考えられるようになっていた。

 

「様々な要素を見て何が重要か見極めろ。私の業務はモーリスやローガンが引き継げる。それよりこの遠征に不可欠なリソースが他にもある。それは資金だ。調達した食糧。都市連合兵。不足を補うために雇ったテックハンターや傭兵。それらを用意するために多額の資金をロード・オラクルが用意してくれているが永久に出せる金額ではない。そのため計画した期間を遵守することが必達事項なのだ」

 

この言葉は大きな部隊を動かす上では正論なのだろうがこの時ルイはまだ素直に受け止めることが出来ずにいた。しかし、既にアウロラから軍隊式教育を受けている最中だったこともあり思うところは心にしまうことにした。

 

「ハーモトーから聞いたがお前はある程度カニと闘り慣れてるんだって?」

 

カニの巣討伐に向かう道中でアウロラが問いかけてきた。

 

「はい。ピット地方に住んでたので」

 

「なぜここに来た?ピット地方にいてクラブレイダーと仲良くしていれば生活に困ることはなかっただろう」

 

「うーん…最初はただ生活に飽きて単純に外の世界を見てみたいって動機だけだったんですけど、奴隷の実態を見たりトゥーラからテックハンターがやっていることを聞いたりしているうちに漠然とですけど皆が食べ物に困らず幸せに生きていける世の中を作りたいなって…」

 

「ほう。夢物語のような話だが嫌いじゃない。私の理念と通じる物がある」

 

「アウロラさんはなんでテックハンターになったのですか?」

 

「話すと長くなるのでいつか教えてやる。それよりもうすぐ着くぞ」

 

ルイはこの言葉を聞いて一気に緊張する。なぜなら討伐に向かっているメンバーがアウロラとルイの二人だけだったからだ。てっきり誰か増援と合流するのかと思っていたが、先ほどの言葉といいルイもカニと戦うための戦力としてカウントされているのだろうか。

やれるとしても2メートル級までだし一度に何匹もなんて到底相手にできない。

 

そして現場に到着するとルイは絶望的なカニの数を確認する。

 

「大小あわせて約10匹てとこだな」

 

アウロラは平然と数を数えている。ルイの実力を過剰評価した上での余裕だとすると非常に危険だ。ルイはアウロラの次の行動を固唾を飲んで見守った。

 

「さて、私はデザートサーベルを好んで使うがお前のハンティングサーベルの剣術に通じる物があるはずだ。よく見て技術を盗め」

 

そう言うとアウロラは背負っている大きなサーベルをズシリと下ろし前に進み出た。

 

(よく見るってもしかしてアウロラさん一人でやろうとしているのか?3メートル級も一匹混じってるぞ!?)

 

そしてもう1つ気になることがある。

アウロラはルイと同じくらい小柄な体なのに重たい部類のサーベルをどう使いこなせるというのか。両手で持ち上げる仕草さえ、もっさりとしているのだ。

 

「非力な者が重たい武器を扱う場合は力の流れを途切れさせないことだ」

 

そう言うとアウロラは初動こそゆっくりであったが、以降はまるで舞を舞うかのように軽やかにステップを踏みデザートサーベルを遠心力を使ってクルクルと棒切れように振り回し始めた。

そしてそこから止まることなくカニに近づき目前にいる2メートル級のカニを真っ二つに一刀両断したのだ。

 

「…!」

 

ルイはこれまでカニと対峙したとき相手を殺す必要がなく、足やハサミを取るために切断しやすい関節を狙っていた。そもそも固い甲羅をサーベルで割れる気もしなかった。

だがアウロラはそれを容易くやってのけたのだ。

 

(舞うことで遠心力を維持し、斬擊の際に重力ものせることで全ての力を余すことなく叩き込んでいる…!)

 

ここからカニの群れの反撃が開始されるが、アウロラは舞を止めることなくハサミを避けつつその間に一匹一匹確実に仕留めていく。

アウロラの射程に入ったカニから削り取られていく様はまるで小さなハリケーンのようであった。気がつけば残る3メートル級のカニ一匹となっていた。

この時点でようやくアウロラは踊りを舞い終え片足たちでピタリと動きを止めた。

足下に散らばる赤い破片と相まってそれはまるで演舞の終わりにさえ見えた。

 

「ふぅ。久しぶりに動くと肩がこるな」

 

何事もなかったようにルイの元に戻ってきてそう告げたアウロラはかすり傷すらついておらずすまし顔だ。

 

(な…なにこの動き…。ギシュバ8人衆はバケモノ集団なのか?こんなの真似できるわけねー…)

 

絶句しているルイに対してアウロラは非情な言葉を言い放つ。

 

「あの3メートル級はお前がやってみろ。先日失敗したんだろ?リベンジするんだ」

 

「え?」

 

思わず固まった。よりによっていまだ勝てたことがない一番大きい奴を残してこの発言。実戦は貴重な成長機会と言えど、アウロラが鬼軍曹と呼ばれている所以を思い出した。

 

「剣舞を知っているか?攻撃しないときも動きを止めるな。先程のように力の流れを捉えればカニの関節ぐらいお前でも容易く切断できるはずだ」

 

天才が凡人に簡単なアドバイスをしたところで何かが変わるとは到底思えない。

絶望を感じながらルイは前に出る。

 

なぜこんな勝ち目のない戦いをアウロラはさせるのだろう。自分の命も含めて人の命を軽視しているのではないか。ここで自分が覚醒すれば儲け程度の感覚なのだろうか。

ルイの頭の中はアウロラに対する猜疑心が混じり戦闘前なのに上手く考えがまとまらないでいた。

 

「雑念は捨てろ!まずは言われた通り舞い続けてみろ。基礎的な運動量は鍛えてきたんだろ?」

 

心境を見透かすかのごとくアウロラが活を入れる。発破をかけられたルイはもはや腹をくくるだけだった。

 

(ハサミは体を吹き飛ばすほどの威力だ。直撃したら即死だろう。必ず避けなければいけない。避けるだけなら…見馴れているカニの動きだ。いけるかもしれない)

 

ジリジリと3メートル級のカニとの間合いを詰める。

 

「もっと動け!相手に照準を絞らせるな!」

 

横からの声が聞こえ、思い出したように先ほど見ていたアウロラの剣舞を見よう見まねでやってみる。

するとどういうことかカニが少し戸惑ったように見えた。魚介類の気持ちなどわかるはずがないのにそう直感できたのだ。

 

(少し誘ってみるか?)

 

自分の心も若干余裕が出来た気がしたこともあり、ルイはフェイントをいれてみた。すると、カニがピクリと動く。

 

来る…!

 

フェイントに釣られてカニが猛烈な瞬発力でハサミを振り下ろしてきたのである。

しかしルイはそれを体制も崩すことなくヒラリとかわすことが出来たのだ。

ハサミが直撃した地面はぽっかりと穴があいている。

 

ドッドッドッドッ

 

これを見て心臓の鼓動が急速に速くなるのを感じるが、自然と先ほどまでの恐怖は消えていた。

 

「そうだ!場をコントロールしろ!自分が避けられる間合いを維持しろ!」

 

言われていることが今は理解できる。1対1であれば体力が続く限り永遠と避けきれる気さえしてきた。しかし、それだと攻撃が出来ずジリ貧だ。だからこそカニの厚い甲皮を破るための斬擊を作り出す剣舞による力の流れを生み出す必要があるのか。非力な者が防御と攻撃の体制を同時に作り出すために編み出された戦法ということなのだろう。

 

保守的なサッドニールに話したら叱られるかもしれないが、この生死をかけた実戦における経験値は計り知れない物だと実感していた。このままもう少しカニと踊り続けたい。そんな表現がしっくり来るほどルイはカニの攻撃を避けることを無意識にしばらく楽しんでいた。

 

しかし、当然ハサミの攻撃が当たる確率が0%になったわけではない。ほんの些細なことから流れは変わるもの。この辺りはやはりウィンワンやサッドニールなどのベテランが生き残るための知恵として磨いてきた感覚だったのだろう。それがないルイは大きなミスをした。

ヒラヒラと舞っている際に道端の小石につまずいたのである。

 

「…っ!」

 

バランスを崩し、形になってきた流麗な舞も影を潜める。そしてそんな様子を散々振り回され小バカにされたカニが待ってくれるわけでもなく鋭いハサミがルイの体を捉えようとした。

 

しまった…調子にのり過ぎた

 

気づいても遅い一撃死の世界において後悔は意味がなく訪れるのは死のみ。のはずだった。

 

ガシィィィ!

 

突然、視界に入ってきたアウロラがデザートサーベルを使ってハサミの軌道を逸らしたのだ。

そしてそのままデザートサーベルを投げ捨てると、腰に装備していた長剣をワイアットがしていたようにカニの両目に素早く突き刺した。

アウロラはそのまま動きを止めずに、バランスを崩しているルイの首根っこを掴み後方へ投げ飛ばす。

 

「わっ!」

 

クルクル回りながらルイは尻もちをついている間に、アウロラは再度デザートサーベルを拾うと、目をやられ暴れているカニに対して剣舞を使って止めをさした。

そして腕を支えながら一言ルイに投げ掛ける。

 

「攻撃がまだまだだがコツを掴めたようだな。人間誰でも努力すれば必ず報われる。後は自分で磨きあげてみろ。それを極めると考えずに自然と体が動けるようになるぞ」

 

「アウロラさん…」

 

一瞬だけひきつった表情をしていたアウロラを見てルイは気がつく。自分を助ける際に負傷したのだろう。恐らくハサミの威力を流しきれずに腕のどこかを痛めたようだ。

だが、以降その様子を何事もなかったように隠すアウロラを見てそれ以上何も言えなかった。

ルイは自分の身の危険を顧みずに新人の実戦教育を行ったアウロラの器の大きさを再度目の当たりにし心底敬服してしまっていた。

 

 




今週は見に来て頂いた方が多かったようでありがとうございます!
励みになります。
なお、次回からやっとメガクラブ戦に入っていきます・・・
死闘を表現しきれているか不安です(*_*;

また2章を決起編としていたのですが、
まったく決起できそうもありません(-_-;)
なので章名は変えさせて頂きます、、
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