Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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36.ハウラーメイズ(演説)

古都から撤退して2日が経過していた。

今日はロード・オラクルから重要な連絡があるとのことで守備隊を除いて遠征隊員ほぼ全員が丘の下に集められていた。

 

ギシュバは昏睡状態から未だ覚めておらず最早メガクラブと戦える戦力を確保出来る見込みはないように見えた。

恐らく正式にプランBの方針発表がされるのであろう。

丘の上にはロード・オラクル一向とギシュバチーム代表としてアウロラが立っていた。

海辺から昇る眩しい朝日とは対照的に彼らの表情は雲がかったようにどんよりとして重苦しい。

 

「諸君、オラクルだ。皆、既に知っていると思うがメガクラブの討伐は失敗に終わった」

 

移民たちは顔を見合わせどよめく。

 

「メガクラブと呼んでいる異常成長した個体は2匹いることが分かり、1匹は我らが英雄ギシュバ卿が倒したのだが、2匹目との戦いで深手を負いこの遠征中に復帰できる見込みは低い状況だ」

 

この言葉を聞いた一同は落胆の色を隠せないでいる。それほどギシュバの力量は民衆の間で広く認知され英雄視されていたのだ。

そしてその様子を見ながらオラクルは続ける。

 

「メガクラブを倒せなかった場合に我々が選択し得る手段は1つ。この港町の復興までをゴールとし、遠征をここで終えることだ。得られた領土は少ないが新たに漁業体制も確立し我々が暮らしていける食糧は十分に維持出来るだろう」

 

遠征に参加している移民はハウラーメイズ地方に骨を埋める覚悟で帯同してきた貧民層が大半を占めている。新天地で物資が乏しく例え生活が苦しくても肝心な食糧が維持出来るのであれば多くの事を望むような者は数少ないのだろう。オラクルの言動に拒否反応を示す者はいなかった。

それを見越したようにオラクルはさらに続ける。

 

「私がこの遠征への出資を決意した理由は主に2つある。1つはこのハウラーメイズ地方の初代領主となり諸君に安全と安定を提供すること。そしてもう1つは都市連合が抱える最大の問題である食糧供給不足を解決することにある」

 

オラクルはいつになく真剣な表情で移民達の反応を伺うように見渡しながら慎重に言葉を選んでいた。

 

「近年、都市連合の領土はさらに砂漠化が進み年々不作も加速している状況だ。これを放っておくといずれ領内の食糧は食べ尽くされ大規模な飢饉が発生するだろう。そうなると秩序は崩壊し国としての形を維持出来なくなる」

 

移民達は皆、無言で聞き入っている。

 

「そこから起こる副次的な事象は色々考えられるが、一番可能性が大きいのは隣国の宗教国家ホーリーネーションの侵略だ。弱体化した都市連合を蹂躙するのはあの国には容易いこととなる。そしてここハウラーメイズにもその手は及ぶだろう」

 

移民の間にどよめきが起こり始めた。

都市連合全体への食糧供給はハウラーメイズ地方全土を占領するぐらいでないと少しも賄うことが出来ないことぐらいは市民であっても理解出来る。つまりオラクルが言わんとしていることは、最低限でもメガクラブを討伐しハウラーメイズ地方を掌握出来ないといずれ都市連合という帝国そのものが崩壊する可能性があると暗に示していたのだ。

 

「だから我々は討伐を諦めず再度、古都奪還に挑みたいと思う!残りのカニはメガクラブ一匹だ。今回はテックハンターのギシュバチームだけでなく都市連合の侍兵も投入するつもりだが、ギシュバ卿不在のため戦力の不安を拭えない。そこで諸君から我こそはと思う者がいればメガクラブ討伐に参加してくれる有志の募集をしたい!」

 

オラクルからの予想外の提案に移民は唖然としていた。移民達からして見ればこの港町で暮らしていければ充分であり帝国の事情などどうでもいい。無理して討伐に参加する必要はないのだ。

 

「ホーリーネーションってオクラン教の宗教国家だよな。貧しい人に寛大だって聞いたぞ」

 

「治める国が変わったところでうちらの生活は変わらないしな。命張って都市連合のために頑張る必要はねぇ」

 

周りからは否定的な意見が出始める。

 

「メガクラブの討伐に参加し見事討ち取った者には賞金を出す予定だ。我々が力をあわせれば必ず倒せる。皆この機会に乗り遅れないようにしたまえ!では詳細はギシュバチームの副隊長から発表してもらう。アウロラ殿頼みましたぞ」

 

オラクルはこれ以上貴族が感情論で発破をかけたところで効果がないことを悟り賞金の話をしたあとアウロラにバトンタッチした。

 

アウロラとはここ数日会えていなかったが壇上に立つ彼女の姿は少しやつれているように見えた。睡眠を削って方針を議論していたのだろう。

そしてゆっくりと口を開くと静かに喋りだした。

 

「テックハンターギシュバチームの副隊長アウロラだ。オラクル卿が伝えてくれた通り我々は再度メガクラブに戦いを挑む。参加してくれる者は2日以内に本部のほうにエントリーしにきてくれ。参加者全員の得意武器種など聞いた上で戦闘フォーメーションを検討する予定だ。そして…」

 

アウロラは改まって皆の前に向き直るとかしこまって語り出す。

 

「最後に皆に伝えておきたいことがある。私はテックハンターではあるが市民の立場として皆が抱いている疑念も理解しているつもりだ。貴族が調子いいことを言ってまた貧民層を騙しているだけなのではないかと。結局、貧民層が血を流して土地を得てもどうせ富裕層が贅沢するためだけでしかないのではないかと。残念ながら今の都市連合はそのような貴族が上層部に蔓延っている」

 

都市連合兵やロード・オラクルの私兵の一部がギロリと睨み付けるが、なおもアウロラは続ける。

 

「しかし、オラクル卿はそんな腐った奴等とは違った。この遠征は我々が若い頃から考えていた貧民層、いや人類の救済計画の一つであり、その計画に莫大な財産をなげうってくれた貴族が他ならぬオラクル卿だけだったのだ。

卿は立場上、公には言えないだけだが都市連合の政治体制をより良くしようとしておられる。だからその手始めとしてハウラーメイズ地方の領主になり影響力を高めようとしておられるのだ」

 

移民の間にどよめきが起こる。ルイも初めて聞いた話だった。この遠征はてっきり都市連合の領土拡大政策だったのかと思いきや遠征自体がアウロラ考案の計画だったとは。

 

「だからこれは決してテックハンターの意地とか貴族の利権とかの理由ではない。全ての人の命が理不尽に脅かされず安心して笑って暮らせる世界をこのハウラーメイズから始めていきたいという共通の願いただそれだけだ。賛同できる者はこの最後の正念場に力を貸してほしい。以上だ」

 

スケールの大きい話に一同はただただ呆然としていたが、反論をする者もいなかった。移民全員がこのアウロラの熱弁にただ聞き入っていたのだ。

定位置に戻ったアウロラに対してロード・オラクルは気恥ずかしそうに目をそらしていた。

 

 

集会が終わった後、ルイ達はメガクラブ戦に参加するしないで揉めた。

 

「なんで参加しちゃだめなんだよ?」

 

少し強い口調でルイはトゥーラに問いただした。

 

「危険だからに決まっているでしょ!?何もルイが命をかける必要ないじゃない」

 

「別に死ぬつもりはねーよ。ただ少しでもアウロラさんの助けになることをしたいだけだ」

 

「そもそも私達は実力が不足しているから安全重視で同行できるこの遠征に目をつけただけなのよ?アウロラさんはテックハンターとして優秀なのは間違いないけれど、ルイは少しのせられているように見えるわ」

 

尊敬している人を否定されたことでルイも頭に血が昇ってしまった。

 

「トゥーラに何がわかるんだよ!2人はいいから俺だけでもエントリーしてくるよ!」

 

「ルイ!」

 

呼び止めにも振り返らずにルイは本部のほうへ歩いていってしまった。

それを目で追うことしか出来ずナパーロはオロオロしている。

 

「あ、あの僕達はどうしましょうか…?」

 

これにトゥーラも苛立ちを隠せずに強い口調で返してしまう。

 

「あなたには参加は無理でしょう?少し考えさせて!」

 

「す、すみません…」

 

下を向き落ち込むナパーロを見てトゥーラも我にかえり気まずくなった。しかし次の瞬間ナパーロの気配が変わる。

 

「お前たちが揉めるのは珍しいな。俺には関係ないことだが」

 

口調ですぐに分かるが第二人格のラックルが出てきたのだろう。最早トゥーラも慣れたようで平然と言葉を返す。

 

「聞いてたの?あなたはメガクラブ戦には巻き込まないから安心しなさい」

 

「くく…理解しているようだな。お前たちもエントリーしないことを強く薦めるぜ。やわな体で挑んでも潰されて死ぬか四肢がもげて取り返しがつかなくなる。ギシュバでさえ瀕死なんだろ?」

 

「分かっているわよ…。ルイの参加も止めないとね…」

 

そう言うとトゥーラも本部に向かって歩きだした。

 

皆、自分の信念と保身の間で葛藤し、何を選択すべきか苦悩していた。

そしてそんな若者たちの横でも密かに1人悩み続けている老人がいた。




気づけば書き始めて6カ月経過していました
ここまで読んで頂いている方に感謝です<(_ _)>
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