Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
都市連合領内のとある都市
大きな2階建てのスネイルハウスの前にルイは立っていた。
「ここか…」
ポツリと呟きドアに近づくと2人の衛兵が止まるよう命令してくる。しかし、ルイの顔を見ると何事もなかったように元の位置に戻った。対してルイは動じることなくハウスの中に入っていく。
薄暗い室内は立壁などで綺麗に整理されており受付のテーブルまで用意されていた。静まり返った室内でテーブルに置いてある呼び出しベルを静かに振るとイソイソと身なりを整えた執事らしき老人が出てきた。
「ギシュバさんはこちらにいらっしゃいますか?」
「はい。ご主人様は2階のテラスでお待ちです。あちらの階段からどうぞ…」
案内されるまま2階に上がると鋼鉄でできた片腕をグーパーしながら調整している大男が出迎えてくれた。
「お久しぶりです。その…腕は大丈夫ですか?」
「おう、小さな英雄さん、3ヶ月ぶりかな?お互い忙しくて中々会えずじまいだったが見違えたな。腕は大分慣れてきたよ」
「そうですか、よかったです…」
以降、2人とも言葉が出ず一時の沈黙が続いたが、気を使ったギシュバが口を開く。
「今日はあいつのことを聞きにきたのだろう?」
これを聞いたルイは少しうつむいていた顔を上げ意を決したように喋り始める。
その表情は今にも崩れだしそうなほど悲痛だ。
「…はい、そうです…。あの人はなぜ知りあって間もない俺なんかにこのデザートサーベルを託したのか…。俺はあの人の事を…最後に言っていた夢が何なのかきちんと知りたいんです」
これを聞いたギシュバは悲しい目をして少し黙っていたがやがて重たい口を開き語りだした。
「あいつは…アウロラはわしが20年ほど前に拾った奴隷だった」
「…!!」
「主人に殴られたのか…左目の眼球破裂により失明していたところをつい不憫になり奴隷商から買い受けたのがわしとの最初の出会いだ…」
衝撃的な内容にルイは言葉を失った。
朝焼けの光が降り注ぐ中、武装した剣士達が決戦場に向かって行進する。
この戦いに参加する理由は誰もが同じではない。お金のため、名声のため。そしてある者は内に秘めた目的のため。それぞれの理由は違えどメガクラブを倒すという1つの目的に向かって今、共に歩を進めている者達の表情は凛々しくも覇気で満ち溢れていた。
しばらくすると見覚えのある人工物が遠くに見えはじめ、偵察を兼ねた排除班が古都を囲むように左右に展開を開始してメガクラブの索敵をしながら前へ進む。
討伐班の5人は一直線に古都の中央広場に向かい、いつでも戦闘できる体制を整えているがまだメガクラブを視認出来ていない。
「気をつけろ。奴は襲撃してきた見通しの悪い岩場をねぐらにしているのかもしれない。後方支援部隊も投入して索敵範囲を広げる」
アウロラの指示で排除班が奥地へ赴き間延びする部分を後方支援部隊が補う形になった。
念のためルイ達も抜刀しながら慎重に歩を進めるが、前回の戦いでカニを減らしたせいか前線でも戦闘は発生しておらず、廃墟は不気味なほど静まり返っている。
回収出来なかった傭兵の遺体には虫がたかり悪臭を放っていて、ルイ達は顔を歪めながら横を通りすぎた。
そしてしばらくすると前方のそう遠くない場所から信号煙がたちのぼる。
『メガクラブを発見した』合図だ。
ついにこの時がきたのだ。泣いても笑ってもハウラーメイズにおける事実上最大の決戦になるだろう。遠征隊は持てる全ての力を結集して挑まなければならない。
自然と煙を見た者達の表情には緊張が走りはじめる。
それは中央広場に待機していた討伐班のメンバーも同じだった。
「どうします?ここから若干距離がありますぜ」
一筋の汗を流しながらクジョウが皆に問いかける。メガクラブを打ち取るためには広い場所で一斉に叩く必要があったからだ。
「計画に影響はない。ニムロッドがボウガンで引いてくるはずだ。数分後にはここに現れるだろう。各自、戦闘準備を行ってくれ」
アウロラはデザートサーベルをクルクル回しウォーミングアップを始めた。
ルートヴィヒやウェナムも同様に各々の武器を使ったイメージトレーニングをしている。
ズズン…ズズン…遠くから聞こえる歓声と共に覚えのある地響きが近づいてくる。
5人の討伐班メンバーは地響きの方に武器を向け各々の構えに入った。
そしてメガクラブが目前に姿を見せる数秒前。アウロラはこれまでの彼女らしくなく考え事をしていた。
メガクラブを倒していないにも関わらず感慨にふけっていたのだ。
チラリと横を見ると大きな薙刀を持った老兵ルートヴィヒが凄まじい気迫を放っている。老いたとは言え都市連合の元将軍の腕前は伊達ではないだろう。さらに奥にはバート家の私兵ウェナムが得意武器である鉈武器の長包丁を片手で軽々しく回している。この男は欲がなくその忠誠心から貴族の教育係に甘んじているが実力は誰もが認める存在だ。選抜組の貢献ptもこの男がほぼ稼いだと言っても過言ではないだろう。
ギシュバが傷を負った際はどうなることかと悲観していたが、いまここにいる面子であれば恐らく倒せる。正直討伐班の参加者は増えないと思っていたが、まさか都市連合の元将軍や貴族の主力クラスがどんな形であれ命を賭した戦いに参加してくれようとは。内心はオラクルさえも信用していなかったのだが…。やはり世の中はまだ捨てた物じゃない。真剣に向き合えば思いや志はどんな相手にも伝わるのだ。
そして長年考えた構想に対して今度こそ決着をつけられる。そんな正念場に自らが居合わせていることが余計にそうさせているのかもしれないが、気持ちが高揚し心拍が上がるのを感じる。
(いかんな。手が震える。最重要局面なのに集中せねば!私の技はメガクラブのような大型の敵には通用するかも分からず一番足を引っ張ってしまう恐れがあるのに。しかしこんな時こそ力のある男達が心底羨ましく思えるな…)
「来るぞ!」
誰かの声でふと我にかえり前方を見ると木々がざわつき鳥が慌ただしく飛び立っている。木々の間からニムロッドが木の葉を撒き散らして登場すると全速力でこちらに駆けてきた。そしてその後方から木々をなぎ倒し標的となる赤い巨体が姿を現す。
一匹目よりは一回り小さいがその大きさはメガクラブと言うには充分な大きさだ。
「予定通り散会して各個攻撃してくれ!」
討伐班の5人は広場に誘導されたメガクラブを囲むように移動し、攻撃を仕掛ける体制を整えた。
「頭がたかあぁぁい!」
甲高い声を発しながら先制をとったのは何と護衛隊長のルートヴィヒであった。
長く重い薙刀をしならせながら目一杯振りかぶるとメガクラブの眉間目掛けて一気に振り抜いたのだ。
仕掛けようとしていたメガクラブも突然の攻撃に驚きハサミで咄嗟に防御する。しかし、それもお構いなしに振り下ろされた薙刀はガキン!という鈍い音を発してハサミにくい込む。
一番分厚いハサミにヒビが入る驚愕の一撃に周りの人間は驚きを隠せない。
まさか引退して全盛期もとっくに過ぎ白髪と髭にまみれた老兵がこれほどの攻撃を放つとはまさに嬉しい誤算であった。
勢いにのった討伐班はここから一気に攻撃を仕掛けた。ルートヴィヒに注意が向かったことを察すると、アウロラが、ウェナムが、そしてクジョウが各々の武器でメガクラブの足に攻撃を加えていく。
着実にダメージは入っていくがここでルートヴィヒがその高いプライドから判断を誤る。
メガクラブの反撃を受けにいったのだ。ギシュバが出来たという情報から自分も出来ると過信した結果だろう。
「爺さん下がれ!」
咄嗟に出たクジョウの悪態を含んだ忠告も空しく、ルートヴィヒは振り下ろされるハサミに薙刀で受けにいくが、グキリと不快な音と共に足下から崩れ落ちる。
「ぬぐおおぉぉぉ!」
ハサミの一撃に耐えきれずに両足が針金のように明後日の方向を向き、ゴロゴロとのたうち回るルートヴィヒを見てワイアットが直ぐ様かけより後ろに引きずりだす。
援護するためにクジョウがメガクラブの懐に深く入ってヘビーポールアームを再度足に叩き込むが、これによりメガクラブのターゲットがクジョウにうつる。
ブン!と振りきられた横なぎのハサミを避けきれずクジョウは武器でガードにいくが、そのまま数メートル先に吹き飛ばされた。
「……!」
交戦から僅か数分で討伐班の2人が離脱するこの事態に、戦いを見守っていた排除班や後方支援部隊にも悲壮感が漂う。
「まずい!陣形が崩れるぞ!」
ウェナムが叫んだその時、アウロラが軽やかに踊るようにメガクラブの前に立ちはだかった。
7月16日の夜、編集中に間違えて投稿してしまいました(*_*;
そしてハウラーメイズ遠征編は残る2話となりました
ここまで読んで頂きありがとうございました