Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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39.ハウラーメイズ(古都決戦)

無想剣舞

 

ギシュバのように穏やかな悟りの境地ではないが、全ての邪念を振り払いただただ目の前の敵と心のままに剣舞を舞って戦いに興じる

 

味方と息を合わせづらく単独戦闘に向いていたため鳴りを潜めていたが、討伐班が減ってしまったいま幸か不幸かアウロラの真骨頂としてメガクラブ戦において絶大な効果を発揮していた。

 

度重なるハサミによる範囲攻撃を紙一重で全てかわしつつ、ハサミにも斬撃を与えていたのだ。

その間にウェナムも後ろから足に攻撃を入れている。

 

交戦から既に8分ほど経過しており周辺の掃討をほぼ終えた排除班や後方支援部隊も中央広場に集まってきてアウロラとメガクラブの攻防を固唾を飲んで見守っていた。

 

そしてそこにはいつにもまして深刻な表情で見ているウィンワンの姿があった。

 

(あのアウロラとかいう娘…。想像以上の強さじゃ。このままいけばメガクラブを本当に倒せてしまうかもしれん。しかしウェナムだけの火力じゃ削りきる前にアウロラの体力が尽きる可能性もあるが…やはりやるなら今か…)

 

彼の中で過去の情景がフラッシュバックのように脳裏に浮かび上がっていく。

 

 

「ほら~ウィンワン見てくれよ俺の娘だ!ルイって名前なんだ。かわいいだろ?抱っこするか?」

 

無邪気な笑顔で赤ん坊を自慢する男を見てウィンワンは呆れ返った。

 

「いつも冷静沈着なお前も親になるとここまで腑抜けになっちまうんだな。子どもってすげーな」

 

「そりゃそうだろ~目にいれても痛くないってこのことだったんだなぁー、いてててて!こらこら!」

 

男は赤ん坊に近づけ過ぎた鼻をつままれ悶絶しつつも顔からは笑顔は消えなかった。

 

霧に覆われた都市モングレルから抜け出せずにくすぶっていた俺を厚待遇で雇ってくれた男に子どもが出来た。俺は他人の幸せなんてこれまで何とも思わなかった。むしろ幸福自慢する奴には反吐がでるくらいだった。しかしどういうわけかこの男の幸せは自分の事のように嬉しかったのだ。恐らくそれはこれまでのこの男の行いが起因していた。剣技の型すらなっていなかった男は寝る間も惜しんで地道な努力を続け人並み以上の技を身に付けると、毛皮商の通り道という地域に拠点を構える。各地を練り歩き既に多くの仲間と財産を得ていた男はそこで悠々自適な生活を送るのかと思いきや他人のために食糧供給体制を整えたり盗賊を壊滅させるなど慈善活動を始めたのだ。

 特に飢えた者や奴隷など貧民と言うより社会の底辺にいる人達にも物資を提供し手厚く保護していた。最初は気まぐれによる偽善活動だと思っていたが、稼いだ賞金や遺跡で発見した資源を溜め込まずに出し惜しみなく使用し、当の本人は最低限の衣食住を整える程度で満足しているのだ。心身を削って活動を続けるこの男はもう誰かのためじゃなく自分のため自分が幸せになることをやってもいいと思っていた。

 

そんな矢先に突如、宗教国家ホーリーネーションがこの男の身柄引き渡しを要求してきたのだ。なんでも国家にたてつく政治的テロリストとのことだったが俺を含む男の素行を知る仲間たちはまったく信じなかった。男は組織のプロジェクトが軌道にのっておりいま止めるわけにはいかないと言い、後を託して一人自首しようとしたが仲間がそれを阻み結局戦争となった。

男の支援者は数多くいたため大国を相手にしてもなんとか持ちこたえることが出来、結局お互いに疲弊したところで和平となった。

 

そして俺はそのあと都市連合へ行く任務があり、一人東方へ走り続けている時だった。

 

前方からガチャガチャと鎧の音をたてて小走りで通りすぎる大集団に出くわしたのだ。

先頭には見覚えのある男もいた。アイゴアだ。

 

(なぜこいつらがこんなところに…?)

 

都市連合からつかわされた遅れた援軍かとも思ったが、次の侍隊長らしき言葉で戦慄する。

 

「そろそろ敵の拠点がある毛皮商の通り道に着くぞ!激戦が予想されるが相手は疲弊している!一人も逃がさず討ちつくせ!」

 

どういうわけか都市連合の軍隊が俺たちの組織を襲撃しようと企んでいるのだ。しかもホーリーネーションとの決戦後を見計らったタイミングでだ。

 

(も…戻らなければ…!しかし全力で走ってもアイゴア達より少し先に戻れる程度だ。それだと準備をする時間がないし、何より準備をしたところでこいつらを相手にする力が今はない…!)

 

遠征中のハムート達を呼びに行くことも考えたがいまどこらへんにいるかも定かではなかった。

 

(間に合わない…)

 

直感的に悟った。何をしてもどう考えても詰んでいるのだ。それでも戻るのか俺は迷いに迷った。しかし俺が一人戻ったところで体勢に影響はない。ならばいっそ…

 

俺は逃げた。

幸せを望んでいたはずの恩人である男やその子どもを見捨てて勝ち目のない戦いから目を背け俺は遠方地へ逃げたのだ。

 

 

それ以降この時の選択は今でも心の中で呪いのように悩ませていた。

都市連合の事業を妨害することで罪滅ぼしになるかと考えて参加したハウラーメイズ遠征計画。この計画の阻止は仇討ちにはちょうど良いと思っていた。このメガクラブ戦も今なら簡単に失敗させられる。

しかし、アウロラの演説が男の…ボスの思想と重なったのだ。

 

まさかこんなところで忘れていたボスの志を思い出させられようとは。

わしが今何をすべきなのか答えが出た。

 

「そこのテックハンター!その斬馬刀を貸してくれぃ!」

 

ウィンワンは半ば強引に近くの者から武器を奪うとメガクラブに向かって走り出した。

そしてこれに気づいたハーモトーが叫ぶ。

 

「ワイアット!ウィンワンが動いた!警戒しろ!」

 

アウロラの剣舞に魅入っていたワイアットはハッと我にかえりウィンワンの行く手を遮る。

 

「どけぃ若造!ナマクラ刀でもいいからお主も参加しろ!機を逃すな!」

 

老人であるウィンワンの気迫に気負わされたワイアットはそのまま乱入を許してしまう。しかし、この老人がメガクラブの足を狙って斬馬刀を斬りつけ始めるのを見て、自らも忍者刀をメガクラブの足にぶつけ注意を分散しようと試みる。

 

「……!」

 

これを遠目で見ていたルイは気持ちが高ぶるのを感じていた。

あの命最優先のウィンワンが参戦しているのだ。

 

(ここだ!今こそ全力で集中攻撃すべきだ!カニの注意を引くことは俺にだって出来るはず!)

 

「ルイ!」

 

トゥーラが制止する前に気づけばルイも武器を手に飛び出していた。

そしてウェナム達の邪魔にならないようカニの死角に入り及び腰ながらも関節めがけて武器を振るい始めた。

 

「お主…いま名前はなんと言った!?」

 

ウィンワンが隣で戦いながら名前を聞いてくるがルイはそれどころではない。当たれば致命傷になる大きなメガクラブの足がザクザクと地を踏む中で避けながら攻撃をいれなければならないのだ。喋っている余裕はなかった。

 

一方、数人の剣士が参戦し始めたのが視界に入ったアウロラは確信した。

 

(いける…!)

 

まさかルイまで参加してくれるとは

お陰でメガクラブの注意が散漫になり私の負荷が減った

もうすぐウェナムあたりが足の一本ぐらい砕いてくれるだろうが、それまで私の体力は持つ…!

 

既に数分間、メガクラブの攻撃を避け続けておりアウロラは全身汗だくとなっていた。

汗が唯一ある片目に入らぬよう細心の注意を払いつつ死と隣り合わせの剣舞を継続しているアウロラはもはや体力の限界に近づいていたのだ。

 

(あと少し…もうすぐだ!)

 

ウェナムが継続して攻撃を入れているメガクラブの足はヒビだらけになりいつ折れてもおかしくない状態になっており、その場にいる全ての者が最後の瞬間に向けて一丸となって動いていた。

 

そんな矢先

 

ヒュン…

 

空気を切り裂く鋭い音をたてて何かがメガクラブの付近に放たれた。

 

足に激痛を感じたアウロラが視線を下にやると

長さ20cmほどの対人用に作られた矢が自分の太ももを貫通していることを把握する。

 

「っ…!これは…」

 

遠くでハーモトーが叫んでいる声が聞こえ、何が起きたかアウロラにはすぐ理解できた。




次回がハウラーメイズ遠征編の最終回となります。
準備が整ったので7/25あたりに配信予定です。
(最終話はお好みのエンディング曲を流しながら
お読み頂くと雰囲気でるかもしれませんw)
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