Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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44.砂忍者2

ジリジリと間合いを詰めるヒックスと鬼。そしてそれを固唾を飲んで見守るルイ達。

恐らく鬼は素早さを生かした攻撃をしかけてくるだろうが対するヒックスの腕前はまだ未知数だ。ただ、A級首と対峙してもヒックスは長剣を正眼で構え妙に落ち着き払っている。

 

「一瞬で勝負が決まるだろう」

 

ウィンワンとシルバーシェイドは同じ見解だった。スピードに物を言わせる細い得物同士の戦いの場合、刃が欠けたり曲がるのを嫌い、刃を交えるようなことは少ないらしい。そのため自然と決着が早まるのだ。

 

砂嵐が一瞬止んだ瞬間。先に仕掛けたのは鬼だった。

 

肩に背負ったもう一本の忍者刀を左手で抜きそのままヒックスの頭部目掛けて正確に投げつける。

 

カキーン

 

ヒックスも咄嗟に長剣を掲げて防ぐが鬼はその瞬間、身を低くして隙が出来たヒックスの胴目掛けて一気に間合いを詰めた。

 

「ああ!」

 

ルイは思わず声を上げたが、ヒックスの表情にはまったく動揺は見えなかった。

鬼の突進に対して真横に飛ぶと素早く長剣を振り下ろす。

 

鬼は手にもった忍者刀を弾かれそのまま前のめりに倒れこんだ。

 

「おお!」

 

あっけないヒックスの勝利に一同は歓声をあげるがウィンワンだけ別の感情が沸き起こる。

 

(あの鬼の連撃は完璧だった。今のワシでも対応出来たか分からない。それをこの男…ヒックスは無表情でこなしおった。しかも相手を殺さずに武器を落として。このような男がなぜうちのような弱小チームのスカウトを簡単に受けた?大きな組織に雇われて大金を稼いでいてもおかしくない腕前じゃ)

 

スナニンジャの頭領を傷1つ負わずに無力化したヒックスの強さを逆に警戒したのだ。

 

「さっさとここを立ち去るぞ。拘束するのを手伝ってくれ」

 

ヒックスは勝利をひけらかすことなく坦々と鬼に手錠をかけ始める。

 

「お、お前滅茶苦茶強いんだな!こいつ2万catなんだろ?すげぇ!」

 

ルイはただただ感嘆して大喜びであった。しかし他の3人は辺りをみわたし深刻な表情を崩していない。

 

「…ルイ、そのまま鬼を絶対に離すなよ。そいつが命綱だ」

 

縄で拘束した鬼をルイに任せるとウィンワンやシルバーシェイドも武器を抜き辺りを警戒し始める。

 

「何してんだよ、早くいこーぜ」

 

「いや…。ここは既に奴らに囲まれたようだ。鬼を人質にして抜け出す必要がある」

 

「何だって!?」

 

砂嵐で分かりにくいがよく見ると確かに人影や刃物の光が四方八方に見受けられるのだ。

するとどこからか叫び声が聞こえてくる。

 

「お前たち!我らスナニンジャに手を出してくるとはいい度胸だ。覚悟は出来ているのであろうな?」

 

「待て!こいつが見えるか?お前たちの頭領はこちらの手中にある。大人しく道を開けろ!」

 

ヒックスが長剣を鬼に向け声のするほうに叫ぶと周りの人影は若干たじろぐ。しかし横にいる鬼が不気味に語りだす。

 

「くくく…。あんたらアタイがまだ頭領だと思っているのかい?お目出度いねぇ。とっくにアタイは引退して頭領の座は新しい奴に譲ってるよ。アタイに人質の価値はないんだよ」

 

「なんだと?」

 

これにはさすがのヒックスも驚いている。事実だとすると鬼を盾にして撤退する目論みは崩れ自分たちの立場が非常に危険な状況に変わるからだ。

 

ザッザッザッザ

 

そこに1つの足音が近づいてきてルイ達に緊張が走る。

足音の主は鬼と同じく頭をすっぽり覆う深編笠を被っており、ただならぬ雰囲気を醸し出している。そして深編笠は静かに口を開いた。

 

「帝国の英雄ルイか。トゥーラはいないようだなぁ」

 

どうやら身元がバレているようで深編笠から聞こえてくるこもった声はさらに続く。

 

「鬼を解放しろ。そうすれば一人だけ逃がしてやる」

 

残った3人は血祭りとでも言いたげな冷血で無慈悲な深編笠の要求に4人は戦慄する。

元頭領が人質にされているとは言え、足元を見せずまったく引かない要求をしてくるこの人物は恐らく新頭領なのだろう。この者にとって元頭領の価値は高くないようだ。

しかし、ヒックスもダメ元でふっかける。

 

「一人だけだと?そんな交渉が通ると思っているのか?」

 

「では全員死ぬかぁ?さっさと選べ。ジャンケンでもしてなぁ」

 

深編笠の冷酷な言葉にルイはこの世が弱肉強食な世界であることを再認識した。ウィンワン、シルバーシェイド、ヒックスと強い面子が揃ったことで勘違いしていたがあくまで自分たちは少人数の弱小チームなのだ。帝国領内で長く生き残っているような盗賊組織が4人を囲って優位な状況にたっている以上、生半可には出し抜けるはずがなかった。

 

ただ当然一人を選べるわけもなく、イタズラに時間は経過する。このままではしびれを切らしたスナニンジャの攻撃が始まってしまうかもしれない。

猶予が残されておらず危機的な状況の中であったがルイには何か引っ掛かる物があった。

 

そしてウィンワンの静止を聞かずに一歩前に出ると深編笠に問いかける。

 

「お前…どこかで会ったことないか?」

 

「!!」

 

ルイの言葉にその場にいる全員が固まった。

 

ルイには確信があった。深編笠の中から聞こえる声…いや口調や雰囲気に覚えがあったのだ。

そしてこの言葉に深編笠は動きを止めしばらく沈黙していたが、ゆっくりと口を開いた。

 

「…よく気づいたなぁ。まぁ隠すつもりはなかったが…」

 

そう言うと男は深編笠を脱いで顔を見せるが、目の前に現れる素顔にルイは驚愕する。

 

「あんたは……ワイアット!?なんでこんなとこにいるんだ!?」

 

いつもの忍装束で口元は隠したままであったが髪型、容姿、口調が紛れもなく本人だった。

 

「俺は元々スナニンジャの出だ。ここにいても何ら不思議なことではない」

 

「いや…というよりスナニンジャの頭領なのか?」

 

「ああ。少し前に引き受けた。…しかし今度はお前らが帝国の犬になっているとはなぁ。因果な事だぜ」

 

テックハンターの十傑ギシュバのチームにて8人衆の一角を担っていたワイアット。その男がいまスナニンジャの頭領として目の前に立ちはだかっていることに驚きを隠せないでいた。しかしそれよりもルイはワイアットから言われたことが気になった。

 

「俺は都市連合の兵士になったつもりはねーぞ。あんたこそなんで人を襲う盗賊やってんだよ!」

 

「生意気な口を聞くようになったじゃねぇか。帝国にへつらって奴隷商と一緒に賞金首ハントやってるお前らも盗賊と変わらんって話だ。一体アウロラに何を教わってきたんだ?」

 

「俺達は罪のない人を襲う賞金首を捕らえてんだ。これの何が悪い!」

 

ルイと頭領の会話をウィンワン達は無言で見守っていた。何者か知らないが知り合いであれば相手の機嫌を損ねずにいれば見逃がしてくれる公算が高くなると踏んだからだ。

しかし、ルイはアウロラの事を話に出され逆上し、対して周りを囲むスナニンジャも刀で威嚇を始める。

 

こんな一色触発の空気の中、周りのスナニンジャと違ってワイアットだけは落ち着き払っていた。

 

「大罪を犯している帝国に従っている無知なお前らも同罪という事なんだよ。まぁこの議論をお前としても意味はない。それより生き残る一人は決まったのか?時間稼ぎは通用しないぞ」

 

歯ぎしりして何も答えられないルイ達を見てスナニンジャの囲みはさらに小さくなるがヒックスも鬼の首もとに刃を当てて牽制している。

 

ワイアットは目を細めながらしばらく様子を見ていたが、襲いかかる号令を出さずに意外な提案を持ちかける。

 

「お前たち全員が生き残る術はもう1つある。それはスナニンジャに服従することだ。俺もお前のその行動力や精神力は評価しているんだ。殺すには惜しい」

 

敵意はない提案だが、スナニンジャとして今後生きていくなんてルイの性格上到底受け入れられるものではない。

 

「人殺しの手下になんてなれるわけないだろう!あんたもこんなことをしていて見損なったぜワイアット!」

 

「黙れ!この痩せこけた大地で組織を養っていくため他人の食糧に手を出して何が悪い。何も見えていないくせに自分の物差しで他人を測るな」

 

ルイはこの言葉を聞いてハッとした。

過去にテックハンターであった男でさえ自分たちのために他人から奪うことを全く悪びれていない。ここはそういう地域、世界なのだ。ルイは食糧となる野生生物がたくさんいる地域に住んでいたが、狩猟もある意味他者から命を奪う形で成り立っており、形は違えど構図は似ていた。

だが、このワイアットの言葉を受け入れると何か自分の信念が否定される気がして、ここで言い負かされるわけにはいかない気持ちになった。

 

「確かに奪い合いは自然の摂理かもしれねぇ!でも上手く言えねぇけど俺はあんたたちのように人間同士で奪い奪われて怯えながら過ごしている人達がいない世の中を目指してるんだ。こんなところで負け犬のように細々と人生を終わらせるわけにはいかない!」

 

「なんだと!俺達が負け犬だと!?」

「生きて帰れると思うな!」

 

スナニンジャ達の反発は凄く、殺伐として今にも飛びかかってきそうな状況だ。

それをワイアットは手で制し話を続ける。

 

「ははははは!俺もお前のように高い志だけ持って世の中が全く見えていない時期があったぜぇ。…いいだろう、お前がこの世界の理を知り壁にぶち当たった時、自慢の精神力が持ちこたえられているか!見届けてやるぜ!」

 

「なにを言って…」

 

「昔のよしみで今回は見逃してやる!ただし、またスナニンジャに手を出してきたら次は殺す。分かったな?」

 

ワイアットは最初の姿勢とは打って変わって呆気ないほどにルイ達を条件なしで帰すことを許した。さすがに囲んでいる手下のスナニンジャ達も動揺し、ざわついている。

 

「何だか知らんがあいつの気が変わらないうちに撤収するぞぃ!」

 

ウィンワンの声で4人は鬼をおいてすぐにその場をあとにすることにした。

逃げる途中、ルイはワイアットのほうを振り返った。

 

ワイアットは元々ギシュバチームにいたときから口が悪く素行が悪い印象はあったが、気を失ったルイを背負って運んだり戦友の死を哀しむ人情ある人だとルイは認識していた。

そんな奴がなぜ人を襲うスナニンジャの頭領になったのか想像つかずもっと問いただしたかった。しかし今のルイにはそんな余裕があるはずもなくただ逃げることに専念することにした。

 

「なんであいつが盗賊になってんだ…」

 

帰り道の道中でルイは呟いたのに対し賞金首リストの用紙を見ながらヒックスが尋ねる。

 

「お前が知り合いだったお陰で俺達の命が助かったがあの新頭領は何者だったんだ?まだ懸賞金はついていないようだが…」

 

「あいつは元ギシュバチームのテックハンターだったんだ」

 

ウィンワンもピンと来て思い出したように会話に入ってくる。

 

「あの時の若造か!人間どう転ぶか分からんのぅ。しかし、今は自分達のことを考えなければならん。結局長時間かけて収穫ゼロだったんじゃ。都市連合の街中に居座るのも息苦しかったし、この際そろそろ考え時かもしれんぞ」

 

「ん?なんだよ、考え時って…」

 

ルイの問いかけに対してウィンワンは改まったように居直ると突拍子もないことを切り出す。

 

「固定資産税も賃貸料も取られない自分たちの拠点を作るってことじゃよ」

 

自分達だけの拠点。考えもしなかった案であった。

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