Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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45.引っ越し

都市にある住居から自分達の拠点に引っ越す話は懸賞金ハント組と居残り組が合流してから全員で話し合うことになった。

 

ハウラーメイズ遠征の賞金の大半を使って資材を購入し場所代がかからない僻地へ引っ越し、そして自分達で拠点の建築、食糧確保を行うという言わば田舎で自給自足の暮らしをする内容だ。

 当然治安も自分達で維持しなければならず危険が伴うため、居残り組からは不安の声が上がる。

 

「場所にもよると思うけど、どの地域にも野盗や危険な野生生物がいるから危険だし無理に都市から移動しないほうがいいのではないかしら?お金集めは鉱石掘りとかでも出来るんだし」

 

やはりトゥーラは保守的な見解だ。相手を斬ることを克服出来ていない彼女にとって大自然で自分の身は自分で守らなければならない状況は懸念材料となるのだ。

 

「地味な鉱石掘りを皆でやったところで固定資産税や食費でトントンになりお金は貯まらんじゃろう。たくさん奴隷を雇ってこき使えばやれんこともないがそれはなぜかルイが嫌がっておる。となれば拠点で自給自足から始めて軌道に乗せるしか選択肢はない。それにお主もそろそろ腹をくくって人を斬れるようにならんといかんぞ」

 

ウィンワンはトゥーラの内心を見透かしていたのだ。一方ルイはと言うと皆の不安よりも先にワクワク感が勝り既にノリノリだ。

 

「トゥーラ大丈夫だ!拠点防衛組を絶えず常駐させる方針にすればなんとかなるだろ?それに自分達の拠点作りって滅茶苦茶楽しそうじゃないか!?」

 

「忘れてたわ…あなたのポジティブ思考」

 

自分の考えを通そうとするほどトゥーラは我が強いわけでもなく結局、話し合いの結果引っ越しすることが決まった。

 そうなるとどこに拠点を構えるかが次の課題だ。自給自足を前提にすると食糧を確保できて比較的安全な場所でなければならない。

 シルバーシェイドはスワンプという地域を推してきた。何でも力さえあれば自分達のやりたいように過ごせてお米という美味しい食糧も食べ放題と言う。

しかし、その土地を知っているウィンワンが猛烈に反対する。

 

そして言い争う2人を見てルイが割ってはいる。

 

「いやもうその話はいいよ。そこはここからすごく遠いんだろ?新しい場所はもう俺の中で決まってんだ!そこでシャイニングにたくさんカニ料理作ってもらえるんだぜ!」

 

「ルイ…もしかしてそれって…」

 

「ああ!オラクル卿が治めるハウラーメイズ地方だよ!」

 

この地域は酸性雨が降らなくなった今、水産資源が豊富でありオラクルが街道の整備を始めていたこともあり生活に適した環境になりつつあった。

 元々ルイがメガクラブを仕留めた賞金を使って引っ越しすることもあり、キラキラと希望溢れるルイの表情を見て誰も何も言えなくなった。

 

 

早速次の日から一向は引っ越しの準備に取りかかった。荷物用のブルもちょうど都市を通りかかった遊牧民から一頭買いありったけの建築資材や鉄材を積んだ。

 

「この住居、購入したのにほとんど使わなかったなぁ」

 

ハウラーメイズ遠征で得た賞金を使って首都ヘフトにて初めて購入した住居を目の前にルイは感慨深げに話す。7人ぐらいなら狭さも感じない屋敷を奮発して買ってしまったが結局家具も揃わないまま手放すことになった。

 

「当分ここに来ることはないじゃろ」

 

ウィンワンがナパーロに積荷用ブルを引っ張るよう指示しながら大きなバックパックを背負う。

 

「ルイ、そろそろ行くよ」

 

トゥーラに呼ばれルイは屋敷に一瞥してから最後にその場を去った。

 

目指す場所はハウラーメイズ地方と言っても安全を考えて半島付け根の比較的大陸寄りの地点にした。それでもこの辺は草海賊という野盗に近いゴロツキや野生のカニも出没し始める。7人は慎重に歩を進めていた。

 

「遠征隊にいたときはハーモトーさん達がいたからあまり恐くなかったけど自分達だけでここに来ると結構緊張するな」

 

「そうね。あのときみたいに大所帯じゃないしね。でもヒックスさんがすごく強かったらしいじゃない?」

 

「ああ、そうなんだよ!スナニンジャのA級首の奴を殺さずに捕らえたんだぜ?あいつ只者じゃねぇ」

 

「心強いわよね。かっこいいし。よく仲間になってくれたわ」

 

「たぶん俺に惚れたんだろ」

 

「がさつなルイに?私の美貌に惚れたのよ」

 

終末感溢れるこの世の中で十代の女の子らしい会話は華やかではあったが、それをウィンワンは不安気に見ていた。

 

(ワシは過去の償いでルイが一人前になれるよう見守る決意をしたが、ルイがチームを持つにはやはりまだ若すぎのようじゃ。優秀なメンバーがサポートしないとチームのコントロールは難しいじゃろう。その点ヒックスは参謀として良い人材ではあるが良すぎるのが気になるのぉ。こやつにもし野心があった場合、チームが牛耳られる恐れがある。杞憂であれば良いが注視しておく必要はあるな…)

 

運良く資金を手に入れた者でも運営力がなければ金に群がってくる者に搾取されて破産する人間を沢山見てきた。

ルイがまさにそれに当てはまるタイプに近いためウィンワンは老婆心ながら気にしていた。

 

 

 

ヘフトを出発してから数分がたった頃、一向が一列になって砂漠を歩いていると、遠方から小さい影がこちらに近づいて来るのが見える。

よく見るとその後ろには複数の人影も追いかけるようについてきている。

 

「…なんだあれ?動物を追いかけてる狩猟か?」

 

「こっちに来るわね」

 

ウィンワン、ヒックス、シルバーシェイドも気づいて警戒を強めている。

 

「ちょっと待て…追いかけられてるのは子供じゃないか?」

 

「何じゃと?」

 

ルイは山育ちなだけあって他の人より目が良いためいち早く異変に気がつく。

 

「逃亡奴隷かもしれんな。関わらないほうがいいじゃろう」

 

「いや、でも子供だぞ?しかも…女の子だ!」

 

「よくあることだ。ルイ、手を出すんじゃないぞ」

 

駆け寄ってくる人影達がここに到着する前に、暴走する気配のあるルイをウィンワンはたしなめる。

 

相手もこちらに気づいて一直線に向かってきており段々声も聞こえてくる。

 

「助けて!助けてください!」

 

フードをかぶっていて顔は見えないがやはり女の子の声だ。しかもこちらに助けを求めて来ている。

 

「どうした?何があった?」

 

女の子はそのまま声をかけてくれたルイの後ろに隠れるように回り込んできた。

 

追いかけていたであろう集団も到着しルイの後ろにいる女の子を確認すると大きなダミ声で喋り始めた。

 

「そいつは脱走した奴隷だ!こちらに渡してもらおう」

 

「……」

 

呼び掛けに対してルイは黙ったままだ。

 

「ルイ!何してるの?渡しましょう」

 

トゥーラの忠告を聞かずにルイは女の子に話しかける。

 

「…お前は奴隷なのか?外の世界に出たいのか?」

 

「ど、奴隷です…。もう重労働をさせられるのは嫌…」

 

つぶらな瞳で今にも泣き出しそうな女の子を見てルイは優しく肩を叩くと一歩前に出た。

 

「お前たちは奴隷商か?この子を売ってくれないか?」

 

その場にいる者たちはルイの急な提案に驚く。

 

「ば…馬鹿を言うな。そいつは既に売却済だ!売るわけにはいかない」

 

「奴隷の相場は高くても1万catだろ?2万払うから売ってくれ」

 

さらに驚いたのはルイの仲間たちだ。

 

「ルイ!2万も出したらお金がほとんどなくなってしまうわ!」

 

「そうじゃ!見知らぬ子どもごときに2万も出すなど論外じゃ!」

 

トゥーラとウィンワンが皆の気持ちを代弁するように猛反発をした。相手がこの提案に応じようものなら混乱すること必至だ。

 

しかし意外にも相手の集団は引き下がらない。

 

「ど、どうします親分…?」

 

「どうと言っても売却済だからな…」

 

追いかけてきた集団の親分と思われる男はチラリと女の子を見て考え込んでいる。

女の子はルイの後ろで集団を睨み付けたままだ。

 

「やはりだめだ!関係ないお前達に売るわけにはいかん!渡さないのならやるまでだ!」

 

親分はサーベルを抜き掲げると6人ほどいる子分供も其々の武器を構え戦う姿勢を見せた。

 

ウィンワン、ヒックス、シルバーシェイドの手練れの者たちは既に武器を構えていてその場は一触即発の空気となった。

 

しかし、その時

 

黒い影がまるでボールが弾むように奴隷商の集団に飛び込んだかと思うと奴隷商たちの腕や足が吹き飛んでいく。

 

「たわば!」

「ひでぶ!」

「あべし!」

 

奴隷商は自分が攻撃され体の一部が欠損していることに後から気づき絶叫し流血させながら倒れていく。

 

最後の一人が倒れると中央にダストコートを着た黒い影がユラリと佇んでいるのがやっと把握できた。

 

【挿絵表示】

 

コートの裾からは無機質な金属が剥き出しており、砂ぼこりの合間に見える表情は無表情の仮面を被っている。スケルトンだ。

 

「え…ニール…。サッドニールなのか!?」

 

ルイはコートの者がスケルトンと認識すると思わず駆け寄る。

 

しかし、これをヒックスが今まで発したことのない慌てた声で静止した。

 

「ルイっ、止まれ!!奴は…ティンフィストだ!!」

 

この言葉を理解したウィンワンやシルバーシェイドは凍り付いて固まっていた。

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