Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
ルイ:主人公。世界に興味を持ち旅に出た16歳女子
トゥーラ:新米テックハンター。同年代のルイに同行している
ナパーロ/ラックル:ルイ達に買われた多重人格障害の元奴隷
無限のウィンワン:遠征以後、ルイに同行する爺
ヒックス:ルイ達を助ける賞金首ハンター
シルバーシェイド:金で雇われた何でも屋
シャイニング:料理人見習い
「こいつが…ティンフィスト!!」
奴隷商が悶絶してゴロゴロのたうち回る中で堂々と腕を組ながらこちらを見下ろしている黒いコートを纏ったスケルトン。表情が分からないせいもあるだろうが、その佇まいは地底からマグマが猛々しく吹き出しているような不気味で圧倒的な圧迫感を醸し出している。
それは間合いに入るとたちどころに頭を吹き飛ばされるのではないかと錯覚するほどの重圧であった。
(これが賞金首10万catのS級…!なんていう動きだ…。こんなのやれるのか?奴隷商も数人いたのにボーリングのピンのように一瞬で崩れ去ったぞ…!)
10万catのスケルトンを目の前にして、ルイはあわよくばとサーベルを構えるが気持ちとは裏腹に足が固まって前に踏み出せない。まるで全細胞がこのスケルトンと戦闘することを拒否しているような感覚だ。
ゴクリと唾を飲みながら横を見ると、あのヒックスですら冷や汗を流している。砂忍者の鬼を簡単に捕らえた腕前からもしかしたらと期待していたが、まったく戦意のない表情をしているのだ。
(都市連合領内に神出鬼没に現れるとは聞いていたけどまさかこんな所で出会ってしまうなんて…!)
皆が皆、張りつめた空気の中で蛇に睨まれた蛙のように動けないでいるとティンフィストが先にピクリと動く。それにあわせてルイ達一向は皆一斉に武器を構えるが、スケルトンから発せられる言葉に唖然とする。
「あれれ?あんた達は奴隷商じゃないように見えたけど敵なのかい?それなら相手になるよ!シュッ、シュッ!」
ティンフィストはそう言って拳でシャドーボクシングを始めたのだ。先程までの嵐のような立ち回りと違い拍子抜けするような振る舞いだ。
「お…思ったより人間味のある言葉を喋るんだな…地も涙もない冷血なイメージがあったけど…」
ルイはサッドニールに似たスケルトンへの愛着からか思わず声が出てしまった。
「ん?俺は不殺不敗をモットーにしているんだ。冷血なんて心外だなぁ」
確かに奴隷商は死んでいないように見えるが、皆、瀕死の重傷を負っているようだ。ある者はピクピクしている状態になっていて、放っておくといずれ死ぬだろう。だがいずれにしろ本人は追撃はせず殺すつもりはないようだ。
天然なのか計算された探りなのかティンフィストは小刻みに揺れて笑っているようで益々不気味さが際立つ。
「ルイ。戦うことなんて考えるなよ。このままその女の子を引き取る形で撤収するぞ。奴はルイを知らないからいけそうだ…」
ヒックスが後ろから小声で話しかけ後ずさりし始めるが、皆も目の前で見せられた殺戮劇に戦意を喪失し無言で同調した。
しかしティンフィストの後ろから別の声が聞こえ事態はよくない方向に動く。
「ティンフィストさん、我々もいるのに一人で突っ込まないでください」
新手だ。武器を持っていないが2人のダストコートの男がティンフィストに駆け寄る。スケルトンではない只の人間のようだがこの2人もコートの下に隆々たるしなやかな筋肉を纏っているのが分かり何らかの武術の達人であることは間違いない。
反奴隷主義者。ヒックスの話によると活動人数はさほど多くないらしいが大陸の危険な南東に拠点を構え奴隷を解放することだけに人生を捧げて活動しているらしい。賞金首になっても都市連合領内を神出鬼没に出没し、縦横無尽に荒らし回っている。その過酷な日常が人員を自然と選び抜いたのかティンフィスト然り一人一人が尋常ではないオーラを醸し出しているのだ。
ティンフィスト一人だけでも圧倒されていたのに反奴隷主義者が2人も追加で登場し、ルイ達はこの者達の会話を注視することしか出来なかった。
「いやー戦いが俺を呼んでいるんだよ!」
「ったく。まぁあなたなら一人でも大丈夫ですけど…うん?」
当然ティンフィストの仲間はルイ達に気がつきジロジロと見てくる。そして背筋が凍る発言をする。
「あ、この人、都市連合の英雄だって発行された新聞に載ってたな。名前は確かルイとか言う…」
「え、やっぱり都市連合の兵士なのか?ならばその女の子をはなせ!」
ティンフィストが敵視するようにこちらを見たのでルイも慌てて釈明する。
「え?ちょっ…俺は未所属だ!どっちかって言うとテックハンターみたいなもんだぞ!」
「本当か?怪しいな。そこにいる女の子!君は逃亡奴隷だろう?その人達は都市連合の人間ではないか?」
全員の視線を集めた女の子はしばし沈黙した後、応えた。
「うん。あたしはこの人達に助けてもらったんだよ」
ルイたちは一斉に安堵のため息をはいた。
「そうか!良かったな!じゃあ俺たちはもう行くから達者でな!」
ティンフィストのフレンドリーな口調に終始違和感を覚えつつも何とかその場をやり過ごせるようだ。
反奴隷主義者が去り行く足音が聞こえなくなった時、ルイの背中は冷や汗でビショビショになっていた。
「ありがとう!助かりました!」
女の子のお礼にルイも苦笑いで応える。
「いや、俺達が助けられたよ。名前は何て言うんだ?歳は?」
「シャリーって言うの。12歳よ」
「そっか。一番最年少のメンバーになるな。シャイニングとナパーロ!この子に色々教えてやってよ」
「了解っす!」
「また戦えない食い扶持が一人増えたな…」
ウィンワンはポツリと呟いた。
「しかし、ティンフィストは俺でもヤバイ奴だって分かったぜ!」
「俺も初めて見たがあれを捕らえるには軍隊が必要だな。取り巻きの2人もA級首だったぞ」
S級首に出会った興奮冷めやらぬ中、ヒックスは喋りながら倒れている奴隷商達の息を確認し、包帯で止血など応急措置をし始める。ルイは先ほどまで敵対していた相手に対して救命活動を行うこのヒックスの行動に感銘を受け手伝うことにした。
そして思わぬ形でメンバーが増えたルイ一向は、転がる奴隷商の応急処置を行った後、目的地としていたハウラーメイズ地方入り口の港町付近にたどり着いた。
「着いて早速だが半分づつに別れて作業するぞ。半分はテントと料理の支度をして終わったら寝袋で休憩。もう半分は早めに退避場所を確保するため小さな小屋を一夜漬けで建てる」
ヒックスが手慣れたようにテキパキと指示をしてくれてルイ達は疲れながらも安心して身を任せられた。
作業は夜通しで行われ夜が明けるころには不恰好ながらみすぼらしい小さな小屋が完成する。
「うおおお!ついに我が家が出来た!」
「1人部屋じゃの…」
「襲撃が来たら防衛はドア一枚だね」
「せめて男女用に分けるついたてが欲しいわ」
ルイやシャイニングは歓声をあげて喜んだが、他の者は至って冷静だった。
「さて、疲れているところ悪いが資金集めより食糧を確保しないといかん。ここだとやはり巨大カニが定番かのぉ」
「おう!任せてくれ!3メートル級ももう簡単にいけるぜ!」
ルイは勇んで前に進み出る。
「俺もデザートサーベルを扱えるから一緒に行こう」
ヒックスもどうやら動物向けの武器を持ち歩いているらしく結局まずは2人でカニを狩ることになった。そして残った者は間に合せの壁やトイレ小屋など防衛と生活面の向上を計ることにした。
「ヒックスは賞金首ハンターになってから長いのか?ずっと一人で活動してんの?」
ルイはヒックスと一緒に周辺を探索している際に何気なく問いかけた。
「…ああ、そうだな。3年になる。元々はチームを組んでいたが仲違いしてそれ以来は組まないことにしていた」
「ふーん。じゃあなんで俺達の仲間になってくれたんだよ」
「前に言っただろう。英雄ルイが簡単に道端で死んでしまったら都市連合の市民に悪いだろ」
「えーじゃあ軌道に乗るまで協力してくれるだけか?居心地悪くなかったらずっといてくれよ。トゥーラも喜ぶし」
「なぜトゥーラが?しかしここは良いチームだ。もうしばらくいさせて貰うよ。ルイも今後は信頼出来る仲間をどんどん増やしていくといい。人数は多い方がいいからな」
「今も信頼できる仲間は沢山いるでしょ」
「信頼出来るとはどんな事があっても仲間のために命を投げ出して戦ってくれる者のことを言う。今の面子にそんな人間はいるのか?」
「う…。いるよ。戦えるメンバーが少ない気はするけど…」
「…世の中には戦闘特化した奴隷を売っている商人もいるらしい。落ち着いたら探してみるといいかもな。お、そう言っている内に…」
話終えると同時に前方にカニの集団を発見し2人は戦闘態勢に入った。
一方、拠点居残り組には思わぬ来客が訪れていた。
「ルートヴィヒさん!?」
ロード・オラクルの護衛長だった男だ。
侍集団を従えて豊満な白髪を蓄えたこの老人は相変わらずの険しい顔つきで小屋の前に来たのだ。
「どうしたんですか?オラクル卿の遣いですか?足は治ったんですね」
トゥーラが作業でほこりだらけになった服をパッパと払いながら向かい入れた。
「うむ。お主はルイの付き人だったかな。代表はルイだろう。どこにいる?」
これにはトゥーラも少しムッとして応える。
「ルイは今いません。代理で私が対応しますが何でしょうか?」
「この薄汚い小屋はお主たちの拠点だろう?都市連合領内に拠点を建てた場合、安全を確保している我々に上納金を支払う義務が発生する」
固定資産税を逃れるために敢えて辺境の奥地に拠点を構えたのに領内だと別の料金が発生するとのことだが、嫌味なルートヴィヒの言動と相まって不快指数はMAXだ。
「…いくらですか?」
「3000catだ。それで周辺の治安を守られるのだ。遠征の賞金を貰ったお前たちには安いものだろう」
ウィンワンと相談した結果、比較的平民に人気のオラクルにお金が入るならまだマシと判断し渋々支払うことにした。
その夜、トゥーラは焚き火の側で収支の確認をしていた。この先予定外の出費が続く場合、増えたメンバーを養い続けることが出来ず、経費を管理するトゥーラを悩ましていたのだ。
そこに狩猟から帰ってきていたヒックスが近づいてきて声をかける。
「まだやってるのかい」
「あ、ヒックスさん。今日みたいに定期的に集金に来られるとこのまま収入がない場合いつ資金が底を尽きるかなと思って」
「収入なんて安定してくれば何とかなるもんだ。俺も明日から懸賞首探しも再開する。あまり気負いしないようにな」
ヒックスはトゥーラの頭をポンと叩くと寝床へ消えていったが、その後ろ姿をトゥーラは優しい眼差しで見送っていた。
ここまでで大体、起承転結の起が終わった感じです
読んで頂きありがとうございました
冒頭に軽く人物説明入れてみることにしました