Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
トゥーラ:新米テックハンター。同年代のルイに同行している
ナパーロ/ラックル:ルイ達に買われた多重人格障害の元奴隷
無限のウィンワン:遠征以後、ルイに同行する爺
ヒックス:ルイ達を助ける賞金首ハンター
シルバーシェイド:金で雇われた何でも屋
シャイニング:料理人見習い
シャリー:逃亡奴隷の女の子
襲撃は勧告から始まった。
ルイ達の拠点はみすぼらしかったが外壁と入り口も出来上がり、自給自足態勢も整い大分初期よりは様になって来ている頃、玄関のポストに有らぬ嫌疑が書かれた文書が投函される。
『お前たちは犯罪者の移民を匿っている。問題になる前に追放しろ。英雄リーグ連合』
ルイには英雄リーグ連合などという組織は初耳だったし犯罪者の移民にも心当たりはなかった。強いて言うならシルバーシェイドは前科者だと疑った程度であったが、ウィンワンやヒックスの反応を見るとどうも様子が違う。
「どこかで誰かが奴らに絡まれたかの?」
「ええ、そうでしょうね。少し厄介ですね」
知った組織のようであまり驚いてはいないものの煮え切らない反応をしているのだ。
「お、おい、誰なんだよ英雄リーグ連合って」
ルイの問いに反応してウィンワンが閃いたように応える。
「お主、前にトレーダーズギルドの連中が来た時に冷たくあしらったって言ってたのぉ。奴らチンピラを使って嫌がらせをしてきたのかもしれんな」
暫く考え込んでいたヒックスも同意するように続ける。
「あり得なくないですね。彼らの資金力は国家をも超えると言われている。金さえあれば簡単に動かせるでしょう」
「ええ!トレーダーズギルドってチンピラと繋がってんのか?つーか、英雄って名前なのにチンピラ?」
「ああ、英雄リーグ連合は自分たちが都市連合領内の職と治安を守っている自警団だと思いこんでいる連中だ。しかし実際はプライドだけ高くて人種差別や嫌がらせの依頼を受けて小銭を稼ぐ失業者集団さ。貴族が裏で彼らに汚い仕事をさせるにはもってこいってわけだ」
「なんだそりゃ…」
「まぁ単なる嫌がらせだけかもしれんし、いつでも対応出来る状態にしておくしかない」
犯罪者や移民が特にいない以上、ルイ達が対応出来ることはなく、この件の扱いは保留にしていたが、後日忘れた頃に彼らは訪れた。
その日は幸か不幸かルイ達8人は全員拠点に滞在していた。
「ノック!ノック!あなたの地元の愛国主義者、英雄リーグ連合です!」
覆面のような兜に貧相な鎧で統一つされた7人ほどの男達だ。
最初に応対したのはシルバーシェイドだった。
見知らぬ集団が来た場合、強者が最初に対応出来るようヒックス、ウィンワン、シルバーシェイドの3人がローテーションで門前で作業するようにしていたのだ。そして彼はすぐに襲撃だと判断する。
念のため予め決めていた合図の口笛を吹き、近くで薪などを拾っているだろう仲間たちに知らせる。そんなことも知らずに英雄リーグ連合のボスと思わしき男は言葉を続ける。
「あんたらがこの小さな洞穴に移民を隠しているという噂を耳にした。我々は移民を歓迎していないんだよ。そういうときは駆除するまでさ!捕まえろ!」
ボスの掛け声で英雄リーグ連合は一気に拠点内に入り込んでこようとする。
しかし、シルバーシェイドの最初の一太刀で嫌がおうにもその足を止められる。
すれ違い様に先頭の者がシルバーシェイドの居合い斬りにより脇腹の鎧の隙間から鋭い斬り込みを入れられ、ドロリと腸がこぼれ落ちる。
「ああああ…!」
懸命に手で腸を押さえてがら空きとなっている男の首筋をシルバーシェイドは後ろから綺麗に切り落とす。
そしてビュっと仕込み杖の血を飛ばすと静かに鞘に戻した。
「悪いけどやる気なら手加減しないよ」
相手の命を守る事が仕事に含まれていない場合のシルバーシェイドは実に容赦がない。過酷な世界でさらに生きるか死ぬかの仕事に関わってきたベテランのハイブ人はやはり味方になると戦闘において非常に心強い力を発揮した。
先頭の一人が呆気なく斬り殺された様子を見て英雄リーグ連合の一員は完全に尻込みしている。ボスと思われる男も同様だ。やはり偽物の信念で実際はお金で動かされている者達は自分の命が第一優先であり、手練れを前にすると率先してやり合おうとする者はいなかった。
そうする内にヒックスやウィンワン、ルイ、トゥーラも英雄リーグ連合を囲むように集まってくる。
ルイ達一人一人の実力がシルバーシェイド並みと錯覚している英雄リーグ連合には最早戦意はなかった。
「お、おりゃあ!」
統率なくバラバラにルイ達に襲いかかるが、ヒックスやウィンワンは蚊を振り払うが如く斬り伏せる。
ルイやトゥーラはビビって後ろに少し下がるが、英雄リーグ連合の者もルイをメガクラブを倒した英雄と思っているため深追いせず開いた隙から逃走を試みる。
「あ、待ってくれ!」
ウィンワンに足を斬られた男は片足を引きずりながら逃走する仲間を追いかけていく。
実に呆気ない勝利であったが、このあと予想だにしない出来事が起こる。
どこからともなく遠方の砂山に正体不明の集団が現れたのだ。
それはルイにはどことなく見覚えがあった。ターバンをかぶり軽装の鎧を着込む集団。
「奴隷商か!?」
奴隷商と思われる集団は8人ぐらいと数が多くルイ達の拠点を伺っている。トゥーラもそれに気づき武器を構える。
「まさかこちらを攻める気?」
偶然死傷者を出さない形で英雄リーグ連合を追い払えた矢先に奴隷商が現れ便乗を狙っているように見えたのだ。
「戦闘態勢を継続しろ。トゥーラは年下を連れて小屋に入ってるんじゃ」
ウィンワンが柄にもない事を口走ったことに驚きつつもトゥーラは指示に従い退避を開始していると、どうも奴隷商の様子がおかしい。
先頭のボスらしき者が逃げていく英雄リーグ連合の者達を指差すと、奴隷商の集団は一気に英雄リーグ連合の逃げ遅れた者に襲いかかったのだ。
その後の行為を見てルイたちは奴隷商の目的を悟った。彼らは英雄リーグ連合の逃げ遅れに手錠と足枷を付け奴隷にしたのだ。
「マジか…」
例え徒党を組んでいる組織でさえ弱さを見せた途端に食い物にされる。
食うか食われるかの非常な世界の一端を目の当たりにしてルイは恐怖を覚えた。この戦いで負けたほうを奴隷にしようとしていたのではないかと。
この光景を見ていつも冷静なヒックスでさえ目を見開き立ち尽くしていた。
そして騒動が落ち着いてくると奴隷商の一人がこちらに歩み寄ってきた。
「こんにちわ。都市連合の英雄ルイ殿とそのメンバーの皆様。私はポートサウス奴隷商のカマルクと申します。この度はご戦勝おめでとうございます」
カマルクという者は小太りで細い目付きをした男だった。
ただ、ルイたちに敵意がないことは会話の内容から察することができた。
「俺達が戦っているのを見てたのか?」
「ええ、小競り合いの中にもビジネスチャンスは転がっているものですから。おかげさまで商品を2つほど入手することが出来ました」
「商品って…奴隷のことか?人を物のように言ってんじゃねー」
「ルイ殿。奴隷は人ではないじゃないですか。あなたの考え方には少しガッカリしました」
そう言ってカマルクは髭をいじりながらヒックスやウィンワンのほうをチラリと見る。
「で?俺達にまだ用があるのか?用が済んだら早く帰ってくれ」
「ははは。嫌われてしまったようですな。では最後に一つだけ宣伝させてください。我々は奴隷商の中でも比較的特別な奴隷の販売も行っております。その分、値も張りますが、優良な奴隷ですのでテックハンターの十傑なども顧客になってくれてたりします。ご興味がありましたら是非ポートサウスに立ち寄ってみてください。ではまた…」
カマルクは不気味な笑顔を残すとそのまま新たな奴隷を連れてどこかへ消えていった。
(テックハンターの十傑が顧客…)
ルイが連想する人物は決まっていた。ギシュバしかいない。そしてその奴隷と言えば…
思い出すと悲しくなるからなるべく胸の奥に閉まっていたのだが、ある使命を思い返していた。
先日、ギシュバと最後に会った際にルイはアウロラの遺品の中にあった手紙を渡されていたのだ。その手紙は奴隷商キンブレルという者へ宛てようとした手紙のようだが封がされしわくちゃになったまま出されずにずっとアウロラの手元にあったようなのだ。理由をギシュバに聞いても分からず、キンブレルと言う奴隷商に出会う機会があったら渡してほしいと託された物だ。この時、ギシュバが引退することを明かされておりルイしか手渡すタイミングがないとのことで受け取っていた。
(もしポートサウスがアウロラさんが奴隷時代にいた所だった場合、キンブレルという奴がいるかもしれない。しかしなぜアウロラさんは奴隷商の人なんかに手紙を渡そうとしていたんだろ…)
ポートサウスのカマルク。ルイはその名を覚えることにした。