Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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ルイ:主人公。世界に興味を持ち旅に出た16歳女子
トゥーラ:新米テックハンター。同年代のルイに同行している
ナパーロ/ラックル:ルイ達に買われた多重人格障害の元奴隷
無限のウィンワン:遠征以後、ルイに同行する爺
ヒックス:ルイ達を助ける賞金首ハンター
シルバーシェイド:金で雇われた何でも屋
シャイニング:料理人見習い
シャリー:逃亡奴隷の女の子


50.ロード・ミラージュ戦

「安い挑発にのる必要はない。ヒックス、奴を討ち取れるか?」

 

ウィンワンは相手がタイマンで来るなら対人に慣れているであろうヒックスで一気にケリをつけられると考えた。しかし、ヒックスの回答は意外なものだった。

 

「…いや、奴の得物の野太刀は俺が最も苦手としている武器なんだ。悪いが辞退させてもらう」

 

「なんじゃと?刀系は対人で珍しくないじゃろう。以前も砂忍者の鬼をやったではないか」

 

「野太刀は独特の軌道なんだ。とにかく俺はやれない」

 

意外にも頑なに拒否するヒックスを見て一同は唖然としていたが、その横でルイが出ていく準備をしていた。

 

「いいよ。俺が指名されてんだ。俺が行ってくる。見たところアイツそこまで強くないだろ?」

 

これまでルイは一線級の剣士達を数多く見てきたため、容姿や雰囲気である程度、強さを見定められるようになっていた。

サッドニール等スケルトンがコンバットパワーの計測をするようにルイも経験から動物としての勘が研ぎ澄まされ、相手の力量を感じとれるようになってきていたのだ。

 

「ルイ。と言うてもワシの見積りじゃとミラージュはお主より若干強い。頭領のお主を黙って見殺しにするわけにはいかんな」

 

「お、おい!」

 

ウィンワンは背中の斬馬刀を取り出し、ルイとりも先に門から颯爽と出ていってしまった。

 

ロード・ミラージュは門から歩いてくる白髪の老人を見てわざとらしく両手を上げて肩で大きなため息をつく。

 

「オイオイオイ。ルイって確か女だろー?なんで爺が出てくんだよ。マジで怖じ気づいたのかぁ?」

 

「ワシが真の頭領、無限のウィンワンじゃ。ルイはワシの部下に過ぎん」

 

「はいはい、お前の名前なんて知らん。無名な人間には用はないんだ。茶番はいいから早くルイをだせよ」

 

「お主が世間知らずなだけじゃろう。どうじゃ試してみる度胸がお主にあるか?」

 

「時間が勿体ない。早くルイを出せよ!それ、チーキーン。チーキーン、はい!」

 

ロード・ミラージュは部下に煽るように掛け声をかけはじめ、部下も慌ててそれに合わせ始める。

 

「チーキーン!チーキーン!」

 

ロード・ミラージュは新聞などの媒体でルイの容姿を知っている。知っているからこそ若くて経験の少なそうなルイとのタイマンで勝つ魂胆なのだ。

 

そしてそんな心境をウィンワンもすぐに気づいていた。長年の保守的な姿勢で培った相手の力量をはかる能力は誰よりもするどく、ロード・ミラージュの実力と器の小ささはこの老人にとって一目瞭然だったのだ。

 

(奴はルイを見た目で判断し侮っている。ワシには分かるがルイがメガクラブを倒した度胸と判断力は偶然だけではない。アウロラに鍛えられ、加えてここ数日のワシとの修行で最早基礎は完成している。戦わせてもやれるかもしれん)

 

ただ、万が一ルイが戦いに敗れ、殺されるようなことがあると、いよいよ昔のメンバーに顔向け出来なくなってくる。

 

しかし、こんなウィンワンの葛藤をよそにルイは既に動いていた。単純に相手の挑発に耐えきれなかったことが主な要因だが、一回り成長した実感がある自分の力を試してみたかったのだ。その相手としてロード・ミラージュは適していると直感していた。

 

「随分と人をこけにしてくれてんじゃねーか。出てきてやったぞ。俺がルイだ」

 

「へぇ~写真より可愛い顔してんじゃん。まだ二十歳にもなってねーだろ?」

 

「人を年齢で判断してると痛い目に会うぜ」

 

「まぁいいや、死人が多くでるのも忍びないから俺達でケリをつけようぜ。お前が勝ったら俺達は大人しく引き下がる。負けたらここから出ていけ。どうだ?」

 

「なんで俺達に絡んでくんのか知らねーが、やってやるよ」

 

「決まりだ」

 

ルイが同意すると同時にロード・ミラージュは背中にかけている大きな野太刀をスラリと抜く。この刀のタイプはハーモトーも愛用していたが、いざ目の前で見ると普通の刀よりも反りがあり、刀身も長くて大きいため威圧感がある。

 

これで斬られると傷口に大きな切り込みを入れられて下手すると出血だけでも死に至るだろう。

しかし、ルイはそんなことでは物怖じしない。

デザートサーベルを抜くといつもの無想剣舞の構えに入る。

対して、ロード・ミラージュは弧を描くように野太刀の刃を上側に向け左手で刃先の峰を支えながらルイに向けどっしりと膝を曲げて構える。

 

ウィンワンはこれを見て一筋の汗を流す。

 

(霞みの構えじゃな…。上段系の攻撃に対する防御をしつつ、受けからの払いや突きに転じる。ルイの型は重力を載せた攻撃主体だからどうしても上段系の攻撃が多くなるが奴がそれを計算しているとなると厄介じゃ…)

 

ルイ本人もそこまで把握していたわけではないが直感的にやりづらさを感じていた。

剣舞を繰り出してもドッシリ構えたロード・ミラージュはピクリとも動かず誘いにのって来ないのだ。

 

(こいつ全然動かねーし、かといってあのでかい野太刀は間合いが長ぇのか分からねぇから迂闊に近づけない…!)

 

「どうした?早くこいよ。そのちんけな踊りでよぉ」

 

ギリ…

 

ルイは歯を噛みしめる。

 

この剣舞はアウロラの型を見よう見まねで練習した舞いだ。完成していないのは分かっているがバカにされるとアウロラへの申し訳なさと自分への不甲斐なさで怒りがこみ上げる。

 

(アウロラさんは対人でギシュバさんと並ぶ腕前だと言っていた。だから剣舞が通じないのは俺が未熟で動きがまだぎこちないからだ。剣術をかじっている人間には付け焼き刃の剣舞は逆に見切られてしまうということか!)

 

ルイの推測は当たっていた。

ロード・ミラージュは見た目とは裏腹に剣術の基礎は押さえていて、思ったより戦い方を知っている。

2人が構えてから刃を交えずに膠着状態に入り数分がたとうとしていた。

 

 

 

 

そしてこの様子を遠い丘から監視する2人の男がいた。

 

「おい、いいのか?今のミラージュは相手が死ぬまでやる奴だぞ。このままだとルイは殺される」

 

「生き残れる器じゃなければ死んだっていいじゃないですかぁ。使える駒かどうかはこれで分かります。何ですか?あなた、少しルイに情が沸いてませんかぁ?」

 

「何をバカな…。伸び代のある駒を不用意に削る必要がないと言っているだけだ」

 

「私達に必要なのは伸び代がある者ではなく従順な兵士です。伸び代が大きい人ほどコントロールしにくいのはあなたも学んでいるでしょう」

 

「まぁそうだが…」

 

「大丈夫ですよぉ。適当なところで終わらせます。あなた達の情報が確かですと彼らにはやってもらいたいことがありますからねぇ」

 

 

 

 

対峙する2人の間を風が通り抜けた時、ルイは意を決した。これまで培ってきた自分のスタイルを貫こうと。相手はカニよりも表情豊かな人間だ。霞みの構えからの素早い攻撃は突き主体のはずでルイの隙をついた一点集中の攻撃になるだろう。その瞬間を見定めて剣舞で誘い込み、突きの後のミラージュの隙を逆につくことができると考えたのだ。

 

ルイはいつも通り心を集中させ剣舞を舞い始めた。そして少しづつ間を詰めていく。

 

これを見たロード・ミラージュは心の中で笑った。

 

(勝った…!お前の剣舞は達人の域ではない。お前が俺を誘い込もうとしていることがよーく分かるぞ!しかし、俺は歴代ロード・ミラージュの中でも最強なんだ!俺の突きの精度と範囲を見誤ったようだな!望む通りお前は串刺しだ)

 

ルイの剣舞がロード・ミラージュの射程に入った時。ミラージュは動いた。

落とした膝を一気に爆発させるように踏み込み左手を添えた刃を右手で一気に押し出す。

 

「死ねぇええ!(牙突)」

 

潜血が散り刃先はミラージュの想定通りルイの顔面を貫いた。

 

かに見えたが、刃は頬をかすり微かに血が飛び散った程度でルイはミラージュの突きをギリギリかわしていたのだ。

 

(な…なにぃいいいい!?あり得ない!!完全に射程圏だった!人間の動体視力じゃない!!)

 

ミラージュの渾身の突きは一直線上に爆発的に繰り出せる反面、体が伸びきりその後の隙が長くなる。ルイはそれを見逃さなかった。

 

ひねって突きを避けた体をそのままグルグルと遠心力に変えて、隙だらけのロード・ミラージュの野太刀を叩き落としたのだ。

 

ガキィーン

 

野太刀は形状を変えて地面に跳ねて転がり勝負がついた。

ルイは剣舞を止め、デザートサーベルを丸腰になったミラージュに向けた。

 

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