Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
ルイ、トゥーラ、ナパーロ/ラックル、無限のウィンワン、ヒックス、シルバーシェイド、シャイニング、シャリー
ウィンワンは驚愕していた。ロード・ミラージュの突きはルイの剣舞の微かな乱れを察知した完璧な突きに見えた。しかし、ルイはそれすら誘いだったかのように慌てずにギリギリで避けミラージュを破ったのだ。
(あの子の動き…動体視力は全盛期のボスを彷彿とさせる…!)
ウィンワンはルイにかつてのボスの面影を見ていた。
「ま、待て!俺は貴族の名門バート家の出だぞ!俺に手を出したら貴族が黙っていないぞ!」
ロード・ミラージュは両手を大きく前にだしルイをたしなめた。一方、ルイも聞いたことのある名前に驚く。
「バート家?キアロッシとか言うテックハンターの?」
「…!兄を知っているのか?なんだ、俺達は仲間じゃないか!」
「白々しいな、仲間じゃねーし。バート家ってのはろくな人間を輩出してないようだな」
「と、とにかく俺達はもうお前らに手を出さないから見逃してくれ」
ロード・ミラージュから先程までの威勢はとっくに消え失せ、丸腰のまま若いルイに命乞いするが、英雄リーグ連合のメンバーはその様子を冷めた目つきで見ていた。
「見逃す前にお前たちが俺らを狙ってきた理由を教えろよ。俺達は移民も犯罪者も匿ってなんかいない」
「い、いやそれは…分かっている」
ロード・ミラージュが口ごもっていると遠くから聞き覚えのある不快な声が聞こえてくる。
「いや~素晴らしい!実に見ごたえのある対戦でした!」
声のする方を見ると、パチパチパチとゆっくり拍手しながら男が一人岩山を降りてくる。
「お前は確かトレーダーズギルドのフグとか言う…」
一度見れば覚えてしまうような太くてねっとりとした声とそれに似合わないガッチリした体格のグリーンランド人。簡易的な笠がついた交易用の籠を背負っているのも不自然さに拍車をかけている。
「覚えていてくれましたかぁ。ありがとうございます。まさかとは思い駆けつけてみましたが間に合ったようで良かった」
急いで来て息を切らしているようにも見えるがどうも大袈裟で胡散臭い。
「どう言うことだ?やっぱお前たちが嫌がらせのために英雄リーグ連合を差し向けたのか?」
「ノンノン!とんでもない。この地域に未加盟店があるので襲われていたら大変だと話していたのですが、彼らはどうやら勘違いしてしまったようですねぇ」
フグはロード・ミラージュを見ながら呆れたように語る。対してロード・ミラージュは何か言いたげであるが遮るようにフグが続ける。
「まぁ死人が出る前に止めれて良かったです。お詫びと言ってはなんですが、耳寄りな情報をお教えしますよぉ」
わざとらしく片手を口にあて小声で話す仕草に対してルイは後ずさりするが、フグは構わず喋り始めた。
「ここから海沿いに北に行くとポートサウスという奴隷商の拠点があります。そこでは今、貴重な奴隷を安く売っているようなので延び盛りのあなたたちにとっては良い戦力となるかもしれませんよぉ」
英雄リーグ連合という嫌がらせ集団を当てつつ、急にすり寄ってくるトレーダーズギルドに警戒しつつもフグの口から出てきたポートサウスという言葉にルイは引き付けられた。
「なんでそんな話を俺達にするんだ?何か裏があるのか?」
「裏だなんてとんでもない。あなた達は今や都市連合の市民における英雄です。トレーダーズギルドが会員代を頂くなどおこがましいことでした。むしろ我々は都市連合の発展のためにあなた達のような方々を支援することに決めたのです」
「ふん。本当だといいけどな」
「まぁここから遠くないので試しに行ってみてはいかがです。あなたが探している何かがあるかもしれませんよ」
フグは意味深な言葉を残すと早々に英雄リーグ連合を伴って去っていってしまった。
「お主、よくやったな!なんという動体視力を持っているんじゃ!」
話が終わり駆け寄ってきたウィンワンはバシンとルイの背中を叩いた。
「はは…なんか突きが来るのは想像してたけど思ったよりギリギリだったな」
頬の傷はそれなりに深いようで血が滴り落ちており、医療班の仕事を任せられたシャリーが慌てて拠点から出てきて消毒し始める。
「だ、大丈夫ですか?ケガはありませんか?」
「痛つつ…シャリーもっと優しくやってくれよ。そこがケガしたとこなんだし」
この頃、既にシャリーもメンバーの中に溶け込んできており会話も増えてきたが、割と天然だということも分かってきていた。
「しかし、トレーダーズギルドが出てくるタイミングがそのまんまだったのぉ。奴らが英雄リーグ連合をけしかけたと見て間違いなかろう」
「やっぱそうなのか。ミラージュはもう来ない感じはするけどトレーダーズギルドは信用ならないな」
「うむ。長年の勘じゃが、フグという者にはどす黒い闇を感じるわぃ」
「そうか…。でも、あいつが何を考えているかは分からないけど俺はポートサウスに行ってみようと思ってるんだ」
「なぜじゃ!?ポートサウスのカマルクとトレーダーズギルドのフグが連携して仕組んだ罠だったらどうするんじゃ」
当然ウィンワンは猛烈に反対した。
「いや…。カマルクは英雄リーグ連合を奴隷にしたから繋がっているとは思えないし俺はポートサウスで確かめたいことがあるんだ」
ルイとウィンワンが喋っている中にトゥーラも駆け寄ってくる。
「ルイ。話は聞いていたわ。ポートサウスで特別な奴隷を雇えるなら私達にとっても戦力アップには良い話よ。でもいきなりあなたが行くことはない。ここは私が行って様子を見てくるわ」
「トゥーラが?それはあぶねーだろ。お前奴隷にされやすい顔してるし」
「どういう意味よ!とにかく、視察に行くだけだから戦いに行くわけじゃないし、戦いで役に立っていない分、こういうとこで頑張りたいの」
トゥーラの表情は真剣だった。ルイ一向がチームとして形を成していく一方で目に見える戦果を出せていない焦りもあったのだろう。
戦えない者が外の世界に出ることは非常に危険な事だと理解しつつも、チームの古参としていま自分に出来ることを探した結果であった。
「うーん…。じゃあ傭兵さん達を連れていくならいいよ」
「オーケー。それじゃあ早速用意するわ」
こうしてポートサウスには傭兵達を引き連れてトゥーラが視察しに行くことになった。英雄リーグ連合を追い払ったとはいえまた引き返してくる可能性もあり得るし、戦える者をなるべく拠点に残しておくことは利にもかなっていた。
「ナパーロ、トゥーラのことちゃんと守るんだぞ」
「はい!頑張ります」
ナパーロもヒックスと傭兵契約に行った後、他組織との調整係に興味を持ったようで本人の希望を受けてトゥーラに同行させることになっていた。
「トゥーラ、お前は美人だから危ない男達が寄って来やすいんだ。ヤバそうだったらすぐにナパーロと傭兵さんに任せて逃げてこいよ」
「ふふ、あなた本当男前ね。じゃあ行ってくる」
「気を付けてな!」
トゥーラとナパーロは傭兵4人を連れてすぐにポートサウスへ向けて出発した。
ここから長い苦難が待ち受けているとを知らずに…
トゥーラが旅立ってから数十分が過ぎた頃、ルイ達の拠点は通常運転に戻り住居の増築や間取りの整理などを行っていたが、ルイが外壁の強化をしているとヒックスが旅支度をした格好で現れる。
「あれ?どこか行くのか?狩猟?」
ルイの問いかけにヒックスは真顔で答える。
「いや、やはり俺もこれからポートサウスに向かおうと思う」
「ええ?何でだよ?…あ!まさかトゥーラが気になるのか?」
「…ああ、そうだ。あまり大きい声で言わないでくれ。しばし留守にするがいいだろ?」
「おう!行ってやってくれ!こっちは大丈夫だ」
グッと親指を立てて見送るルイを見てヒックスは「すまん」と一言言って足早に拠点をあとにした。
一方、トゥーラ一向は順調に歩を進めていた。ハウラーメイズからポートサウスまでは海沿いに一本道で迷うこともなく、周辺地域をロード・オラクルが治めてからは治安が良いため傭兵4人を引き連れたトゥーラを襲ってくる者達はいなかったのだ。
「地図を見た感じ2泊ぐらいになりますかね?」
ナパーロはグシャグシャの地図を難しい表情で見ながらトゥーラに質問した。
「そうね。急ぐ必要もないしゆっくり安全に行きましょう。傭兵の皆さんもそれでいいですよね?」
「おう。無茶しないなら俺らとしても願ったりだ」
この世界では既に文明の器機は消え失せており、移動手段はもっぱら徒歩のみだ。たまにブル等の動物に車輪がついた台車を引かせることもあるがそんなことが出来るのはお金持ちの貴族ぐらいであった。
そういうわけで道中は必然と会話が増える。
と言ってもトゥーラが話しかける相手はナパーロしかいない。
「ナパーロも出会った頃から大分身長伸びてきたわね」
「そうですか?あんまり実感ないです。でもトゥーラさん達は大人っぽくなったと言うか若いのにチームをまとめててすごいですよ。特にルイさんなんてどんどん強くなってて尊敬しちゃいます」
「…そうね。ルイはハウラーメイズ遠征に行った所からすごい勢いで成長してるわね」
(それに比べ私なんて……)
殺伐としている世界において戦闘スキルはどうしても目にうつりやすく、無想剣舞という見栄えの良い型を習得したルイはメガクラブを(まぐれで)倒したこともあって何かと話題になりやすかった。このルイの躍進を暴走に変えずに裏から支えていたのはトゥーラであったが、地味で目立たない立ち位置ということもあり、同期のルイに対して自分は何も出来ていない錯覚に陥っていた。
「……?」
そんな中、会話をしている最中にナパーロは急に素早く後ろを振り向いた。
「ん、どうしたの?ナパーロ…?もしかして…今はラックル?」
トゥーラだけが知っているナパーロの二重人格。ナパーロの性格の裏にいるラックルという狂暴な性格だ。
「……」
トゥーラの声が耳に入っていないのかナパーロは反応なしでしばらく後方を見回していたが、ふと我に返ったように喋り出す。
「あれ?どうしました?」
「どうしましたって…あなたいま記憶とんでた?」
「あ、いつものが出ちゃったかもしれません」
「そう…」
ラックルは起きている場合、ナパーロが心身不安定になったり危機的状況になるとある程度自ら表に出てくることがある。今回はいつもと違って普通の状況ではあったが、恐らくラックルが一瞬出てきたのだとトゥーラは思った。
(たまに出てきた時ぐらい挨拶すればいいのに。ハウラーメイズでは私を助けてくれた気がするけどまだラックルは私達に気を許してはいないのかな)
一度ゆっくりラックルと話してみたいと思っていたトゥーラは少し寂しそうにため息をついた。
低評価を貰い若干へこみ中(´Д`)