Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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◆現在のメンバー
ルイ、トゥーラ、ナパーロ/ラックル、無限のウィンワン、ヒックス、シルバーシェイド、シャイニング、シャリー


52.ポートサウスの変

海岸線沿いに長く連なった壁とガッチリとした鉄の門が見え、自分達のみすぼらしい拠点に見慣れていたトゥーラはスケールの違いに驚愕させられた。

 

「こ、ここがポートサウスね。もしかして奴隷商の本拠地アイソケットよりも大きい?」

 

「それに過去に来たときよりも活気がでてるぜ」

 

同行している傭兵もその様相に驚いているようだ。

 

「縮小傾向のこの時代に儲かっているのね…」

 

壁の中からはカツーンカツーンと力強く鉱石を叩く音も聞こえ栄えているのが外からでも分かる。

トゥーラ達は取り敢えず目の前に見える南側の鉄門に向かった。

 

「そこで止まれ。何者か?」

 

鉄門には3人ほどの衛兵が配備されておりトゥーラ達に詰問してくる。

 

「テックハンターのトゥーラと言います。カマルクさんの招待を受けて訪ねました」

 

「トゥーラ…ああ、あんたがルイとコンビの期待の新星って奴か。しばし待たれよ」

 

ハウラーメイズ地方からそう遠くないせいかここでもルイとトゥーラの名は知られているようだ。

 

そして少し待つと覚えのある声が聞こえてくる。

 

「これはこれは遠路はるばるようこそいらっしゃいました」

 

カマルクだ。ポートサウスの三羽ガラスの一人とのことだが、小太りのせいか動きはゆったりとしていて武闘派には見えない。

 

(頭脳派ってとこかしら。他を利用してのしあがるタイプって感じ)

 

英雄リーグ連合とのいざこざの最中に敗者を奴隷化していったカマルクの印象は悪くトゥーラは警戒を緩めない。

 

「まずは奴隷を見させてもらいに来ました。よろしいですか?」

 

「ええ!ええ!結構ですよ!どうぞ入ってください。ご案内差し上げます」

 

そう言うとカマルクは手のひらを向けて中を指し示す。案内のままトゥーラ達は中に入るとそこには驚きの光景が広がっていた。

鉱山を掘る奴隷達とは別に案山子を相手に剣技を磨く奴隷がいるのだ。そしてどの奴隷も健康的な体つきであり服装も奴隷農場とは違いまともだった。よくある栄養失調のイメージはほとんどないのだ。

 

「驚きでしょう?奴隷は使い捨て商品ですが、他と同じじゃつまらない。品質を高めた奴隷を提供するのが我々ポートサウスなのです」

 

「す、すごい…まるで剣闘士ですね」

 

「良い表現ですね。私どもは従順な農夫や坑夫としての奴隷にさらなる付加価値として戦える奴隷を生産することを目指しています。普段は生産ラインとして動き、いざというときに主人の盾となって代わりに死んでくれる人形!どうです、魅力的でしょう?」

 

「え、ええ…しかし、体制維持の出費も大変なのではないですか?食事もきちんと取らせているようですし」

 

「安定するまではマスターを説得するのに大変でしたよ。ここまで来るのに約10年たちましたね。しかし、他では真似できないビジネスにより顧客がたくさんつき、今や支出を大幅に上回る収入が入り、さらなる高品質な奴隷を提供する体制も出来てきております」

 

奴隷商は本拠地アイソケットを中心にして主に都市連合内に複数拠点を持っている。

ポートサウスもその中の一つだが独自の改革により急成長を遂げ最早本拠地を凌ぐ大きさとなっているようであった。

 

(ここの奴隷は他の場所の奴隷より幾分快適に過ごせているようね。でもあの番号は…)

 

トゥーラはあることに気がついた。

奴隷の背中の服の隙間から時折見える黒い数字だ。刺青のように見えるがこれには見覚えがあった。

 

(これってナパーロの背中にもあったような…)

 

そしてトゥーラはちらっとナパーロのほうに目を向けるが、ナパーロのこれまで見せたことのない冷たい表情に凍りつく。

 

(まさかラックルが表に出てきている!?なぜ?)

 

ここからの騒動は時間にしてあっという間の出来事であった。そしてどのような経緯でそうなったのかトゥーラには理解出来なかった。

 

これまで大人しくついてきていたナパーロが急に長剣を抜き先頭を歩くカマルクに無言で襲いかかったのだ。

そんなことをする理由がない状況だったため声をかける間もなかった。

 

ナパーロの剣先はカマルクに到達しようとしていたが、その間際、奴隷商の護衛が素早く反応する。

 

「何をする!」

 

護衛は持っていたサーベルの柄でナパーロの首筋を叩き、その拍子でナパーロは気絶してしまう。

 

ここでトゥーラはとんでもないことが起きてしまったことを自覚する。

ポートサウスの奴隷商にこちらから手を出してしまった形なのだ。しかも相手は三羽ガラスと言われているカマルクに対してだ。

 

「ちょっ…と何を…」

 

頭の中が追い付かないトゥーラに対してポートサウスの奴隷商は容赦ない行動に出る。

 

「奴隷商の我々に手を出すとはなんたる奴ら!この者達を捕らえろ!」

 

カマルクは周辺を囲む大勢の奴隷商人に命令を下し、たちまちトゥーラは取り押さえられる。

 

「待ってください!…ナパーロ!何でそんなことをしたの!」

 

トゥーラは必死に叫ぶが聞いている者は誰もいない。

 

「傭兵の諸君!無駄な抵抗はよしたまえ!この者達は攻撃の意思ありと見て捕らえたが諸君はただの雇われ護衛であり不問とする!早々に立ち去るが良い!」

 

カマルクはトゥーラについてきていた傭兵4人も同様に囲んでいたが手を出さず追い払うことにしたようだ。傭兵組合と揉めないための戦略だろう。対する傭兵も大勢に囲まれ戦意は元からない。しかも護衛対象が勝手に攻撃を始めて勝手に捕らえられたようなものだ。ここで抵抗する義理はなくなっていた。

 

「わ、分かった。我々はもう手を引く」

 

そう言ってそそくさとポートサウスから退散していってしまった。

 

「よし、この者達は牢屋に入れておけ!あとはあいつに任せる」

 

カマルクが去った後、ポートサウスの中にある個別の牢屋に入れられたトゥーラはただただ呆然として気絶しているナパーロを見ていた。

 

 

 

 

一方、事件が起きていることを知らないルイはポートサウスについてウィンワンやシルバーシェイドに聞いていた。

 

「ポートサウスはそんなに他の奴隷商とは違うのか?」

 

「そうだね。三羽ガラスが出てきてから特に勢いを増しているようだよ」

 

「三羽ガラスってカマルクを入れた3人が優秀ってことか」

 

「名前はカマルクとリトホルムとキンブレルだったかな。特にキンブレルってのが切れ者らしい」

 

アウロラが出そうとしていた手紙の宛先の名前が出てきてルイは驚きを隠せなかった。

 

「キンブレルだって!?」

 

「ああ。知り合いか?」

 

「いや…。知り合いの知り合い…だ」

 

「じゃあ他人じゃないか」

 

シルバーシェイドの突っ込みを無視してルイは考え事をしていた。

 

(キンブレルはポートサウスにいた…!しかも三羽ガラスとして!やはりアウロラさんはポートサウス出身だったのだろうか?しかしアウロラさんはなぜポートサウスの三羽ガラスなんかに手紙を書いているんだ…)

 

奴隷商人と奴隷の間で手紙を出すほど友情が芽生えるのは考えにくい。ましてや売り主だったのなら尚更だ。ルイはこの奇妙な偶然に驚きと同時に微かな不安を感じていた。

 

 

 

 

場所はポートサウスに戻る。

 

トゥーラ達がくぐった南門は歓声で沸き上がっていた。

 

「お帰りなさいませ、キンブレル様!」

 

「ご首尾はいかがでしたか!?」

 

三羽ガラスの一人キンブレルが久しぶりに帰還したようで奴隷商人達が出迎えで騒いでいるようだ。

 

「マスターワダはおられるか?」

 

キンブレルと呼ばれる男は出迎える者達とは反対に落ち着いた声でポートサウスの長であるマスターワダの所在を聞く。

 

「はっ!マスターは現在ノーブルハウスにおられます!」

 

「わかった。カマルクは首尾よく出来ていたか?」

 

「はい、カマルク様はご無事です!」

 

「ふん…遠慮したか…連れはどうした?」

 

「傭兵はやらずに返したようです!」

 

「違う、そっちじゃない。まぁいい俺が直接聞く」

 

キンブレルはそのままポートサウス内のノーブルハウスと呼ばれる一番大きな建物に向かう。

 

ノーブルハウスの門には屈強な体の衛兵が2人たっており用件を尋ねるが、「指定グループの適性調査報告」と聞くと納得したのか道を開けた。

 

奥の間には玉座のような椅子に腰かけた老人がさらに多くの衛兵に守られてグラスに口をつけ舌鼓を打っている。

 

「キンブレル、只今戻りました」

 

「…おう、お主か。どこに行っておった。お主もワインを飲むか?今年のは格別じゃぞ」

 

「いえ、結構です。それより調査報告を申し上げます」

 

「…ああ。よいよい、お主の判断に任せる」

 

「はい、マスター。それではレポートをここに置いていきます。後程目を通しておいて下さい。私は継続任務がありますゆえこれで失礼させて頂きます」

 

「よきにはからえ」

 

老人はキンブレルに余り興味がないらしく目も合わせずにワインの香りを楽しんでいる。

キンブレルは表情を変えずに一礼するとその場を後にした。

 

その頃トゥーラは檻の中から目の前に見える眠ったナパーロに呼び掛けていた。

 

「ナパーロ…、ナパーロ起きて…!」

 

ピクリと少し動いたナパーロはやがてゆっくりと起き上がった。

 

「ナパーロ!大丈夫?いったいなんでカマルクに襲いかかったのよ!?あなたはラックルなの?」

 

起きるや否やトゥーラはこんな状況にしたナパーロに問いただした。

 

しかし、声が聞こえていないのか彼の反応はない。

 

「ちょっと!聞いているの?」

 

「……」

 

トゥーラ達がいる檻は小屋の中にあり今は見張りはいない。

ナパーロは問いかけには応えず、何やら足枷をカチャカチャといじりだす。

 

「あなたは…いったい…だ…」

 

トゥーラが何かを言いかけた時、小屋のドアが開き背の高い男が入ってくる。

トゥーラはその男に見覚えがあった。

 

「あ…。え…ヒックスさん…!?」

 

頼れる仲間の登場により助けが来たのだとトゥーラの顔には笑みがこぼれたが、ヒックスの目は笑っていなかった。




休みに入り時間が出来たので今年最後の投稿('ω')
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