Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
ルイ、トゥーラ、無限のウィンワン、シルバーシェイド、シャイニング、シャリー
「ヒックスさん!潜入出来たのですか?助けてください!この牢屋開けられますか!?」
トゥーラは必死になってヒックスに助けを求めた。
しかし、ヒックスはナパーロに話しかけ始める。
「自分で足枷は外したようだな。近衛長にマークされずにお前が中に入れるようカマルクには一芝居うってもらったが、事前演習になったか?なんならカマルクに対しても本気でやってみれば良かっただろう」
「殺ろうとしましたよ。しかし、奴らも本気で構えていました」
「そうか。流石のお前でも襲撃が予定通りだと対応されてしまうか」
「僕はあくまで暗殺専門です。バレてちゃ難しいです」
一体この2人は何の話をしているのか。ヒックスとナパーロが傭兵を雇いにいった際に仲良くなったとしても内容が意味不明だ。
トゥーラは会話に入ろうにも自分が場違いな存在であると錯覚する。
「実行日は後ほど指示する。ついてこい」
ヒックスはまるでトゥーラが眼中にないようにナパーロの牢屋だけ鍵を解除した。
するとそこにカマルクが手下を連れて入ってくる。
「おやおや、帰って来たんだね。予定通り事は進めているよ」
「カマルクか。貴様なぜ余計なことをした?拠点に来るとは聞いていなかったぞ」
「私もルイ一派がビジネスパートナーに相応しいか見ておきたかったのだよ」
「ではなぜその娘を捕らえている?実行日前に揉め事は避けるべきだ。鍵をよこせ」
「断る。これは私の戦利品だ。こんな上玉は早々いないだろ?充分楽しんだ後、性奴隷にする。それにあいつらと揉めた所で大した脅威にもなるまい」
「……好きにしろ。ただし殺すなよ。いずれ利用する機会は来る」
トゥーラは愕然とした。加入から数ヶ月だが頼れる兄貴的な存在としてチームを牽引し、男気溢れる手腕で後輩のルイ達を助けてくれた男ヒックス。
トゥーラには最初にヒックスに助けられた時から少なからず恋心も芽生えていた。
その男がいま目の前でトゥーラを捨て平然と引き下がろうとしているのだ。カマルクと裏で繋がっていたことなどトゥーラにとって最早どうでもよかった。
「ヒックス!なんでなの!?なぜ裏切ったのよ!」
トゥーラは涙を流し力いっぱい叫ぶが、遠のくヒックスの背中を遮るようにカマルクが目の前に現れる。
「ヒックスとは誰ですか?彼の名はキンブレルです。それにあなたのお相手は私が夜にた~っぷりしてあげますからご安心なさい」
カマルクはゾッとするような笑みを浮かべトゥーラをなめ回すように見ていった。
この異変は遅れて2日後にルイ達に伝わっていた。トゥーラを護衛した傭兵が知らせに来たのだ。
「それで!?トゥーラはどうなった!?」
ルイはすごい剣幕で傭兵に詰め寄る。
「し、知らない。殺されてはいないと思う…」
ルイは掴んでいた傭兵の襟首を突き放し、旅の支度を始める。
「ルイ、ポートサウスにいくつもりじゃあるまいな?傭兵の言う通り恐らくトゥーラは捕らえられただけじゃ。聞いた限りではナパーロが暴走したのが発端じゃ。ここは冷静な者が交渉または偵察に行くべきじゃろう」
「その傭兵が言っていることも嘘かもしれねーだろ!戦わずに逃げてきたんだぞ?」
「いや、数的に賢明な判断じゃ。それよりヒックスも向かったはずなのに戻り際で出会わなかったのか?」
「い、いや…見かけていない」
傭兵の返答を聞いてウィンワンは考え込む。
「ふむう…シルバーシェイド、お主偵察は得意か?」
「ん?若い頃はね。今はやりたくないし任務の難易度によっては別料金を請求するよ」
ウィンワンはこの返事を予測していたのか大して驚きもせず準備を始める。
「ワシもこの年じゃと疲れるが…仕方ない、ワシがいこう」
これにルイが反発するがこの時のウィンワンの気迫はこれまでと違っていた。
「頭領が安易に敵地へ行くなと何度も言っておろうが。最早お主は自分だけでなく仲間の命も握っていることを自覚せぃ」
ルイには既視感があった。スケルトン盗賊から逃げる際のサッドニールと重なったのだ。
「じ、爺さんあんたまさか…」
「なんじゃ?ワシが無茶すると思っているのか?安心せぃ、こんなことでワシの命をかけるわけがなかろう」
ウィンワンは豪快に笑い飛ばすと斬馬刀と刀を帯刀し、北へ向かって姿を消した。
ルイは一抹の不安を感じつつも残されたメンバーを集めた。
「聞いての通りポートサウスで事故がありトゥーラとナパーロが捕らえられた。いまウィンワンが状況確認と可能であれば交渉に向かったが、万が一を想定してシャイニングとシャリーにも今からできる限り戦い方を覚えてもらう。いいな?」
「っス!必ず助けましょう!」
残ったメンバーは嫌な顔せずに快諾してくれた。シャイニングはどんなときでも明るくポジティブであり、声を聞くだけでも少し勇気づく。シャリーも天然ではあるが従順に指令を聞いてくれる。2人ともルイより若く戦闘に巻き込むのは気が引けたが、なりふりかまってはいられなかった。
その日からシルバーシェイドを含めた4人で武器の扱いについての修行が始まった。
数日後
(こんなに息を殺して歩くのはモングレル以来かもしれんのぉ)
ウィンワンはポートサウスの外れにある木陰で休憩をとっていた。ポートサウスは警戒態勢をとっているようで、門の警備は固く中に入ることは困難だったからだ。
(オマケに門外にも巡回部隊がいるようじゃ。ちょっと見ないうちにデカイ組織になりおって三羽ガラスの腕前は確かなようじゃな)
茂みから双眼鏡で門を見るが部隊の出入りも多く活発な様子が伺える。
ウィンワンには気がかりがあった。それは当然トゥーラの後を追ったとされるヒックスについてだ。
トゥーラが捕らえられた事を知らないでポートサウスに入った場合、即座に攻撃を受けることになってしまっているはず。ただ、ヒックスならばそのようなドジを踏まずに周辺で様子を見ている可能性もあった。
しかしウィンワンはその痕跡をポートサウス周辺で探したのだが見つからないのだ。
しかも、引き返した傭兵達に声をかけることもしていない。
(その場合、考えられるのは奴がここに来ていないか、ポートサウスの手の者だったということ…ナパーロの暴走は一緒に傭兵の契約をしに行った際に仕組んだか…?奴が奴隷商であれば元奴隷を洗脳することは容易いか?)
経験豊富なウィンワンは頭をフルに回転させてあらゆるパターンを検証していくがその過程でヒックスは限りなく黒に近づいていた。
(ではなぜルイに自ら近づいてきたのか?)
ルイ達は大きな組織ではない。むしろ組織と言うよりかは駆け出しのチームだ。敵対して奴隷にしようとするなら最初に武力を使って仕掛けてくればいいだけの話であった。
英雄としてもてはやされているルイがビジネスパートナーとして適しているか探りに来たが、将来性なしと判断して奴隷化対象に切り替えたか。
最終的にウィンワンはそう結論を出した。
「小僧が…舐めた真似してくれるじゃねぇか…ルイは奴隷どころかポートサウスごとき1組織すら相手にならない逸材じゃ!」
怒りに伴い額に血管を浮かび上がらせ、般若のような形相でウィンワンは立ち上がった。元々、沸点が低く怒りやすい性格を自分でも認識していた。それを踏まえて密偵・偵察に向いていないと発言していたが、この一瞬だけ出した殺気が仇となる。
門前にたくさんの奴隷商を引き連れてヒックスが顔を出していたのだ。ヒックスは周りの者と喋っていたが、僅かな気配を感じたのかウィンワンの方角に顔を向ける。そして、奴隷商を数人差し向けてきたのだ。
「……あいつは!」
(奴隷商と一緒にいる所を見ると確定だなぁヒックスさんよぉ…!この距離で殺気に気づくとはやるじゃねぇか!)
向かって来たのは大柄な男一人と4人の奴隷商だ。腕に自信のあるウィンワンは迫り来る奴隷商を迎え撃つ決心をした。
「ポートサウス周辺を怪しくうろつくお前…何奴だ?」
大柄な男は背中からサーベルを抜くと威圧するようにウィンワンに問いかけてきた。
「聞いて驚くな…無限の太刀の使い手ウィンワン様じゃ」
「ほう。俺はポートサウス三羽ガラスが一人ルトホルム。お前の名前は知っているぞ。ルイ一派だな。大人しく投降するか、俺とタイマンで勝負しろ!」
「奴隷商にも男気がある侍がいるようだのぉ。いいじゃろう、ここで三羽ガラスを削っておくのは悪くない。一つ聞くが先ほど門の前でお主と話していた男は誰じゃ?」
「同じく三羽ガラスが一人キンブレルだ。用があるなら私が伝えておいてやろう。生きていられればだがな」
「なるほどじゃ。三羽ガラス直々にヒックスという偽名を使ってルイチームの偵察に来ていたというわけじゃな。多少は評価していてくれていたようじゃのう、ヒックス…いやキンブレルさんよ!」
ウィンワンは斬馬刀を握り三羽ガラスのリトホルムに激しく斬りかかった。
今年もよろしくお願い致します<(_ _)>