Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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◆現在のメンバー
ルイ、トゥーラ、シャイニング、シャリー


56.重なる訪問者

ポートサウスの新しい代表に就任したキンブレルは奴隷商本部アイソケットのマスターミフネから遣わされてきた使者と会っていた。

 

「では新しい長官は受け入れられないと言われるのか?」

 

厳しい口調で詰め寄る使者に対してキンブレルは落ち着いた口調で応える。

 

「いえ、新体制は上手く機能しており本部の助力なくてもポートサウスは充分運営が可能と言っています。お気遣い頂く必要はありません」

 

「そういうことを言っているのではない!奴隷商の支部として本部の意向をないがしろにするのかと言っている!」

 

「本部の意見は尊重しておりますし、これからも毎月の上納金は納めるつもりです。ただ、地域に合った運用を一番よく知っているのは地域の者です。外部からの口出しは無用です」

 

「ぬぅ、キンブレル!貴様後悔するなよ!」

 

終いには暴言を吐き捨て使者は退出していったが、見送るキンブレルの表情は澄まし顔だ。

 

「ふん。ミフネ卿もここぞとばかりに繁盛しているポートサウスを取りに来たな。彼らの思い通りにはさせん」

 

「宜しいのですか?都市連合の息のかかった者を敵に回して」

 

横で694番が意見するとキンブレルは笑いながら応える。

 

「都市連合は帝国だが弱体化した今はその名の通り都市の集合体であり一枚岩ではない。それに纏めているのは皇帝ではない」

 

「おっしゃる意味があまりよく分かりません」

 

「ははは、そのうち教えてやる。それより話とはなんだ?694番。私は新体制になって忙しいのは分かっているだろう」

 

「はい。トゥーラのことですが彼女は放したほうが良いのではないでしょうか?」

 

この言葉にキンブレル(ヒックス)は作業をピタリと止めて694番(ナパーロ)のほうに居直る。

 

「……なぜだ?今あの娘はカマルクが所持しているだろう」

 

「こちらがトゥーラを持ったままでいるとルイは少人数でも攻めて来ますよ。もしかしてその時の保険ですか?」

 

「向こうの戦力は把握している。せいぜい財産を使って傭兵を連れてくる程度だから問題ないだろう」

 

「それでもこちらに被害は多少出ますよね。それにカマルクもそろそろ殺しておいていいと思いますが……」

 

「奴はポートサウスが安定するまではまだ必要だ。それに革命のためにお前の取得を優先することになったが、俺はルイとの提携を諦めたわけではない」

 

「……今となっては無理だと思いますけどね」

 

「まぁルイ次第だな」

 

キンブレル(ヒックス)はコップに注がれた水を飲みながら窓を覗き遠くを見据えた。

 

 

 

 

 

 

一方で渦中のルイの拠点にはさらに新たな者が訪れていた。

 

「ここにウィンワンって方いますか?」

 

白い道着を着たグリーンランド人でルイと同年代ぐらいの男子だ。その後ろにはダストコートを着た肉付きがガッチリしたスコーチランド人の男が控えている。

 

【挿絵表示】

 

「だ、誰っすか?」

 

立て続けの訪問者にシャイニングも困惑した対応だ。

 

「俺はジュードと言います。こちらはチャド師範です。呼びかけに応じて馳せ参じました」

 

「はせ…さん?」

 

そこに先に来て居座っていたシェク人の女が声を聞いてやってくる。

 

「おおおー!チャドじゃないか!久しぶりだな!」

 

「む、ヘッドショットか。元気していたか」

 

「お前もウィンワンに呼ばれたのか!あの迷惑者がなりふり構わずあたしらに助けを求めるなんてよっぽどだったんだな」

 

「うむ。本当にボスの娘はいるのか?」

 

「ああ、ルイね。奥の部屋でへこんでるよ。ウィンワンも死んでるし、奴隷商とトラブってるようだしボロボロだね、ここは」

 

「なに!あやつは死んだのか!?戦死か?」

 

「知らーん。何も聞けてないんだ」

 

シェクの女がそれ以上喋らなくなるとチャドと呼ばれるスコーチランド人は眉をひそめる。

 

「……埒があかない。私が問いただそう」

 

そう言ってチャドはルイの籠る部屋を訪ねる。中ではルイが武装の支度をしている最中だった。

 

「お主がルイか?どこへいくつもりだ?」

 

度重なる見知らぬ人の訪問にルイは思わず怪訝な表情で対応する。

 

「次から次とあんたら皆ウィンワンの知り合いなのか?爺さんは数日待てと言っていたけど状況が変わったわけでもなく、いたずらに時間がたってしまったし今は急いでいるんだ」

 

せわしなく遠出の準備をするルイに対してチャドと言う男は落ち着いた渋い声で諭すように喋りだす。

 

「ふむ…。私はチャドと言う。ウィンワンが待たせたのは私たちの到着を待つためだろう。まずは事情を説明しなさい。我々はウィンワンと同じく君の父親の元チームメンバーだ」

 

「爺さんと同じ……って、ええ!?」

 

この時、ルイはウィンワンが父親の組織にいたことを初めて知った。そして今、目の前にウィンワンから呼ばれて来たという父親の組織のメンバーがいることで悟る。ウィンワンは自分にもしものことがあった場合に備えてルイの助けとなる者達を代わりに呼んでいたのかもしれないと。そして彼らは来たのだ。

 

「う…くっ…爺さん……」

 

ルイの中で張りつめていた感情が一気に溢れていく。自分の手の中で身近な人が死んでいくのはアウロラの時と重なっていた。しかも今回はこれまで心の奥底で頼りにしていた人が自分のために死んだのだ。そして今また自分の代わりにポートサウスに行ったトゥーラも殺されてしまうかもしれない。相談相手もいなくなった中、10代の女の子がこの状況を一人で背負うにはまだ重すぎたのだ。

 

「そういやボスも泣き上戸だったか?話してみろよ、お嬢ちゃん」

 

後ろでヘッドショットが腕組みしている。

 

ルイは堰を切ったようにこれまで起きた事を泣きながら話し出していた。

 

 

 

10分後

 

 

 

ヘッドショットはルイの頭を撫でながらもらい泣きしていた。

 

「そのヒックス……いやキンブレルって奴はムカつく奴だなぁ!」

 

「うむ。聞いたところだとそいつが主犯だろう。始めからルイを巻き込もうとしている節がある。ちなみに私たちはここに来る途中ポートサウスを通って来たのだが、あそこは今、彼が統治していた」

 

チャドの側で弟子のジュードがウンウンと頷いている。

 

「まじか……、そんなにでかい奴だったんだ。確かにあいつやたら強かったんだ……」

 

「では自己紹介ついでにこちらの戦力の把握をしていこうか」

 

チャドと言う男が今おかれている現状を整理し始める。

 

チャド、ヘッドショット、レイの3人は父親の組織の元メンバーでありハムートと同様に拠点外で活動していたため、組織に起こった毛皮商の通り道における惨事は免れていた。そして帰る所を失った彼らは新しい職を見つけ細々と暮らしていたらしい。

チャドは武闘家としてバークという都市で小さな道場を開いていたが、ウィンワンの手紙を見て道場をたたみ門下生のジュードを伴ってここに来てくれたのだ。

ヘッドショットとレイはテックハンターの下請けで砲兵の仕事を一緒にしていた。

 

「そこにいる少年少女は非戦闘員だろう?このメンバーで今のポートサウスとやり合うのは現実的ではないな」

 

チャドが冷静に言い放つとルイも必死に食い下がる。

 

「残った資金で傭兵をありったけ雇うつもりだ!」

 

「傭兵は当然相手も想定してくるだろうし多く雇えて5、6人がいいところだ。とてもじゃないが相手にならない」

 

「じゃ、じゃあどうすれば……」

 

「それに…我々はウィンワンとは非常に仲が悪かった」

 

急にチャドは突拍子もない事を言い出した。

 

「ええ?確かにウィンワン爺さんは万人受けしないけど…それがなんだよ?」

 

「そんなウィンワンが仲の悪い私たちに頼むほど君とその捕まった友達に見所があるかどうか。救出に命を賭けるほど魅力があるのか我々は判断出来ていない。知っているのはメガクラブを倒す勇気があるということだけだ」

 

これにヘッドショットが驚く。

 

「え、あんたらメガクラブを倒したのかい?」

 

「ヘッドショットはあまりニュースを見ていないから知らないのだろうが、ルイは都市連合ニュースで英雄として取り上げられている。まさかボスの子とは思わなかったがな」

 

チャドの言い分は最もだった。いくらボスの娘だからと言って圧倒的な戦力差のある相手に無謀に突っ込めるほどお人好しにはなれない。ルイもその辺は理解しているようで、ただ相談にのってくれる相手がいるだけでも良かった。

 

「いーよ。あんたらが来なくても俺は行くだけだ」

 

「まぁ待て。真正面からポートサウスの奴隷商とやりあうだけが方法ではない。別の作戦を考えている間に我々が君たちの事を把握する時間はあるだろう」

 

ルイは傭兵との契約を考えると早く出発したいところであった。こうしている内にもトゥーラがどんな目に合わされているか気が気でなかった。

 

「作戦を考えてくれるのは嬉しいけどあんたら4人だろ?人数そんなに変わらないしやっぱ俺は先に行ってるよ。気が変わったら後から来てくれ」

 

「我々以外に増援は見込めないのだろう?ノーファクションのメンバーで生き残り連絡がつく者も我々だけだ」

 

チャドは他にも戦力を期待したようだが現状では助太刀してくれるような組織や仲間は見当たらなかった。

 

そしてこの会話を黙って聞いていたシャイニングだったが自分の母親がいた組織名が出てきて飛びいるように食いつく。

 

「ノーファクションって…!え、じゃあ俺の母親のジュエルを知ってますか!?」

 

これにはルイも混乱しながらも興味深げだ。

 

「ん!?俺の父親の組織はシャイニングの親もいたのか?ってことはノーファクションってのが組織の名前か?」

 

この様子にチャドとヘッドショットは顔を見合った。ルイには厳しい言葉を投げ掛けたが、実はただルイの覚悟を知りたかっただけで、ここに駆けつけた時点でチャドらの意思は固まっていたのだ。そんな中でこんな身近に2世がもう一人いようとは。チャド達はシャイニングの母ジュエルのことも当然知っていた。

ジュエルはノーファクションでコックをしていた。その息子がいまボスの娘のチームで料理人を担当していると聞き強い因果を感じていた。

 

「そうだ。ノーファクションという名前の組織だ。我々はどこにも属さない"無所属"という意味を込めている」

 

そんな中、チャドがピクリと反応し、玄関先に目をやる。皆もつられて振り返るとそこには消えたと思っていたシルバーシェイドが佇んでいた。

 




白い道着で良いのが見つからず、あの組織の服を使ってしまいました(´Д`)
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