Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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◆現在のメンバー
ルイ、トゥーラ、シャイニング、シャリー、ヘッドショット、レイ、チャド、ジュード


57.元奴隷商

「シルバーシェイド……。一体どこに行っていたんだ?後ろの人は?」

 

シルバーシェイドは後ろにターバンを深く巻いて顔が見えないシェク人を従えている。

 

ハイブ人は情に依存しない行動を取ることが多い。今回もルイ達に見切りをつけて早々に撤退したのだと思っていた。そのためシルバーシェイドが戻ってくるなんて想定しておらずルイは面食らった。そんな気も知らないでシルバーシェイドは喋りだした。

 

「やぁ、久しぶり。このまま何もしないわけにはいかないからさ、ちょっと助っ人を連れてきたんだ」

 

「助っ人って後ろの人か?」

 

後ろのシェク人はヒックスぐらい背が高く、背には禍々しいオーラを放つ大きな板剣を背負っており、ルイは嫌な気配を感じていた。

 

「ふん。人が足りないって言うから来てやったが一人でおいおい泣いていたわけではないんだな」

 

ターバンを巻いたシェク人が発した声でルイは咄嗟にデザートサーベルを構えた。聞き覚えのある他人を見下したような声の主…

 

「まさか……ガルベスか!?」

 

人攫いに近い方法でルイとトゥーラを奴隷にしようとした奴隷商専属の傭兵だった男だ。ウェイステーションにて決着がつき、2度と会うことはないと思っていたが、この男が来たことでルイは想定される最悪なパターンをイメージした。シルバーシェイドがガルベスに雇われて再びルイを捕らえに来たのではないかと。

彼等からして見ればルイ達が弱体化している今がリベンジするチャンスなのだ。利己的に動く傾向があるハイブ人が戻ってきたのも合点がいく。

 

「ははは!第二回戦でもやるか?メガクラブを倒したというお前の腕前がどれほど上がったか見てみるのも悪くない」

 

ガルベスはいつでも戦闘OKのようで喜々としている。だが、シルバーシェイドの反応は少し違った。

 

「ガルベスさん、勘違いされるからそういうのやめときましょう。あんたはもう奴隷商を抜けてきたんでしょう」

 

「お、おう。いや、しかしあいつがサーベルを抜くから……」

 

怒られたガルベスは珍しくも口ごもるが、シルバーシェイドは気にせず続ける。

 

「戦力がいると思って傭兵のガルベスさんを連れてきたんだ。さっき言った通りもう奴隷商じゃないから大丈夫だよ」

 

ガルベスは腕組みしてふんぞり返っているがルイは警戒を解くことはしなかった。

 

「んなわけねーだろ!これからポートサウスに殴り込みに行くって時に元奴隷商を信用しろってのか?」

 

ルイの現状ではもうかつての敵を受け入れる心の余裕などない。しかしそんな心境を他所にガルベスは勝手に話を進めだす。

 

「なに!お前これだけの人数でポートサウスと戦争しようとしてたのか?相変わらずの肝っ玉だな!まぁ俺らが来たから何とかなるだろうがな!」

 

ルイは仲間気取りのガルベスを睨み付ける。

 

「ガルベス!あんたもなんで奴隷商をやめてんだよ?しかも遥々ここの支援に来る動機なんてないはずだ!」

 

ガルベスはルイに噛みつかれて言い返すと思いきや、指摘されたことに対して妙にしんみりしている。

 

「い、いや…。ウェイステーションでの戦いの後、考え直してお前たちを探していたんだ……俺はメガクラブを倒したお前の剛胆さに惚れ……」

「探していたってやっぱり捕らえるつもりじゃねーか!そもそもお前はアイゴアの元部下だろう!」

 

かぶせるように発言したこの言葉で一気にその場の空気が変わっていくのを逆上しているルイですら気がついた。そして考えなしに禁句を口走ってしまったことを後悔する。

 

チャドのこれまでの全て包み込む森林のような静かな気配が、溶岩が吹き出す火口の側にいるかのような重苦しい物へと変わったからだ。

まるで今までくつろいでいた虎が獲物を狙い始めたかのように。

 

「……貴様はアイゴアの部下だったのか?」

 

低い声で問いただすチャドの佇まいは背の高いガルベスの前に立ちはだかっても威圧されることなく殺気を放っており、ガルベスの方も瞬時に臨戦態勢に入る。

 

「お前は誰だ?丸腰で俺とやろうってのか?」

 

ガルベスは気負うことなく詰め寄る。ルイはガルベスが短気であることを知っているためチャドに襲いかからないよう急いで間に入るが、チャドも手でルイを押し退けガルベスに反応する。

 

「私は元ノーファクションのチャドと言う。そしてルイはノーファクションのボス、"ローグ・アイゼン"の一人娘だ。アイゴアの元部下が協力したいと言うのならばそれをまず証明する必要があるぞ。シェク人よ」

 

ピシリ

 

空気が乾き何か木片が裂けたような音が響きわたる。

 

「え……?」

 

ルイが初めて自分の父親の名前を知って驚いているのを他所に、殺気が辺りに充満しガルベスはゆっくりと低い声で喋りだした。

 

「証明ね……。ノーファクションの残党が手助けされる側にしちゃあイヤに上から目線だが、いい方法がある。俺がこの場にいる全員を地面にのした上で、奴隷商に引っ立てなかったら裏がないって事になるよな?まぁそん時は怪我人や死人が出ても仕方ねぇことになるが」

 

「それをやる度胸があるのなら仮で認めてやってもいいだろう。貴様は負けた後、命令に従ってもらう」

 

「上等だ。誰からやる?まとめてでもいいぜ」

 

「無論、私が相手しよう。板剣持ちなら広いところが希望か?」

 

チャドも一向に引く気配はなく最早この2人を止められる者はいなかった。

 

ルイはガルベスの実力を大方把握している。板剣という重武器の特性上、手加減も効かない得物のため、チャドが殺されてしまうかもしれない。

何とかして中止させたいが2人の覇気に気負わされ口を挟めないでいた。

 

(まずいぞ……。チャドさんはガルベスの腕前や噂を聞いていないのか?格好からして武術家なんだろうけどさすがに武器なしでやったら板剣の間合いに入った時点で真っ二つだろ!)

 

焦るルイを他所にチャドとガルベスは距離を置いて開始前のウォーミングアップを始めている。

 

「合図やってやるよー。2人とも準備出来たら言いなー」

 

ヘッドショットは能天気な声で開始役を名乗り出て、全く止めようとする素振りさえ見せない。そうこうしている内に2人は視線で準備完了をヘッドショットに伝えてしまう。

 

チャド対ガルベス

 

意図しない形で過去の因縁を背負った2人による決闘が開始されようとしていた。

 

その場にいる他の者達が固唾を飲んで見守る中、2人の間にヒュウーと風が駆け抜ける。その瞬間、ヘッドショットが気の抜けた声でかけ声を発する。

 

「はい、始めー」

 

チャドとガルベスは声と同時に向かい合う。

お互いが間合いを探っているのだろうかルイには判断がつかず、この膠着状態をただ見守るだけだ。

 

その後ガルベスは自分の間合いに相手を入れるため、少しづつ擦り足でチャドに近づく。が…

 

「てめぇ、なめてるのか?」

 

ガルベスは思わず悪態をついた。

 

当然だろう。チャドは何も構えることなく、両手を下げガルベスに向いたまま佇んでいるだけなのだ。通常の剣士や武術家が見れば、隙だらけであり、攻撃モーションも時間がかかる悪手にしか見えない。

しかしガルベスは知っていた。

 

(これは、無の構え……って奴か)

 

達人がこの構えをする時。それは相手の攻撃をいつでも対処出来ると踏んでいる時。

つまりチャドがガルベスを格下と認識しているということ。

それだけならガルベスも単純に挑発にのって怒りに任せて攻撃してみれば良いだけなのだが、無の構えの恐さはその先にあった。

 腕のある者は構えを見ただけでこれまでの経験を元にある程度、相手の特徴を把握することが出来る。しかし今回の場合、板剣の斬撃を掻い潜りカウンター攻撃に入るつもりなのか、スピードに自身があり板剣より先に何らかの攻撃を繰り出すつもりなのか。そもそも利き腕はどちらなのか。無の構えはその名の通り得られる情報がなく、攻撃パターンが全く読めないのだ。チャドがどのような技で仕掛けてくるのか検討もつかないことで、ガルベスは攻撃を躊躇していたのだ。まさに達人同士の決闘ならではの間であった。

かと言って、ガルベスがこのまま様子見を続けるような性格ではない。

 

(糞爺……俺のスピードについてこれると言うのか……。いいだろう!お前は既に俺の板剣の間合いの範囲内にいる。そのまま無表情で気づいた時には真っ二つになってんだよ!)

 

ガルベスは自慢の筋力を全開にして、逃げ場のない横の凪ぎ払いを繰り出した。

一面に突風のような剣圧が吹き荒れルイ達は思わず目を覆う。

 

(どうなった!?)

 

ルイが目を細めながら確認すると、視界にはガルベスしか見えない。

そしてそのガルベスは……宙を見上げていた。

その視線の先にチャドがいたのだ。

 

チャドは凄まじい脚力でジャンプをして、瞬間的に板剣をかわし、そのままガルベスめがけて蹴りを繰り出す。

 

「ぶお!?」

 

綺麗に顔面に蹴りを貰ったガルベスはそのままよろめきながら後方に倒れこむ。そこにチャドが跨がってガルベスの顔面に正拳突きを繰り出した。

 

ほんの一瞬の出来事であった。

 

「はい勝負あり~おしまい」

 

ヘッドショットは呑気に試合を止めたが、周りの者は呆気にとられたままであった。

特にガルベスは目の前で止められた拳を見て冷や汗を流している。

 

「ま、参った……。あんた何者なんだ……?」

 

「言ったろう。ノーファクションの残党だ」

 

そう言うとチャドは拳を引っ込めて手の平を差し出し、ガルベスを引き上げた。

 

「アイゴアの幹部がノーファクションに不意打ちをした理由が分かったぜ……」

 

切れた口を拭いながらガルベスは先ほどまで悪態をついていたチャドを賞賛した。

 

「貴様の年齢では20年前の真相など知らんだろうから不問にしてやる。それより奴隷商から足を洗ったと言うならこれから作戦を聞いてもらうぞ」

 

「……分かった」

 

ガルベスのチャドを見る眼差しは既に尊敬の念に変わっている。シェク人は本当に力こそ正義のようだ。

一方で、一連の流れを見てルイも開いた口がふさがらなかった。あの圧倒的な火力を誇ったガルベスをねじ伏せたのだ。

シルバーシェイドも無表情ながら固まっている。それほどチャドの実力は達人の域まで練り上げられ他を凌駕していたのだ。

 

「さて、交流会も済んだことだし、早速だが私の作戦を聞いて欲しい。集まってくれ」

 

そんな男が改まって声を発すると、皆も黙って集まりだして耳を傾けていた。




次回から本エピソード最後となる
「ポートサウスの戦い」というシーンに入ります('ω')
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