Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
ルイ、トゥーラ、シャイニング、シャリー、ヘッドショット、レイ、チャド、ジュード、シルバーシェイド、ガルベス
数日後
ルイは数人の剣士を伴って拠点を出発した。
トゥーラ達を取り戻すため、目指すは北に位置するポートサウスだ。
全財産を使って契約した傭兵は6人。それに加え数を水増しするために安い値段で酒場にいるゴロツキ2人にも声をかけた。
トゥーラがポートサウスに囚われてまさに1ヶ月が過ぎようとしていたが、それまでの間、ルイは心が安らぐことが一度もなかった。数日前にガルベスが売人のふりをしてポートサウスを調査し、トゥーラの状況を確認していたが、『無事だが憔悴している』という情報から、常に罪悪感、孤独感、喪失感が入り乱れるようにつきまとい不安で仕方がなかった。それほどルイにとってトゥーラは精神的支柱になっていたのだ。
動くまでに大分時間がかかってしまったがトゥーラ救出の現実的で可能性のある作戦を聞き、今は落ち着いた気持ちでポートサウスに向かうことができている。「ガルベスが来たことでピースが完成した」と言っていたチャドはノーファクションにおいて作戦立案など組織の参謀として活動していたようで、実力もさることながらその手腕は充分信頼に値していたのだ。
ウィンワンも死んだ今、ルイ達を騙したヒックス(キンブレル)に会ったら感情的に動いてしまわないかチャドから心配されたが、心の整理もついていた。アウロラの手紙だけはタイミングがあれば渡したいと思い、持ってきてはいたが、今はトゥーラを取り戻すため、示し合わせた通りに動くことだけを考える。
自分達の役割は一団を率いて南門で抗争を起こし深入りはしない。既にポートサウスに潜入しているヘッドショット達がトゥーラを解放するまで、自分達はとにかくキンブレルを南門に釘付ける役目に徹するのだ。
そしてついにポートサウスの南門が目前に見えてくる。
戦いが始まったらもう後戻りは出来ない。
奪還に成功しても失敗しても今後は英雄から一転して懸賞首として生きていかなければならないだろう。ルイについてきてくれた者達も同様だ。しかし、例えこの先いばらの道が待っていようと仲間は見捨てない。トゥーラを助け出し仲間と共に乗り越えていくのだ。
ルイは確固たる決意の元、前を見据えていた。
「来たな。20名ついてこい。ただし、私が指示するまで絶対に手をだすなよ」
キンブレルは双眼鏡でルイ達一団を目視するとポートサウスに警戒体制を発令する。
(想定通りの面子だ。ルイ、シルバーシェイド、シャイニング、シャリーの4人の残党とその他傭兵の格好をした者。残った財産にしては数が多いが…レートが低いゴロツキでも雇い足したな。その中の板剣を背負ったでかいシェク人は数日前に奴隷バイヤーとしてここに偵察に来ていたのを俺は覚えている。その時にトゥーラのいた奴隷小屋の位置も確認していったのだろう。南門を抜く戦力があるとは思えないが……)
10数人の兵力などポートサウスにとってはさほど脅威ではなく、ましてや残っていた者にはシルバーシェイドぐらいしか猛者はいない。
しかし、財産を投げ売り、強大なポートサウスに敢えて立ち向かい、そして戦えば都市連合から懸賞金をかけられることを承知の上でトゥーラ奪還に来ている。となるとルイ達は不退転の覚悟だろう。
『窮鼠猫を噛む』
そういう後がない者達は時に計り知れない力を発揮する場合があることをキンブレルは知っていた。
「よし、こちらも相手が到着するまでに一応準備をしておけ。ただし可能なら彼らはポートサウスに奴隷商として迎え入れる。粗相のないような体制にしろ」
「はい、承知しました」
指示を出した後、キンブレルは深いため息をついた。彼には気がかりな事案が発生していたのだ。
「トゥーラはまだ見つからないのか?」
部下に問いかけるが返事はNOだ。
ルイ達を抑えるためにポートサウスに捕らえておいたトゥーラが昨日から行方不明となっていたのだ。そして問い質す先のカマルクも今は不在であった。
(これだけ探して見つからないとなると既にポートサウスにいないか…またはカマルク邸に移動されたかだな。出入りは俺の部下が厳しく監視しているからやはり後者だろうが……。カマルクめ、殺すなとは言っておいたが、大事な人質を隠して道楽で使うなど、分別のつかぬ男はやはり殺しておくべきだった)
「694番を呼べ」
キンブレルは拳を握りしめて立ち上がった。
後刻、ついにルイとキンブレルは南門外にて対峙した。そして自然と一団の中から2人が前に歩み寄っていき会話が始まる。
「ウィンワン爺さんは死んだぞ」
ルイの第一声だった。裏切ったことでもない。トゥーラを捕らえたことでもない。何より仲間だった者を死に追いやったことを自覚しているのかルイは確かめたかったのだ。
「そうか。その様子じゃ大方把握しているようだが、こちらも幹部が一人死んだんだ。お互い今までのことは水に流してお前は俺達の仲間にならないか?役職を用意する。俺と組んで革命を起こそう」
キンブレル(ヒックス)は過去の事など気にする素振りも見せずに素っ気ない態度でルイを勧誘する。
それが余計にルイを苛立たせた。
「何を言ってやがる……仲良くしたかったならなんで騙したんだ?最初からこうするために俺達に近づいたのか!?」
「いや違う。ポートサウスの革命に694番の暗殺能力が必須だったからそちらを優先したまでだ。俺はお前の力も必要としている。今こうして真摯に語りかけているのがその証拠だ」
「……お前の優先なんて知るかよ!先にしかけて迷惑かけてる以上まずは"騙してご免なさい"だろうが!人間としてお前は最低な野郎だ!アウロラさんには遠く及ばねぇ!」
ルイも和解出来るならしたかった。間違ってこのような成り行きになってしまいそれを懺悔する気持ちがあるのならば、応じたいと思っていた。
しかし、キンブレル(ヒックス)にはその気配は微塵も感じられなかったのだ。
そしてアウロラのキンブレル宛の手紙を出来たら渡したいという気持ちから無意識にアウロラの名前を出してしまったが、これにキンブレルは意外にも過剰な反応を見せる。
「お…お前は…そうか。ハウラーメイズでアウロラと知り合ったのか。……彼女の最期を見たのか?」
「ああ……!立ち会ったさ!んなことよりトゥーラは無事なんだろうな!ナパーロは!?」
「トゥーラは…問題ない。しかしお前達がナパーロと呼んでいる少年の方は自らの意思でここにいる。もうここから出ていくことはないだろう」
「……!どんな暗示かけたか知らねーが、じゃあとにかくトゥーラを渡せ!話はそれからだ!」
「いいだろう。ここでしばし待っていろ」
そう言うとキンブレルは奴隷商の兵士を残してポートサウス内に戻っていった。
戦闘を想定していたルイにとって争わずに済む展開は好ましい状況だった。
また、客として潜入しているヘッドショットがトゥーラを助け出すための時間稼ぎにもなっていた。
一方、ポートサウスに戻ったキンブレルはさらに兵士を集めカマルク邸に向かっていた。やはりルイを納得させるにはトゥーラが必要と判断し、カマルクからトゥーラを奪う必要があったのだ。
(想定した通り奴隷小屋にルイの雇われと思われる2人組が客に扮して来ていると報告があった。トゥーラがいないと分かればルイも連動して攻撃を開始するかもしれない。何かしらの合図を出される前にこの2人も確保しておく必要があるな。そしてカマルク邸はもはや多少強引でも捜索する…)
そんな状況でカマルク邸に向かうキンブレルであったが反対側の北門のほうが何やら騒がしいことに気がつく。
閉鎖している門には兵士が詰め寄り、防壁からはクロスボウ砲台による射撃を行っているのだ。
「野生動物でも襲来したか……?おい、様子を見てこい」
キンブレルは部下に確認を命じそのままカマルク邸に押し寄せるが、もたらされた意外な報告に驚く。
「何?英雄リーグ連合が北門に攻め寄せてきているだと?」
「はい、その数およそ20名とのこと!」
「……」
(恐らくルイの拠点でカマルクが英雄リーグ連合の残党を奴隷化したことの報復だろう。となればカマルクがやったことだ。自分のケツは自分でふかせる。しかしこの悪いタイミングに当たるとは……)
カマルク邸に到着したキンブレルは目的を変え大声で指示を出す。
「カマルク!中にいるのだろう?北門に英雄リーグ連合が来た!お前達の客だ!対応しろ!」
キンブレルの呼び掛けに応じて不在と思われたカマルクはダルそうにノソノソと姿を現し、一団を連れて北門へ向かっていく。
(クズめ…やはり居留守だったか……しかし奴の軍勢ならば英雄リーグ連合は対処できるだろう)
送り出したキンブレルはポートサウスに対して、ルイ一向と英雄リーグ連合が同時に到来していることに、気持ち悪さを感じていた。
ポートサウスの状況