Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
ルイ、トゥーラ、シャイニング、シャリー、ヘッドショット、レイ、チャド、ジュード、シルバーシェイド、ガルベス
南門にルイ一向、北門に英雄リーグ連合を迎え、ポートサウス全体が騒がしくなりつつある頃
奴隷小屋で奴隷の物色をするふりをしていたヘッドショットとレイは予定の檻にトゥーラがいない事と予想以上に奴隷商の監視が厳しいことで動けずにいた。
(ガルベスって野郎が事前偵察時に見かけたってのは本当にこの小屋だったんだろうね?しかし、アタシ達は大分警戒されてて下手な行動が取れないよ。まるで計画がバレているようだ)
「……」
ヘッドショットはレイと顔を見合せる。
数人の奴隷商が小屋内に待機して客の動きに目を光らせており、会話すらままならないのだ。
しかし、ルイと約束した時間が刻一刻と過ぎようとしている。ヘッドショットはトゥーラを確保した際に信号煙を上げる手筈であり、そのタイミングでルイは南門の攻勢を一時的に強めることでヘッドショット達の脱出機会を作る予定だった。そして煙が上がらない場合でも時間が来たらルイの攻撃は実行される計画であった。
ルイ達の攻撃が開始された場合、相対する奴隷商部隊の規模から考えると長く戦闘を維持出来ない可能性がある。
戦闘中に目を盗んで奪還するには少なくとも今は最低限トゥーラの存在を確認しておく必要があるのだ。そんな焦りの中、北門の騒動がヘッドショット達の耳にも入ってくる。
(北門で戦闘が起きている?ルイ達ではないはずだが……)
当然、ヘッドショットにとっても英雄リーグ連合の北門襲撃は想定外だ。小屋の中からチラリと北門の方角を見ても小競り合いが発生しているのが分かる。
どこぞの部隊が襲撃しに来たか、他組織とトラブったのか不明だがある意味この状況はチャンスでもあった。トゥーラ奪還作戦にこの騒動も利用することが出来そうだからだ。
しかし同時に作戦に混乱を来す可能性もある。それはルイの暴走だ。
ルイの視点からだと北門が見えない。この騒ぎに感づいたルイが、ヘッドショット達が失敗したことの騒動だと誤認した場合、ヘッドショットを助けるために南門攻撃を急いでしまうかもしれないのだ。
(幸い南門はまだ戦闘が始まる気配がない。今はやはりルイとコンタクトを取り戦闘を引き延ばすことが先決だ)
ヘッドショットは奴隷小屋を出ようとした。
が、周りにいる奴隷商がそれを妨げる。
「現在、不明の集団が外部から攻撃をしかけてきています。お客様方は安全のためこの小屋にて待機してください」
ヘッドショットは軽く怖がる演技をしてから考える。
(なるほど、そう来るか。やはりアタシ達は身バレしていて、ここに釘付けにしたいようだね。だったら話が早いよ。アタシ達もあんたらの注意を引く係に回らせてもらうとするかね)
「レイ、パターンBだ。チャドに任せる」
「……」
レイはコクリとうなずいた。
パターンB
当初の計画ではルイの本体部隊が陽動となり、その隙にヘッドショット達が奴隷バイヤーとして潜入しトゥーラを奪還する作戦だった。
ただこの作戦もポートサウスの三羽ガラスに読まれ、手を打たれている可能性は充分にあった。実際にルイの到来の前に入ったヘッドショット達でさえほぼグレーとして怪しまれ監視されている。
であればさらに前からポートサウスに潜入している者はどうか。
チャドとその弟子ジュードは5日前から放浪者としてBARの2階宿泊所で寝泊まりをして様子を伺っていた。当然怪しまれないためにほとんど何も行動に移してはいない。武器を持たない武術家であったことも幸いし、この2人は現在ノーマークとなっていた。
ヘッドショット達も陽動に回り、バックアップのチャド達がトゥーラを救出する作戦がパターンBであった。
「Bになるな。我々がやる」
チャドは寝起きを装うために、だらしなく背中をかきながらボソッとつぶやいた。対してジュードは外の喧騒を聞いてソワソワしながら聞き返す。
「え、俺らですか?ヘッドショットさんの結果が分かっていませんが……」
「ジュード、まずは落ち着け。もし小屋に対象がいたならヘッドショットとレイは小屋内の敵を掃除してでも行動に移し信号煙を上げているはずだ。それをやらないということは小屋におらず、何らか連絡を取れない状況になっているのだろう」
「な、なるほど」
さらにチャドの位置からは英雄リーグ連合が北門に来ていることも把握出来ていた。
「奴隷小屋にいないとすると……旧ノーブルハウスの現在キンブレル邸かカマルク邸のどちらかにいる可能性が高い。英雄リーグ連合の襲撃中にキンブレル邸に入るぞ」
「は、はい!」
チャドは北門から遠く、またトゥーラと関係がある事からキンブレル邸を選択した。これによりカマルク邸に向かったキンブレル本体との鉢合わせは回避されたことになるが、それが吉とでるか凶とでるかはまだ誰にも読めない状況であった。
ドサッ…
「何だどうしーー……ぐぇ…!」
仲間が倒れこむ音に気づいて振り返った男に素早い手刀が振り下ろされる。
手薄になったキンブレル邸を制圧するのはチャドにとっては容易いことであった。鍛え抜かれた隠密、暗殺、武術のスキルを狭い屋内で存分に使い次々と留守居の兵士を音もなく葬っていくのだ。後ろからやっとの思いでついてきているジュードも目をキラキラさせながらその様子を見ている。
しかし、その過程でチャドは悟った。
「こちらではなかったようだな」
ため息をつきながら静まり返ったキンブレル邸を見回すが、トゥーラらしき女性はおらずキンブレル自身もいない。
チャドは室内戦であわよくばキンブレルを仕留めておきたいと思っていた。ルイから聞いた情報と三羽ガラスとしての手腕から、キンブレルが相当の手練だと認識しており、トゥーラ奪還後も生かしておいたら追手として脅威になると踏んだからだ。
(キンブレル、どこにいる……?ルイのところか、または北門を対処しているのか?)
ポートサウスの戦況を把握するため、2階の窓から外を覗きこむがチャドはここで違和感を覚える。
「……ありえん。どういうことだ」
戦場となっている北門はキンブレル邸から距離があり、目視は出来ないが、ポートサウス内を走り回る奴隷商の動きや慌てぶり、歓声などから伝わる僅かな揺らぎを感じ取る。それは戦争経験を重ねたベテランにしか分からない僅かな気づきだが、北門の奴隷商部隊が英雄リーグ連合を相手にして劣勢のようなのだ。
(たかがチンピラを相手に全盛のポートサウスが負けているだと?)
見る限り英雄リーグ連合の盟主ロード・ミラージュ本人も襲来している気配もあるが、ミラージュがいたからと言って英雄リーグ連合が劇的に強くなるとは思えない。数も奴隷商のほうが多いのに北門を抜かれそうなほど押されているのだ。
(英雄リーグ連合の質が上がったのか……?そもそもこの襲撃がルイの到来と被ったのは偶然なのか?ロード・ミラージュはルイの到来を把握して攻撃を仕掛けるほど頭の良い奴ではない。とすると……)
チャドはあるゆる推測をしたがどれも確証には至らなかった。だが、この状況を利用しない手はない。
「この調子だとキンブレルも北門に援軍に行くかもしれん。我々はその間にカマルク邸に行きトゥーラを探す。そこにいなければ売られてしまった可能性が出てくるし、ルイの攻撃も開始されるだろうから最後のトライだ」
もはやカマルク邸しかあてがない状況になってきたが、予想通り北門に向かうキンブレルの1団は確認できたため、この隙にチャド達はカマルク邸の正面玄関に一直線で向かった。しかしその先を見ると何やら騒動が起きているのが分かる。
多数のキンブレル兵がカマルク邸を囲み玄関で揉めているのだ。
(キンブレルの兵士とカマルクの兵士が戦っているだと?何が起きている……)
キンブレル兵はそのまま数に任せてカマルク邸に押し入っていく。
「む……!便乗して入るぞ」
「ええ?めっちゃ兵士がいますよ!?やめたほうがいいのでは……!」
「かまわん!中は混乱しているはずだ」
ジュードの制止も聞かずにチャドはカマルク邸に突入した。
チャドは瞬間的にある仮説をたてていた。三羽ガラスはポートサウスを協力して乗っ取ったが、カマルクの性格は野心家かつ姑息な性格と聞き及んでいた。今はキンブレルに付き従ってさえいるが、あわよくばキンブレルを失脚させ自分がトップになりたいと思っていても不思議ではない。そのためルイが来たことが引き金となり、このタイミングで何らか造反する動きを見せたカマルクとキンブレルの間でいざこざが起きているのではないかと。そしてそのキーとなっているのがトゥーラなのだと。
「恐らくトゥーラはここにいる」
根拠のない勘であったが確信めいたチャドの言葉にジュードも背筋を引き締める。このような状況でこれまでチャドは予想を外したことがなかったのだ。
チャド達はそのまま衛兵もいないカマルク邸に正面から突っ込んだ。キンブレル兵とカマルク兵は中で戦闘を開始しており、その合間を縫うようにチャドは奥へと進んでいく。
「2階が騒動の渦のようだ。ジュードは階段で待機し、向かってくる者だけ倒せ。俺は2階を見てくる」
「分かりました!」
チャドはそのまま階段を静かにかけ上がると壁に張り付き聞き耳をたてる。
「くそ!こいつ一体何なんだ!?」
「狭くて一気にかかれない!」
「カマルクの手下にこんな奴いたか?」
覗いてみると、やはりキンブレルの手下とカマルクの手下がやりあっているようだ。
そしてその後ろの方に牢屋の格子が見える。
(ここか……!確定だ!やはり三羽ガラスの間でも何らかの政争が起きている。トゥーラを取ることでルイの矛先をコントロールしようとしているのか?)
そのままチャドはソロリと近づくと背中を向けるキンブレル兵達を音もたてずに気絶させていく。
最後のキンブレル兵が倒れると、布マスクをかぶった一人の男が姿を現した。両手に逆手で短刀を持っており奴隷商らしからぬ雰囲気をまとっている。ただならぬ気配にチャドは思わず問いかけた。
「お主はカマルク兵か?これだけのキンブレル兵を主一人でやったのか?」
布マスク男の足元にはキンブレル兵の死体が複数転がっておりその後ろの牢屋には女性がいるのが分かる。
「そういうお前はキンブレル兵ではないようだが……お前もこの女が目当てか?」
ドスの効いた声で布マスク男が指した牢屋の女性は明らかにトゥーラだ。服装も違い、髪は乱れ精気を失ってうなだれているが特徴から推察出来る。ついに見つけたのだ。
しかし迂闊に近づけないオーラを布マスク男は醸し出している。そしてチャドはこの男の姿に既視感を覚えていた。
(私は一度このような男と戦った事がある……。この服装は奴隷商ではない)
もはや布マスクの男がトゥーラを確保していることは間違いない。この男を倒さなければ救出は不可能だ。
「参る」
布マスクの男も無言で短刀を構えるが、武術家のチャドにとっては相性が悪い上に勝負を急ぐ局面であり苦戦が予想された。