Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
ルイ、トゥーラ、シャリー、ヘッドショット、レイ、チャド、ジュード、シルバーシェイド、ガルベス
「おいおい、マジでルイがポートサウスに攻めこんだぞ」
「あいつ都市連合のお抱えハンターじゃなかったのか?奴隷商とやり合ってていいのか」
ポートサウスで戦闘が始まった頃、遠方の丘の方から3人のダストコートを着た者が遠巻きにこの様子を見ていた。
「何れにしろ出所不明のたれ込みは罠ではなく本物だったようだ。この機会を利用しない手はない。ポートサウスを叩くぞ」
「待てよ、ティンフィストに連絡しておかなくていいのか?」
「ポートサウスは奴隷商の中でも強大だ。連絡している間にルイが片付けられちゃ意味がないだろ。それに俺たちは今回は便乗するだけでヤバければいつも通り撤退すればいいさ」
「おーけー!んじゃ行きますか」
3人の男はポートサウスに向けて走り出した。
「シッ!」「シッ!」
空気を切り裂くような掛け声と共にチャドはキンブレルに対して鉄拳による猛攻を加える。長剣でまともに受けると折れてしまうと判断したのか、キンブレルは強度がある柄の部分を使って拳を防いでいく。
時折、反撃を試みようとするも、神速とも言えるチャドの絶え間ない連撃の前に手を出せず防戦一方となっていた。
この様子をルイは複雑な心境で見守っていた。キンブレルの強さは想像以上であったが、それでもチャドならばこのまま押し切ってキンブレルを倒すだろう実力を持っている。
ただ、一つだけ心残りがあったのだ。ルイは懐にしまっているアウロラの手紙を無意識に握りしめていた。
そんなルイの思惑をよそに渦中のチャドは冷静なる指揮官の顔とは裏腹に心の中で笑っていた。
若かりし頃、テックハンターだった彼はルイの父親と意気投合してノーファクションに参加する。秩序のない未開の地を探検する過程で野盗や狂人との戦闘は日常茶飯事に発生し、そのたびに撃退してきた。資金稼ぎのために名うての賞金首がいるアジトを自ら先頭に立って討伐することもあった。やがて彼の武術は極限まで練り上げられ、個としての最終地点まで到達する。
もはや人間で彼に太刀打ちできる者は見かけなくなっていた頃、人外の生物と戦う事も多くなっていたが、その際、彼は必ずタイマンにこだわった。なぜなら圧倒的なツワモノを前にして人間自らの力がどこまで通用するのか試すこと。いつしかそれだけが至高の領域に足を踏み入れた彼の生き甲斐、喜びになっていたのだ。
ノーファクションが瓦解してから年月が経ち還暦を迎えようとしている現在、衰えることを知らない彼をときめかせる相手、ましてや人間など一生現れないと思っていた。しかし今、目の前に自分の攻撃をかわし続け生きながらえている男がいる。状況はさておきこの戦いを興じられる相手を迎えて楽しまずにいられなかったのだ。
一方のキンブレルに至ってはこの正々堂々のタイマン勝負に全く興味などない。あるのはただこの場を切り抜け勝者となることだけだ。チャドの攻撃は当たれば死を招くと理解している。この生死の狭間の中で極限に研ぎ澄まされていく彼の感覚はやがて勝利への糸口を発見する。
片腕を庇うようなチャドの動き。キンブレルはチャドの攻撃パターンの中から僅かに見える攻撃の途切れを見抜いたのだ。よく見ると左腕に巻かれている包帯からは血が少し滲み出ている。コンマ数秒の世界ではあるが、キンブレルはここに勝機を見いだした。
次に来る左腕の攻撃を柄で受けず、上体を右にひねって避けながらカウンターの斬撃を繰り出したのだ。
長剣が攻撃姿勢であるチャドの左脇腹に入り込む。誰もが思っただろう。しかし、刃が体に触れるか触れないかのところで、チャドの上体も地面につくほど大きく避けるように倒れ込む。
キンブレルからして見ればこのカウンター攻撃を避けるというチャドの驚異的な柔軟性と反射神経には只々驚かされる事実であったが、同時にチャドが態勢を崩していることも把握できた。このまま追い討ちをかけることでチャドを仕留められる。キンブレルは迷わず追撃態勢に入った。
しかし……チャドはこの瞬間を待っていた。
チャドの腕前をもってしてもキンブレルが受け身でいる限り決め手がなく、手傷もたたってジリ貧になる恐れがあった。そこで決着を早めるためチャドは左腕の拙攻を
誘いに乗ったとも知らずにキンブレルは攻勢に出るがチャドは態勢を崩したようにギリギリで避け、右手を地面につけ左足による全力の蹴りを繰り出したのだ。いわゆる卍蹴りである。
視界外からほぼ後頭部を狙った一撃であり、キンブレルも一瞬気づくのが遅れる。チャドの脚力は首を吹き飛ばせるほどの威力だ。今から防御に回っても対して防ぎきれないだろう。チャドは勝利を確信していた。
だが互いに予想外の出来事は続く。
ベキベキと骨が砕ける音と共に、チャドの蹴りを食らったのは近くにいた戦闘奴隷だったのだ。
「……!」
チャドはそのままバク転して一旦後ろに下がると一息ついて声をかける。
「奴隷が主人を身を挺して守るとは大した教育をしているようだな」
勢いで後方に吹き飛ばされたキンブレルも肉塊となった戦闘奴隷を払い除けながら立ち上がった。
「……ああ。俺が育てた奴隷達は集団戦のエキスパートだ。何を優先すべきか理解している。しかし、こちらもお前のような男が在野に眠っていたとは驚きだぞ。知っていれば高禄で召し抱えたものを残念だ」
「貴様は金ですべてを動かせると思っているのか?考えも凝り固まっている。その程度では良くて地方の1領主止まりだな」
「ぬかせ……ここから世に展開していく下地は整いつつある。挑発に乗ってこのままタイマンを続けてほしかったか?……戦闘奴隷!このまま全員片付けるぞ!」
キンブレルはここで戦闘奴隷たちを動かし始める。布地一枚を羽織った奴隷達は様々な武器を持ってジリジリと詰め寄ってくるが、現状これに直接対抗できるのはレイとシルバーシェイドのハイブ人コンビだ。
仕込み杖をかざしながらシルバーシェイドはボヤく。
「この人数を相手にするのはちょっと厳しいね。私の仕込み杖もガタガタだ」
ちらりと隣を見るとレイの鮪斬りも戦闘続きで刃こぼれを起こしていた。
「……皆同じのようだね。トゥーラも奪還できたようだし、
シルバーシェイドは澄まし顔だったがこのとき死を覚悟していた。少し刃を交えただけで分かる戦闘奴隷の強さ。一人一人が自分と同じくらいの腕を有している。もはや誰かが時間稼ぎしないとルイ含め全員がやられてしまうだろう。いつもの自分ならば早々にずらかっていたはずだが、なぜかここに残ったことにシルバーシェイドは清々しさを感じていた。
しかしそれを遮るように男の子が前に出る。
「俺がやるからあんたらは撤退を始めてくれ」
694番(ナパーロ)であった。
「……せっかく今まで感じたことのない感情に浸ってたのに……そもそも君、多重人格らしいけど戦えるの?」
「694番の人格は戦闘に慣れた俺に任せて奥深くに引きこもった。今の俺はラックルと言う。あんた達とは初めましてってとこだが。俺の意思でお前たちを援護する」
ラックル(694番/ナパーロ)はそう言うと短刀を拾って戦闘奴隷と戦い始めたのだ。
一方、目的を果たした今が撤退のチャンスだと気づいたルイも指示されていたこともあり、迷わずに叫ぶ。
「全員撤退だ!!チャド達が抑えてくれている間に負傷者を連れて引くぞ!」
先頭を行くヘッドショットも矢を撃ちながら南門へメンバーを誘導し始めるが、その南門はいつの間にか奴隷商兵士が固めていることに気がつく。
(南門の防衛が復活している……!戦闘奴隷と戦いながらだと恐らく抜けない。一か八か北門に行くか!?)
キンブレルがここに来ている以上、北門の英雄リーグ連合の攻撃も鎮静化している可能性が高くヘッドショットを大いに悩ませた。
チャドもキンブレル達との戦いに手一杯のようで南門の状況に気付いておらず、総合的にこのまま戦い続けても勝ち目は見えない状況だ。
しかしこの時、南門にてさらに予想だにしない出来事が起こる。
ダストコートを着た3人組の男があっという間に奴隷商兵士を蹴散らし南門を制圧したのだ。3人組はその勢いで何も言わずにルイ達に加勢し戦闘奴隷とも戦い始めたのだ。
これにはキンブレルも目を見開いて固まっていた。
(奴らは……反奴隷主義者だと!?なぜ今!!このタイミングで!!次から次とここに来るのだ!!!!)
キンブレルはここで初めて動揺する。
ルイにはティンフィストと同盟関係になるような時間もなかったし、そもそも連絡を取れるようなコネクションもなかったはずだ。そして英雄リーグ連合に至ってはルイ達とは敵対関係でありすぐに和解する事は考えられない。
この3組織による同時襲撃の首謀者は明らかにルイではない。とすると他に考えられる事は……
思考の末に辿り着いた結論にキンブレルの表情は蒼白となっていた。
「……そうか。そういうことだったのか!!!」
何かを察したようにキンブレルがゆっくり振り替えると、奴隷商の兵士が慌てた様子で報告し始める。
「キ、キ……キンブレル様!北門の英雄リーグ連合が再び勢いを取り戻しこちらに迫っています!」
もはやキンブレルは驚きもしなかった。
戦闘奴隷は逃げることなく果敢にも反奴隷主義者やチャドが加わったルイ一向を相手に奮闘していたが、他の奴隷商達は北門の情勢を知って完全に浮き足立ち総崩れとなっていた。
もはや形勢は完全に逆転していたのである。
キンブレルはゆっくり周りを見渡した後、ルイに声をかける。
「ルイ!英雄リーグ連合、反奴隷主義者、おまけに砂忍者とはお前も大した外交家だったようだな」
「!?どういう意味だ!?」
状況を理解していないルイに対してキンブレルは続ける。
「ふっ、冗談だ。それより最後に俺と手合わせしてみないか?」
「は?何を言って……」
突然の提案にルイも困惑した。ルイが戦ったところで当然敵う相手でもないことは誰の目から見ても明らかであり乗るはずがなかった。しかしキンブレルはさらに挑発する。
「そうだ。トゥーラは俺もついでに味わっておいたぞ。ガキの割には具合は良かったぜ。もう誰かの種が付いているかもしれんがな」
この言葉にルイの気配が変化する。
「てめぇ……今、なんて言った……?」
ザワザワと髪が逆立ち普段見せない形相でキンブレルを睨み付ける。ヘッドショットはルイの覇気ある表情に懐かしさと恐怖を思いだし、一瞬止めるのが遅れる。その隙にルイは猛烈な勢いで飛び出しキンブレルに斬りかかった。
キンブレルもそれを紙一重でかわしながらルイに話しかける。
「無想剣舞か!アウロラに教わったのか!?対人の工夫が抜けているぞ!怒りを抑えてみろ!」
型を言い当てるほどの余裕を見せるキンブレルに対してルイも果敢に挑む。
「うるせぇ!トゥーラは……トゥーラはお前のことが好きだったんだぞ!弄びやがって許さねぇ!!」
「この世界では相手の本質を見抜けなかった者は弱者として食われるだけだ!トゥーラも良い勉強になっただろう!殺されなかっただけマシだったのだ!」
「……この野郎っ!!」
ルイは怒りに任せてデザートサーベルを振るうがキンブレルに当たる気配はまったくない。
この状況を見てチャドは危機感と同時に違和感を感じ、助けに入るのを躊躇する。
自分が弟子のジュードに稽古をつけている光景と変わらなかったからだ。
キンブレルはやろうと思えばすぐにルイを殺すことが出来る腕前だと戦ってみて確信出来た。しかし、この男はルイと戦いながらアドバイスをしているのだ。
気づけば戦闘奴隷も倒し尽くされ英雄リーグ連合も中央まで押し寄せており、キンブレルとルイだけが剣を交えていた。
「はぁ……はぁ……!」
ルイは闇雲に攻撃を重ねた結果、肩で息をする
ほど疲れが溜まっていた。
「なんだ?もう終わりか?そろそろ決着をつけるか!?」
キンブレルはカチャリとデザートサーベルを構える。
「まずい!」
ここでチャドは助けに行くことを躊躇していたことを後悔した。キンブレルが初めて殺気を出したのだ。
極寒の中で刺すような冷気を受けるように、ルイもその気配をビリビリと肌で感じていただろう。常人ならばその圧倒的な存在感に気負わされているところだ。
「うおおおおお!」
しかしルイは力を振り絞りサーベルを振りかぶりながら立ち向かった。
その様子を見てキンブレルは一瞬口元が笑ったように見えた。
そして
グサリとルイのデザートサーベルがキンブレルの肩口に食い込む。
「な……お前……!?」
ルイにとっても予想外のことだった。
キンブレルは武器を構えたものの全く動かずにルイの攻撃を受け入れていたのだ。
次回が本エピソード最終回です
ラストはやはり切ない感じ