Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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◆現在の仲間
ルイ、トゥーラ、ナパーロ/ラックル/694番、ガルベス、シルバーシェイド、シャリー、ヘッドショット、レイ、チャド、ジュード


64.胎動

約12年前

 

朝日が最初に差し込む大陸の最東端、禁忌の島。

この地に一人のグリーンランド人の男が歩を進めていた。

 

「まさかこんなところにこれほど大きな工場があるとは……」

 

男は目の前にそびえ立つ倉庫のような建物を前にすると脇にさした刀を抜き慎重に中に入っていく。

 

床は金属でできているようで、誰もいない空間に男の足音だけが怪しく響き渡る。

 

「こ、これは一体……。ん?誰だ!?」

 

いつの間にか男の背後に一体のスケルトンが立っていた。手には鏡のように光り輝く杖を持っている。男は剣先をスケルトンに向けていつでも戦えるようにした。

 

「私はここの工場長をやっています。あなたは私有地に侵入している。違法です」

 

「ふーん、スクリーマーmk2か。相当古いスケルトンだな。ということはこの工場も古代の……」

 

スケルトンの敵意ある物言いに対して男は全く動じずに独り言を呟いていたが、次のスケルトンの言葉でその余裕が破られる。

 

「テックハンター14位アードルフ・カイヤライネン。あなたを法に基づき対処します」

 

「!!」

 

男は思わず飛び退いた。

未開の地で初めて会うスケルトンに自分の名前を言われたのだ。しかもテックハンターの肩書まで知っている。

 

「お前……どこで俺の名を知った?」

 

男は臨戦態勢を崩さずに問いただすが、無骨なスケルトンは無言でジリジリと間を詰めていく。

 

「応えないか。まぁいい。お前の武器は杖だな。相性も悪いし……ここは一旦退かせてもらうぜ!」

 

そう言うと男はもと来た道を全力疾走で逃走しだす。かっこ悪いように見えるが、テックハンターがこの世界で長らく生き延びる術は強さだけではない。相手の力量を見定めて自分が傷を負う可能性があるならば潔く撤退し、情報を持ち帰った上で対応できる戦力でリトライすること。それがこの業界における鉄則だった。

これは上位のベテランテックハンターであるからこそ自然と身についている所作であった。

 

しかし、退路を頭に入れて用心深く侵入していた男に不運な出来事が起きる。

 

逃走経路の先にゴソリと動く影を発見したのだ。

 

「ちっ!こっちにもスケルトンがいやがる。一体どこから湧いて来やがった!やるしかねぇ!」

 

目に入ったのは先ほどのスケルトンと同じスクリーマーmk2型だ。

工場内の狭路でスケルトン2体に挟み撃ちされた格好になり男も覚悟を決める。

 

逃走先にいるスケルトンに対して走りながら刀を振るう。

 

ガキーン!

 

しかし、そのスケルトンは反撃してこなかった。男はそれを察知してすんでのところで壁に刀を当てて止めたのだ。しかも……

 

(ん?このスケルトン……手負いか?)

 

スケルトンは傷ついていた。

そしてここで、男が攻撃のためにスピードを落としたのが仇となる。

後方から追ってきたスケルトンの杖による攻撃が男の足に直撃したのだ。

 

「ぐっ……」

 

ヨロヨロとふらつく男に対して追ってきたスケルトンは追い打ちの言葉を言い放つ。

 

「スラル共、排除しろ」

 

「!!」

 

この声と共に複数の頭のないスケルトンが音を立てて男に襲いかかっていった。

 

 

 

 

 

 

 

Kenshi -20years later-

禁忌の島

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポートサウスにおける奴隷商との戦いから1ヶ月後

 

 ハウラーメイズ付近にある拠点に戻ったルイ達は都市連合や懸賞首ハンターの襲撃に警戒しながら、細々と狩猟などで自給自足の生活を送っていた。

 

これまで拠点やメンバーに特に目立った攻撃もなく、様子見のために単身で都市連合に潜入しているチャドからも懸賞金をかけられたという報告の使いが来ることもなかった。

 

「先日、普通に都市連合から上納金をせがまれたけど懸賞金かけられずに済んだってことかな?どう思う?ジュード」

 

ルイはしばらく平和だったため気が抜けていた。拠点内では鎧さえ脱ぎ、まとっているのはボロボロのシャツぐらいで胸元がゆるく2つの膨らみが大分見えている。そんな格好でテーブルに並んで座っているジュードに話しかけた。

チャドの付き人としてここに来てくれたジュードはルイと歳が同じくらいの青年であり、武道をやっていたせいか、受け答えもしっかりしており最近はルイの暇つぶしの相手となっていた。

 

「い、いや、知らないよ。どっちかって言うと奴隷商の報復を気にしたほうがいいんじゃない?というか俺、そろそろ修行してきたいんだけど開放してくれないかな?」

 

ジュードはチラチラと無防備なルイの胸元に目をやりながらも自制心を保つように律儀にこたえた。

 

「ええー……お前も修行かよ。トゥーラも帰ってからずっと修行って言って座禅組んでばっかで話してくれないんだよね」

 

ポートサウスの一件以来、トゥーラは修行場としていた場所に一人赴き考え事をすることが多くなっていた。

 

「俺も日課をこなしていないと師範に後で怒られちゃうんだけど」

 

「やってたことにしちゃえばいいじゃん。俺が証人になるし。つーかちょっとぐらいサボってもバレないでしょ」

 

「師範は普通に気づく人なんだよ。洞察力半端ないし」

 

「それはお前が男のくせに堂々としてないからじゃねーの?」

 

「う、うるさいな。師範が凄すぎるだけだよ」

 

「ふーん、そういやチャドさん滅茶苦茶強いけど、テックハンター十傑には名前なかったし、何やってた人なの?」

 

「師範はひたすら武を追求してきた方だ。世界の果てで未確認生物とも戦ったり、人類存続のヒントになるかもしれない生物も見つけたこともあるらしい。テクノロジーを見つけることだけが貢献じゃないよ」

 

「ふーん。そういうもんなのか」

 

「そうそう。だからテックハンター十傑だって技術だけでなく総合ハンター十傑として見直すべきだと思うんだ」

 

鼻息を荒くして力説していたジュードであったがこれに真っ向から異議を唱える者がいた。

 

「私はそう思わないわ」

 

トゥーラだ。

彼女はポートサウスの一件以来、何か吹っ切れたようで以前の迷いは消えていたが、男に対してきつくあたる傾向が出ていた。

 

「結局古代のテクノロジが今の科学技術を押し上げる大きな要素だし、それで今の人類もなんとかやっていけてるのよ。強さとか名誉なんかより結局、技術発見の貢献度が大事なのよ」

 

「まぁそうだけど……。そういえばルイの父親って本当にあのローグ・アイゼンだったのかい?」

 

ジュードは言い合いを嫌ったのか話題を変えた。

 

「!!」

 

これにトゥーラが驚いてルイの顔を見る。

 

「い、いや、俺もチャドさんから初めて聞いたんだ」

 

「十傑の4位だろ?上位ってほぼ不動だし、君も既にメガクラブ級を10匹倒したみたいだし一体君たち何者なの?」

 

「いやいやいや、それ話に大分尾ヒレがついてる」

 

尊敬の眼差しでルイを見るジュードの様子にトゥーラは人知れず拳を握りしめる。

 

「ん?トゥーラどうした?」

 

「……何でもないわ。それよりあなたその格好ちょっとだらしないわよ。あとショーバタイの都市に行きたいのだけどそろそろいいわよね?」

 

「ああー、トゥーラの実家だよね。チャドさんが都市連合を偵察してくれているけど、結局手配書が出てないみたいだから大丈夫だと思う!でも誰かと一緒じゃなきゃあぶねーな」

 

「だったらヘッドショットさんと行くわ。あの人も相当強いでしょ?」

 

「そうだな!あ、でも面倒くさがりだからついて来てくれるかどうか……」

 

「私から頼んでみるわ」

 

「そ、そか」

 

話し終えるとトゥーラはすぐさま防衛にあたっているであろうヘッドショットの元へ向かってしまった。

その後ろ姿をルイは複雑な表情で見送っていた。

 

そこに入れ違いでガルベスがやってくる。

この男はポートサウス戦後もチームに残り失った片腕を復活させる機会を見計らっていた。

 

「おい、俺が正式にチームに入ったことはトゥーラに伝わっているよな?」

 

「ん、ああ。言ったよ。どうした?」

 

「いや、毎回すれ違いざまにすげぇ形相で睨まれるんだよ」

 

「お前を嫌ってるんだろ。それだけひどいことしてきたし。つーか、お前も自主的に近づかないようにしろよ」

 

「無茶言うな、こんな狭い拠点で!もうポートサウスから奪った資金で拠点拡張しようぜ!義手も早いとこ手に入れたいんだが!」

 

「わーかった。そのへんは考えてるから待ってろよ」

 

「頼むぞ」

 

シェク人のガルベスは強い者に対しては尊敬の念を抱く。かつて主人だった行商人グンダーに向けたような高圧的な態度は影を潜めていたので、ルイもガルベスの扱いにはさほど苦労はしていなかった。新加入したレイなど他にも期待できる戦力が増えたことによる余裕が出来た事も起因していた。

 

「やっぱトゥーラのこと気になるからヘッドショットさんとこ行ってくるわ。ジュードもちゃんと修行しておけよ」

 

「〜〜……君が拘束してたんだけど!」

 

ジュードの反論をあしらいながらルイは小さな小屋の外に出る。

 

そこは鉄板で出来た間に合わせの壁に囲まれており、一応玄関の扉らしきところにヘッドショットとレイがボウガンを構えて立っていた。

 

「あれ?トゥーラ来なかったです?」

 

「来たよ。ショーバタイに行くの誘われたぞ」

 

「そうそう。一緒に行って上げて貰えないっすか?」

 

「やだよ」

 

「ありがとうございます……って、ええ!?」

 

「なんだよ、驚いたりして。そんなお守りみたいな面倒くさい事、アタシがやるわけないだろ」

 

「え?じゃあトゥーラどこ行ったか分かります?」

 

「んー?結局シャリーってガキと行ったみたいだぞ」

 

ルイは愕然とした。ヘッドショットというシェク人の女は初見では人の心にズケズケと土足で入り込んで来て相手の事を考えない人だと思っていたが、情に脆く、ポートサウス戦においては精神的支柱と言えるほどルイを助けていた。

しかし、一緒に暮せば暮らすほど大雑把で極度の面倒くさがりであることが分かってきたのだ。

 

「はぁ〜……」

 

(人付き合いって難しいな……)

 

「なんだよ。ため息ついて」

 

「い、いえ。トゥーラ大丈夫かなと思って」

 

「あー?大丈夫に決まってるだろ。あいつは自分のケツは自分で拭けるよ。目を見りゃ分かる」

 

「…………」

 

確かにヘッドショットの言う通りであった。

トゥーラはポートサウスの一件以来、顔つきが明らかに変わっていた。

以前は生き物もろくに殺せなかったのに最近はボーンドッグの狩猟も平然と行えている。

 

健気にも気丈に振る舞う昔のトゥーラとの掛け合いが好きだったルイは最近、違和感を持っていたのだった。

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