Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
ルイ、トゥーラ、ナパーロ/ラックル/694番、ガルベス、シルバーシェイド、シャリー、ヘッドショット、レイ、チャド、ジュード
トゥーラ達が拠点に帰宅したのは7日後であった。
そしてその夜、禁忌の島遠征をメンバーに対して申し出たのだ。
都市連合内に手配書が回っていないことが確認出来た今、テックハントを行うことに反対する理由はない。しかし、メンバーには難色を示す者が多かった。暇を持て余しているルイが意外にもそのうちの一人であった。
「おい、トゥーラ。随分急だしなんかお前変だぞ。ショーバタイも何で戦闘員でないシャリーと行ったんだよ」
「それは心配かけて悪かったわ。でも急いでいるのよ」
「早くそこに行きたい気持ちは分かるけどさ、計画的に万全を期して物事を進めるのが一流のテックハンターだってトゥーラが言ってたじゃないか。チャドさんが戻ってくるまで待ったほうが戦力的にいいだろ?」
予想外に反発するルイに対してトゥーラは一瞬何かを言いたげに前に乗り出すが、気を静めるように坦々と応えだす。
「計画しているからこそ間に合わないの。それに皆に来て貰う必要はないわ」
「ええ?何いってんだよ。禁忌の島ってヤバいとこなんだろ?戦えるメンバーが行ったほうがいいじゃん!」
この言葉にすぐさまヘッドショットが反応する。
「そんな危険なところ私は行かないからね?遠いし面倒くさい。レイもだよ」
ルイは先手を打たれた形になった。結局、なんだかんだ現状色々な面で頼りになるのはヘッドショットであったからだ。
「う……ヘッドショットさん行ってくれないッスか……。ガルベスも義手がまだないし……。シルバーシェイドは?」
仕込み杖を調整しているハイブ人のシルバーシェイドが視線をこちらに向けて答える。
「特別手当を請求することになるよ」
相変わらずの返答だ。ポートサウスの財産は短期間であったが回収出来るだけしてきた。しかし人数が増えた今、運営費以外にお金を使う余裕はあまりなかった。
「うーん、行ける人いないじゃん!あ!ラックルは起きているか?」
ルイはナパーロのほうを見る。ポートサウス戦以降、ナパーロがラックルそして694番の3人の人格、いわゆる多重人格であることを把握し一緒に生活をしていた。
ラックルら人格もこれまで存在をナパーロに隠していたが、互いに共存を受け入れていた。
普段は人付き合いが可能なナパーロの人格が表に出ているが、ラックルの人格は冷酷だが戦闘面で頼りになる存在であったのだ。
「行ってもいいみたいです」
ナパーロが代わりに応えた形だ。ラックルや694番の意思はナパーロを通じて伝えることが出来た。
しかしそれに強く反発したのはトゥーラだった。
「ちょっと!一度裏切ったメンバーなんかと一緒には行けないわ」
「いや……ナパーロ達は多重人格だって理解しただろ?それにロクシー(694番)も反省してんじゃん」
694番の人格は消滅したのではないかと思えるほどほとんど表に出てこなかったが、今後ルイ達に協力することを宣言したため、ルイ一派も受け入れていた。ロクシーという名前は番号で呼び続けるのも違和感があったのでルイが命名した形だ。
「敵対していた人格をよくもそう簡単に許せるわね。とにかくメンバーはこの中から募る必要はないのよ」
「……どういうことだよ?」
「今回もハウラーメイズ遠征の時と同じようにチームが組まれるの。私もその一員として参加してくるのよ」
「え!?そんな募集あったのか?」
手配書が回っていないかハウラーメイズ地方は何度か確認しに行っていたが、そのような宣伝が出回っていたらルイは真っ先に飛びついていたはずだった。
「公にはなかったけどハンティングリストに載ったの。たぶんハウラーメイズを取れたことにより禁忌の島攻略が現実味を帯びたようね」
「ハンティングリスト?」
「前に説明したじゃない。テックハンター順位50位以内に入ると協会から様々な依頼がリストになって仲介されるようになるの。禁忌の島がリストに載ったのは数十年ぶりのようよ。だからこの機会を逃したくないの」
「おお!そういうことか!誰が依頼主なんだ?もしかしてロード・オラクルか?」
「いえ、レディー・ミズイという貴族みたい」
「知らん名前だな」
ドスの効いた声でガルベスが横から口を挟んだ。元奴隷商であり都市連合とも多少は繋がりがあるため度々貴族社会の情勢をアドバイスしてくれていたのだ。しかしトゥーラはガルベスには目も合わせずにルイに話し続ける。
「出来ればマシニストのように純粋に科学技術を追求している機関が依頼主になったほうが安心なんだけど、貴族である分、今回の依頼料は高額よ」
「マジか!いくらだ?」
「前金で1万catで未知のテクノロジーを持ち帰ると1図面につき20万catみたい。段々私達も都市連合お抱えハンターになってきたわね」
「すげー!当分困らないじゃん!俺とジュードも行くぜ!」
ルイは喜び勇んでいるが、突然名前を出されたジュードは困惑する。
「ちょ!なんで俺も行くことになってんの」
「お前チャドさんの弟子なんだから武術の達人なんだろ?未開の地に行って腕試ししたいっしょ」
ルイがジュードの背中をバンバン叩いている様子を見てトゥーラは軽くため息をつきながら呟く。
「ルイとジュードなら私も問題ないわ。皆、異存がなければ明日にでも出発するけどいい?」
「明日!?随分急だな!この後の運営のこととか決めてないんだけど!」
慌てているルイの横でヘッドショットがボウガンの手入れをしながら応える。
「アタシが適当にやっといてやるよ。ってか本当に行くのかい?アンタらレベルが禁忌の島なんて行っても良い結果をもたらすとは思えないだけどね」
ベテランから唐突に言い放たれる非情な宣告にルイ達は思わず固まる。
「そ、そんなヤバいんすか?トゥーラ、俺らだけで本当に大丈夫か?」
「……平気よ。詳しくは道中で話すわ」
結局、自らの行動は自己責任になるこの世界で無理に引き止める者はおらず、翌日、ルイ、トゥーラ、ジュードの3人は仕度をして早々に拠点を旅立つことになった。
「アンタらが帰ってこなかったら財産は山分けしてこの拠点も引き払っておくからね」
ポートサウス戦を助けてくれたヘッドショットとは到底思えない実に無情な言葉を別れ際に頂き、さすがのルイも不安が募っていく。
ハウラーメイズ遠征で成功を収めたとは言え、そもそも禁忌の島は若手のテックハンターが安易に手をだせるような場所ではないことはルイでも知っているのだ。
禁忌の島は大陸の最東端にある地域であり、ちょうどテックハンターの拠点ブラックスクラッチから北東に行ったところにあった。
都市連合の領土からも近く行きやすい場所であったが、これまで誰も手を出そうとしないのには理由があった。一つは近くに攻撃的なカルト集団の村があること、そしてもう一つは禁忌の島では古代の兵器アイアンスパイダーが闊歩しているとの噂があったからだ。名前の通り鉄でできた蜘蛛型のロボットである。古代文明の科学技術で作り出され、主人のいなくなった今でもこの地域を徘徊しているようなのだ。
大陸と陸続きであるにも関わらず島と呼ばれる由来もこのように孤立した地形と恐ろしい噂から今日まで忌み嫌われ避けられ続けたゆえであった。
「トゥーラ。地理的にブラックスクラッチから回って行くのか?あっちは道中もリーバーとか出るし危険だぞ。どこかで他のテックハンターと合流するのか?」
拠点を出てすぐにルイは問いただした。感覚的にハウラーメイズ遠征以上に大規模部隊で行かないとまずいのに集合するような気配はなく、一体トゥーラが何を考えているのか分からないのだ。
「ハウラーメイズの都市まではこの3人でも大丈夫でしょう」
「ハウラーメイズ?そっちに行っても禁忌の島には行けないじゃん」
「船で渡るのよ。港町が出来て船を出せるようになったそうよ」
ハウラーメイズの半島の先端には元々港町の跡地があった。トゥーラが仕入れた情報によるとそこをロード・オラクルが本格的に漁村として活用して漁業を始めていたのだ。そこから禁忌の島は目と鼻の先であった。
「マジか!そりゃあ一気に中心部にいけて楽だな」
「ええ。目指す場所も中心部にあるとされている建物みたい。今回はそこの調査だけだから選抜したテックハンターのみで達成出来る見込みみよ」
「選抜って……もしかしてまた面接があるのか?俺ら無理なんじゃあ……」
「何言ってるの。もう私達は受かっているわよ。私達だって一応50位以内なんだし、それに今回うちのチームリーダーがすごい人だから大丈夫よ!」
トゥーラが急に嬉しそうに語りだした。
「リーダー?誰か一緒のチームになるのか?」
「ふふ。会ってからのお楽しみよ。とにかく今はハウラーメイズの都市へ急ぎましょう」
全てを語らずズンズンと前を行くトゥーラを他所にジュードは懐疑的な視線を送っていた。
「おい、ルイ。あの女大丈夫なのか?」
聞こえないように小声でルイに質問する。
「俺よりはちゃんと考えてる奴だよ。それに禁忌の島はトゥーラの父親が行方不明になった場所で、前からずっと目指していた場所なんだ。今まではトゥーラが俺の我儘にずっと付き合ってくれていたから今度はあいつの行きたい場所に行かせてやりたいんだ」
「そ、そうなのか」
禁忌の島を目指す理由を聞いてジュードは何も言えなくなった。ルイに半ば無理矢理連れてこられた手前、少なからず同行することに不満があったが、自分も親と崇めるチャド師範が行方不明になったとしたら、恐らく何も考えずに真っ先に駆けつけてしまうと思ったからだ。
各々が抱く思惑を胸にしまい、一向は一路ハウラーメイズを目指すのであった。