Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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【遠征組】ルイ、トゥーラ、ジュード、(リドリィ)
【拠点滞在】ナパーロ/ラックル/694番、ガルベス、シルバーシェイド、シャリー、ヘッドショット、レイ
【偵察中】チャド


69.禁忌の島

「待ちな。もう少し全体計画の詳細について意識合わせはしないのか?目的地、ルート、滞在期間、達成条件、チーム構成、色々あるだろ?我々はまだあんた方のこともよく知らない」

 

立会人を止めたのはリドリィだった。

確かにこのまま渡航が始まるには先程の立会人を名乗る者達の説明だけでは大雑把過ぎる。

そもそもこの立会人の2人が本当に依頼主の立会人かも証明されてはいなかった。

 

立会人は慌てる素振りも見せずに振り返る。

 

「今回の渡航は至ってシンプルですので船で移動中にお話しようと思っておりましたが、あなたの言い分も理解できます。ですので少しだけここで共有しておきましょう」

 

立会人は船が被っていたシートを畳みながら続ける。

 

「今回の目的は禁忌の島の中央にあるとされる工場らしき建物の調査です。付近の沿岸に船を停めてすぐの場所ですので工程も10日程度を想定しています。船は2隻ありますので、サッドニール班とリドリィ班に分かれて乗船して頂きます」

 

立会人の話からするとここに停泊している2隻ともレディー・ミズイの持ち物だったようだ。これで定員割れを気にする必要はなくなったが、今の時代で船を数隻でも用意できるレディー・ミズイの財力は計り知れないものがあった。

 

「この新しい港町だけで2隻も保有しているなんてレディー・ミズイは随分お金持ちなんだな」

 

誰もが思っていることをリドリィが口にする。

 

「我々は旅程の立会だけ任されておりますので雇い主様の事は存じておりませんが、レディー・ミズイは都市連合に新設された科学統制機関の顧問をされております」

 

「なるほど。ということはこれは国家機関からのオーダーというわけか」

 

科学統制機関という組織名はルイ達も少し耳にしたことがあった。科学の衰退により人類存亡の危機が目の前に近づいてきたことで、食糧問題等数々の課題を打開するために都市連合が数年前に設立した機関だ。ここで全世界の科学力を結集し、人類社会の復興と発展を目論んでいるようだ。

ただ、純粋に科学を追求しているマシニストと違い、国家として科学力を軍事面でも利用しようとしている傾向もあり、テックハンター協会も完全に信頼してはいなかった。

 

リドリィもある程度予想していたのか驚く様子は見せなかった。そしてこの立会人の説明に矛盾点がなく、ある程度依頼主に信頼がおけると判断したようだ。

 

「後は前金は別として、持ち帰った設計図と報酬金の交換場所だな。大金だからハウラーメイズ都市にあるロード・オラクルのノーブルハウスとかか?」

 

リドリィがこの質問をした理由は2つあった。1つは単純にどこで交換するのか単純に疑問だった事と、2つ目は設計図を持ち帰らせておいて、報酬を払わずに消されないか懸念があったからだ。今回は国家機関からの依頼ということである程度信頼は出来たが、新設の科学統制機関やレディー・ミズイのことなど知らない事が多い。そのため然るべき場所で報酬の受け渡しがされるのか、懸念をある程度解消したかったのだ。

 

「我々は任務終了後にこの港町にお連れすることまでしか聞かされておりません」

 

「なんだと?それじゃあこの辺鄙な港町までレディー・ミズイって奴が直接支払いに来るのか?」

 

「我々はお答え出来ません」

 

「説明不十分で話にならないな。契約は初めてか?このままだと履行出来ない」

 

「既に計画は進行中ですし契約は成立している認識です。最早あなた方のキャンセルは効きません」

 

「ああ?」

 

その場の空気が瞬時に冷たくなる。頭の片隅で考慮していた懸念が高まったのだ。

立会人が報酬受け渡しを明確に説明出来ないことは『受け渡しまでは想定していないから』、つまり、報酬を支払うつもりはない、そう捉えてもおかしくないのだ。

賊や弱小勢力ならまだしも世界三大国家の都市連合がこの手を使う可能性があるのか。

 

(現状の腐敗しきった貴族ならばやりかねない)

 

リドリィの表情がそれを物語っていた。

こうなると船に乗る前にこの依頼を受けるべきか、この場を強引に去るべきか。決めなければならない。

 

ただ、ここで断ったとしたら立会人達がどう動くのかは読めない。既に物陰に多数の兵を隠していて断った途端に襲いかかってくる可能性もあるのだ。

これまで数々の任務を一人でこなし生き抜いてきたリドリィはどのような判断をするのか。

 

トゥーラは表情を伺いながら自分の刀の鞘に手を添えていた。

 

しかし、しばらくの沈黙の後、この重たい空気をトレジャーハンター兼荷物持ちのディアーが変える。

 

「ここはロード・オラクル領でレディー・ミズイも自由にやれない面があるのでしょう。不安なら報酬を貰うまで設計図を海面に落とすなり破くなりの準備をしておけばいいじゃないですかね?」

 

意外な人間からの提案にリドリィも面食らう。

 

「疲れて帰ってきた後もそんな駆け引きするのは面倒くさいんだよ。まぁいい。道中で考えるさ」

 

リドリィがこれ以上何も言わなくなったことで立会人は再度、船の準備を始める。

 

「申し遅れましたが、我々しか船の操縦は出来ません。この2隻の船にはモーターという科学技術が使われており、自動で前に進んでくれます。さぁどうぞお乗りください」

 

先程までの険悪なムードを引きずったまま言われるがままにルイ達は船に乗り込むが、初めての船上の揺れに興奮を隠せない。

 

「うお!?すっげー揺れるな、この生き物!」

 

「何言っているのよ!生き物なわけないでしょ!船なのよ?これは車輪が海底に降りた時の揺れよ」

 

ルイとトゥーラの掛け合いにジュードは呆れながらも無言で乗り込んだ。

続いてディアーというトレジャーハンターも乗り込んでくる。

 

「あ、お前こっちの船なのか!よろしくな」

 

「人数的にこっちでした。宜しくお願いします」

 

沢山荷物を背負っているせいかディアーが乗ると船が大きく揺れる。

 

「おお〜モーター頑張ってるな!頼むぜ〜」

 

ルイが手すりをポンポンと叩いていると大きな声が聞こえてくる。

 

「イヤッホー!先に行ってお宝全部貰っておくぜーー!」

 

見るとサッドニール班の船が加速し始め、グングンと進んでいってしまい、あっと言う間に小さくなって見えなくなってしまった。

 

「ああ!こっちの立会人、何やってんだよ!置いてかれちまったぞ」

 

「こちらの船は旧型なのです。心配しなくても集合場所は同じですし合流してからスタートですよ」

 

「本当かぁ?何かあっちばっかり優遇されてて腹たつんだけど!」

 

「ルイ、それぐらいで騒ぐな。滅多にない船旅を楽しもうじゃないか。……オェ」

 

リドリィが端っこに座って静かにルイを諭すがどうも様子が変だ。

 

「リドリィさんいま吐きそうになりました!?酔ってます?お酒飲みました!?」

 

「ルイ!そっとしてあげて!」

 

一同はリドリィが船酔いしやすいという意外な弱点を発見しつつも、彼女が強がっているのを見てこれ以上追求することはなかった。

 

こうして1隻目が出発してから数分後、ルイ達が乗る2隻目も無事に動き出した。

 

 

 

サッドニール班。リンゲル。エリス。ロドリゲス。ハドソン。立会人ホセ。

リドリィ班。ルイ。トゥーラ。ジュード。ディアー。立会人シオタ。

総勢12名の遠征チームは禁忌の島を目指して動き始めた。

 

船はどんどん海岸を離れていき、やがて岸が見えなくなるぐらい進んでいく。そして代わりにどんよりした対岸らしき陸地が薄っすらと見えてくる。

 

「ついに、だな。トゥーラ」

 

「……ええ」

 

トゥーラにとって因縁の地、禁忌の島。

 

憧れのテックハンターとなり、これまでいくつもの死線をくぐり抜けてきた。奴隷として辱めを受けた時期もあった。

それでも諦めずに鍛錬を重ね、ハーモトーやウィンワンの剣技を学び、トップクラスハンターのリドリィを説得し同行してもらうまで至った。

全てはこの地で行方不明になった父親を探すため。

 

トゥーラの目は静かに燃えていた。

 

 

【挿絵表示】

 

禁忌の島遠征メンバー

 

 

岸が近づくにつれて島の異様な空気がヒシヒシと伝わり始める。木は骨のように枯れ果て地表は荒れた土に覆われている。生命の気配がないのだ。

 

「やはりこの辺はまだ酸性雨が降っているな……うぷ」

 

リドリィは皆にダストコートと笠を着るよう指示する。これで酸性雨による肌へのダメージは防げるようになる。

 

「サッドニール班の船が見当たりませんね」

 

立会人シオタは船のスピードを落としながら接岸できる場所を探す。

 

「向こうの船の接岸ポイントがずれたわけじゃないんですか?」

 

ディアーが聞くとシオタも首をかしげる。

 

「湾内なので潮流はないはずなのですが……私達はあそこに付けましょう」

 

船はゆっくりと禁忌の島につき、最初に上陸したのはトゥーラだった。

 

風と波の音さえ聞こえるがそれ以外の音は全くしない死の大地。ここのどこかに父親の痕跡があるかもしれない。トゥーラは自然と気が引き締まっていくのを感じていた。

 

 

 

 

「立会人。サッドニール班はもうとっくに着いているはずか?」

 

リドリィがシオタに質問した。

 

「はい。そうです。予定通りであれば見える範囲にいるはずなのですが……」

 

「ではしばらく待とう。トゥーラ、ルイ。酸性雨避けのテントを張っておいてくれ。ジュードは立会人の船の整備を手伝ってくれるか?」

 

「分かりました」

 

「私はあの高台に行って船を探しつつ、この辺の様子を見てくる」

 

そう言ってリドリィは走っていってしまった。

残されたディアーはオロオロしながらも荷解きを開始した。

 

 

 

それから2時間ほど経過した頃

 

今だサッドニール班の船は姿を見せないでいた。

 

「おかしいですよ!何かあったんですよ!」

 

ディアーはすっかり狼狽している。立会人シオタも予定外のようでしきりに海のほうを見ていた。

 

「これってヤバくね?もしかして抜け駆けして先に行ったんじゃ?」

 

ルイはトゥーラに問いかけるが、彼女も青ざめたまま反応はない。万が一このままサッドニール班が来ない場合、禁忌の島の探索計画自体が危うくなるのだ。

 

リドリィは既に酔が覚めており、難しい顔をしながら辺りを警戒している。

 

「おい立会人。船が見つからない時点で余り良くない状況だが、仮にサッドニール達が我々を待たずに先に行こうとした場合、向こうの立会人は引き止めてるか?」

 

「はい。禁忌の島は2チームの連携が必要と考えておりますので単独行動は許していないです」

 

「となると、この周辺にもいないなら船で何かあったことになるな」

 

「そうですね……」

 

リドリィは少し考え込んだ後、決断する。

 

「もうしばらく待って合流できない場合、この計画は中止して帰還する。それでいいな?立会人」

 

上陸して数時間しか経っていないが事態は最悪な結末に向かっていた。

 

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