Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
【拠点滞在】ナパーロ/ラックル/694番、ガルベス、シルバーシェイド、シャリー、ヘッドショット、レイ
【偵察中】チャド
「お……お頭!」「生きていらしたのですか!」「やっぱりお頭がこんなことで死ぬわけねぇや!」
サッドニールは何事もなかったように岸から上がってくるなり、メンバーに声をかける。
「お前達も無事だったようだな」
「は、はい!お頭の的確な指示のおかげっす!ですが武器を全て失いました」
「問題ない。
そう言うとサッドニールは大きなバックパックからそれぞれの武器を取り出したのだ。
「う、海の中から拾って来たのですか!?」
「武器だけではない。海水を吸っているが食糧袋もある」
サッドニールの体には紐が結びついており食糧らしき袋もぶら下がっている。
この完璧な対応ぶりに皆が啞然としている中、リドリィが尋ねる。
「体は何ともないのか?いかにスケルトンと言えど海の底に沈んで無事でいられるはずがない」
「この時のために水圧に弱い部分のパーツを強化カスタマイズしておいた。おかげでCPは下がったし財産も全て使ったがな」
このスケルトンはさらに水圧対策までしていたようだ。さすがのリドリィも目を見開いている。
「お前……沈没を想定していたのか?」
「……あらゆるリスクに備えていただけだ。テックハンターなら基本だろう?」
サッドニールはそのまま武器を部下に配ると辺りを見渡す。
「アイアンスパイダーを一体倒したか。製造ナンバーは……206138。古いタイプの個体だな」
鉄蜘蛛の残骸をガチャガチャといじっているサッドニールにリドリィが声をかける。
「お前の班が復帰出来るなら遠征は再開出来るが、どうだ?」
「無論可能だ。人間達の休息が充分ならば早速、工場を目指そうじゃないか」
サッドニール班が揃ったことにより、禁忌の島遠征は継続されることになった。
自分達の実力を認識したルイ達の心境は複雑ではあったが、今は泣き言は言わずに必死に食らいつくしかない。前を見据えて進み出す若者達を見てリドリィの表情は少し緩んでいた。
こうして一行は禁忌の島にあるとされる工場跡を目指す。
道中でもアイアンスパイダーに遭遇するが、サッドニール班の大男達が気負いもせず重武器で力任せになぎ倒していく。この男たちの実力は口だけでなく本物だったようだ。リドリィも負けずに破壊しているが、ルイ達は後ろで警戒するだけでとてもじゃないが戦闘に参加することが出来なかった。
トゥーラは刀を握りしめながら思う。
自分は父親を真似てボウガンと刀を扱うようになった。
だがこれらの武器は機械系にはかなり通じにくい。だとするとそもそも父親がなぜ苦手な機械系がいる禁忌の島へ赴いたのか疑問だった。しかも父親はチームを組んでいた気配もなかった。慎重で堅実な父親が一人でここになぜ訪れたのか理解出来なかったのだ。
ただ……こんな荒れ果てた危険な地で10年強も行方不明となっている以上、仮に痕跡を見つけ出せたとしてもここに来た理由までは分からないだろう。
トゥーラはここの過酷な惨状を見れば見るほど暗い気持ちになっていった。
そんな中、急にサッドニールが声を上げる。
「この辺りだ。少し寄りたい所がある」
皆、突然の言葉に目を丸くしている。まるでこの地を知っているかのような台詞だったからだ。
「お、お頭……ここの地形をご存知で?」
部下の問いかけを無視してサッドニールは岩が積み重なった間を縫うように調べていく。そして
「あった」
サッドニールはいつもの無表情で、ある場所を見ていた。その視線の先には旅人の服やブーツを着た白骨遺体があったのだ。
そしてその遺体はボロボロにくたびれたカウボーイハットを被っていた。
「この者とは多少の縁があったのだ」
サッドニールが坦々とした物言いで語っている横でトゥーラが青ざめた表情で驚愕の一言を放つ。
「……と、父さん……」
「!!」
一斉に皆が注目する。
トゥーラは集まる視線の中トボトボとその遺体のほうへ歩み寄って行き膝をついた。
「この服装……それにこの帽子……」
リドリィも後ろから近づく。
「アードルフなのか?」
「はい……。こんなところにいたのね……父さん。やっと見つけた……」
生きてはいないのは分かっていた。
何年もの間、妻と娘を置いて帰ってこないような男でもない。動けなかったとしても何かしらの方法で状況を知らせる術を持っている優秀なテックハンターだった。
それでも……見つかっていないだけでどこかで生きている、という微かな希望を無意識に心の奥底では期待していた。
毎回、難所の遺跡に赴いては娘のためにお土産を持ち帰ってくるほどの余裕がある父親だった。たとえ禁忌の島であってもいつものように笑顔で帰ってくると思っていた。
この痕跡を前にして事実として確定した父親の死を実感し、トゥーラの目からは大粒の涙が溢れだしていた。
「見つかって良かったな……」
リドリィは震えるトゥーラの肩をポンと叩いたあと話を続ける。
「サッドニール。我々はこの遺体の者を探していたのだが、お前は以前ここに来て彼と会っていたのか?」
「そうだ。私は過去にテックハンターとしてこの地に挑戦していた。そしてたまたま彼と居合わせたのだ」
このスケルトンが禁忌の島に来るのが初ではなかったことよりも、偶然にもトゥーラの父アードルフ・カイヤライネンと接点があったことにリドリィは食いついた。
「アードルフと話したのか?なぜ遺体の場所を知っている?」
「私は彼と共闘したのだよ。そして一緒に逃げる途中で彼は力尽きた。当時私は弔い方も知らず野ざらしで彼を放置してきてしまった」
そう言ってサッドニールは横で土を掘り始めた。この様子を見て誰もが驚いたのは言うまでもない。スケルトンが人間の墓を作ろうとしているのだ。
トゥーラに至っては自分の父親を見殺しにしたのではないかと人知れず疑念を抱いていたが、この場所に連れてきてくれたこのスケルトンへの偏見の目は感謝へと変わっていった。
「ちょっと待て。調べさせて欲しい」
リドリィが遺体を土に埋めようとするサッドニールを止めた。そして履いていた靴底などを丁寧に調べ始める。するとカカトの部分が取れて中から手紙が出てきたのだ。
「え……リドリィさん、なぜそこに手紙があると分かったのです?」
「……」
リドリィは返答せずに手紙に目を通している。その表情は真剣そのもので周りの言葉など耳に入らないようだ。
読み終えたリドリィは手紙をトゥーラに渡した。
「お前宛の部分もあった。それ以外の記載はお前にはまだ早いから気にするな」
意味深な言葉にトゥーラもゴクリと唾を飲み手紙を読み始める。
『トレップへ あんたの読みは当たっていた。ここが生産拠点だ。既に計画は進行中のようで☓☓年☓月現在、1階にある生産完了台数は300ほどだ。俺は偵察をしくじり捕らえられた。抜け出せるだろうが、逃げ切れないだろう。また、思わぬ経緯で中にいたスケルトンと共闘している。彼だけでも逃がすから事情を聞き出すといいだろう。後は任せたぞ。
そして俺の家族に「帰れなくてすまなかった。愛している」と伝えてほしい。
汚い字で書き殴られた手紙だった。そして内容も遺書というよりは報告だった。
「リドリィさん!これはどういうことですか!?」
思わずトゥーラはリドリィに詰め寄った。アードルフのカカトに伝聞があることを知っていたことでリドリィは何らかの形でアードルフと関わりがあると気づいたのだ。
「お前が知る必要はない」
「いいえ!あります。父は無茶をしない人でした。このトレップという人はあのテックハンター1位の人ですか?父はこの人に命令されてここに来たのですか!?」
「……命令などしていない。アードルフが自ら志願しただけだ。そして我々はチームを組んで行く必要があったのを見誤ったということだけだ」
「……!リドリィさん、教えてください、本当のことを!何が起きていたのかを!」
静まり返った禁忌の島の荒野でトゥーラの大きな声がこだました。
リドリィは真顔でトゥーラを見据える。
「テックハンター協会上位とマシニストのごく一部の者しか知らない極秘情報だ。誰にも言わないと誓えるか?」
獲物を見るようなリドリィの目にトゥーラはたじろぐ。
「……は、はい」
「では向こうでお前だけに話そう」
こうして2人は隅の方へ移動して数分間話し込んだ。
神妙な表情で戻ってきたトゥーラにルイは声をかけることは出来ないでいたが、トゥーラは口外していい内容だけ教えてくれた。
父親アードルフはテックハンター協会上位同士で情報を共有していたようだ。そして自分の身に何かあった場合はリドリィにトゥーラ達を託したのだと。リドリィは約束を守り今までトゥーラを影から支援していたのだ。
皆、しんみりと感傷に浸っているような空気の中、立会人シオタが声を上げる。
「さて。そろそろ宜しいでしょうか。我々は人を探しにきたわけではなく工場を調査しに来ております」
若干嫌味な言い方ではあるが確かにそうであった。アードルフが残した意味深なメッセージも踏まえて工場跡の調査は重要な任務になり得る。誰もが気合を入れ直して改めて武器や道具の整備を行った。
そんな中、サッドニールがとんでもないことを言い出す。
「もうすぐ行けば工場だ。しかしその前にやっておく事がある」
大きなバックパックからスルスルと縄を取り出したのだ。そして
「エリス。これで立会人を縛って監視していろ」
「!!」
衝撃が走った。突如配下のメンバーに命令した言葉はスケルトンらしい合理性も感じられず只々理解に苦しむ内容だったのだ。
「一体どういうことですか?なぜ私を縛る必要があるのです?」
立会人シオタが問いただすのも当然だ。しかし、サッドニールは坦々と質問に応える。
「それはお前達が私の命を狙っているので、工場内で不測の事態が起きないようにするためだ」
度重なる飛んだ展開に既にルイの頭はついていけなくなっていた。