Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
【拠点滞在】ナパーロ/ラックル/694番、ガルベス、シルバーシェイド、シャリー、ヘッドショット、レイ
【偵察中】チャド
定期的に唸るような音が聞こえてくる2階に向けてリドリィは忍び足で階段を上がってゆく。
後ろではサッドニールがスタンバイしておりいつでも来いとばかりにポールアームを構えている。隙のない構えを見て、このスケルトンは相当な腕前を有していることがリドリィには分かった。ただ、やはり謎が多いのだ。
サッドニールの型はスクリーマーMk2というかなり古い時代の型だ。それこそ数百年前に存在していたとされる第一帝国または第二帝国時代に作られたスケルトンよりも古い型式であり、人間社会にいることすらレアなケースであった。
また、リドリィは今回、トゥーラに付き添いをお願いされた形で禁忌の島に来ていたが、実はサッドニールに指摘された通り、協会からの極秘依頼も受けていた。それはまさしく『アードルフの調査を引き継ぎ、工場と思われる建物の秘密を探ること』だったのだ。ただ、なぜ工場を探る必要があるのかまでは協会から共有されていなかった。
しかし、1階に山と積まれている起動前の鉄蜘蛛を見てここで大きな何かが動いている事を確信する。
そんな工場の内情をこのサッドニールというスケルトンは大分詳しく知っているのだ。さらにいくら凄腕のスケルトンとはいえ、テックハンター上位者を出し抜いて禁忌の島の調査を単独で進められていたとは考えにくかった。
よって、サッドニールがこの工場出身のスケルトンだったのではないかという疑念を持ち始めていた。
しかし、工場の2階に到達しようとしている今、考えを巡らしている余裕はない。
(今は斥候任務に集中する)
リドリィが単独で活動しているにも関わらず、ここまで実績を出しながら生き延びていられる理由は偶然ではない。
剣技やパワーだけでなくテックハンターとして活動するにあたって必要となるスキルを万遍なく高いレベルで習得していたからだ。例えばこの隠密行動に関しても並の暗殺者としてやっていけるほどの実力と集中力を兼ね備えていた。
気配を消しつつも顔だけ出して2階の様子を伺うと、何やら大きな機械が動いており、それを守るように小型の警備スパイダーがウロウロとしているのを目視できた。
バレずに奥の方まで確認するのは難しく鉄蜘蛛の総数を確認することは不可能だが、一階の面積と2階にいるスパイダーの割合から、ある程度の予想は出来た。
(数もサッドニールの報告通り……か)
それならばと、リドリィはサッドニールの作戦をそのまま決行することに決める。報告通りだと奥に凄腕のスケルトンが一体いることになり確認しておきたいところであったが、これ以上進むと警備に感知される恐れがあった。
バレるまでは近くの鉄蜘蛛を一体づつ破壊し相手の戦力を出来るだけ削ることにしたのだ。
リドリィは小石を2階に投げ入れた。
音に気づいた警備スパイダーはカタカタと近寄ってくる。それを後ろから馬乗りになり、長剣で心臓部を一突きにする想定だ。これまでの経験上、自分の腕力で警備スパイダーに致命的な損傷を入れるのは何度もやったことがあった。リドリィは長剣に手をかけ間合いに入ってくるのを待っていた。
しかし
「テックハンター
「ーーーーーー!!!!」
突如後ろから聞こえてきた声にリドリィは振り返ることもなく飛び退いた。そして声の主を目視する。
暗がりにいるが足は金属で出来ておりスケルトンであることが分かる。
(サッドニールが言っていたスケルトン……!工場の主か!!)
リドリィも背中のフォーリング・サンを抜き戦闘態勢に入る。しかし冷静な対応とは裏腹に自分の心拍の音が耳に聞こえてくるほど心が乱れている事を認識する。
このスケルトンは音もなく完全に自分の後ろを取った。機械ゆえに殺気はないが、スケルトン特有の駆動音に気づけない事などこれまで一度もなかったのだ。
(機械音に紛れて近づいたのか!?)
サッドニールがCP90と評するにも納得がいく動きだ。そしてスケルトンはさらに機械とは思えない動きを見せる。
「随分と侵入している人間がいるようですね。排除しなければ」
そう言っていつの間にかリドリィの目の前に来て階下を覗き込んでいたのだ。先程まで何も持っていなかった手には光り輝く杖が握られている。
(速……!!動きを追えなかった!?武器はメイトウ級!?)
リドリィはこれまで見たことのない動きをするスケルトンを前にして、らしくもなく固まってしまった。
都市連合の裕福な名家に産まれ落ちたリドリィは産まれた時から体重が人よりかなり重かった。恵まれた環境で教育を受けながら不自由なく成長した彼女は体格も並の男よりも数段大きくなり、見下してくる男を力でねじ伏せていった。当然、性格も勝気で男勝りになる。親のツテで剣豪から剣術を学び、一層力をつけたリドリィは貴族の紹介だった皇帝の近衛兵という名誉職を蹴り、自由と刺激を求めて家を飛び出し、テックハンターとなった。
剣技だけでなく知識と経験を駆使してこれまで強敵を打ち破ってきたことは何度もあり、強い相手と戦うことにも慣れていた。
普段のリドリィならば久しぶりに出会う猛者を前にして闘志を燃やしていたかもしれないが、今、目の前にいるスケルトンはその尺度を遥かに超えていたのだ。
後ろを取られた事と、暗がりではあったもののスケルトンの動きを目で追えなかった事実がリドリィを大いに動揺させていた。
警備スパイダーが集まってくる前にスケルトンに対して先制攻撃をして出鼻を挫くべきか、または相手の出方を見るべきか。
いずれにしろ萎縮して固まっている脚を動かさなければどうしようもない。
そもそも自分が恐怖を感じている事自体がリドリィのプライドを傷つけていた。
(……ざっけんな!一撃いれてやる!!)
重たい体を強引に動かそうとした時だった。
「一度下がれリドリィ」
後ろから声が聞こえてきてふと我にかえる。
サッドニールだ。
リドリィを気づかっての発言ではなく単純に作戦上の都合であったが、この一言でリドリィは平静を取り戻す。トゥーラ達を連れてきた手前、自分がやらなければという使命感が無意識に働いてしまっていたが、ここはさすが一流のテックハンターと言うべきか。自分がやるべきことを見失わず切り替えることが出来た。
予定通りリドリィは後ろに下がり、サッドニールを前面に出して迎撃態勢を取ったのだ。
ガチャン。ガチャン。
対して未知のスケルトンは重厚な足どりで2階の暗闇からゆっくりとその姿を現すが、驚くべきことにそのスケルトンはサッドニールと瓜二つのスクリーマーMk2型であった。
見た目は何の変哲もないスケルトンだが、衣服をまとわず無機質な胴体をさらけ出すその様は不気味な気配を漂わせている。
(やはり禁忌の島は安易に引き受ける案件ではなかったな)
リドリィは腹をくくって武器を構えた。
しかし、相対するスケルトンが驚愕の一言を放つ。
「これは
スケルトンはサッドニールを見ていた。
「な、なに……?」
リドリィは横にいるサッドニールに目を向けるが、彼は動じることなくポールアームを構えている。そして
「Hat101将軍。いや今は工場長か。ここを奪還しにきた」
喋るなりサッドニールのほうから未知のスケルトンに斬りかかったのだ。当然相手も手に持つ杖で応戦し、突如としてスケルトン同士による激しい攻防が始まった。
互いにミシンのように高速な動きで攻撃と防御を繰り出し、工場内に衝撃音が大きく響き渡る。
「……!!」
双方とも瞬きすら許されない速さで技を繰り出しているが、互いに攻撃が入る気配もない。
この騒ぎで2階にいる警備スパイダー達が集まりだし、スケルトンの後ろに長い列をつくる。
リドリィは本来ならここですぐにサッドニールに助太刀して一気にスケルトンをやるべきであったが状況を整理することに一杯になっていた。
(サッドニールがここの元工場長だと!?テックハンターとして活動を始めた奴の目的は最初からこの工場の奪還だったのか!)
これまでサッドニールが大金をかけて禁忌の島攻略に固執していたのもこれで合点がいった。
そしてここに来て改めて『立会人がサッドニールを狙っていた』という言葉を思い出したのだ。依頼主の代理である立会人がテックハンターを狙う意味がないため重要視してなかったが、サッドニール(元工場長)の
過去にこのHat101と呼ばれるスケルトン(現工場長)が何かしらの理由でサッドニール(元工場長)からこの工場の主権を奪っており、レディー・ミズイはその事実を隠すために禁忌の島攻略を口実にしてサッドニール(元工場長)をおびき寄せ消そうとしている。だとすると依頼主であるレディー・ミズイがHat101(現工場長)と繋がりがある可能性が出てくるのだ。都市連合技術統制機関の最高顧問が大量にアイアンスパイダーを生産している現工場体制と繋がりがあるのだとしたら由々しき事態だ。
(こいつを倒して聞き出すしかない)
気を取り直したリドリィは戦況を確認する。
サッドニールは宣言通り、凄まじい槍術でHat101と呼ばれるスケルトンを押していた。ここで手を貸せばそのまま討ち取れる可能性は高い。リドリィも横からフォーリング・サンを薙ぎ払い足を狙いにいった。
しかし、Hat101はその動きを察知しておりスケルトンらしからぬ大きなジャンプをして、そのまま階段下の一階に着地してしまう。
ズン!と重たいスケルトンが1階フロアに降り立ち、待機組には意表を突かれる形になったが一階にはサッドニール班やルイ達がいる。
「リンゲル!ロドリゲス!ハドソン!お前達でからめ取れ!」
サッドニール(元工場長)の指示が飛ぶと3人はHat101を囲い込む。
そして最初にリンゲルが棘々しい針のついた棍棒を手にHat101に襲いかかった。
この男はBARでルイ達に絡んだ自称CP70オーバーの大男だ。懸賞金も大きい。
いけ好かない奴だが味方としてはこの恵まれた体格は頼もしい存在だ。
だがリンゲルの大振りはHat101にかすりもせず空を切る。
後ろにまわっていたロドリゲスも続けてムーンクリーヴァーを振るうがこちらもHat101には届かない。前後からの2人の連携は完璧だった。しかしHat101は後ろに目があるかのように容易く避けたのだ。
そして……
ボン!という音が聞こえたかと思うといつの間にかリンゲルの首から上の頭部分が無くなっていた。
「……!!!!」
全員が驚愕し固まった。
リンゲルはHat101の正確な突きで頭を吹き飛ばされていたのだ。
「リン……」
ロドリゲスが名前を口にしかけるとHat101は声に反応して眼球のレンズの焦点を彼に合わせる。ロックオンされたロドリゲスも武器を構えるが、Hat101の高速の連続突きの前にいなすことも出来ずに鎧を剥がされていき、最後に頭に直撃を貰ってリンゲルと同じ末路を辿った。
Hat101は続いて近くにいるハドソンに襲いかかる。最早、2人が先に殺され戦意喪失していたハドソンは防御一辺倒だった。突きを数発受けたがその衝撃で武器が手から外れ丸腰の中、突きの連打で体中に穴をあけられる。
「お……お頭……」
ハドソンは階上に手を伸ばしながら絶命するが、サッドニールはその様子を呆然と見ている。
あっという間にサッドニール班をほぼ全滅させたHat101は侵入した人間全てを排除するつもりのようだ。獲物を探すように周りを見渡すと、次に近かったルイに目をつけたのだ。
ルイは丸いレンズに見定められ生きた心地がしなくなる。数秒後にはリンゲル達と同様に自分も頭を吹き飛ばされてしまうのではないかと。
恐らくこのスケルトンにはルイの夢想剣舞など通用しないだろう。デザートサーベルを持つ手は震えていた。
しかし、サッドニールがこれ以上Hat101の好きにはさせなかった。
こちらも階上から大ジャンプしルイの前に着地するとポールワームをグルグルと振り回しながらHat101に斬りかかったのだ。無言で振り回すポールワームは先程よりもキレとスピードが増している。
いまサッドニール(元工場長)のAIコアはフル回転していた。