Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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【遠征組】ルイ、トゥーラ、ジュード、(リドリィ)
【拠点滞在】ナパーロ/ラックル/694番、ガルベス、シルバーシェイド、シャリー、ヘッドショット、レイ
【偵察中】チャド


74.工場戦②

 ここまでの力が急に出るものなのかとサッドニール自身も疑問に思っていた。計測結果だとHat101のCPは90。対して自分は92だ。圧倒するほどの実力差は計算上ない。それなのに今自分はこの何か分からない感情に支配された勢いでHat101を倒そうとしている。

階上では自分の代わりにリドリィがアイアンスパイダー達を足止めしているが、彼女の体力が尽きる前にこの憎き(・・)Hat101を倒せる計算だ。

 

(憎き?)

 

検索結果:憎いとは心を傷つけられたりしてやっつけてやりたいほど不快だということ。

 

(私は何で心を傷つけられた?)

 

回答第1候補:突如、Hat101率いる未知の集団から攻撃を受け、工場長の座を奪われたから。

 

否。

 

工場長の座を取り戻す行為は単なる修正プログラムの一貫であり、そもそも私には心などない。

 

(ではなぜ彼が憎いと感じている?)

 

回答第2候補。結成したチームのメンバー、リンゲル、ロドリゲス、ハドソンを殺されたから。

 

……否。私はこの日のために使い捨てのゴロツキを集めて鍛錬したまで。3人は酸で視力が低下し戦闘力が低下していた事に気づけなかったのは計算ミスだが、目的を達成しつつある現在、彼らの消失は大きな損失とはならない。

ただ……この沸きあがってくる得体のしれない感覚を解析・制御出来ないでいる。

 

ERROR:感情(怒り)ライブラリが見つかりません

NotFoundException

トレースメモリー処理を実行

『参考事例:人間(アードルフ・カイヤライネン)との記録』

 

ジジジジ……

 

サッドニール(元工場長)のAIコアが高速に回転し始める。

 

 

 

 

 

処理開始

 

アーカイブ:人間(アードルフ・カイヤライネン)との記録を読み込みます

 

 

 

 

 

私には遠い過去の記憶がない。一番古い記憶でも既に私はスパイダー工場長としてアイアンスパイダーの生産体制を維持する使命を持っていた。最早何のために生産するのか分からなくなっていたが、その指令は私にとって絶対であった。

 

そんな中、頭のないスケルトン集団を引き連れたHat101将軍が襲来してきた。

警備スパイダーを使って応戦したが物量の差で私は敗北した。

それから数時間後。

メイトウの杖を奪われた私は工場1階の片隅で隠れ、傷ついて歩けなくなっていたボディを自己修復していた。

 

そこにカウボーイハットをかぶった男が現れた。

 

隠密行動で2階に上がっていく男を私は何もせず見ていた。どうせ今私の工場長の権限は剥奪され生産活動は停止させられている。男がHat101達を引き付けている間に私はここを離れて再起を計ればいい。

 

私は片足を引きずって歩き出した。

 

しかし、しばらくするとすぐに男が全力疾走でもと来た道を引き返してくるではないか。しかも気づかずに私のほうに向ってきている。

 

私には避ける力は残されていなかった。

 

案の定、私は男と衝突した。そしてその男も追ってきたHat101に足を攻撃され負傷してしまった。

 

そして我々2人は牢に入れられたのだった。

 

 

 

 

一人がやっと入るぐらいの牢が2つ並べられ、それぞれに押し込められる。

男は自分の傷に応急処置をしたあと、何やらブーツのカカト部分をいじっていた。

私にとってはどうでも良いことだったので自分も引き続き自己修復に徹することにした。

すると男が私に喋りかけてきた。

 

「まさかお前あのスケルトンに工場を奪われたのか?」

 

私は無視することにした。どうせこの男も財産を奪うつもりで工場に来た侵入者だ。提供する情報はない。

暫くするとHat101が私だけ開放しにきた。聞くと人間はこのまま餓死させるようだが私は手下としてスカウトされるチャンスがあるようだ。

どうやら今後の目的のためにこの工場は利用される計画がありスケルトンである私を雇用したいらしい。しかし、私は断った。

私には工場長としてこの工場生産ラインを確保する使命がある。正体不明の組織に媚びるつもりはなかった。

それからHat101は私をアイアンスパイダー試作型の練習台として扱うことに決めたようだった。

 武器を持たない私を新型アイアンスパイダーと戦わせて力量を測ったのだ。当然万全ではない私はその度に傷つけられ、その後牢屋に入れられた。

 

男のほうはと言うと怪我は治りつつあったが食事が与えられず徐々に弱っていった。しかし、目から希望の光は消えていなかった。

見張りの目を盗んで牢屋を開けようとカギの解除を試みているようでもあった。

 

「抜け出すつもりなのか?」

 

私は彼の目的を確認すべく話しかけてみた。

すると男は喜々として喋りかけてきた。

 

「初めて喋ったな。見張りに言うなよ?」

 

男はこんな状況でも笑って応答してきたのだ。まだ余裕があるのだろうか。

 

そしてここから2人の奇妙な関係が始まった。

 

男の名はアードルフ・カイヤライネンと言った。

 

アードルフは常にカギの解除を試みながらも私に工場の事を聞いてきた。初めは無視をしていたら、そのうちに真面目な話はやめて自分のテックハンター業の事や一人娘の事などくだらない雑談をするようになってきた。あまりにしつこく話しかけてくるので私も工場の詳細は言わないようにしつつも、日常の事やHat101の襲撃部隊については共有してやることにした。少しでも自分の工場奪還成功率を上げるためにも必要な事だと考えたのだ。互いに暇だったせいか会話する時間も必然と多くなっていった。

 

ある時、私は尋ねた。

 

「なぜ私の首を落とさなかった?」

 

「ん?何の話だ?」

 

「最初に会った時だよ。そのまま私を勢いで斬って逃走出来ただろう。刀を止めたからHat101に追いつかれたようなものだぞ」

 

「いや、だってさ。お前泣いてたから」

 

「……スケルトンの私が泣くはずないだろう」

 

「おお?怒ったのか?」

 

「怒るはずないだろう……」

 

とりとめのない無駄な会話だった。しかしなぜか心地良かった。

 

その後、私はHat101に開放されてはサンドバックとして痛めつけられを繰り返していて、自己修復するよりも先に破損部分が増えていった。とてもじゃないが工場を取り戻せる機会はなくいつかは故障する確率のほうが高かった。

アードルフはその様子を渋い表情で見ていた。

 

そして捕まってから2日が経過した頃

 

ガチャリ

 

アードルフ・カイヤライネンはついに牢屋のカギの解除に成功したのだ。

 

私とアードルフは自然と顔を見合わせていた。

だがその時、既に彼の顔はすっかりやつれ死相が出ていた。

私は牢屋からソッと出ていく彼を、脱走の成功を祈って大人しく見送るつもりだった。ほんの少しの間であったが人間という種族に触れ、彼と知り合い、なぜか彼には生き残って欲しいと願うようになっていたのだ。

 

しかし、彼は見張りのスラルの首もとをナイフで叩き壊すと、私の牢屋に近づき、表側から牢屋を開けたのだ。

 

「あいつら散々、お前をサンドバックにしやがって。仇をとってやったぜ」

 

彼は私が戦闘実験のモルモットにされている状況に憤り、つまり怒りを感じてくれていたのだ。

そうか。彼が教えてくれた怒りとは自分の大事な何かを傷つけられた時に思う感情だったのか。

 

私が利用するために結成したチーム。そのメンバーであるリンゲル、ロドリゲス、ハドソンはHat101により無惨にも殺された。道徳心もなく毎度旅先でトラブルを起こすような奴らで私にとってはなんでもない存在だった。しかし、いざ喪失してみると、私を「お頭」と慕ってきていた彼らの表情が浮かんできて解析不能のモードに支配されるのだ。

 

そう。私は怒りに燃えていたのだ。

 

 

 

 

 

 

サッドニール(元工場長)のポールアームはHat101のボディを削り取っていく。

お互い棒術による戦闘だが圧倒的に技術力がHat101を上回っているのだ。

 

「なぜだ?誤差が測定値より大きいのか?計算が合わない」

 

Hat101はこの事実に動揺しているようだ。

構わずサッドニール(元工場長)は喋りながら猛攻をしかける。

 

「私の計算にも合わなかったさ。ただどうやらお前は手順を間違えたようだ」

 

気がつくとHat101はボロボロになって地に伏していた。

 

リドリィも階段の通路を死守しており、アイアンスパイダーやスラルは足止めされている。

 

「なぜ……スケルトンなのに……人間に肩入れする?」

 

「勘違いするな。私は工場を正常稼働させる義務があっただけだ。お前こそなぜこのアイアンスパイダー工場を狙ったのだ。都市連合とも何か関係があるのか?」

 

「…………」

 

「答えないか。まぁ壊した後にゆっくり解析してやるさ」

 

サッドニール(元工場長)はHat101の首を飛ばすべくポールアームを振り上げた。Hat101も覚悟したのか抵抗らしい動きを見せないでいた。

 

 

 

そして

 

スケルトンの首が宙を舞った。

 

首は地面に音をたてて落下するとゴロゴロと数回ほど回転して止まる。

現場は静まり返り、動き出すまで数秒はかかっていた。

 

 

 

 

 

それほど予想外の出来事が起こったのだ(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

「な……なんでだよ……一体何してんだよ、お前……!」

 

始めに口を開いたのはルイであった。

 

それはサッドニール(元工場長)に対してではなく、ディアーに対して放った言葉だった。

 

ディアーは斬馬刀を手に無表情でいるが、サッドニール(・・・・・・)(元工場長)の首を落とした事に満足気にしていたのだ。

 

「やっと殺るタイミングがあったとは言え……工場のど真ん中とはな……」

 

これまでの気弱なディアーとは思えないほどの言葉を喋っている。

 

Hat101も人間がサッドニール(元工場長)を仕留めたことを不思議に思っているのか自己修復しながら様子を伺っていた。

 

サッドニール(元工場長)は首だけになってもまだ意識があるようで後ろから不意討ちしてきたディアーに後悔している。

 

「お前も用意された暗殺者だったのか。油断したな。無念だ」

 

「悪いな、工場長さんよ。あんたのことは嫌いじゃなかったが協力出来ないならやはり殺るしかないんでね」

 

ディアーは上を見上げた。階段の上ではまだリドリィが鉄蜘蛛やスラルを防いでいたが、数が多く突破されるのも時間の問題と思われた。

 

「まぁ普通に無理だよな。早めに退散させてもらうか」

 

そう言って荷物をまとめ始めるディアーに対してルイ達は啞然としていたが徐々に状況が飲み込めてくる。

 

「お前は荷物持ちのフリしてサッドニール(元工場長)の暗殺者であることを隠していたのか?どいつもこいつも騙しやがって……!」

 

奴隷商のグンダー。反乱農民のニムロッド。ポートサウスのキンブレル。これまで素性を偽って誰かを裏切り危害を加える者をルイは多く見てきた。そのせいで大切な者も亡くしてきた。

それもあってこの手の類は許せない存在になっていた。

ザワザワとルイの髪が逆立っていくことにディアーも気がつく。

 

「ほう、すごい殺気だ……」

 

ルイから向けられる殺意の波動にディアーは一瞬たじろいだ。そしてそれが命取りになる。

気がつけばHat101の杖がディアーの脇腹を貫通していたのだ。

 

「引き続き……侵入者を排除……」

 

「て……てめぇ……」

 

Hat101は這いつくばりながらもディアーに攻撃を開始した。

 

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