Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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【遠征組】ルイ、トゥーラ、ジュード、(リドリィ)
【拠点滞在】ナパーロ/ラックル/694番、ガルベス、シルバーシェイド、シャリー、ヘッドショット、レイ
【偵察中】チャド


75.最後の灯火

「ったく……。俺にも攻撃しやがって……機械は融通が効かねぇな……」

 

ディアーは脇腹に刺さった杖を自ら引き抜く。

 

一方、自己修復を始めているHat101はグラグラしながらも立ち上がる。

 

「侵入者……排除……」

 

音声機能にもダメージを負ったのか喋る内容は片言だ。

 

「お前の相手をしている余裕はないんでね。退散させてもらうぜ……」

 

言うなりディアーは脇腹を抑えながら早々と工場から姿を消してしまった。

 

残されたルイ達はお互い見合う。

 

今しかHat101を倒すチャンスがない(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

見解が一致したルイ、トゥーラ、ジュードの3人は言葉も交わさず猛然とHat101に向かってダッシュする。

 

自己修復される前に畳み掛けて倒す。サッドニール班を失った今、それしか自分たちに残された手はないのだ。

 

ジュードは先頭になりHat101の視線に入る。先程まで無双をしていた機械に目を向けられると生きた心地がしなかったが、男として、武道家として小回りが効く自分が行かなくてどうする、と自分を奮い立たせる。

 

Hat101が杖を片手で構える。既に片腕はサッドニール(元工場長)が破壊していたのだ。

その分、攻撃も遅いはずだ。

 

(1発は避けれるはず。そしたらルイとトゥーラの攻撃が出来る)

 

大振りの横薙ぎが来るがジュードはスライディングで交わす。

 

「ふっ!ふっ!」

 

緊張と疲れで息を荒くしつつも隙が出来たHat101に足払いをする。

 

ガシッとHat101の脚に蹴りが入るが、少しバランスを崩した程度だ。

だが続けて横に周ったトゥーラが刀を構えて突進する。

 

無限の太刀 弐の型 雀の囀り

 

スケルトンに対して刀による斬撃は効果が薄い。ならば自分も陽動に徹するのだ。ウィンワンの書には状況に応じた型の説明が書かれている。トゥーラは連続突きを繰り出しHat101の目元を狙った。

これで否が応でもHat101はトゥーラに集中する。

 

そこにルイが夢想剣舞の回転斬りで畳み掛けた。

 

edge2式のデザートサーベルによる重力を載せた渾身の一撃は何の妨害もなくHat101の首もとに直撃する。

 

しかし

 

Hat101の首は切れなかった。

 

首筋を通っているケーブルを何本か断線させたようだが骨にあたるメインのつなぎ目には傷が入った程度でHat101の活動は停止できていなかった。

 

Hat101は咄嗟に杖を円を描くように振り回しルイ達を吹き飛ばす。

 

「くそ、硬すぎる!無防備の箇所に全力で入れたのに!」

 

ディアーがいとも簡単にサッドニールの首を落としていたからルイも全力でやればいけると思っていた。

 手負いの者相手にしても勝ちきれない。

達人たちの域が遠く感じられ3人は愕然としていた。

 

だが、Hat101のほうも足もとはふらついており、少なからず断線の影響を受けているようだ。

 

そこに大きな声が響き渡る。

 

「お前達でかしたよ!」

 

リドリィが空から降ってきてそのままHat101にフォーリング・サンを叩き込んだのだ。

 

落下による重力が乗った一撃にHat101は為すすべもなく砕け散っていく。そして

 

「キャット……万歳……」

 

残骸となった口もとから意味不明な言葉を呟いた後その活動を停止した。

 

 

 

 

「すぐに撤収するよ!エリスとやら、立会人を連れてきな!」

 

リドリィは一息つく間もなく指示を飛ばす。

階上からアイアンスパイダーやスラルがすごい速さで駆け下りてくるのだ。

 

サッドニールチームの最後の生き残りエリスは立会人を縛った縄を持ちながら茫然としていた。

 

「何しているの?早く!」

 

トゥーラも呼びかけるがエリスは縄を捨てサッドニール(元工場長)の首を拾い上げるとその場で座り込んでしまった。

 

立会人シオタはその隙にリドリィの元へ走っていった。

 

「エリスさん!?早く来て!」

 

「エリスは……お頭と一緒にここに残る」

 

「もうサッドニールは助かりません!」

 

「じゃあエリスもお頭と一緒に死ぬ。エリスはお頭に拾われた命だ。最後は一緒にいたい」

 

「…………っ!」

 

エリスはもうそこから動く気配はなかった。そしてサッドニール(元工場長)の首をトゥーラに向かって差し出した。

 

「お頭があんたに話があるって……」

 

「え?」

 

サッドニール(元工場長)の目はまだ光を灯しており首だけで稼働していた。

 

「トゥーラ。お前達は本物のサッドニールの仲間だったな。私は過去に一度だけ工場へ行商に来たサッドニールというスケルトンの名前を勝手に借りていたのだ。私の本当の名はただのスパイダー工場長だ。お礼にはならないがそこにあるメイトウ杖をサッドニール本人に渡してくれ」

 

「そういうことだったのね……」

 

「それとトゥーラ。お前の父親は一時であったが私のかけがえのない友であり素晴らしいテックハンターだった」

 

「……!」

 

「さぁ行け。少しの間ならば無線で体を遠隔操縦し奴らを足止め出来る。私の素性を知っていた都市連合は裏で手を引いているはずだ。奴らの目的を突き止めるのだぞ」

 

「ええ……分かりました。サッドニール。ありがとう」

 

こうしてトゥーラは振り向きそのままその場を後にした。

 

 

 

 

それを見送ったサッドニール(元工場長)はエリスに語りかける。

 

「エリス。まさかお前が残ってくれるとはな。お前も協力してくれないか」

 

「へへ。了解です。最後にお頭のお役に立てて嬉しいです」

 

エリスは背負った重武器を構えると押し寄せる鉄蜘蛛の群れに斬り込んでいった。

 

「すまないが、最後の一仕事頼んだぞ……」

 

ERROR:行為(献身)ライブラリが見つかりません

NotFoundException

トレースメモリー処理を実行

アーカイブ:人間(アードルフ・カイヤライネン)との記録を読み込みます

 

 

 

 

脱獄した私達2人はHat101率いる正体不明の部隊に占拠された工場をなんとか脱出出来た。

 

ただ、一緒にいる人間のアードルフ・カイヤライネンは衰弱しきっていた。

 

「血は止まっているが……中々傷は癒えないな。やはり何か食糧を見つけなければ」

 

私はこの男が空腹による栄養失調で弱っていることが分かっていた。しかし、アードルフはその点を優先しなかった。

 

「この地域で食糧となる生き物は早々見つからないだろう。それより追手が来る前にお前は先に行け」

 

私もこの男の言うとおり先を急ぐべきだと思っていた。このままこの男の進むペースに合わせているといずれHat101の追手に追いつかれてしまう。

 

しかし、男を置いていくことは何かに反していると思えたのだ。彼は私の牢を開けて助けてくれた。人間の言葉で言う命の恩人だ。だから可能ならば私もこの男を助けたかった。

 

「2時間ほどここで休憩してから出発しよう。私もちょうど自己修復が間に合っていない」

 

彼を担ぐためにも修復が遅れていた腕を治すべきだと考えた。

 

だが、その時は訪れてしまう。しばらくするとアードルフの容態が急変したのだ。

 

「へっ……スケルトンさんよ……。やはりどうやら俺はここまでのようだ。お前だけは逃げ延びてくれ。あんたさえ良ければテックハンター十傑を頼るといい。事情を話せば悪いようにはしないだろう」

 

彼は自分が死ぬ間際まで私の今後の事を気にしてくれていた。

そしてしばらくしてその命を静かに終えた。

 

こうして私は一人その場を逃げきり、素性を隠してテックハンターとなった。そして仲間を探し力をつけて工場奪還の機会を伺い続けた。

 

 

 

 

自分の命より重要な物を他から見出すなんて昔の私には理解できなかった。

使い捨ての駒と思っていたエリスが逃げずに仲間として一緒に果ててくれようとしているが、これも一種の献身なのだろう。

最後の最後になってしまったが、今は分かる気がする。

 

痛がり屋で非効率な生物と思っていた人間は自分の命を顧みず誰かのために尽くす行為をする。

損得勘定を抜きに自分の利害を超えたこの行為をなぜ行うのか。

それは感情が作用しているからに他ならない。

 

感情は生物特有の不完全なパラメーターであり行動に悪影響をもたらすだけの欠陥と思っていたが、時に動機や源動力その物となって単純な計算だけでは導き出せない結果をもたらすことが分かった。

 

Hat101との戦いで私に芽生えた怒りという感情もそうなのだろう。

そしていま私はアードルフのために本気でトゥーラには生きていてもらいたいと思えている。

 これは私に様々な感情が新たに芽生え、複雑に織りなした結果なのだろうが、全てを解析しきる時間はもう残されていない。

 

工場を取り戻せなかった事は残念ではあるが、

何かをやり遂げた実感があり、いま私の心は澄みきった青空のように晴れやかな気分だ。

 

最後にこの感情に触れることが出来て良かった。

生き

生キ

延びろよ、

延び%よ、

トゥーラ……

トゥーla……

 

 

エリスが鉄蜘蛛と戦闘している後ろでサッドニール(元工場長)の目に宿る灯火は静かに消えていった。

 

 

 

 

 

 

一方、その他生き残った者達は走り続けて疲労困憊ながらも、停泊している船の所までなんとか辿り着いていた。

 サッドニール班が全滅した今、工場に再挑戦する戦力はなく、そもそも今いるメンバーには敢えて舞い戻る目的もなくなっていた。

 

立会人シオタ曰く

 

「我々の目的はサッドニールを名乗っているスパイダー元工場長を禁忌の島攻略という名で釣り出し、船の沈没により葬り去ることでした。実力をつけて脅威となっていましたからね。だから本来ならば船の沈没でミッションは続行不能により終了予定だったのです。まさか生きているとは思いもしませんでした。工場のことは黙って秘密にしていてくれれば問題ないでしょう。帰ってレディー・ミズイに事情を説明します。前金の他にいくらか報酬も出してくれるでしょう」

 

とのことだった。報酬は恐らく口止め料を意味していた。

 

リドリィも表向きこの条件を飲んだ。そうしなければ立会人に船を出してもらえないからだ。

 

自分達テックハンターの目的はあくまでも行方不明になっていたアードルフ・カイヤライネンの捜索だった事であり、都市連合の技術統制機関がしようとしていることに関与するつもりはない。と意志表示したのだ。

 立会人シオタもディアーと同様に実力を隠していると想定出来たし、お互いこの状況で対立するほど余裕もなかったのである。

 

また船の出港間際にディアーが合流してきたこともリドリィ側の立場を悪くさせた。彼は傷つきながらも単独で船場まで辿り着けたのだ。

 

立会人シオタは当然ディアーの乗船を歓迎した。彼等は元々スパイダー工場長暗殺のため裏でチームを組んでいたのだ。

 

「ディアーさん。生きておられたのですね。工場長の暗殺お疲れ様でした。あなたがいなければ任務は失敗するところでした」

 

「……工場長に隙が無さすぎてとんでもないタイミングになっちまったがな」

 

「ええ。リドリィさん達には我々のミッションを説明し納得してもらいました。これで円満に家路に帰れますね」

 

「……そうだな」

 

暗殺者としての顔を出してからのディアーは口数が少ない寡黙なシェク人だった。荷物持ちとしての顔は明らかに偽装だったのだ。

 

ルイは自分を偽ってこの世界を生きている人間が多いことに憤りを感じていた。

 




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