Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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【遠征組】ルイ、トゥーラ、ジュード、(リドリィ)
【拠点滞在】ナパーロ/ラックル/694番、ガルベス、シルバーシェイド、シャリー、ヘッドショット、レイ
【偵察中】チャド


76.帰国

 帰路の船内はほとんどの者が無言であった。工場の死闘による疲労もあったが、サッドニール班が全滅したにも関わらず撤退することになった虚無感が強かったからだ。

 ルイに至っては今回の遠征結果に対して一番納得していなかった。出発時ヘッドショットに言われた「良い結果をもたらすとは思えない」という言葉。

今回のテックハントはまさにそれを現わしていていたかもしれない。

 

技が通用せず自分の未熟さを体感しただけでなく、技術も持ち帰れたわけでもない。そして都市連合の怪しい目的のために錬られた工場長暗殺計画に巻き込まれ、目の前で暗殺を達成されており気分も悪かった。

 

「おい、ディアー。なんでサッドニール(元工場長)を暗殺しなければならなかったんだよ」

 

自分で考えているうちに気が収まらなくなり、つい問いただしてしまう。だがこれにディアーは鋭い目つきを返す。

 

「……立会人に聞いてないのか?詮索はするな」

 

「ちっ」

 

トゥーラも問題が起きないように割って入る。

 

「ルイ。あのスケルトンはやはり名前を偽っていたみたい。前に会ったことがあるサッドニールの名前を借りていたそうよ」

 

「そうか。ニールはノーファクションの行商として過去に工場にも行ったことがあったのかな」

 

「かもしれないわね。それで名前を使ったお礼としてこの杖をサッドニールに渡してくれって」

 

トゥーラは杖を取り出してルイに渡した。

 

「……重っ。すごい杖だな」

 

杖は先程まで戦いに使われていたはずなのに傷一つなく輝きを放っている。

そして掲げて眺めているとリドリィがアドバイスしてくる。

 

「メイトウクラスだな。他人に狙われないように注意しろよ」

 

メイトウクラスとは武器や防具の最上級の等級で、この世界において唯一無二の存在であることを意味している。もはやこのクラスの武器を作成できる技術は世界から失われており、見つけることすら困難な伝説とされた代物だった。なお、素材が凝縮された密度で作られているがゆえに重量も最上級のため並大抵の筋力では使いこなすことは出来ない。

 

「マジすか……。もしかして工場長ってすごいスケルトンだったんじゃ……」

 

杖の凄さと工場長に感嘆しつつもその後の会話は続くこともなく、しばらく船が走っているとハウラーメイズ側の陸が見えてくる。

 

「もうすぐ港に着きます。依頼主のレディー・ミズイが出向えてくれると思いますので会話は私に任せてください」

 

立会人が船を操縦しながら説明した。都市連合に新設された技術統制機関の最高顧問の貴族ミズイ。禁忌の島にアイアンスパイダーを生産する工場があることを冷徹な手を使ってでも世間から隠そうとした人間ということになる。はたして立会人の説明だけで納得してくれるのかルイ達は不安だった。

 

しかしそんな不安を吹き飛ばす出来事が起こる。

 

「が……がは!!」

 

ディアーのサーベルが立会人シオタの胸を貫いていたのだ。リドリィは一瞬の殺気を感じ取り既に抜刀していたが、遅れてルイ達は固まりながらも武器を構える。

 

ディアーは周りを気にすることなくそのままサーベルを使って器用に立会人シオタを海に投げ捨てた。

不意を突かれた立会人はそのまま動くことなく水中に沈んでいった。

 

「な……なんで……!お前何やってんだ!」

 

ルイは立会人シオタを後ろから斬ったディアーに反応した。最初から騙し討ちのような手法ばかり使うだけでなく、仲間をも捨てるように扱うその態度に怒りが込み上げていたのだ。

 

「お前達を巻き込むつもりはなかったがこればかりは仕方ねぇ……」

 

ディアーの様子がおかしい。息は荒く、額には汗を溜めている。そして何より神妙に語りかけてくるのだ。

抱えている脇腹からは血が滲み出ている。

船上でフラつくディアーを見てリドリィが冷静に問いただす。

 

「なぜ立会人を斬った?お前が所属する組織のメンバーなのだろう?」

 

「ああ……そうだ。しかし立会人がいたらお前達は殺されていた」

 

「やはり奴は生かして返す気はなかったわけか。ではなぜお前は私達を助けようとしている?」

 

リドリィは立会人の魂胆を把握していたようだがディアーの行動は不可解だった。だが当の本人は一呼吸置くとルイに対して打ち明けるように語りだす。

 

「……俺はノーファクションのメンバーだった。お前……ローグの子だろ……?」

 

唐突に打ち明けられた内容にリドリィでさえも不意を突かれ目を丸くしている。

ルイに至っては先程まで頭に血が登った状態だったものだから心の整理が追いつくわけがなかった。

だがディアーは急ぐようにルイを見据えている。

 

「どうなんだ?」

 

「そ、そうだ」

 

「やはりそうか」

 

「でもなんで……?」

 

「……この船はオート操縦でミズイが待つ場所に勝手に辿り着く。立会人はそこで加勢を得てからお前達を殺す手筈だった」

 

「…………!」

 

「お前達は触れてはいけない都市連合の闇に関わってしまったのだ。とにかくこのまま逃げずに必ずミズイと会え(・・・・・・・・・・・・・・・・)。そしてその後の判断は全てミズイに委ねるんだ。いいな?」

 

「はぁ?何わけの分からない事を言ってんだ。そいつは事情を知った者を消そうとしてるんだろ」

 

到底受け入れられない要求であった。

にも関わらず、嫌に真剣味を帯びた言葉にルイは混乱していた。

しかし、ディアーは理解を求める様子もなく続ける。

 

「逃げてもずっと追われるだろう。生き残る確率を上げたければ俺の言うことに従うしかない。お前達はいま断崖絶壁を目隠しして綱渡りしているということに気がついていない」

 

「お前は一体何がしたいんだ?俺たちの仲間なのか?お前が説明してくれれば解決じゃないのか」

 

「それがベストの選択だった……が、俺はそこまで持たない。致命傷を食らわされていてな……」

 

気がつくとディアーの足元には大量の血が流れていた。どうやら傷口が開いてしまっていたようだ。そしてそのままフラフラと船の手すりのほうへ近づいていく。

 

「お、おい。まさか……」

 

「……どこでズレちまったのか、本当はトレジャーハンターになるつもりだったんだ。……お前は上手くやれよ」

 

ディアーは言い切ると自ら海の中に身を投げいれたのだ。

 

「ああ!」

 

急いで駆け寄って海面を見渡してもそこにはもう彼の姿はなかった。

 

「くそ!あいつ喋るだけ喋って死にやがって……最後までわけわからん奴だった……」

 

ルイが海を見下ろしている横でトゥーラはリドリィを見る。

 

「この後どうしますか?船を捨てたほうがいいのでは……」

 

元ノーファクションと言ったのはディアー本人であり彼が死んでしまった以上確かめる術はない。これまでの行動から信用に足る者ではないが、最後は迫真の表情でありとてもじゃないが嘘をついているようには見えなかった。

 

リドリィの下す判断は

 

「このまま行こう。やはり船は操舵が効かないようだ。私達は遠泳に慣れていないしレディー・ミズイの顔も拝んでおきたいしな。いざ戦闘になったら私が守ってやるさ」

 

さすが十傑の一人と言うべき力強いリドリィの言葉にルイ達は勇気づいた。確かに彼女であれば少しぐらいの都市連合兵が迎えたところで引けを取らないだろう。

 

そしてついに船はハウラーメイズの海岸に漂着するように止まった。

 海岸には出迎えの人間がいなかったが、ルイ達は警戒しながら船を降りる。

 

「誰もいない……」

 

「いや……いるよ。油断するな」

 

リドリィは先の戦いで感覚がさらに研ぎ澄まされているのか辺りに誰かがいる気配が分かるようだ。

 

そしてその結果はすぐに分かった。

 

 

 

「立会人がいないようだけど、どうなっている?」

 

突然、女性の声が後ろから聞こえてきたのだ。

 

ルイ達は声のするほうに振り返ると、そこには赤い革のコートを着た女が立っていた。

 

妖美な佇まいで30代ぐらいの色気のある美女だ。

容姿も端麗で貴族と言われるに相応しい美麗なオーラを放っていた。

両脇には全身を武者鎧で包んだ侍2名が固めている。

一人は野太刀。もう一人はその長身と同じくらい長い大太刀を背負っている。いずれも相当の手練であることが伝わってくる佇まいだ。

 

【挿絵表示】

 

(3人か……)

 

リドリィは相手の人数を把握すると探りのために声をかける。

 

「レディー・ミズイか?私はテックハンターのリドリィと言う」

 

これに赤いコートの女が鋭い目つきで反応する。

 

「先に私の質問に応えなさい。立会人をどうした?サッドニール班は?」

 

しかしリドリィも引かない。

 

「こちらもあんた方が本物か確認しないと喋れない」

 

「この場所を知っているのは依頼主だけでしょ。つべこべ言わず応えなさい」

 

「おっけ。レディー・ミズイ本人のようだな。立会人は出向間際に死んだよ。残ったのは我々だけだ」

 

この報告を聞いてレディー・ミズイ以下2名の侍の気配が変わる。工場長暗殺の密命を受けたであろう立会人とディアーがおらず、船で帰ってきたのはリドリィ班のみという現状に当然ながら疑惑を抱いているようだ。

 

殺伐とした空気で場が支配される。

 

「遠征……工場まで行ったのか?」

 

ミズイの思惑上、遠征は工場長を誘い出す罠でありそもそも実施されない計画であったはずだ。また彼女には工場自体の存在も隠そうとしている伏しがある。

ここで回答を間違えると即戦闘。そんな気配を取り巻きの侍達は醸し出していた。

 

「当然だろ。それがアンタの依頼じゃないか。サッドニール班の船が沈没したのだが、復帰出来たので任務を続行して工場まで行った。しかし結局返り討ちにあい任務は失敗した」

 

「ほう。船が沈み、さらにサッドニール班は復帰できたのか。それで?工場で何を見た?」

 

「何も見れなかった。工場の手前で戦闘が発生したのさ。大量のアイアンスパイダーが襲ってきて先頭を行っていたサッドニール班は皆、何も出来ずに死んでいったよ……。後続の私達は即撤退に踏み切った」

 

「……荷物持ちのディアーはどうした?」

 

「彼も逃げ遅れて死んだ」

 

「……あの臆病者が逃げ遅れたのか?」

 

重たい沈黙がその場を流れる。ディアーが手練の暗殺者だったことをお互い理解しつつも隠している。ここまで互いに腹の中を探るようなやり取りであったが、今まで黙っていた侍の一人が口を開く。

 

「こいつらが立会人とディアーを殺った可能性が高いですね。大方前金だけ頂いて逃げる計画だったんでしょ。船を操縦できる立会人の死体もなく、ほぼ無傷ってのが怪しさ満載だぜ」

 

言うなり背負った野太刀を構えたのだ。

当然、リドリィもフォーリング・サンを構える。

 

ただならぬ緊張感でルイ達は滝のような汗を流していたが、それが目についたのかミズイから直接声をかけられる。

 

「そこの貴方」

 

「俺!?な、なんだよ?」

 

「その杖はどこで手に入れた?」

 

「!!」

 

迂闊だった。メイトウ杖を持っているだけでHat101と交戦して奪ったことが想定出来てしまうかもしれないのだ。狼狽しているルイを見て間髪入れずにリドリィが割って入る。

 

「Hat101というスケルトンの個体が執拗に追いかけて来たんだ。ディアーもそいつにやられた。全滅させられかけたが何とか倒し、杖はそいつから奪った」

 

嘘と事実を上手く混ぜた賢い回答だった。

 

「そうか。古代のスケルトンに遭遇したのか。ならばディアーがやられてもおかしくはないかもしれないな……」

 

ミズイは辻褄が合ったようで納得したような仕草を見せた。そしてリドリィを見て何か考え事をしている。

 

「あなた……女にしては完璧な戦闘体型ね」

 

「……なに?」

 

急に話題を変えてきたミズイにリドリィも当然面食らっている。

 

「古代のスケルトンはあなたが殺ったのでしょう?女の健康体は貴重だし、洗脳兵の実験体になってもらうわ。カクノーシン、生かして捕えなさい(・・・・・・・・・)

 

「!!!!」

 

突然の宣戦布告にルイ達は狼狽した。そして……先程まで余裕を見せていたリドリィさえも額に汗を溜めていた。




残り2話となりました。

レディー・ミズイの取り巻き侍2人の名前は
スケサーンとカクノーシンと言います。
とあるゲームキャラの名前を借りましたが、由来分かる人はすごいっす。
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