Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
サッドニールの手紙は数枚のページで構成されていた。恐らくここに着いてからあらかじめ時間をかけて書き上げたのだろう。
それをルイは静かに目を通していった。
「ルイへ。この手紙が渡っているということは少なくとも私はもう君の側にはいないことだろう。
本当なら私も君の成長を最後まで見届けたいと思っていた。
しかし総合的に考えて私は君のもとを離れるべきと判断したのだ。
それは約束していた両親について記す事とこれから私がやろうとしている事が起因している。
まず君の父親についてだが既に察しているとおり過去に組織を結成したグリーンランド人のボスが君の父親だ。
ボスは世界の中心と言われている通称「毛皮商の通り道」と言う地域に拠点を構え、都市連合と共同で世界の食糧や資源の物流を豊かにさせていく事業を行っていた。
その過程で盗賊を壊滅させたり略奪者などお尋ね者を捕らえ治安も守っていた。
盗賊や野盗の一部はボスに感服し行動を共にする者もいた。
組織は絶大な力とカリスマを持つボスに導かれ急速に成長し、一時は大国が無視出来ない存在になるほど隆盛を極めたのだ。
しかし隣国の宗教国家ホーリーネーションと理念の違い等からぶつかることになった。
この経緯は私も詳しくは知らない。
組織は数で押してくる大国相手に少人数ながらよく戦った。
そしてホーリーネーション上級審問官率いる大軍勢と最後の決戦を行った。この決戦は熾烈を極め、両軍多大な被害を出した。ここで名のあるソルジャーの多くが戦死したが組織は同盟国の支援もありなんとかホーリーネーションの軍勢を退けたのだ。
だがその直後に予想もしなかったことが起きた。
交易相手国であった都市連合の最強部隊が突如襲撃してきたのだ。
完全に想定外だったのだろう。組織は善戦はしたが決戦直後で疲弊していたため、壊滅の憂き目にあってしまった。
その時に君の父親であるボスも非戦闘員を逃がしながら最後まで戦ったが最終的に戦死したそうだ。
遠征中だった私やハムート含む生き残った者は帰る場所とボスを失い皆散り散りになってしまった。
しかし君という希望は残った。
ボスは以前にクラブレイダー村でルミと言うカニ好きの女性に出会い恋に落ちていた。
その子供が君ルイだったのだ。
ルミは都市連合の部隊が襲撃に来た際もボスと一緒に戦っていたが赤ん坊のルイを逃がすことを優先し途中で離脱したらしい。ボスはその時に南西にいる交易部隊である私と合流して難を逃れるように指示したのだ。
組織の壊滅後、交易部隊も離散し私と子供を抱えたルミは故郷であるクラブレイダー村を目指した。その途中でルミは戦闘中の怪我が原因で命を落としてしまったのだ。
ルミは君の行く末が気がかりでしかたなかったのだろう。傷の悪化に苦しみながらもスケルトンの私に赤ちゃんを育てるための手順を教え込んでいった。
そして死ぬ間際まで君のことを抱き続けていたんだよ。」
ここまで読んでルイの頬を涙が滴り落ちる。
物心ついたときにはサッドニールがご飯を作ってくれて、着替えを手伝ってくれて、一緒に寝てくれた。言葉も教えてくれた。
でも自分の親ではなく、本当の親は他にいるとだけ教えられた。
成長するに連れその意味を自分なりに理解していた。
そうか・・自分は両親に棄てられたのだ。
それを不憫に思ったサッドニールが育ててくれたのだと。
それでもサッドニールがずっと側にいてくれたから寂しくはなかった。
しかし、時折おぼろげに浮かび上がっていた表情。
自分を見下ろす母親ルミの母性に満ちあふれた暖かくて優しい表情を思い出したのだ。
あれは夢でもなく幻でもなかった。
両親はちゃんと私の事を愛してくれて最後の最後まで私を見てくれていたのだ。
それを察したとき、涙が止まらなくなった。
手紙を涙でグシャグシャにしつつルイは次のページをめくる。
「私はボスとルミの意志を継ぎ君を育てることにした。君にとって平和で安全なクラブレイダーの地域でね。
だから君が世界を見たいと言い出した時は正直非常に悩んだものだよ。
私はルイの人生を束縛する権利もないし最後まで守り通すことを約束していたから同行することにした。
だがハムートとの一件で私の思考が変化したのだ。
ハムートと長老の一騎討ちの際に私はルイの危険を顧みず飛び出してしまった。
愚かなことだった。
この行動は今でも自分で理解できないでいる。
記憶のどこかで組織への情念が残っていたのかもしれない。
そして理解できないことは私の頭の中で続いた。
目的を持ってしまったのだ。
スケルトンである私が誰に言われたわけでもなく自らある事を成し遂げたいと思うようになったのだ。
これは数百年生きてきた中で初めての経験であり私自身も非常に動揺した。
これまで何かのために自ら動くスケルトンはいたがそれらは全て打算や効率、メリットを考えた上での行動だ。
しかし、これから私がしようとしていることは
今となってはまったく無価値で無意味な作業かもしれないのだ。
ハムートは組織の復興を目指していると言ったが、実現可能性が低い事ではあるが利にかなっているとおもう。それに比べ私がやろうとしている事というのは、組織がなぜ壊滅する羽目になったのか過去の真相を突き止めたい、ということなのだ。
今さら突き止めて何になると言われるかもしれない。しかし真相を突き止めることで死んでいった仲間達の無念を少しでも晴らし手向けとしたいと思ってしまったのだ。
死後の世界があるわけでもないのにな。
我々の組織は人間社会の発展に寄与していて南北に分断された都市連合の導線にもなっていたはずなのに、なぜ攻撃する理由が都市連合にあったのか?
その後、都市連合自体は何事もなかったかのように振る舞い、時を同じくして都市連合皇帝テング暗殺の噂がたった。これは何か関係があったのではないかと思えてならないのだ。
しかしこの調査は危険が伴う作業になるかもしれない。
このままルイの近くに私がいても危険に巻き込んでしまうだけだし、また私自身が最悪な判断をしかねない。
そのため私は単独でこの件を調べることにしたのだ。
ルイはもう私から独立できるほどの実力をここで身につけた。今が違う道を歩む適したタイミングなのだと私は思う。
全てが終り、私のワガママを許してくれると言うのならまたどこかで友人として再会してほしい。
今まで私を親のように慕ってくれて嬉しかったよ。本当にありがとう。さらばだ。
サッドニール」
読み終わってもルイは下を向き微動だにしなかった。
「ね、ねぇ平気?サッドニールを探すの?私もついていくよ?」
気にしたトゥーラがルイの顔を覗き込む。
ルイは袖で目元を拭うと何事もなかったように振る舞った。
「・・いや、平気だ。ご丁寧に読みやすいようにふりがなまでふってくれちゃって。ニールは俺を認めてくれたし、あいつの初めてのワガママだ。俺にもニールを止める権利はない。またどこかでひょっこり出会うだろうしな。それまでに俺たちは滅茶苦茶成長して出迎えてやろうじゃないか。」
にこやかな笑顔にトゥーラも同調する。
「ふふ、そうね。あなたのそのポジティブ思考嫌いじゃないわ。私もその頃には世界で名高いテックハンターになってるわ。」
ルイが立ち直った素振りを見せていることは、知り合って間もないトゥーラにも容易に察することが出来たが、それに触れることは敢えてしなかった。
これまで苦楽を共にしてきた相棒の突然の宣告に動揺しないわけがない。強がることで今の自分を保っているのだろう。
「よーし、じゃあ早速都市連合にいこう!」
とにかく何か行動することで気を紛らわせる。安易だが彼女が出した答えなのだ。
トゥーラはそこにルイの強さを見た。
「オーケイ。実は私は都市連合の町の出身だから案内してあげる。」
「え?じゃあトゥーラにとっては戻ることになるけどいいのか?」
「本当は東の遺跡を目指していたけど、自分にとっては時期尚早だったの。強くなって良い武器入手してから出直すわ。」
「・・そっか。ありがとな。」
戦力として期待していたサッドニールが抜けた今、トゥーラにとってルイと組むことに大きな
意義はない。しかし、今ルイを一人にすることも道義上出来なかったのだ。これはトゥーラなりの優しさであった。
「ここから一番近い都市連合の町はブリンクよ。案外そこでニールに会っちゃったりしてね。」
「・・・あいつしっかりしててたまに抜けてるからなー!」
ルイの反応の悪さと気丈に振る舞う様を見て、トゥーラは自らサッドニールのネタを降ってしまったことを後悔しつつ早めに話を切り替えた。
「じゃあ早速テックハンター詰所に行くわよ。」
「なんで?」
「ただブリンクに向かうより護衛商売をしながら行ったほうが稼げるのよ。自分達もより安全になるしね。たまにトレーダーギルドが募集しているわ。」
「なるほど~!」
早速詰所に向かうとそこには募集待ちの傭兵グループや休憩中のテックハンターがたむろしていた。
ブリンクまで護衛します 2人1000cat
「出来た!これ掲げて待ってりゃ誰か雇ってくれるっしょ」
ルイはその辺の紙切れに募集内容を拙い字体で記載した。
「相場より安いはずだけど字きたないわね。見た目で判断されてしまうかもしれないわ。まぁ取り敢えずこれでいきましょう。」
トゥーラはルイが書いた文字に少し不安を感じているようだ。
そしてそれから2時間ほど待ってみたが、依頼人らしき人達は入ってくるのだが肝心なオファーが中々こない。
隣で待っていた傭兵達は既に雇われてどこかへ旅立ってしまった。
机で頬杖つきながらルイがトゥーラに尋ねる。
「なぁ・・・こんなにオファー来ないもんなの?もう数時間待ってる気がするんだけど。これ原鉄堀のほうが儲かるんじゃね?」
「おかしいわね・・。美人な私にオファーが来ないなんて。やっぱりあなたが足を引っ張っている可能性があるわ。」
「護衛に美人は関係ないでしょ。」
「どうせなら旅の隊列に花を持たせたい人達もたまにはいるのよ!」
若い女のやりとりを周りの傭兵たちは白けた様子で見ている。
しかし、一人だけトゥーラの言動にのってきた者がいた。
「フォッフォッフォ。全くその通りじゃよ。」
後ろから突然同調する声に2人が振り向くとそこにはアゴヒゲを蓄えた初老のおじさんが立っていた。
「ご、護衛の依頼ですか?」
突然の割り込みに声が上ずる。
「うむ。君達2人かの?ブリンクまでいいかね?」
身なりがよく清潔感があるおじさんだった。
「もちろんです!お代は後でもいいですよ!」
「需要あるもんだな?」
ひそひそ話で喋るルイを制してトゥーラがおじさんに問う。
「あの、失礼ですが、あなたは行商人でしょうか?」
「わしかな?うむ。そうじゃよ。この町に物資を売って帰るとこじゃ。わしを入れて5人を無事にブリンクまで運んで欲しい。出来るかの?」
「はい!是非お願いします!」
記念すべき2人の初護衛で相手を選ぶ余裕もあるはずがなく二つ返事で快諾した。
しかし、そのやりとりを不穏な眼差しで見ている者がいた。
やっと自分が思うメインストーリーに入れそうです。
長くなりそうなのでどこかで1回区切ろうかと思います。。