Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
リドリィが敗れ、ルイも倒された。
この絶望の中、ジュードだけは冷静でいられていた。リドリィとは知り合ったばかりだったし、ノーファクションとも関係が薄いので第三者の視点で見れていたのだ。
既にルイが反抗してしまいミズイからの印象は最悪の中、どうすればこの場を乗り切れるのか、一人心の中で考え続けていた。
このままだと殺されるのを待つだけのように見える状況だが
今はこれ以上逆らわず従順な姿勢を示し続ければここで命だけは取られないのではないか、と考えたのである。
それはディアーが残した言葉をまだ捨てきれずにいたからだ。
(そもそも死ぬ間際のディアーにあんな迫真の演技が出来たのだろうか?)
余程の使命がない限り、どんな人間であっても誰かを騙しながら死ぬよりも、最後は正直者でいたいはずだ。
(しかも、彼は立会人を斬り捨てている。騙すつもりならば立会人に任せて良かったはずだ)
結論としてディアーの言葉はまだ信用するに値するのだ。しかし問題はディアーとレディー・ミズイの意識のズレだ。ミズイがディアーの思うような人間でなかったとしたら根本的に「生き残りたければミズイの言うことを聞け」というディアーの言葉を聞く意味がない。現に今もミズイは問答無用で殺す姿勢を示している。
ただ、結局他に何も出来ないこの状況ならば、ディアーを信じてこれ以上抵抗はせずにミズイの言うことを聞くしか手はなかった。
そんなジュードの心境をよそにミズイは前に出て喋り始める。
「あなた達はルイの部下?取り敢えず見せしめに一人死んでもらおうかしら」
その口ぶりには笑みが含まれておらず、冗談と言うわけではなさそうだ。今もジュードとトゥーラを交互に見ており、どちらを殺すのか選んでいるようだ。
そして次の言葉を発しようとした時。遮るようにジュードが喋りだす。
「あんた達がやっていることにもう関与しない!ルイには俺達が必ず言い聞かせる。それで見逃せないか?」
敵対もせず邪魔もしない。ミズイにとっては面倒な説明も回避出来る。
ジュードはミズイが望んでいる事を前面に押し出しこの場を切り抜けようと試みたのだ。
ミズイの目つきが変わった。
「……本当にこの娘を説得出来るのかしら?見たところ後先考えない単細胞に見えるし、暴走されても処置が面倒なのだけど」
「大丈夫だ。力づくで止める」
ミズイの問いにジュードは即答した。
「そう……賢明ね。では様子を見ようかしら。しばらく様子を見て問題なさそうならその内テックハンターとして専属契約してあげる。ただし、あなた達の事は
やはりルイ達が工場の状況を知ってしまっていることはバレているようだが、何とかこの場は切り抜けられる雰囲気が出てきた。
レディー・ミズイは言い終えるとそのままリドリィを担がせその場を去っていこうとする。
これを震えながら見ていたトゥーラが刀に手をかける。
「トゥーラ!」
ジュードは間髪入れずにそれを諌めた。
トゥーラは鋭い形相で睨みつけるが無言のまま言い返さない。いま戦っても勝ち目がないことは自分自身も理解しているのだ。リドリィが連れ去られる様子を見て必死に自分を止めているのが分かった。二人はミズイ達の後ろ姿が小さくなっていくのをただただ見ているしかなかった。
気絶しているルイ含めて拠点組の3人がそこに残された。辺りは一変して静まり返っており、何か嵐が過ぎ去った後のような感覚だ。
力なく膝から崩れ落ちるトゥーラにジュードは喋りかける。
「お、おい、大丈夫か?」
「……リドリィさんが連れ去られたのに……ルイは立ち向かったのに……私は何も出来なかった……」
「仕方ないだろ。あの場で俺たちに出来ることは何も無かった。むしろお前は冷静になってよく耐えたよ」
「違うの。自分の命が惜しくなっただけよ……」
ジュードは肯定も否定もしなかった。
「これからどうする?」
「……ルイが目を覚ますまでハウラーメイズで休みましょう。ルイをおぶれる?」
「分かった」
2人はルイを背負って都市の方へ力なく歩き出した。
そしてしばらく歩くと前方に侍が一人立っているのが見える。よく見ると野太刀を背負っておりレディー・ミズイの後ろにいたスケサーンと呼ばれていた侍だと分かる。そしてスケサーンはトゥーラ達を見つけるなり声をかけてきた。
「よぉ。どこいくんだ?」
「どこって……。拠点に帰るんだ。あんたこそ何してんだよ」
この侍はこれまでの言動からしてこちらに好意的ではないことは分かる。そんな相手が単独で再び姿を現したのだ。自然とジュードも警戒していた。
「ああ。考えたんだがよぉ、やーっぱお前らはこの場で処置しておいたほうが良いと思ってなぁ。そっちの嬢ちゃんなんて今も殺気満々だしなぁ」
トゥーラはハッとして顔を覆う。
それを見たスケサーンはからかうように続ける。
「敵意はバレないようにしないと意味ないよなぁ。お前ら殺してそのメイトウ杖、売っといてやるよ」
そう言って野太刀をスラリと抜いたのだ。
「な……!?レディー・ミズイの判断に逆らっていいのか!?」
ジュードは慌てた。見るからにカクノーシンとスケサーンという侍はレディー・ミズイの護衛、つまり従者だ。主人の方針に反した行為を出来るはずがない。
「くくく。俺たち“特憲”は自分の裁量で判断して良いことになっている。貴族の命令が絶対ってわけじゃねぇんだ。残念だったな」
「特憲……だと?」
聞き慣れない言葉だった。
「特別憲兵を知らねぇのか。帝国のために裏で処置してまわっている部隊だよ。隠れてゴミ掃除している有り難い集団なんだぜぇ?分かったら潔く死にな」
ジュードはルイを下ろして構えた。
もはやこの侍との戦闘は避けられないと判断したのだ。
しかし、先程までの高レベルな戦いを見せつけられた後なので、否が応でも体が拒否反応を示す。震えて訴えかけてくるのだ。『この侍とは戦うな』と。
カクノーシンという片方のデカイ侍のせいで身を潜めていたが、この男も相当ヤバい。
ジュードは全身でその感覚を受けていた。
(次元が違う。明らかに俺とトゥーラが一緒に闘ってもこの男には勝てないだろう)
ならば……
自分もチャド師範が支援しているルイを救うことに専念する。
『せめて師範に認められてから死にたい』
ジュードの思考回路は自己犠牲による名誉にシフトしていた。
「トゥーラ。俺が奴の相手をしている間にルイを背負って行ってくれ。避けることだけに集中すれば数分持つ」
「でもそれだとあなたが……」
「俺の武術はこういう時のために磨いて来たんだ。禁忌の島じゃ出番もなかったしね」
「……分かった。また拠点で会いましょう」
「オーケイ」
ジュードは前に出て構えた。
「お前から死ぬか」
スケサーンは言うなり野太刀を片手で持ちながらすぐさま近づいてきて、その勢いのままビュンと野太刀を振り落ろす。格下相手に間合いなどお構いなしだ。
ジュードは後ろにのけぞりそれを紙一重でかわす。
(マジか……!)
斬撃の速さで相手の力量を肌で感じたジュードは死を覚悟した。
(片手でこの速さ……!今避けれたのも半分マグレだ!だが……!)
不退転の覚悟が反撃の一手を閃かせる。
スケサーンは自分をナメてかかっている。そこに糸口があるとジュードは考えたのだ。
いくら重くて素早い攻撃であってもフェイントがなくタイミングさえ合えば見切れることが出来る。
だから次に来る一撃を
それこそスケサーンの命を奪えるほどの強烈な奴を、だ。
元々、自分のポテンシャルはチャド師範に一番認められていたと自負している。だから道場を畳んだ後も一人だけ同行を許可されたのだ。
自分がチャド師範の後を継ぎ得る実力を持っていると思われていたのだとしたら、ここで単純な敗北だけは死んでも死にきれない。せめて相打ちという形でこのスケサーンという厄介な侍の息の根を止めておき、今後ルイ一派が動きやすいようにするのだ。
そんな考えも知らずにスケサーンは再度ズカズカと寄ってくる。そして野太刀を振り上げた。
(勝機……!!)
ぶつかる瞬間、ジュードは迷わず踏み込んだ。
あらゆるものを突き破るほどの闘気を指先に溜めて手の指を真っ直ぐ伸ばす。
『貫手 』により急所である喉元の破壊を狙ってケリをつけに行ったのだ。
しかし、今度は相手との間合いは縮まらなかった。
スケサーンはフェイントを入れていたのである。
「何かしようって顔。めっちゃ出てたぜぇ?実戦が足りてねぇなぁ」
読まれていたのだ。
(…………くそ)
ジュードはつい心の中で悪態をついた。
そして同時に人生の最後とは実に儚く終わるものだと自覚した。
(師範。結局俺は何も貢献出来ませんでした。申し訳ありません。後は頼みます)
この後、真っ二つになった自分が宙を舞うところまでも想像出来ていた。
しかしその時、遠方から声が聞こえてくる。
「お前達何をしている!」
渋くしゃがれた声だがトゥーラには聞き覚えがあった。
スケサーンも声のする方に振り向く。
「これはこれはロード・オラクルの私兵侍の方々じゃないですか。巡回ですかな」
先程までの殺気はすっかり消しさり、落ち着いた口調で集団の中心にいる白髪のリーダーらしき人物に話しかけたのだ。
「如何にもそうじゃ。見たところ、そこにいるのはルイ達じゃろう」
「ルートヴィヒさん!」
思わずトゥーラは叫んだ。
白髪の男はロード・オラクルの護衛隊長でハウラーメイズ遠征においてメガクラブとの戦いに参加させられていた侍だった。
数人の兵士を連れておりどうやら巡回の途中のようだ。
「我が領内で強盗などしでかそうとしているのではなかろうな」
「まさかぁ。俺は彼らに護衛として雇われてついでに鍛錬してあげていたんですよ」
スケサーンは殺しを目撃されるのを嫌ったのか飄々と嘘をつき始めた。
「ふむう。ここはまだ治安が安定しておらず草海賊もたまに出没する。気をつけることだな」
「分かりました。まぁちょうど護衛の契約期間が切れてしまったので俺はこのまま立ち去らせて頂きますぜ。いいですかな?拳法着のダンナ?」
スケサーンがジュードに問いかけてきた。このまま立ち去ろうしているのだろう。それならば渡りに船だ。見逃してくれるというのならば乗っからない手はない。
「あ、ああ。護衛してくれて助かったよ……」
ジュードは話を合わせることにした。忌々しい奴だが、すぐに立ち去って貰ったほうが得策だった。
スケサーンは不敵な笑みを浮かべジュードを一瞥した後、そのまま去っていった。
その頃、レディー・ミズイとカクノーシンは別の場所を歩いていた。
「スケサーンを……行かせて良かったのか……?」
気絶しているリドリィを担いだカクノーシンが静かに問いただした。
「彼は止めても行くでしょ。行っても無駄なんだけどね。それよりあなた、リドリィと知り合いだったの?どういう関係?」
「古い……弟子だ……」
「へぇ、そうだったの。会えて良かったわね」
「…………」
レディー・ミズイとカクノーシンは振り返ることもなく、都市連合の砂漠へ向けて歩き続けていく。その先には全てを暗闇に包み込むような暗雲が空を覆い尽くしていた。
禁忌の島におけるトゥーラの父親探しを無事に終えた矢先、都市連合に巣食う陰謀の闇に巻き込まれる事となったルイ一行。失意の中、拠点への帰還は叶ったが、同行してくれたリドリィが連れ去られ、今後苦渋の選択を迫られる事となる。
都市連合という巨大国家に立ち向かいリドリィを助け出すか、仲間の命を優先し身を引くか。いずれの道もリスクと後悔が伴うが、その先にどのような未来が待ち受けているかは今はまだ誰にも分からなかった。
禁忌の島から遥か西方
「グリフィン司祭様。都市連合から密書が届いております」
聖職衣に身を包み、片手を使って分厚い本を読みふけっている男に重厚な甲冑を纏った男が話しかけた。
「そうですか。見せてください」
手紙を渡された男はそれに目を通していると静かに涙を流し始める。
「いかがされました」
甲冑の男からの問いに聖職衣の男は一呼吸置いて応える。
「どうやらホースが天に召されたようです。しかし悲しんではいられませんね。いよいよ戦争が始まるのだから。我らも命を賭して使命を全うしましょう……」
男は宙に手で十字を切ると、悲哀のこもった表情で天を見上げた。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
今回は風呂敷広げた形で終わりしたw
そして、ここまで2年かかっていることに気がつきました。(長~っ)
いつ終わるのやら……
というわけでまた休止します!ノシ