Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
ルイ、トゥーラ、ナパーロ/ラックル/694番、ガルベス、シルバーシェイド、シャリー、ヘッドショット、レイ、チャド、ジュード
ノーブルサークル御前会議
ノーブルサークルとは都市連合の支配階級、いわゆる貴族の集いだ。
御前会議は不定期開催であり、何かの決め事や行事、イベントがある際に招集がかかる事があった。ハウラーメイズ遠征の時も事前に是非を審議する会が行われていた。
貴品溢れる豪華な衣服に身を包んだ者たちが円卓を囲っている。その中で奥に座っている恰幅の良い男が飽満な髭を誇らしげに撫でながら喋りだす。
「ノーブルサークルの一同が介するのは何年ぶりかな。皆、それなりに歳を取ったようだし、面子も少し変わったな」
「ふぉふぉふぉ。オオタ殿は健康のようで羨ましい限りですわぃ。わしはもうほれ、この通りじゃ」
横に座っている高齢のスコーチランド人は自分が乗っている車椅子を指さした。
「ロンゲン殿にはこれからまだやってもらわねばならないことが沢山ありますぞ」
「いやいや、折角、若い風もはいってきておるんじゃ。彼らにも頑張ってもらわねば」
そう言うと老人はドア側の末席にいるロード・オラクルをチラリと見る。オラクルはニコリと会釈こそしたが何も喋らなかった。すると横にいるシェク人の女のほうが話に乗ってくる。
「オラクル卿のハウラーメイズ攻略は見事でした。長年、都市連合が抱えていた食糧問題も大分解決してきています」
「だが、漁をやれる奴隷がいないだろう。ポートサウスも何者かに襲撃されて壊滅した。犯行組織について特憲は何か掴めているのか」
「どうせ反奴隷主義者でしょう。ポートサウスの方はこの私サンダが復興に手を貸しているから問題ないわ」
「そういえば南方都市の領主は参加できないのか。する気がないのか」
各々が自由に喋り出している様子を見ながら、オラクルはずっと無表情を貫き、別のことを考えていた。
(あ〜……。初の御前会議に参加したものの……来なきゃ良かった……)
貴族の集いノーブルサークルに加入して分かったこの国の実態にオラクルは辟易していたのだ。
見せかけの結束
都市連合はいくつもの都市が互いの保全のために徒党を組んだ形で一大国家を形成している。傀儡の皇帝を擁立し、ある程度のルールと方針を定め遵守しているが、複数の派閥が利権のために長年終わることのない政争を続けていた。
いかに今の皇帝を操り、国の方向性を自分のやりたいことに向けるか。そんな連中が国家の中枢を牛耳っているのだ。オラクルのように国と国民のために動こうとする者は少数派であった。そしてそのせいもあって都市連合は世界の3大国家のうち一番の領土を有しているにも関わらず緩やかに衰退の一途を辿っていた。
(どうせつまらない施策の発表だろうけど、雰囲気的に今回は全都市参加型だろうな。ダルいなぁ……)
「皆さん静粛に。今回の議題はテング皇帝自らお話頂きます」
場が温まってきたのを見計らって、オオタと呼ばれた髭の男が手で制しながら喋りだした。
ロード・オオタ。
皇帝のいる首都ヘフトの領主にして執政を担当する権力者だ。20年前の皇帝テング失踪時もテングの息子をすぐさま皇帝に置き、場を混乱させることなく鎮めた実力者でもある。ある意味、一大派閥の長である彼がコントロールの効かなくなってきた皇帝をすげ替えた説もあるが、そんなきな臭い事を追求する必要も度胸もない。
ロード・オラクルは沈黙を保ち続けていた。
「では陛下、お願いします」
一同の目が一番奥の豪勢な椅子に座っている青年のほうへ向けられた。
皇帝テングJrは幼き頃、父親失踪と同時に皇帝の座に祀り上げられてからは、政務の場にはろくに出てこず、引きこもっていた。当然、知恵をつけさせないために周りの者がそのように誘導しているだけだろうが、その分、前皇帝よりも実力面の期待は薄かった。
(私も直接お言葉を聞くのは初めてになるが愚策の提案だけはやめてくれよ……)
オラクルはドキドキしながら次の言葉を待っていた。
父親のファッションを引き継いだのかテングJr皇帝はサングラスをかけている。引きこもりのはずだが見た目には気を使っているように見える。そんな青年皇帝の第一声はオラクルにとって予想より遥かに斜め上をいっていた。
「おー、堅苦しい話は終わった?じゃあ早速、本題。ホーリーネーションを攻めるよ」
軽い口調で平然と言いのけられたその言葉に当然どよめきが起こる。
オラクルに至っては絶句に近い状態になった。
(な、何を言いだすのだ、このガキは……)
思わず声に出してしまいそうになるぐらいオラクルは腹が煮えくり返っていた。
自分が大金を投じてハウラーメイズ攻略に力を注いだのは飢えている人々を救うためであって戦争をするためではない。食糧問題が解決しだして都市連合が安定した矢先に、私利私欲のために国を動かして民衆に負担を強いることに憤りを覚えていたのだ。
しかし一呼吸置いて冷静になって考えてみる。
(この傀儡皇帝は何も知らずに“言わされている”だけかもしれない)
となると、真っ先に怪しいのはやはり横にいるロード・オオタだ。
バスト地方を取り戻すことで帝国内における地位を不動のものとし、因縁の派閥争いに終止符を打つつもりなのだろうか。暗殺等の直接的な派閥争いは都市連合の弱体化に繋がるためご法度とされているが、発言力の強化による他派閥の淘汰は可能だ。
(だとすると別の派閥が黙っていないはず。口を出すとすれば……)
「バスト地方を取られてからここ数年はバート将軍が防衛線を引いてくれたおかげで踏みとどまれておりましたが……攻勢に転じられるかどうかは微妙ではありませんかな」
トレーダーズギルドのロンゲンだ。
老齢となり足を痛めてから車椅子の生活だが、この男の商売欲は留まることを知らない。今や都市連合直属の貴族達を抑えて、ロンゲン派と言われるほど2番目に大きい勢力となっている。
なお、バスト地方はここ数年でホーリーネーションに実質支配されるまで押されていた。
※オラクル的視点の都市連合派閥構成
(やはりロンゲン派が出てくるよなぁ)
対抗派閥が何か言いだすことまではオラクルにも読めていた。しかし意外にも旧テング派であるナガタまでも割って入ってくる。
「いや、バストを守りきれなかったのは食糧不足による兵站の確保に失敗したためだろう」
オオタを擁護するだけでなく当時、物流を担当していたトレーダーズギルドを暗に批判したのだ。
(旧テング派がロンゲン派を口撃した?)
旧テング派はテング皇帝失踪後にバスト地方の敗退も相まって急速に衰退し、第一勢力から退いていた。かつての勢いを取り戻すためオオタ派に取り入る可能性は充分にあった。
既に裏で示し合わせているのかオオタも乗っかってくる。
「食糧の確保はオラクル殿も加わったのでさすがに問題ないと思う。あとは攻めるにあたって誰を大将にして進めるかだ」
「オオタ殿が務められたら如何かな」
「俺は首都で政務を担当している。適材適所でいくとバート将軍が適任ではないかな」
ロジャー・バートはロード・イナバに代わりストートで防衛ラインを築き、ホーリーネーションを撃退していた。
「将軍は守りの要です。万が一撤退することを考えると防衛ラインは継続してバート将軍にしておくべきでしょう」
「では攻めの将軍を別で立てたほうが良いということですな。めぼしい候補はいるかな」
ここでナガタが応える。
「ショーバタイにテックハンターを辞めたギシュバ殿がおられます。彼を攻めの将軍として抜擢してはどうでしょう」
「ふむ。彼ならば申し分ないですな。しかし辞退された場合を考慮して、数人の候補を出しておきましょう。それは各々持ち帰りの宿題としますか」
ロンゲンはこのままオオタ派旧テング派のペースになるのを嫌ったのか決定を避けた。恐らくロンゲン派の将軍を探してくるのかもしれない。
「はい、難しい話は宿老達の間でやっていいから会議は終わりでいいかな?皆ご苦労さまでした。次回もよろしくね」
テングJr自身はこの議題に興味がないのか、方向性が決まるとすぐさま閉会してしまった。
ノーブルサークルの面々が順番に退席する中でオラクルも席を立とうとしたがレディー・ミズイに目がとまった。
(パ……パーフェクトゥッ……!)
絹のようなストレートの髪。
エメラルドのように輝く瞳。
ツンとした唇。
美しいS字ラインの腰つきに加え、燃えるように赤いコートに張り付く小ぶりのお尻。
そしてすれ違いざまに残していくフローラルな香りにオラクルはノックアウトされた。
「し、失礼。レディーミズイ」
「何か?」
呼び止められたミズイはサラサラの髪をたなびかせて振り返る。
「あ……この後、お時間あればお茶でもどうですかな。新鮮なミネラルウォーターを持ってきておりまして」
「あら。いいですわね。ただ……」
「な、何か先約でも?」
「ロード・オラクル。レディー・ミズイは僕がこの後、用があるのだよ」
後ろから聞こえる陽気な声にオラクルは驚いた。
「テングJr皇帝陛下!?さようでしたか。それは失礼致しました。では私めはこれで退出させて頂きます(まさかレディー・ミズイは陛下とそう言う関係……)」
会話を聞いていたロード・オオタが口を挟む。
「くっくっく。オラクル卿、安心してよい。陛下はレディー・ミズイの発明にご執心なだけだ」
テングJr皇帝は恥ずかしげもなく説明し始める。
「あ、分かっちゃった?ミズイは色々なものを発明できるんだよ。このテンガーという道具は一人で……」
「ああ、説明して頂かなくて良いです。まぁほどほどにしてくださいよ」
オオタは蔑むようにしてオラクルを連れ部屋から出ていった。テングJrはまだ話したりなそうであったが静かに喋りだす。
「……ミズイちゃん。そこの扉しめてくれる」
「はい」
テングJrはミズイに指示すると葉巻に火をつけた。
「ふぅ〜……。ノーブルサークルは息苦しいなぁ。道化を演じるのも大変だぜ」
急にトーンが変わるテングJr皇帝に驚く様子もなくミズイは応える。
「お疲れ様でした。想定通りでしたね」
「ああ。トレーダーズギルドの資金と食糧に頼る必要がなくなったオオタはこのまま帝国を支配するつもりだな。ホーリーネーションをやれると思うか?」
「人数はこちらが勝っていますが向こうにも炎の守護者や優秀な審問官がいます。良くてバスト地方を取るとこまででしょうね」
「その後、膠着か?ならばまた武器供給源のトレーダーズギルドが儲かるだけじゃん。ロンゲン爺もそこまで計算しているだろうな」
「ええ。彼らは勝利ではなく永遠の戦争状態を望んでいます」
「ははは。オオタも執政のくせに踊らされていて無能だな。戦争している暇があったら父を殺したアイゴアを探せっての」
「…………」
「父は演技がバレてオオタかロンゲンに消された。だからアイゴアを真剣に探してないほうが主犯だと睨んだのだがどっちも真面目に動かねーし」
「……そうですか」
「殺ったのは案外ロンゲン派かもしれないな。つーか、ミズイちゃんはこの話聞きたくないんか?」
「いえ、そのようなお話私に聞かせて大丈夫なのですか」
「あー、僕とミズイちゃんの仲じゃないの〜。一蓮托生で頑張って行こうよぉ」
「……承知しました。微力ながら最善を尽くします」
「ところで古代兵器実用化計画は進んでいるかい?」
「はい。もう少しで鉄蜘蛛のコントロール方法を解明出来ます」
「そうか。それがあればノーブルサークルのクズ共は不要になり排除出来る。そして父を殺した首謀者も見つけ出す……」
テングJr皇帝が拳を握りしめている様子をミズイは無表情で見ていた。
「話は以上だ、行け。期待しているぞ」
「……承知しました」
レディー・ミズイは一礼した後、会議室を出ていった。
外では護衛のカクノーシンとスケサーンが待機していた。
「どうでした〜?また大人の道具のオーダーです?」
「ああ、陛下からもっと刺激が強い物を作るよう依頼されたよ。次は高性能ダッチワイフでも開発してみるか」
「カカカ。操り人形がお人形遊びか。おもしろいっすね。あ、そうだ。トレーダーズギルドのフグが話があるようで外で待ってますぜ」
「分かった。会おう」
ミズイは軽くため息をつきながら歩き出した。
ノーファクションにとって大きな転機が訪れるエピソードとなります……
なお、派閥構成などは完全に創作です(;'∀')
南にいる貴族は現状、御前会議に参加出来ておりません