Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
ルイ、トゥーラ、ナパーロ/ラックル/694番、ガルベス、シルバーシェイド、シャリー、ヘッドショット、レイ、チャド、ジュード
「レディー・ミズイ。お久しぶりでございます」
トレーダーズギルドのフグはクネクネともみ手をしながらミズイに近づいてきた。
「お前が私に何のようだ?」
怪訝そうにミズイが応えるとフグは内緒話をするような仕草で小声で喋りかける。
「いえね。レディー・ミズイが最近専属契約したテックハンターについて忠告しておいたほうが良いと思いまして」
「ルイ一派のことか?英雄と言われるだけあって使い勝手がいいぞ」
「いや実力のほうはもちろん私どもも目をかけておりましたよ。ただ出自がちょっと問題ありまして」
勿体ぶるフグにミズイは苛立ち問いかける。
「何が言いたい。奴隷出身とかか?」
「違います。昔、ノーファクションという反乱組織が存在していたのをご存知ですか?」
「聞いたことはある。それがどうした」
「どうやらルイはそこのボスの娘のようでしてね」
「ほう。だが何十年も前に既に壊滅しているのだろう。組織のボスの娘なんて逆に素質があっていいじゃないか」
フグは少し間をあけると神妙な面持ちで喋りだす。
「いやぁ、ただの組織ならいいのですが、ノーファクションは国家の安定を揺るがすほどの力を持っていたのでねぇ」
「もう娘にそんな力はないだろう」
「はい。ルイ自身には力がありません。ただ、そこに元ノーファクションの精鋭が集まってきております。拳聖チャドなど聞いたことないですか?」
「……知っている」
「チャドは戦略、戦闘、経営全てこなせ、貴族の方々などは喉から手が出るほど欲しい人材です。念のためルイ一派から間引くか組織そのものを解体する必要があります」
「だとすると私の仕事に支障が出るが、補償してくれるのかな?」
「レディー・ミズイ。あなたは加入して間もないですがノーブルサークルでは協調性が大事なのです。あなたのワガママでバランスを壊す恐れがある組織を野放しには出来ませんよ」
「ふーん。ではチャドを除けばいいのだな?」
「そうですね。彼がいるいないで大分違ってきますので。ああ、あともう1人私共の組織にスカウトしたい者がいます」
「そうか。私に考えがある」
「さすが頭脳明晰なレディー・ミズイです。よろしくお願いしますよ」
フグは要件を伝えると早々に立ち去っていった。
「ふん。相変わらず気持ち悪い奴だ……」
ミズイはクネクネと動きながら去るフグを軽蔑の眼差しで見ていた。
◆◆◆
「よし、こいつでこの拠点の草海賊は最後か」
ルイは足もとに倒れている男の腕を縛り上げた。
禁忌の島における事件以来、ルイ達はレディー・ミズイから大陸東部を徘徊する食料強奪集団排除のオーダーを受け、日々駆け回っていたのだ。この日はちょうどルイ、ジュード、トゥーラの禁忌の島メンバーに加え付き添いとしてレイが同行する形だった。
ほとんどの敵をレイが倒して、3人が縛り上げる役回りだ。そして草海賊の一人を縛りながらジュードがぼやく。
「これだけ捕らえると監獄も一杯になってしまうんじゃないか?」
「どうせ奴隷として死ぬまでこき使うんで……しょ!監獄に入れっぱなしにはしないわよ」
トゥーラも手慣れた手つきで草海賊を縛りながら坦々と続ける。
「それにしてもあのミズイって貴族………私達をこき使いすぎじゃない?あの人のオーダーをこなすのに一杯で他は何も出来ないじゃない」
「まずは信頼を得てからリドリィさんの居場所を探し出す計画だろ?報酬もいいし。それに戦って無想剣舞の練習しないとあのカクノーシンって奴に勝てねぇ」
ルイは自分を気絶させた相手に対して闘志を燃やしていたのだ。
「やっぱポジティブね……。でもこうしている間にリドリィさんがヒドイ目にあっているかもしれないと考えるとそろそろ探りを入れたいわ」
これにジュードも相づちを打って応える。
「今日はチャド師範が帰ってくる日だ。もう皆に相談してみてもいいのでは?」
「いや……それだと恐らく情報が漏れる」
意外にもルイが慎重な反応を見せた。
「何でだい?情報を漏らす人はいないでしょ」
「うん、いないとは思うんだけど……」
言葉に詰まっているルイの代弁をするようにトゥーラが説明を始める。
「ガルベスとシルバーシェイドは奴隷商と繋がっていたし買収される可能性はあるわね。ナパーロなんて特に危険よ」
「そうなのか。だとすると小さな家しかない現状の拠点では秘密の会話は出来ないね」
「増築も考えないといけないなぁ」
レディー・ミズイのオーダーは数は多いが意外と羽振りが良く、別棟を建てれるほど資金はそこそこ溜まっていたのだ。
その夜
チャドが持ち帰った情報を踏まえて今後の方針を話し合うべく、久しぶりにメンバー全員が小さな小屋に集合した。
都市連合内に手配書は出ていない。
ポートサウス壊滅も噂では反奴隷主義者がやったことになっている。
また、ノーブルサークルの1人レディー・ミズイがルイと専属契約を行った。(ルイにとっては表向き)
以上のことからルイ一派は都市連合から敵対視されていない。という結論に至った。
そしてさらにチャドが驚くべき情報を持ち帰っていた。
“ノーファクションを名乗る組織が毛皮商の通り道にて復活を遂げている“との噂を耳にしていたのだ。
「そこに行ってきたのかい?」
ヘッドショットが興味津々に尋ねたがチャドは首を横に振った。
「最短であそこへ行くにはデッドランドを通る必要がありリスクがあるし、都市連合偵察の任務から逸脱する。しかもあそこは元々ホーリーネーション領だ」
「ボス……じゃないよね?ローグは死んだって聞いた。立ち上げた奴はアタシ達が知っている誰かだろうけど、普通敵だったホーリーネーションが許してくれるかね?」
「グリーンランド人ならば改宗等を理由にしてあるいは可能かもしれん。いずれにしろ確かめておきたいな」
議題は旧地に出来たもう一つのノーファクションで持ちきりになった。レディー・ミズイのオーダーはちょうど今は途切れている。
話し合いの結果。チャドを含めた数人で現地を訪問することになった。当然ルイは留まっていられない性格のためすぐ立候補した。そして呼応するかのようにガルベスも立候補する。
「俺も行く。大陸中央に行くならば道中デッドランドで義手を買えるからな」
「あ!ニールがデッドランドに仲間がいるって言ってたんだ。ちょうどいいな」
ルイは疑うことなくガルベスを受け入れた。
チャドも気にする様子はなく続ける。
「他に行きたい奴はいるか?ああ、ジュードは拠点を守ってくれ」
先に釘を刺す形でなぜかジュードの同行は許可されなかった。結局、他に行く者はおらずチャド、ルイ、ガルベスの3人で毛皮商の通り道に遠征することになった。
残った者はミズイの追加オーダー対応と拠点の増築に力を入れることになった。当然トゥーラはミズイの調査を水面下で行うつもりだろう。
「よーし、じゃあ今夜はチャドさんの帰還祝いで俺が盛大な料理を作るぜ!」
ルイは遠征出来る喜びから気分が上がって料理当番を自ら名乗り出た。普段は非戦闘員のナパーロやシャリーが順番に担当している仕事だ。
当然、驚くかと思いきや皆の反応は悪い。
「え……ルイが作るの?」
「今日の当番違くない?」
「というかずっとナパーロでいいじゃん」
「シャイニング……なぜ逝ってしまったんだ」
一気にお通夜状態になった様子を見てチャドも不思議がる。
「一体どうした?俺も料理手伝おうか?」
「え、チャドさんって料理も出来るんすか!ほんと何でも出来ますね」
ヘッドショットはルイが驚いているその流れに乗ってすぐさま反応する。
「チャドぉお〜お前が作ってくれぇ!ルイは作らんでいい」
「何でっすか!せっかくスキマーの生肉を余すとこなく使った創作料理を思いついたのに!」
「お前、食えない部分を無理矢理に料理にすんなって言っただろう!」
皆から総出で叩かれているルイをチャドがフォローする。
「ま、まぁスキマーもよく調理すれば食える部分は多いぞ」
「ですよねー!?もったいないっすよ」
「じゃあチャドは帰還祝いにルイの手料理を頂けばいい」
その夜、流れでルイの手作り料理を食べることになったチャドは2日間腹痛に悩まされる事となった。
そして準備を終えた数日後
あっという間に“毛皮商の通り道“へ遠征に出る日が来た。
予定ルート
トゥーラはルイに近づき小声で話す。
「あの件についてはこちらでジュードと進めるから、あなたは近くにガルベスがいるしチャドさんにも相談しちゃダメよ?」
「ああ。分かった。トゥーラも気をつけろよ」
「ええ、こちらのことは任せて」
「じゃあ行ってくる!」
ルイ、チャド、ガルベスの3人は大陸中央にある毛皮商の通り道に向けて歩き出した。全工程3ヶ月ほどの長旅が想定され、ルイはこれまでいつも一緒にいたトゥーラとの別れを惜しんだ。
「まさかお前と旅に出るなんて思いもしなかったよ」
ルイはガルベスに話しかけた。ポートサウス戦ではドタバタに仲間になったが、最初の出会いは奴隷にしようとしてきた敵であったし、実際に戦った相手だ。しかも元アイゴア部隊ということもありチャドとの初対面も最悪だった。
「俺は強くなろうと日々努力している奴は嫌いじゃない。メガクラブも立ち向かったからこそトドメを刺せたのだろう」
「お前そんなに人を誉める奴だったっけ!?自分勝手で傲慢だったろ!気持ちわる!」
「ひ、人が真面目に話しているのに……。お前も結構毒舌だぞ……」
先ほどからずっと2人しか喋っていないことに気づいたルイはチャドにも話を振ってみる。
「ヘッドショットさんに聞いたんすけどチャドさんはノーファクションにいた頃はずっと遠征担当だったんですか?」
「…………」
返事がない。ポートサウスとの戦いの際に任務にあたる時もチャドは口数が少なくなった。恐らく精神統一してミッション遂行に全力で集中しているのだろう。まさにプロフェッショナルという感じだ。
今回の行程も綿密に計画を立ててくれた。道中の資金繰りや食糧調達まで詳細にまとめ上げているのだ。
(これで武術も極めているんだから最強だよなぁ)
ルイはチャドの横顔をマジマジと見つめたが、顔つきも険しい。一点の油断もない渋い面構えに普段、能天気にヘラヘラしている自分が恥ずかしくなるほどだ。
「ルイ!」
「は、はい!」
そんなチャドが急に口を開いたので、ルイは思わず引き締まって応えた。一瞬の静寂が辺りを支配する。ガルベスでさえ無言で次の言葉を待っていた。そんな重苦しい空気の中、チャドは静かに切り出す。
「出発してすぐで申し訳ないが、トイレに行かせてくれ」
「…………あ、はい。大丈夫っす」
チャドはまだお腹の調子が戻っていなかったのだ。
こうして3人の大陸を横断する旅は幕を開けた。