Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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◆現在の仲間
【遠征組】
ルイ、チャド、ガルベス
【拠点組】
トゥーラ、ナパーロ/ラックル/694番、シルバーシェイド、シャリー、
ヘッドショット、レイ、ジュード


81.拳聖チャド

「お前……この間、脱走した奴隷に似ているな……」

 

ルイ達3人が出発してから3日後。都市連合の広大な砂漠を横切っている道中で怪しげな集団に声をかけられた。

 

「人違いだろ。俺たちは奴隷じゃない」

 

当然、ルイは素直に言い返した。しかし、相手は尚も難くせつけるように絡んでくる。

 

「いーや。声もそっくりだ。偽ったって無駄だ」

 

「はぁ?違うっつってんだろ」

 

ルイは声を荒らげて応答するが、男たちは引く様子もなく集まってくる。ざっと9人ぐらいで数が多く薄気味悪い。

ボロボロだが軽装備もしていてそれぞれが棍棒やサーベル等の武器を持っている。

 

するとルイの横にいたチャドが前に出る。

 

「ルイ。こいつらは人攫いのたぐいだ。奴隷として売れそうな人間を探し歩いていて、勝てそうな一般人に目をつける。少し日程が遅れているから私がすぐに片付ける」

 

そう言って準備運動を始めたのだ。

対する男たちは人攫いという言葉を否定することもなく、チャドを囲い始める。

 

「爺さん大した自信だねぇ」

「高く売れそうだ」

 

しかしチャドは臆することなく囲っている男を順に見たあと呟いた。

 

「頭は……お前か?」

 

指摘された男は澄ましていた表情を少し崩し聞き返す。

 

「ほぅ。なぜ分かった?」

 

「長年の勘だ。念のため聞くが手を引くつもりはないか?今ならまだ間に合う」

 

この言葉に男の表情は一気に緩み、笑みが溢れる。

 

「はっ!まさかビビったのか?お仲間にカッコいいところを見せてやりなよ!」

 

男はチャドの言葉を単なる強がりと受け取ってしまった。そしてそれが人生における最大の過ちであったことを数秒後に気づかされる。

 

「やれ!」

 

男の声と共に数人がチャドに斬りかかったが、かかった順番に体の部位を引きちぎられていく。

 

「う……腕がぁああ〜……アッ!!!」

 

腕がなくなり叫んでいた男の頭も消えた。

 

「!!!!」

 

一瞬にして4人減った人攫いグループは絶句し、事態の深刻さに気がつき始める。

人攫い達の攻撃が途絶えるとチャドはさらに闘気を練り上げるような仕草を見せる。

 

「……私は今まで人の及ばぬ未開の地へ行くことが多かった。必然と分厚い肌を持つ生物やスケルトン等の機械を貫く力を身につける必要があった」

 

独り言のように呟くチャドを見て人攫いの頭は2、3歩後ずさる。

 

「感じるか?武術の力は筋力だけではない。体を巡る気を養い、練りこみ、そして一箇所に留める事により爆発的な力を発揮することが人には出来るのだ」

 

ゴゴゴゴゴゴ……

 

ほとばしるオーラを見て人攫いの戦意は完全に消失していた。

 

「わ……分かった!悪かった!もう俺たちは消える!」

 

頭は部下に武器をしまうよう命令した。

しかしチャドは尚も続ける。

 

「すまないが、私は闘るからにはあらゆるリスクを減らす主義なんだ。お前たちが後日報復しに来ないとも限らないからな」

 

言い終えた瞬間。チャドは消えていた。そして消えたと同時に蹴り上げただろう砂漠の砂が爆発するように舞い上がる。

その爆発は連鎖するように移動し人攫いグループを包み込んだ。

 

その場はしばらく砂嵐が来たような視界の悪さとなったが、やがて静寂と共に落ち着きを取り戻していく。

そしてただ1人立ちすくむチャドの姿をルイ達は発見する。

 

人攫い達は1人残らず肉塊になっていた。

 

「こんな世の中だ。弱者を搾取するやる方を否定するつもりはないが、運悪く強者とぶつかる覚悟もしておくべきだったな」

 

チャドの決め台詞も圧倒的な猛者そのものであった。

ガルベスも開いた口が塞がらない。

ルイに至っては目をキラキラさせながらチャドを見ている。

 

「す、すげぇ……闘気って実在したんですね!」

 

「そうだ。筋力の100%以上の力を出すために体内に流れる気を使うのだ。さらに応用として“回転”を加えることもある。剣術にも通じるから道ながら教えてやろう」

 

拳聖チャドによる複数人を相手にした戦いを実際に垣間見れたのは初めてであったが、目にも止まらぬ速さに加えパワーをも兼ね備えており、まさに完全無欠であった。

 

 

 

一行は遅れを取り戻すためにそのまま先を急いだ。

都市連合の首都ヘングを経由して、デッドランドの手前にあるウェイステーションまで一気に西行したのだ。ここはかつてガルベスを迎えうった場所だ。

 

「うわ〜懐かしいなぁ。まさかガルベスと旅するなんて全く思わなかったぜ」

 

「ああ、そうだな。あの時は俺もお前らを殺す気満々だった」

 

ルイとガルベスは共感するようにBARを眺めている。このウェイステーションは都市連合の領域を出て西に行く前にテックハンターが立ち寄る前哨基地であり、旅人が多く立ち寄っていた。ガルベスから逃げている時は気が付かなかったが、都市連合のBARと違い座って食事している者は皆ベテランの風貌あるテックハンターであったり、貿易小隊が多かった。

 そしてその中に1人だけ異質な視線を送ってきていることにルイは気がつく。というより姿に見覚えがある。侍の鎧兜に身をつつみ頬杖をついているのだ。

 

「アイツは……まさかミズイと一緒にいた……」

 

「ん?知り合いでもいたか?」

 

そちらのほうを見て喋っていると、鎧兜の者はユックリ立ち上がり近づいてきた。

 

「よぉ。遅かったな。待ちくたびれたぜぇ」

 

ふてぶてしく喋る声もやはり聞き覚えがあった。

 

「ミズイの付き人か。何の用だ」

 

「名前を覚えてくれよぉ。スケサーンだ。お前らデッドランドに行こうとしてるだろ?やめておけ」

 

スケサーンは会うなりデッドランド行きを止めに来たのだ。

 

「何でだよ?お前たちには関係ないだろ。義手を買いに行くだけだ」

 

「レディー・ミズイの命令だ。聞かないつもりか?」

 

「全て言いなりってわけにはいかねーよ。俺たちの行くところに口を出してんじゃねー」

 

「くく。拳聖が側にいるから威勢がいいな。聞かないならそれまでだぞ」

 

敢えて言葉を避けているが、恐らく“それまで”とは、契約切れのことではなくリドリィの命は保証しない、という脅しだろう。

 

「……意味わかんねー」

 

「まぁ、いいじゃねーか。補填もある」

 

そう言ってスケサーンはバックパックをゴソゴソと漁りだす。反射的にルイは構えたが、バックから取り出されたのは義手であった。

 

「それは……」

 

「義手だ。そこのシェク人にプレゼント」

 

放り投げるように手渡され、咄嗟にルイがキャッチしたが、それは★傑作品の義手(Industrial Lifter Arm)であった。

 

「なんで義手を買おうとしてたのを知ってんだ」

 

「なんでだろうねぇ、不思議だねぇ」

 

スケサーンは肩を揺らして笑っており、人をおちょくるような言動は相変わらずだ。

 

「ルイ。こいつは誰だ?」

 

黙って聞いていたチャドが口を挟んだ。そもそもチャドは都市連合の貴族との専属契約も快く思っていなかった。彼は特に貴族の傲慢な所を嫌っているがスケサーンの態度はまさにそれを体現しており、癇に障ったのだろう。

チャドが醸し出す圧倒的な重圧がスケサーンに向けられていた。

 しかし、スケサーンもそれを意に介する様子はない。

 

「おーこわ。そんなに見つめられたらチビッちゃうよ」

 

「誰か知らんが我々は都市連合所属ではない。行きたい所は自分たちで決める」

 

「ふーん。ルイは考えを変えたみたいだけど?」

 

チャドはルイを見たが、当のルイは悩んでいた。いまここでチャドにスケサーンを締め上げてもらい、リドリィの居場所を吐かせる事が出来るかもしれないからだ。しかし懸念もあった。チャドはスケサーンに勝つだろうが、他にレディー・ミズイの手先がBARに潜伏していて成り行きを見ているかもしれないのだ。

反抗がバレたらリドリィの命は危なくなるかもしれなかった。

 

「義手をくれるんなら行かなくてもいい……」

 

ルイの心変わりにチャドは驚いて尋ねる。

 

「いいのか?仲間がいると言っていたじゃないか」

 

「……はい。ニールの知り合いなら合流してからのほうがいいし、ミズイの援助が途絶えるのも今はきついし……」

 

「そうか。お前がそう決めたなら無理は言わん。デッドランド自体、避けるに越したこともないからな」

 

チャドはそれ以上追求することなく引いてくれた。

 

「話し合いは終わったか?じゃあ次の要件だな」

 

スケサーンはそう言って席をたつと、クイクイと指でついてくるよう合図をする。

 

この男とウェイステーションの外に出るのは危険だが今はチャドとガルベスがいる。彼らもきな臭さを感じてついてきてくれた。

 

「なんだよ、外に呼び出して」

 

「俺が用があるのは拳聖チャドさ。ガキはどいてろ」

 

意外にも指名されたのはチャドであった。

しかし当のチャド本人は全く気にする様子もなく冷たくあしらう。

 

「誰かしらんがお前のような奴に時間を割いている暇はない。早く要件を言え」

 

「嫌われちゃったかなぁ?俺もじじいの腕試しなんてホントはやりたくないのよ?でも衰えていないか上から確認するよう言われてるからさぁ」

 

理由は不明だが、腕試しという表現で戦いを申し込まれたと、チャドは理解する。

 

「ほう、私と闘りたいわけか。殺してしまっても知らんぞ」

 

「ああ。アンタも俺に殺られるようじゃ用無しだ」

 

手加減なしでぶつかるつもりのようだ。

突如始まった決闘にルイはどうしたら良いのか困惑する。まさかスケサーンのほうからチャドに勝負を挑んでくるとは思わなかったからだ。

 

このまま事情を知らないチャドにスケサーンを倒してもらえば、今後のリドリィ救出が楽になるかもしれない。打算的だが自然とその期待を持ってしまう。

 

ウェイステーションから少し離れた場所。奇しくもルイがガルベスを撃退した場所の近くでチャド対スケサーンの決闘が始まった。

 

「何度も言うがこれは審査みたいなもんだ。俺を失望させるなよ爺さん」

 

「威勢がいいな。その前にルイ。お前がコイツとやったら勝てるか?」

 

急にチャドはルイに問いかけた。すかさずスケサーンも割って入る。

 

「おいおい。ガキに戦わせて修行って発想はなしだぜ?俺は則、殺しちゃうよ」

 

ルイは顔を横に振りつつ、内心スケサーンの言う通りだと思った。自分が戦っても100%負けると想像がつく。それは相手の気配などを見ても何となく分かった。自分でさえ気づけるのにチャドが分からないはずがない。ルイは分かりきったことを聞くチャドに疑問を抱いた。

 

「その感覚は常に養い、何事も冷静に判断するのだぞ。お前はたまに無謀な行動をするところがあるからな」

 

そう言われてルイはハッとする。自分はこれまで感情に任せて相手に突っ込んでしまうところがあった。チャドはその辺りの短所を見抜き、実戦を通して教えてくれたのだ。

 

「もういいかい?あんたらの勉強ごっこに付き合うつもりないんだけど」

 

スケサーンは若干イライラしながら既に野太刀を抜いて待っていた。

 

「待たせたな。では来ー」

 

チャドが全て言い終える前にスケサーンは怒涛の踏み込みで一気に間合いを詰めた。

そしてそのまま肩から野太刀を取り出しざまに斬りつけたのだ。

 

「……っ!」

 

さすがのチャドもこの初太刀は不意を突かれたのか、体制を崩しながら何とかかわした。

しかしスケサーンはその様子を見逃さず一気に畳み掛けるように野太刀を細かく振るう。

野太刀の湾曲を巧みに使い、振りかぶると言うよりはクネクネと蛇のような独特な軌道で太刀筋が分かりにくい突きだ。

チャドは体制を戻しながらもその攻撃をかわすが一度も攻めに転じない。

まさかのチャドが劣勢に立たされているような状況にルイは狼狽した。そこまでこのスケサーンという男は実力があるのか。

 このまま押し切られチャドが殺られようものなら、遠からず自分がミズイに関わってしまったせいだ。そうなるとジュードにあわせる顔がない。

 

しかし状況は次第に変わる。

 

チャドが余裕を持ってスケサーンの攻撃をかわすようになってきたのだ。

そして攻撃が全く当たらない状況にスケサーンも気づき攻撃を止める。

 

「……はぁ。やめやめ。もういいよ。大体分かった」

 

そう言って野太刀を肩の鞘にしまったのだ。

 

「どうした。終わりか?」

 

「ああ。さすがだよ、アンタ。合格」

 

「ふっ。お前のお眼鏡に叶うと何か良いことでもあるのか?用が済んだのならさっさと消えろ」

 

契約相手であるレディー・ミズイとの揉め事を回避するため、チャドは最初から攻撃するつもりがなかったのだ。

 

「怖いねぇ。ちなみにその力、都市連合のために活かす気はないかい?」

 

「……何の話だ?」

 

「ただのスカウトさ。いい役職用意しちゃうよ?軍を操る将軍とか」

 

「くだらん。去れ」

 

「ちぇ、乗ってくんないか。では遠回りの旅を引き続き楽しんできてくださいな」

 

スケサーンは捨て台詞を吐くとそのまま北の方角へ消えていった。

 

 

 

「…………」

 

「チャドさん、大丈夫ですか?」

 

「ルイ。奴はミズイという貴族の手下なのか?」

 

急な質問にルイは口ごもる。ガルベスの前で禁忌の島で起きた事を言うなと言われた手前、どこまで喋っていいのかすぐに出てこなかったのだ。

 

「えっと……護衛と特別な任務を兼任しているらしいです」

 

ルイはトゥーラから聞いた気絶している時の話を踏まえて、適当に誤魔化そうとした。

しかし意外にもガルベスが食いついてくる。

 

「あの動きは只者じゃねーぞ。もしかして特憲か?」

 

「な、なんで知ってるの?」

 

「マジか……。俺は特別憲兵養成学校の出なんだよ。つっても毎日殺し合いばっかさせられてたが」

 

「お前と同じ類かよ。道理で性格悪いわけだ」

 

「ああ?性格は関係ねーだろ」

 

ルイとガルベスの掛け合いの中で静かにしていたチャドが問いかけてくる。

 

「ルイ。我々が毛皮商の通り道に行くのを奴らに教えたのか?」

 

「い、いえ……そういえばなんで知ってたんだろ」

 

「そうか。となると内にスパイが紛れていることになるな。暗号手紙を出してヘッドショット辺りに報せておこう」

 

仲間の中にスパイがいる。

 

元々、半信半疑であったがチャドが指摘することで急に現実味を帯びてしまった。

この事実にルイはショックを隠せないでいた。




本エピソードの主人公はチャドかもしれません('ω')
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