Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
【遠征組】
ルイ、チャド、ガルベス
【拠点組】
トゥーラ、ナパーロ/ラックル/694番、シルバーシェイド、シャリー、
ヘッドショット、レイ、ジュード
ノーファクション跡地がある毛皮商の通り道は大陸の中央にある。東側からそこに向かうにはデッドランドと呼ばれる危険地帯を通る必要があった。しかし、レディー・ミズイの部下スケサーンから謎の勧告を受け、ルイ一行は遠回りして、デッドランド地域の南に隣接するヴェンジ地域の山脈を通っていくことにした。
この地域は日中に空からジ・アイによる光線が降り注ぎ、地上には植物はおろか生物がおらず死の大地となっている。
理由は不明だが夜になれば光線が止まるため、移動も必然と夜となる。
3人は星明かりに照らされた山道を静かに移動していた。
「デッドランドを通るよりこっちのほうが安全ですよね?向こうの空見ると黒い雲がすごいんすけど」
ルイは右手に見える暗雲とした空を見上げた。
ガルベスも新しい義手の指を夢中に動かしながら生返事で応える。
「まぁそうだな。強烈な酸性雨が降るし、アイアンスパイダーが出没する」
2人のやり取りを聞いていたチャドは辺りを見渡しながら会話に入る。
「ここも気をつけたほうがいい。スラルという首なしスケルトンの群れが走り回っているからな。……噂をすれば何とやらだ」
遠く山の下から駆け上ってくる集団がおり、このままいくと鉢合わせてしまう。
「うわぁ……!頭のないスケルトンか。どうやって動いてるんだ?」
ルイはスラルを禁忌の島の工場で見ていたので初めてではなかったが、統率された動きで一方向に駆けているスラル集団は不気味そのものだった。過去に一体彼らはどのような目的を持っていたのか。そもそもなぜ頭がないのか。現在の文明レベルに似つかわしくないスケルトンには謎が多く残されていた。
「俺がやる。離れていろ。義手の付け心地を試すいい機会だ」
ガルベスは長いこと背負ったままであった板剣をすらりと抜いた。
そしてガチリと歯を食いしばる音まで聞こえたガルベスの初太刀はスラル集団の先頭数体を木っ端微塵に吹き飛ばしたのだ。
「……!!」
かつてブラッグドッグを吹き飛ばした時よりも力を増した一撃にルイは驚きの声を上げたが、当のガルベスも自分の力に驚き唖然としている。
「なんだこの義手は!力が漲ってくるようだぜ!!」
荒廃した現在において古代文明の技術は既にほぼ失われている。
しかし義手等の動作機関は古代文明の叡智が詰まったスケルトンの技術を流用しており、生身の腕と遜色ない機能性を有していた。それを踏まえ、筋力以上のパワーを出力する義手を作ることは有能な技師と生産拠点が揃えば現在の技術でも充分可能であった。
勢いのままガルベスは走りくるスラル達を力まかせにことごとく吹き飛ばしてしまう。
「……レディー・ミズイとやらは相当、質の良い物をくれたようだ。合わせて器用さも延ばせば一級の手練になれるかもしれないな」
チャドも感嘆するほどガルベスの力は高いようだ。
「あんたにも勝てるようになるかい?」
「ふっ、精進を続ければな」
これほどの力を見てもチャドはガルベスを鼻で笑えるほど余裕があるようだ。
ルイは頼もしさを感じると同時に、至高の領域の上限が未だ見えていない自分に不甲斐なさを感じていた。
その後3人は連なる山を歩き続けた。
そしてしばらくして窪地の中に街を見かける。
「驚いたな。かつてのノーファクションと同じ場所だ」
3メートルの高さがある外壁。
豪勢な門の両脇にはクロスボウ砲台を備えている。それに囲まれた街はBARやら服屋が建ち並び人が行き交う盛況ぶりを見せている。
「ここ……ノーファクションがあった場所なんですか?」
ルイの質問に応えることもなくチャドは様子を伺っている。かつての故郷に帰ったことでチャドでさえ内心胸が踊っていたのだ。
(しかしいったい誰が……)
チャドの関心はそこであった。
ノーファクションのボスにしてルイの父であるローグ・アイゼンはアイゴアとの戦いで命を落としたと聞いている。
ならば今のノーファクションは誰が経営しているのか。
元々この場所は3大大国であるホーリーネーションという宗教国家の領地内であり、ノーファクションはその国といざこざを起こして戦争をしていた。
お互い甚大な被害が出たことにより休戦こそしたが、ノーファクションがそのまま居座ることをホーリーネーションが許すわけがない。
となると元ノーファクションのメンバーではない可能性も充分に考えられるのだ。
(しかし、もし彼が生きていたならば……)
ノーファクションの完全復活。
ローグ・アイゼンの元にルイ一派も合流し、今度こそ誰にも縛られない自由な国を形成出来るかもしれない。
チャドは警戒しつつも自然と街への足が進んだ。
「ホーリーネーションはスケルトンに対して異常に敵対的だ。ガルベスは念のため義手をマントに隠せ」
「おう」
クロスボウ砲台は近づく3人に向けられている。門との距離が縮まる度に守衛からの視線が強くなっていくのを感じられた。
「そこで止まれ。素性を明かし、ここに来た目的をこたえろ」
守衛は都市連合の侍鎧のデザインとは違い鉄板のような装甲の鎧で体を守っている。反して腕や足は動きやすさを重視しているのか、何も纏っていない。
「トレーダーズギルドの者だ。ここで商売をさせて欲しい」
都市連合とホーリーネーションは国境で敵対しているが、トレーダーズギルドは国家ではないため国境という概念がない。それゆえ都市連合内で活動しているにも関わらず、商売目的であればホーリーネーション領にも出入りが可能だった。
下手に本当の目的を告げるよりもリスクなく入る理由としては丁度良かった。
特に怪しまれることなく、内部に入った3人は都市連合とはまた違った街の雰囲気に驚く。
「なんか……男ばっかいません?」
「そうだな。ホーリーネーションの特徴といえば普通だが……」
当然、チャドは過去にホーリーネーション領内に来たことは何度もあった。彼らが信仰するオクラン教という宗教の教義は、極端な男尊女卑とレイシズムが特徴であり、女性と人間以外の種族を邪悪なものとして排斥する。
そのため街中はグリーンランド人の男が練り歩き、女は奴隷として働くか人目を避けていた。
そのことから少なくともこの街にはオクラン教が布教している事が分かる。
(やはりこの街はホーリーネーション寄り……)
チャドの頭の中の懸念が大きくなる。
それは
ホーリーネーションは過去のノーファクションとの戦闘で大分疲弊した。執念深さで有名の上級審問官も重傷を負ったと言われている。そのようなノーファクションに恨みを抱く者が解体後の残党を釣り出すために名前を語っている可能性があったのだ。ボスであるローグ・アイゼンの娘であれば恨みの的としては格好の餌食だろう。
そしてただでさえスコーチランド人のチャド。女のルイ。シェク人のガルベスという彼らから見て異人で形成されたグループに疑念の視線が向けられていた。
「もしかしてグリーンランド人のジュードを連れてきたほうが良かったです?」
「いや……今回は運営者が分かればそれだけでいい。長居は無用だ」
チャドは街人の視線を気にせずドンドンと奥の方へ進んでいく。そして周りの建物より一際大きい家に辿り着く。
「ここの家主に会いたいのだが、取り次いでくれないか?チャドが来たと言えば分かるはずだ」
そのまま門番らしき者に話しかけたが、当然相手の反応は冷ややかだ。
「アポはあるのか?伝えはするが会う保証はないからな」
「ああ、それでいい」
家主がノーファクションの元メンバーであれば名前を聞けば反応してくれるだろう。逆に全く関係ない者はアポなしで会おうとしないはず。
そして懸念していたノーファクションの残党狩りの線はバリバリ武闘派だったチャドという名前への門番の薄い反応ぶりから可能性が大分低いように見えていた。
数分後、戻ってきた門番は無言で家の中に入るよう促してきた。
ということは
「どうやら知人のようだな」
チャドはルイとガルベスに知らせた。仮に残党狩りの罠の気配が濃厚であった場合、事前に示し合わせて波風たてずに去るつもりだったのだ。元ノーファクションの知り合いならば敵対的なことはしてこないだろう。チャドは先頭に立って案内されるままに奥の部屋へ入っていった。
中には銅像が置かれ、それを座りながら拝んでいる男が1人。そして側には甲冑に身を包み大剣を背負う男が1人いた。
チャドは瞬時に甲冑の男を警戒する。
隙のない佇まいとチャドの威圧的なオーラにも気負わない姿勢に一定の力量を感じたのだ。
(パラディンだな……。しかも見た目は若いが高位だ)
ホーリーネーションにはパラディンと呼ばれる国を守る騎士のような階級がある一般の兵士よりも鍛錬されており、また高位のパラディンは部隊を指揮するリーダーの役割を担ったりもした。階級は鎧の見た目である程度判断出来た。
「あなたがこの街の責任者か?」
チャドは背中を向けてお祈りをしている男に喋りかけた。
「ええ。私がノーファクションを運営しております」
お祈りしている男は立ち上がると纏っている聖職衣を静かになおした。
「お前は……グリフィンか!?」
「お久しぶりですね。チャドさん。元気でしたか」
「なぜお前がノーファクションを語って司祭の真似事をしているんだ?」
ノーファクションとホーリーネーションは停戦こそすれども決して味方ではない。崩壊のきっかけとなった相手の国教を崇拝しているグリフィンにチャドは不信感を持ったのだ。
その気配は近くにいるパラディンにも伝わる。
ガチャリと甲冑を鳴らしながらチャドの前に立ちはだかった。背の高いチャドよりも数センチ高く甲冑と強靭そうな肉体でまさに主を守る壁だ。
「おやめなさい。フラーケ。チャドさんは武の超越者ですよ。戦ってかなう相手ではありません」
グリフィンと呼ばれた男は落ち着き払った口調で続ける。
「チャドさん。ここで私がしている事はボスであるローグ・アイゼンが言い残した指令でもあります」
「ローグが司祭への転職を薦めたのか?ありえんな」
「私がホーリーネーションとの外交を担当していたのはあなたも知っているでしょう。ボスはノーファクションに何かあった場合はここでホーリーネーションの庇護の中で元メンバーを助けるよう私に言っておりました。場所がらも近隣の大国にすがるのは仕方がないことでしょう」
「ということは他にも元メンバーはいるのか?」
「いいえ。残念ながらあなた方が初めての来訪です。何しろ創立するまでホーリーネーションを説得するために時が立ってしまいました」
ここまでの話はチャドにとっても違和感はさほど感じられなかった。グリフィンがオクラン教の信奉者であった事も知っていたため、ノーファクション崩壊後に司祭をやっていても不思議ではなかった。ただそれは純粋な信奉だったらの話であり、ホーリーネーションの先兵として配置されている場合は見方が変わってくる。
だからチャドは警戒を解かずに敢えて攻撃的な口調で問いただす。
「では、お前が外交を担当しながらホーリーネーションとの戦争になったのはなぜだ?お前がけしかけたのか?」
「チャドさんは長く遠征組を指揮されていたので知らないようですね。いいでしょう。納得されるまで過去に起きた事実をお伝えします。こちらへどうぞ」
チャド達は案内されるままに小部屋の椅子に腰掛ける。フラーケというパラディンとガルベスはその場に残り、グリフィンの話はチャドとルイの2人で聞くことになった。
過去に起きた事はチャドも人づてである程度聞いていた。その内容とグリフィンの話に矛盾や齟齬がないか確認することで、グリフィンの狙いを判断することにしたのだ。
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