Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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◆現在の仲間
【遠征組】
ルイ、チャド、ガルベス
【拠点組】
トゥーラ、ナパーロ/ラックル/694番、シルバーシェイド、シャリー、
ヘッドショット、レイ、ジュード


86.チャドの決断

「どうです?あなたであれば簡単でしょう。なんなら都市連合に忍ばせている私の手勢もお貸ししますよ」

 

審問官カスケードに言われ、チャドは無言で考え込む。

 

チャドの実力的に貴族を1人暗殺するぐらいは簡単な事だが、問題はその後にあった。万が一、バレた場合は都市連合の貴族達は怒り狂い総力をあげて自分達を潰しに来るだろう。そうなればハウラーメイズ近くの拠点は皆殺しにあってしまうかもしれない。事前に別の地方に引っ越さなければならないが、都市連合領以外への引っ越しは時間と金がかかる上に危険が伴う。

 

「見返りはなんだ?まさか私達がリスクを負うだけではあるまいな」

 

「あなた方の組織はホーリーネーションの庇護の下に入れます。それに先ほど申し上げた通りルイさんを強化して差し上げます」

 

一方的で押し付けがましい条件であるのと、ルイの強化の意味がいまいち分からないが、これでルイに手を出さなそうな雰囲気であることは判断出来た。チャドにとってはそれが最優先の確認事項であったのだ。あとは取り敢えずこちらの意図を悟られぬよう巧妙に話題を変えて出方を伺う。

 

「そもそもホーリーネーションが都市連合のバスト地方に攻め込んだのが要因ではないのか?都市連合側の目的がバスト奪還であるならばバストから引き払って和議をすればいいだろう」

 

事実、バスト地方は元都市連合領であり、現在はホーリーネーションが攻め込み実効支配していた。

 

【挿絵表示】

 

「何を馬鹿げたことを仰っているのですか。我々が行っていることは侵攻ではなく解放です。あなたは聖戦を侮辱しているのですか?都市連合はスケルトンを匿っているのですよ」

 

いつの世でも侵略者は都合の良い大義名分を打ちたてて自分の行いを正当化する。カスケードもさすが審問官まで登りつめた実力者だけあって典型的な搾取側の人間のようであった。

 

ただ、彼の言い分について同意はしないまでも、過去の歴史に関連しているであろうことはチャドも理解していた。ノーファクションは幾度となく実施した遠征によって遠い過去に起きた出来事をある程度解明していたのだ。

 それによると数百年前の遠い昔。世界は第二帝国という高度な文明によって統治されていたらしく、その主体はスケルトンが築いていたというのだ。スケルトンにとって人類は排除対象ではなく、むしろ保護管理対象だったようで、実際に共存していた事が記された文献も残っている。ただ、この文明には人類にとって致命的な欠陥があった。それはスケルトンの目的が人間に不自由ない暮らしを提供するわけではなく、絶滅危機にある人間という種の保存であったからだ。スケルトンは当時残っていたであろう科学技術を駆使して人間をこの過酷な世界で生き抜ける種族に改良しようとあらゆる人体実験や改造を行っていたというのだ。その過程でシェク人やハイブ人が生まれたと仮定する学者もいるがその真偽は定かではない。いずれにしろスケルトンは動物の感情というものを正しく理解しないまま、何者かにインプットされたであろう種の保存計画を続け、やがて破綻する。

 人類が蜂起したのだ。その第一人者が今のホーリーネーションを建国し、オクラン教を布教したホーリーロード・フェニックス1世であるとされた。そのためスケルトンを邪悪とするオクラン教を信じる教徒は当然、自らの行いを正義と考えていた。もっとも現在身近にいるようなスケルトンは過去に行っていた暴挙を知らない。

 

しかし、そんな経緯などチャドにとって重要な話ではない。現在の弱肉強食の世界において目の前の課題をどう乗り切るか。ただそれだけだった。

 

(結局、俺は武を追求してきただけのしがない老人にすぎない。人類の未来を憂う大それた先見性や人を惹きつけるカリスマなど持ち合わせてはいないのだ。だから今の俺に出来るのは駒として主を活かすことに徹すること……)

 

「分かった。お前の申し出、考えてみよう」

 

チャドはカスケードのお願いを聞くことにした。表面上は。

 

(いったん引き受けておき、隙をついてルイを奪還する)

 

この場は穏便におさめて機会を伺うことにしたのだ。

 

「良かった!では我々は早速ルイさんと共にスタックに向かう準備をしますのでこれで失礼させて頂きます。詳しい連絡手段は都市連合に滞在する密偵からお話しますね」

 

監視していることを匂わす発言をしてから早々と立ち去ろうとするカスケードに対してチャドは念を押す。

 

「ルイに手をだしたら取引不成立とみなし、場合によっては報復することになる。そこは肝に免じておけ」

 

「審問官に対して脅迫行為をするなど本来であれば死刑に相当しますが、今回は不問としましょう。まぁ我々がルイさんを守りますのでそこはご安心ください。では」

 

要件が済むとカスケードは建物の中に消えていったが、その横からグリフィンが申し訳なそうな表情で近寄ってくる。

 

「チャドさん。このような成り行きになってしまったことお詫びします。ルイさんの護衛にはフラーケもつけさせ、安全には充分気をつけます」

 

チャドはグリフィンをギロリと睨みつける。

 

「グリフィン、もはや私はお前を信用していない。罪悪感があるのなら人を騙す行為を改めることだな」

 

捨て台詞を吐いた後、チャドはガルベスに起きた事を伝えるため出口へ向かった。これはこれから都市連合に行くとカスケードに思わせるためでもあった。

 

 

 

 

 

 

「おう、チャド。どうだった?というかルイはどうした?」

 

ガルベスは街を出て少し歩いた場所で素振りをしており、待ちくたびれた様子で話しかけて来た。

 

「ルイは捕えられた。グリフィンは恐らくホーリーネーションに加担している」

 

「はぁ!?どういうことだ!つーかあんたは何してたんだ?」

 

「不意を突かれた。ただ、捕まったと言っても完全な敵対行為ではなく強制的に交換条件をつきつけられた形だ」

 

「意味が分からん。詳しく教えてくれ」

 

チャドは起きた事の詳細をガルベスに説明した。そして今後の事を話し出す。

 

「私はこのあとルイ達のあとをつけホーリーネーションに入る。そして隙があれば奪還するつもりだ」

 

「そうか。俺も行ったほうがいいか?」

 

「いや。あくまで隠密で尾行するし、義手をつけたお前は動きにくいだろう。ウェイステーションまで戻って10日ほど待っていてくれ」

 

「つまらん、出番なしかよ」

 

「戻らなければ失敗して私は死んだものと思ってくれ。その場合は拠点に戻って皆に経緯を説明してほしい」

 

「いいだろう。しかしあんた死ぬ気でやるつもりなのか?俺だってルイには死んで欲しくはないが、そこまではやれねぇ」

 

「これは私の事情でもある。では頼んだぞ」

 

 

 

チャドは今の拠点に少なからず愛着を持ち、ルイを通して知り合ったメンバーに対しても親しみが湧き始めていた。そしてチャドにとってルイを守ることはもはや使命となっていたのだ。 

 

 過去にチャドがボスであるローグと出会いノーファクションに入ったのは南東にあるアッシュランドという未開地への挑戦に失敗した直後であった。自分の調査隊は壊滅、離散し、失意の中にあったが、ローグを一目見て希望を見いだせた。この男の瞳は情熱に燃え、発せられる言葉はなぜか何でも叶えられそうな説得力を感じた。人を惹きつける魅力・カリスマを持っている者はそうはいない。そしてそれは目に見えるモノでもないのだ。

 実際、ローグが率いるメンバーはまだ10人足らず、拠点もない弱小組織であったが、彼は非情に合理的に計画を立てて物事を進めていった。初めのうちこそは泥臭く鉱夫に近い作業を続けて小金を稼ぎ、そのお金で傭兵を雇い自分たちより少人数のダスト盗賊キャンプ等を襲撃した。そうして小者の懸賞金や戦利品を運用資金に変えていった。

時には調子に乗って自分たちより大勢の組織に手を出してしまい、命の危険を感じるほど叩きのめされる時もあった。仲間を失い、骨折し、顔面ボコボコになってもローグは驚異的な忍耐力で仲間を鼓舞し乗り切っていった。そして命をかけたやり取りは自分達の上達も早め、ノーファクションは着実に力をつけていった。

 

やがてノーファクションは世界の中心地である毛皮商の通り道に拠点を構え、本格的に他国や未開の地へ足を伸ばすようになる。

以降、ローグには冒険に出たいチャド()の意志を汲んで遠征組として好き放題やらせてもらった。そのおかげで悲願も達成できた。

 

しかし

 

ホーリーネーションとの戦争に至る数日前。チャド()は渋っていたローグを置いて南方への遠征に出てしまったのだ。ローグは「危険だから」と言ってハムート等の武闘派も同行させてくれた。そして自分(チャド)がホーリーネーションとの戦争の気配に気が付かずに呑気に遠征している間にノーファクションは壊滅した。

 

 私は自分の盲目を呪った。創設初期メンバーを自負していたにも関わらず、自分の夢を達成させてくれたローグを。世界を変えていく力を持っていたノーファクションを無残にも壊滅させてしまったのだ。

向かうところ敵なしとなり、拳聖ともてはやされ少し浮かれていたのかもしれない。取り返しのつかない事が起きた後に本当に大切なモノを失ったことに気づかされたのだ。

 

あの頃の栄光はもう戻ることはない。しかしせめて彼らが残していった子孫だけは何としても守りきる。そしてローグの子ルイを筆頭にノーファクションを可能な限り再興するのだ。

 ルイにはローグが持っていた魅力の片鱗が垣間見える。決して戦闘スキルが高いわけではないが、輪の中心で何かを引き起こす力を持っている。もしかするとこの混沌とした世界を変えられる可能性もあるかもしれない。

 

(ウィンワン……お前が命を賭けてルイを守ろうとした気持ち。今ではわかるぞ)

 

 チャドは不退転の覚悟でルイを救い出すと心に決めた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

一方、別れたガルベスはそのまま東に向けて引き返し始める。

 

チャドの話しによるとホーリーネーションはロード・オオタの暗殺が確認出来るまでルイを解放しないだろう。確認のためにも至るところに密偵を放っているはずだ。そしてチャドの動向も見ているかもしれない。跡を尾けられている気配がないことからウェイステーションなどの要所要所に密偵を配置して監視していると思われる。

 

(念のためチャドの変わり身は用意しておくか)

 

偶然にもちょうど目の前に飢えた野盗の集団が現れたため、ふと思いついたのだ。チャドと似ているスコーチランド人を適当にスカウト(・・・・)してウェイステーションに戻ったように見せかけることにした。そんな思惑を知らずに野盗集団のリーダーらしき者がガルベスに話しかける。

 

「おい、そこのあんた。食べ物を分けてくれないか」

 

野盗の集団は8人ほどでそれぞれが木の槍などしょぼいが武器を携行している。そしてそのリーダーは集団をまとめているだけあって、頼り甲斐のありそうな力強い声であった。人数に任せて単身のガルベスにたかったのだろう。ただ、その男も痩せ細っており、何よりガルベスの力量を知らなかった。

 

「黙れ、お前に用はない。あーとっ……そこの背の高いスコーチランド人。お前だけついてこい。あとは失せていい」

 

ガルベスは容赦なく一方的な要件をつきつけた。リーダーらしき男はガルベスの高圧的な物言いに気負わされたが、こちらも後には引かない。

 

「分けてくれないのか?分けてくれれば傷つけるつもりはない。目的は食料だけだ」

 

「黙れと言ったはずだ。最後だぞ。そこの男以外は消えろ」

 

もはや双方の言い分は平行線であることは誰の目から見ても明らかだ。野盗の群れはガルベスを囲むように広がり始める。交渉が決裂した際の示し合わせた動きなのだろう。ただ、戦闘慣れしていないのか、ぎこち無い。一方のガルベスはすまし顔で目をつけたスコーチランド人を見ている。

 

「仕方ない……。皆、やるぞ!」

 

リーダーらしき男の合図で8人の野盗は一斉にガルベスに襲いかかった。

 

しかし、相手が悪すぎた。ガルベスは義手の腕で軽々と板剣を抜くと最初に飛びかかった野盗数人を斬り飛ばしたのだ。飛び散る肉片を見て野盗は皆、青ざめる。

 

「ひ……ひぃいい」

 

尻もちをつく者。無言で逃走する者。

最早、それ以上、襲いかかる者はいなかった。リーダーでさえ唖然として言葉を発せないでいた。

 

「おい。スコーチランド人。こっちにこい。殺されたいのか?」

 

ガルベスが睨みつけるとスコーチランド人の男は恐る恐ると歩み寄ってきた。

 

「これから命令を聞かない場合は則、斬り捨てる。その代わり用が済んだら解放してやる。いいな?」

 

「は、はい……」

 

「よし。では俺の荷物を持ってついて来い。リーダーさんよ、しばらくこいつは借りていくぜ」

 

「……」

 

当然、野盗のリーダーからは返事はなかった。構わずガルベスは野盗の1人を連れてウェイステーションに向けて歩き出した。

 




更新が遅れたのと、少し画像が雑になりましたw
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