Kenshi -20years later- 作:さわやふみ
「旦那。こんなガキどもを雇うのか?傭兵は俺一人で充分でしょ。」
背丈が2m届くのではないかと思われる巨躯の男が立っていた。
背中には長くて分厚い板剣を担ぎ、重装の鎧を着込んでいる。そして何より特徴的だったのは頭からはえた角と紫色のゴツゴツした肌であった。
(シェク族か。)
本屋の文献で読んだ。
戦いと誇りを重んじる戦闘狂の種族だ。
大陸の南西でシェク王国を築いているが、交流がある都市連合の領域にも傭兵稼業などで生計をたてている者もいる。
彼らがどうしてこのような外見であるかは諸説あるようだが、ルイにはあまり興味がなかった。しかし目の前にいるむかつく言動をした男に対して噛みつかずにはいられなかったのだ。
「ガキとは何だデカブツ!雇い主が決めることだろう。」
「ほう。威勢はいいが殺されたいようだな。ちょうどお前らひ弱な者達が傭兵稼業の品質を落とし困っていたところだ。」
男はジャラリと鎧を鳴らして板剣に手をかける。
「ルイ・・まずいよ、こいつ傭兵の中で悪名高いガルベスって奴だ。相手にしないほうがいい。」
トゥーラがこそこそと耳打ちするが、ルイと男は睨み合ったままだ。
「ま、まぁまぁ私は双方とも雇いますよ?仲良く行きましょう。」
そこに雇い主のおじさんが割ってはいる。
「・・・ちっ。足を引っ張ったら殺すからな。」
シェクの大男も納得はしていない様子だが雇い主の仲介に素直に引き下がり、結局ブリンクまで同行することになった。
雇い主のおじさんの名前はグンダーと言う名前だそうで、主にブラックスクラッチのテックハンターに補給物資を売る商売をしているようだ。
「あんな気の良さそうなおじさんがガルベスみたいな奴を雇うなんて自分が言うのも何だが見る目ないよな。」
行商人の隊列の後ろをルイとトゥーラは愚痴りながらついていく。
「確かにそうね。私達も初回からハズレを引いてしまったわ。ガルベスは同業者と揉めて相手を半殺しにしてしまった事もあるそうよ。私達も油断できないわ。何しろあいつ過去に都市連合のアイゴア率いる傭兵部隊に属していたみたいだし。」
「アイゴア?」
ルイには聞き覚えがある名前であったがこの時はうまく思い出せなかった。
「都市連合で最強と言われていたエリート侍よ。敵対者や懸賞首を軒並み捕らえずに殺すので猛獣と恐れられていたみたい。今は現役を退いたようでどこにいるか消息不明らしいわ。」
「ガルベスはそんな奴の部下だったのか。」
今は行商人グンダーの元で同じ護衛チームの存在ではあるが、敵に回したら危険な人物のようだ。サッドニールがいない今、立ち回りは自分で判断しなければならない。自分のせいでトゥーラまで危険になる可能性もあるのだ。
ルイは情報がない中、不用意にケンカを売ったことを反省した。
そしてこれからの道中、ブリンクまでは恐らく1泊2日野宿ありの長旅だ。
ガルベスへの警戒も怠らずに慎重についていく必要があった。
「ルイ。私達は基本的に隊列の後衛を守りましょう。いつでもガルベスが視界に入るように。あと、念のためだけど初対面の人は信用しないようにね。例えば私があの人達にあなたへの言伝を頼むようなことは絶対にしないからあなたもそうしてね。」
トゥーラは基本的な所作については慣れているようでルイに丁寧に教えていく。
「グンダーさんもか?めっちゃ頼りない爺さんだけど。」
「一応ね。頼りないけど剣技なしにあの年齢まで生きてられるってこと自体がすごいことなのよ?」
「まー確かにな。」
するとそこに噂の行商人グンダーが速度を落としてルイたちに歩幅を合わせてきた。
「お嬢ちゃんたちは傭兵に成り立てなのかの?」
「いいえ、テックハンターです。用があり一度都市連合に戻るとこでした。」
「ふぉふぉー。都市連合にお仲間さんが待っているのかい?テックハンターなら腕に自信があるんじゃろうねぇ。ピークシングなんかも倒せるのかい?」
ルイが喋ろうとするのを制してトゥーラが続ける。
「同業者もいますのでここでは詳細にはお答えできません。」
同業者とはガルベスのことだろう。自分達の力量を計られることを警戒したのだ。
そしてこの会話が聞こえたのかガルベスが入ってくる。
「くくく、勿体つけてるが倒せないってことだろ?テックハンターも年々落ちぶれてきているなぁ。所詮暇人の集まりか。」
このガルベスの一言が冷静に対処しようとしていたトゥーラのプライドに火をつける。
「テックハンターは人類の復興のために命をかけて危険地帯に赴いています。傭兵ごときから難癖つけられる筋合いはありません!」
その場が一瞬で凍りついた。
ルイが反省している横でトゥーラもガルベスに大口を叩いてしまったのだ。
すぐに我に帰ったトゥーラの表情には一筋の汗が流れる。
一方ガルベスは額に血管を浮かび上がらせて威圧する。
「ではさぞかし傭兵ごときより強いんでしょうなぁ!?契約が終った後にお試し頂きたいものだ。」
「・・・。」
気迫が違った。この男の実力は言葉だけではなく相当の修羅場を切り抜けている猛者なのだろう。使い慣らされたであろう武具、男の溢れ出る自信、無数の傷痕等がそれを物語っている。
「はっはっは!ビビったのか?さっきの威勢はどうした!」
黙りこくってしまうトゥーラを見てルイは思った。
事情は知らないがトゥーラはテックハンターに相当の誇りを持っている。自分ではなくこの職業を罵倒されるのが許せなかったのだろう。
わかる気がする。
(今の俺もそうだ。仲間が侮辱されているのを黙ってられるほど人間ができていない。)
「うっせーよ鹿ツノ野郎。勝手に会話に入ってきてかまってちゃんか?」
気がつけばルイも悪態をついていた。
ピキーン・・・
最早冷気が漂っているかのごとくその場が凍てついていた。
また言ってしまった。
グンダーさんもこれには唖然として頭を抱えている。
こうなればトコトン言ってやろうとルイはトゥーラを見る。しかし彼女の顔も青ざめている。
「いま・・・なんと?」
ガルベスがルイに聞き返す。
場の雰囲気を見てルイは思い出した。
シェクはツノに誇りを持っていて冗談でも侮辱されると名誉をかけて相手を切り捨ててでも撤回させるということを。
「ああ、いや。あそこに鹿らしき影が通りかかったんだ。」
シーン
さすがに無理があったのだろう。
トゥーラも呆れている。
しかし偶然にもルイが指差した先にうごめく影が見える。
それにいち早く察したのはガルベスだった。
振り向き様に背中の板剣を抜くと茂みに向かって呼び掛ける。
「そこにいる奴等、誰だ?出てこい!」
「あ、いやもう行っちゃったはず・・」
ルイのとぼけた反応とは別に他の者の目は真剣になっていた。
確かに何かがいたのだ。
ガサガサ
茂みが揺れ動き出てきたのは黒装束の5人の剣士であった。
「!」
黒い剣士達はボーンドッグという猟犬も1匹連れていた。
猟犬は非常に素早く飼い慣らすと一般人だと為す術もなく食い殺されるほど侮りがたい戦力となる。
「お前らブラッグドックか?」
知っている組織なのだろうか。
ガルベスが発した言葉で隊列の緊張が若干解けた気配があったがそれでも良い顔をした者は一人もいない。味方というわけではないのだろう。
「ああ。ブラッグドックだ。お前ら旅先で傭兵が必要だろう?今なら安くで護衛を請け負うぜ。」
この言葉にルイは気を許した。
どうやら敵ではなくむしろ傭兵稼業をしている好意的な連中だと思った。
が、実態はそう甘くはなかった。
「いや~ブラッグドックさんですか!有難い申し出なのですが現在傭兵を3名既に雇っておりますので今回はまた次の機会にお願いできたらと思います。」
グンダーは低い姿勢で丁重に断ったはずであった。しかし剣士の声つきが変わる。
「そうじゃねぇよ。そこに俺達ブラックドッグの本部があるのは知ってるだろう。この周辺一帯を俺達が平和に保ってんだから通行料金はもう発生してんだよ。たったの4000catだ。」
剣士たちの表情は真顔でどうやら冗談ではなさそうだ。
「それは、ぼったくりじゃないですか・・。」
グンダーが恐る恐る反論するも剣士は猟犬ボーンドッグに合図を送る。
「ガルルルルル!」
合図に合わせて猟犬は前傾になり攻撃姿勢をとる。
「ひっ・・!」
グンダーは思わずのけぞった。
「で?どうすんの?払えないの?」
ブラックドッグは尚もジリジリと迫ってくる。
これがニールが言っていた外の世界なのか。
考えが甘かった。少しでも気を抜くと他者から資源はおろか命も奪われるだろう。
この先ニールなしで本当にやっていけるのだろうか?
なんで俺を置いていってしまったんだ。
・・いや、泣き言は言わない。ニールは俺がこんな状況も乗り切れると判断して旅立ったのだ。
ブラックドッグは黒色の鎧で武装した者が5人と猟犬が一匹。対してこちらは傭兵ガルベスと商人5人に俺達2人の計8人だ。
数では有利だが商人は戦闘に慣れていないだろうし、戦闘に関しては俺自身がほぼ初心者だ。
トゥーラも新米テックハンターだしやはり主力はガルベスだ。
悔しいが今はガルベスの力量に頼るしかないのだ。
ちらりと横目で見るとガルベスがちょうど一言呟いた。
「まったく・・・俺を知らなかったのは不運だったな。」
そう言うと手に持った板剣をまさに板切れのように軽々しく振り回し横凪ぎでブラッグドックの連中に斬りかかったのだ。
その所作はブラッグドックの剣士に準備する時間を与えなかった。
最初にボーンドッグの猟犬に板剣は直撃した。
猟犬はそのまま真っ二つになりながら切り飛ばされた。
ガルベスの初太刀はそこで終わらず横にいるブラッグドックの剣士2人も薙ぎ倒していた。
「・・・・!」
味方を含めその場にいる誰もが絶句した。
当然だろう。一振りで3体をいとも簡単に仕留めていたのだ。
ガルベスはニヤニヤと不敵に笑っていた。