Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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【遠征組】
ルイ、チャド、ガルベス
【拠点組】
トゥーラ、ナパーロ/ラックル/694番、シルバーシェイド、シャリー、
ヘッドショット、レイ、ジュード


89.闇夜の襲撃

深い闇に包まれた夜更け

 

指令室と思われる豪盛な部屋でカスケードとフラーケが密談をしている。

 

「どうだ?ルイの様子は。手懐けられそうか?」

 

不敵な笑みを浮かべながらカスケードはグラスに注がれた飲み物に舌つづみを打つと、静かにフラーケに対して質問した。

 

「はい。マッサージにやみつきになっているようで時間の問題です。今夜にでも堕とせるかと」

 

「君は僕と似てイケメンだからねぇ」

 

「確認ですが、薬はナシですよね?そのほうが手っ取り早いのですが」

 

「そうだね。一応大事な人質だし、出来れば無想剣舞の技は欲しいので廃人にはしたくない。手懐けるのが理想だ。チャドの仕事が終わったあとは都市連合領内で不戦工作をしてもらうかもしれないしね。期待してないけど」

 

「分かりました」

 

審問官カスケードは、容姿端麗な表面とは裏腹に、バスト戦役の評判と噂通りどす黒い性格の持ち主であった。自分の目的のためならば手段を選ばず、使えるものは何でも利用し、審問官のエリート候補としてのし上がってきたのである。

 ここまでの話は当然、彼の仕組んだ計画であった。モール処刑の話もルイを釣り出すために作った嘘で、実際には彼の権限でいつでも処刑の取り消しが出来た。また、カスケードの目的はチャドによるロード・オオタ暗殺の方であり、ルイはあくまで人質と保険に過ぎなかった。しかし、ルイはそのことなど知るよしもない。

 

「君ってあんまり人に疑われないよね。グリフィンにも密偵だとバレてないでしょ」

 

「彼も結局は単純な司祭ですから」

 

「早いとこグリフィンと繋がっている貴族(・・・・・・・・・・・・・)も突き止めてね。彼を通してでなくても、我々がその貴族と直接連絡を取れるようにしておきたい」

 

「承知しました」

 

「さて、君との時間は名残惜しいが、私は仕事でそろそろここを離れなければならない。後のことは任せたよ」

 

「は!チャドもウェイステーションに向かっているとの報告を受けております。問題ありません」

 

「期待しているよ」

 

そう言ってカスケードは数人の護衛を連れて建物を出ていった。

残されたフラーケはしばらく豪盛な部屋を眺めていた。彩りある敷物やカスケードが座っていた貴金属で出来た椅子を指でなぞる。

 

 

 

 

父さん。母さん。

俺はついにここまで登りつめた。

迫害され、どん底から血ヘドを吐いて鍛練を積み重ねた。上層部に取り入るためにイチモツを咥えてまで成り上がってきた。

ここまで来ればあと一歩だ。

父さんを密告したニュー司祭は必ず地獄に落としてあげるからね。

そしてこの国を父さんが言っていたあるべき姿に戻すよ。

 

 

 

 フラーケは建物を出ると前を見据え、モールを捕らえている施設へ歩き出した。

 

そして同時に違和感を覚える。

 

「……ん?」

 

風が匂うのだ。

昔から知っている不快な臭い。

これは……血だ。

 

ルイが現在滞在しているこの地は辺境の軍事基地であり、モール等の重要人物を密かに収監しておく施設として使われていた。当然、

警備隊が物々しく巡回しており、牢獄に続く建物の扉にも衛兵が2人常駐している。そんな鉄壁な施設において、微かだが空気中に血の臭いが混ざっているのだ。

 そんな中、さらに衛兵2人の待機姿勢がいつも通りではないことに気がつく。

 

「お前たち2人とも新人か?姿勢がなっていないぞ。誰が当番表を決めた?」

 

質問をしたあとフラーケは瞬時に異常事態と理解する。衛兵2人の足もとに砂をかけて何か隠したような跡があることに気づいたのだ。

 

(恐らく血痕……!)

 

衛兵から返事はないが、フラーケはズンズンと近寄っていく。すると衛兵は急に隠し持っていたであろう刃物で斬りつけてきたのだ。

 しかしフラーケは着込んだ重い甲冑を物ともせず帯刀した長剣を瞬時に抜き、襲いくる衛兵2人を素早く斬り伏せる。

 倒れた衛兵は全く見覚えのない者たちであった。刃物も忍者が好んで持つ直刀。いわゆる忍者刀だ。

 

(こいつら……まさか……)

 

「ピュイ!」

 

身近の城壁にいる歩哨に口笛で襲撃を知らせると建物の内部に単身で突入する。

走って奥にある牢獄へ急ぐが途中の門も破られていることが分かった。

 

(賊はまだ他にも侵入している)

 

そして途中の分岐は目もくれず一本道でモールの牢獄に向かっていることが分かる。まるでルートが最初から分かっているかの如く。

 

(浮浪忍者だな!奴らはここにモールがいると知ったのか!?)

 

 フラーケは旧浮浪忍者村を殲滅した時の事を思い出す。ホーリーネーションのパラディンから選抜された討伐隊は選りすぐられたツワモノで構成され、当時はカスケードが隊長を務めていた。そこに浮浪忍者村頭領にして無想剣舞の達人モールが立ちはだかる。斬りかかった討伐隊の間をモールが縫うようにクルクルと舞うと、討伐隊は鎧の隙間から血しぶきを上げながら倒れていく。当時自分もモールを目で追えず、黒い影が兵士の僅かの隙間を通り抜けていくような感覚だった。

 異次元の動きで相手を殺し尽くすモールについたあだ名『黒い死神』は伊達ではなかったのだ。

 

 

 

 

多くの死者を出してやっとの思いで捕えたのだ。両目両足をもいだから(・・・・・・・・・・)と言ってこいつの影響力は計り知れない。二度と野に放してはならないのだ。

 

賊は途中の分岐も間違えることなくモールの牢獄に突き進んでいる。しかも途中に配備されていた衛兵の死体を見ても戦闘に発展する前に暗殺で仕留められており、侵入した者もかなりの手練であることが分かる。

 

そしてついにフラーケは監獄の間まで到達した。辺りはシーンと静まり返り、監獄の扉は開いている。

 

「…………」

 

フラーケはここから慎重に歩を進めた。

すると暗闇から短刀が飛んでくる。

 

キーン!

 

難なく長剣で払い除けたが、投擲の精度は目を見張るものがある。暗闇の先に何人かの気配を感じ、フラーケはこれ以上近づくことはせず、声で威嚇をすることにした。

 

「出てこい害虫共。どうせ浮浪忍者だろう」

 

少しの間を置いて奥の暗闇から女の声が返ってくる。

 

「……自分たちが人類の害虫のくせしてよく言うぜ」

 

闇から歩み出て来たのは赤い髪をした女の忍者であった。

 

「お前は……!三忍のナイフか!モールを脱獄させに来たのか?」

 

「それ以外にこんなムサイ所に来る理由があるか?」

 

「そうか……。しかし残念だったな。ここはもう囲まれている。無駄な事はせず投降しろ」

 

「そうか?見たところ来たのはあんた1人だけだろ?それに囲まれているのはあんただよ」

 

声が聞こえてくると、両横からフッと気配が現れる。その者達はナイフと呼ばれた浮浪忍者と同じ出で立ちをしている。

 

「……ちっ。ゴキブリのように湧いてくるな。お前たちが少し増えたところで私が遅れをとるとでも思ったのか?」

 

フラーケが全てを言いきる前に3人の浮浪忍者は三方から飛び込んでいく。

 

「……!」

 

囲まれないよう狭い通路まで飛び退き、長剣を構える。本来であれば背中のパラディンクロスでなぎ倒したいところだが、狭いここでは叶わない。代わりに1対1に出来る状況は作れたし、何より逃げ道を塞いだから逃走の恐れがなくなった。

 

こいつらの狙いはモールの解放であり、この奥では奴を繋いでいた鎖をピッキングしているのだろう。最終的に脱出を阻めばいいので、単身で突撃するより、この出口に通じる通路を押さえてさえいればいい。増援もここまで一直線で来れるよう指示をしてきた。確実にモールだけは外に出さなければそれでいいのだ。

 三忍の1人が来ている以上、無理して倒すことは考えずに防衛に徹することに専念するのだ。

 

「おい、ホモ野郎。遅れを取らないんじゃないのか?さがってんじゃねーよ」

 

ナイフは汚い口調で挑発するが、フラーケは守りを固めて動じない。

 

「そこは袋小路だ。私を倒さないとモールを逃がせないだろう。お前たちの作戦は失敗したのだよ」

 

後ろからガチャガチャと増援部隊の鎧の音が聞こえてくる。もはやモールを抱えてナイフ達がここを通ることは厳しい状況となってきていた。しかしナイフは忍者刀を逆手に持ってジリジリと間を詰めているが、飛び込んでくる様子はない。

 

(ここで強引に突っ込んで私と刺し違えに来るとも思ったが……奴は何を考えている……探ってみるか)

 

「もうお前たちは逃げ出すチャンスもなくなったぞ!無駄な努力だったな!」

 

フラーケは勝ち誇ったように笑った。

 

「ふん。モールを救う事に無駄なんてねーよ。お前らもこっちに入って来れねーしな」

 

「ははは!あほだな!お前たちはそこで一生暮らすとでも言うのかね?食べ物はどうするのだ?」

 

笑い者にすべくフラーケはナイフを嘲笑った。

よくよく考えれば結果的にモールを餌にして三忍の1人を捕らえられるのはかなり大きい。こいつを使って新しい浮浪忍者村の場所も割り出せるかもしれないのだ。

 

「フラーケ様!ご無事ですか!」

 

ホーリーネーションの増援部隊も追いついた。

 

「大丈夫だ。それよりモールをここから絶対に通すな。全員集結させろ。奥に三忍のナイフもいる。時間がかかってもいいから全員捕えろ」

 

「はっ!」

 

後から到着した歩哨隊は突撃の準備を始める。

 

フラーケは少し余裕ができて今回の襲撃のことを改めて考える。

 

この場所がバレたのはルイが来てからだ。もしかすると彼女は最初から浮浪忍者とつながっていたのかもしれない。

 

(そしてモールの牢獄までのルートを暗記したのか)

 

これも後でゆっくりナイフとルイに聞いてやる。そう思ってナイフの方を向いたフラーケは強烈な違和感を覚える。

 

彼女の余裕の表情は消えていなかったのだ。

 

三忍の中でも非情に好戦的で幾人かのパラディンを手にかけてきた手練のナイフではあるが、この状況でもあそこまで落ち着いた表情を保っていられるのか。モールを逃がすことに失敗し、捕らえられればホーリーネーションの拷問が待っていることは承知だろう。半ば無駄死にのようなものなのに、まるで何かを成し遂げたような清々しささえある。

 

(成し遂げる……奴らの目的はモールを脱出させること……)

 

状況を整理して相手の行動を考えたフラーケはみるみると青ざめていく。

 

「衛兵!ここまでの途中で兵士は配備してきたか!?」

 

「い、いえ。フラーケ様が全員ここまで急いで駆けつけるよう指示されたので……」

 

「どけ!!」

 

フラーケは兵士を突き飛ばしてもと来た道を急いで引き返す。

 

(まさか……気配を消して物陰に潜み、駆けつける私達をやり過ごした……!?そしてナイフだけ残り、あたかも今からモールを助け出そうとしているように見せかけ注意を引いた……)

 

焦燥感が頭の中を支配し体中から血の気が引いていくのが分かる。

 

外へ通じる門までフラーケは走りに走った。ここでモールを逃してしまうとカスケードの失態として扱われ、自分は足を引っ張ったことになってしまう。そうなれば出世の道は永遠に閉ざされるだろう。

 

「許せん!浮浪忍者共ぉおおお!!」

 

勢いよく門の扉を蹴り開け、外の様子を見るが、人がいる気配がない。

 

「…………!!」

 

(どこだ!?どこを通った!?)

 

怒りと焦りが普段の集中力を削ぎ、後方、建物の上から黒い影が飛び降りてくることにフラーケは気がつかない。

 

そしてそのような些細な油断がこの世界において命取りになるには充分な理由であった。

 

ザシュ……

 

黒い影はそのままフラーケの首もとに短剣を刺し込む。

 

「がっ……!?がはっ……!!」

 

口から血を吐いて倒れ込んだフラーケを見下ろして黒い影は一言呟く。

 

「汚らわしい男。惨めな最後ね」

 

「こ……こんなところでっ……!」

 

黒い影は這いつくばるフラーケの前に座り込むとその手に忍者刀を突き刺す。

 

「うぐぅぅう……!」

 

「さっさと死になさいよ」

 

「レ……レヴァぁあ……」

 

フラーケは弱々しく恨み節で喋ると静かに息絶えた。

 

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