Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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【遠征組】
ルイ、チャド、ガルベス
【拠点組】
トゥーラ、ナパーロ/ラックル/694番、シルバーシェイド、シャリー、
ヘッドショット、レイ、ジュード


90.誘拐

ルイが軍事施設に来て3日目の夜を迎えていた。依然としてチャド達が来る気配がなかったが、接待に近い待遇を受け、この施設の居心地の良さに警戒感が薄れてしまっていた。

 

今夜もあの怪しげなマッサージに誘われないのか。

 

そんなことばかりを考えながらルイは窓から闇に包まれた夜の風景を眺めていた。

 

 昨日と変わらないルートで歩哨が城壁の上を巡回しており、いつもながら厳重な警備体制であるが、何やら様子がおかしい。

歩哨が隊をなして一定の方向へ走っていくのだ。

 

(向こうは……たしかモールさんの監獄があった……)

 

暇を持て余していたこともあり、ルイは外出着に着替え始める。そして片隅に立てかけてあるデザートサーベルを背負いいざ部屋の出口に向かおうとした。

 しかし、急に冷たい夜風を肌に感じ固まってしまう。

 

(……え?)

 

扉が開いていたのだ。

 

この部屋はすきま風が寒いので扉だけはいつもキッチリ閉めていた。その認識が色濃く残っていたため閉め忘れの可能性は低いと判断できた。

 

「だ……誰か……いる?」

 

周辺に気配を感じ、開いた扉の向こうにある闇に呼びかけてみるが応答はない。

 

単純に建て付けが悪く扉が勝手に開いてしまっただけであったか。やはり自分の気のせいだと思い歩き出そうとした矢先、予想とは異なる後ろ側から不意に声が聞こえてくる。

 

「……お前はルイだな?」

 

思わず飛び退き、声のするほうに視線を向けると、微かな星明りに照らされて、誰かが立っているのが分かった。黒くて地味な忍者装束の出で立ちに似つかない金色のショートヘアをたなびかせている。体型からして女性であることが分かった。

 

「誰だ!?」

 

「浮浪忍者のピア……」

 

「!!」

 

名前を聞いて思い出した。元グリフィンチームで今はくノ一三忍の1人。グリフィンの命を狙っていたとも聞いている。そんな人が自分の前に現れたということは。

 

「まさか、俺を狙いに来たのか?」

 

「お前の態度次第だ……」

 

「態度?」

 

「このまま黙ってついてこい……。残るなら死ぬことになる」

 

「!!」

 

ルイは半ば強制的な物言いに唖然とした。ピアは口数も少なく静かな口調であるが、そのぶん逆に威圧感があり立ちふるまいからしても相当な手練であることが分かる。抵抗した場合、苦戦は必至だろう。

 

「……なんで俺がついていかないといけないんだ?」

 

「そういう話になっている……」

 

「い、意味が……」

 

分からなかった。ホーリーネーションと敵対している得体の知れない浮浪忍者に単身でついていく意義が見いだせない。チャドがいれば元ノーファクションでもあるピアに話が通じたかもしれないが、今の自分だけでは状況を説明しきれる自信もなかった。

 

そして考えがまとまらず狼狽えていると、さらなる黒い影が姿を現す。

 

「何だピア、まだだったか。モールもいるんだから早く離脱するぞ。そんな奴、足でも斬り落としてしまえばいい」

 

低くてしゃがれた声で話しかけたその者はピアと同じ忍者の格好をしているがルイよりも黒い素肌で生粋のスコーチランド人であることが分かった。

 

「レヴァか……。それはだめだ……」

 

「五体満足じゃないほうがいいだろ。私がやってやるよ」

 

後から来たレヴァという女はピア以上に敵対的で物騒な言い回しで、ルイは自然と警戒を強める。

 

(レヴァ……。こいつも三忍ってことか!一体何なんだよ……)

 

ピアは軽くため息をつくとレヴァという女に続けて話し出す。

 

「……それより牢獄のほうはどうなった?モールは救出出来たのか?」

 

「ああ、達成できた。ついでにフラーケを殺れたよ。ナイフはやはり代わりに残ることになる。あいつの命は無駄に出来ないだろ?」

 

レヴァが坦々と言い放った内容にルイは絶句した。

 

「フラーケさんを……殺しただと!?」

 

「んーなんだ?ホモが死んで悲しいのか?やっぱお前ホリネ側なんだな」

 

食いついたルイに対してレヴァは忍者刀を抜いた。対するルイも同様だ。愛刀デザートサーベルを構える。

 

「さっきから何言ってっか分からねーが、お前が嫌な奴だってことは分かるぜ!」

 

「ほう、ホーリーネーション無勢が調子に乗るなよ!」

 

語尾が荒ぶりレヴァもヒートアップする。恐らくこの浮浪忍者との戦いは避けられないだろう。しかも相手は名のある忍者だ。ルイはチャドに言われたことを思い出し、まずは冷静に状況を分析をしてみることにした。

 

(フラーケさんがやられたのが事実だとすれば俺も到底太刀打ち出来ない)

 

ならばとルイはデザートサーベルを掲げるように構える。

 

「お前……まさかその構え……」

 

レヴァが目を丸くして見入ったその構えはー

 

『戦蛇の構え』

 

無想剣舞を静止した状態から開始する際の構えだ。天井ギリギリまで右手で一直線に高々とサーベルを掲げ、片足立ちで静止する。蛇が戦う時に直立して待ち構えるような形となり、重力を最大限に利用して大上段から武器の重力を利用して舞いを開始出来る。

 室内における無想剣舞は戦闘スタイルの特性上その効果をほとんど失ってしまう。そのために編み出された唯一待ち一辺倒のカウンター型の構えだ。なおこれはアウロラから最後に口頭で教わっただけであり実戦経験については皆無であった。

 しかしモールを頭領に持つ浮浪忍者はこの型を当然知っているはず。それを利用してカウンターを頭に植え付けることで攻撃を躊躇させ時間を稼ぐことにしたのだ。

 

(モールを脱獄させるため時間がないんだろ!?長期戦にして凌いでやるぜ!)

 

“あらゆる状況、情報を武器にすべし。“

 

ルイはウィンワンの無限の書にも記載があった項目の一部を思い出し実践したのだ。

 

 

 

ただ……この行為は並の相手であれば通用していたかもしれないが、浮浪忍者くノ一三忍の場合、単純な挑発として受け止められただけであることにすぐに気づかされる。

 

「ナメた真似しやがって……ホーリーネーションがいっちょ前にモールの技を使ってるんじゃねぇ!!」

 

レヴァは喋ったかと思うとその場から姿をくらましたのだ。そして気がつくとルイの足に激痛がはしる。

 

「痛っつ……!」

 

知らぬ間に片足の太ももがぱっくりとあき、血が流れ出ているのだ。

 

(な……!?いつ斬った!?斬られるまで……全く気づけなかった……!!)

 

近くにはトントンと片足で跳ねている澄まし顔のレヴァがいる。逆手で持つ忍者刀には血がついており、レヴァが斬ったのは間違いなさそうだ。

 

「どうした、型が崩れたぞ。無想剣舞をやるんじゃないのか?」

 

圧倒的な力量の差を痛感し、ルイは次第に平常心を保てなくなる。挑発に対して闇雲に斬りかかってしまうが、その先にまたしてもレヴァはいない。

 

(くっそ!!速すぎだろ!どこ……だ……)

 

ゾクゾク

 

背筋が凍るほどの悪寒を真後ろに感じ思わず体が硬直する。

 気づけば後ろから忍者刀の刃が自分の首すじに当てられていたのだ。

 

「…………!!」

 

 数秒後に自分は喉から血をまき散らしながら呼吸もできずに悶え死ぬ。自分の死体を連想出来るほどの死を実感し、体中から冷や汗が流れ出る。

 

「楽には死なせないよ」

 

後ろからレヴァは残酷な台詞を吐く。

 

その後、今度は額に痛みを感じて、ルイは思わず手で覆いながら崩れ落ちる。

 

「うあああああああ!!」

 

手のひらにはべっとりと生温かい血がついていた。

 

「うるせぇな。片目を取られたぐらいで騒いでんじゃねーよ。モールは両目両足を持ってかれてんだぞ!」

 

レヴァの非常なる言葉で自分の体の異常事態を悟る。

 

(目……をやられたのか?左目が開けられない……!)

 

そしてこれまで黙って見ていたと思われるピアがルイの様子を気にすることなく口を挟む。

 

「レヴァ……!その話は本当なのか?」

 

「あん?」

 

「モールは……無事なのか?」

 

「生きてはいた……。しかしもう戦線に復帰はできないだろう」

 

「……!!」

 

2人が会話で時間をとったおかげでルイに少しだけ平静を取り戻す機会を与えた。ただモールが両目両足を取られたという話はルイにとってもインパクトがでかい話であった。

 

(言われてみれは最初モールはカスケードさんがいるのを分かっていなかったかもしれない。しかしなぜ……?)

 

ルイの疑問に答えるようにレヴァは口を開く。

 

「カスケードの野郎、大方、無想剣舞は欲しいが、牢獄に入れておくだけってのも怖かったんだろ。無力化するにしてもイカれ具合が限度を超えてるぜ」

 

レヴァはそう言ってルイの髪をグイッと引っ張り立たせようとする。

 

「カスケードはお前を使って無想剣舞を盗もうとしたんだろ?どうだ?違うか?」

 

「う……!」

 

ルイは左目やら髪を引っ張られる痛さやらでまともに思考出来ないでいたが、再度無限の書の記載を思い出そうとしていた。

 

『痛みや恐怖に打ち勝つためには怒りで自分を染めろ』

 

当時、書いてある意味は理解出来ていなかったが、体中の激痛を和らげられるのならばやらない手はない。ちょうど目の前にいる浮浪忍者には殺意が湧くほどの怒りを覚えている。

 

「ぅぅうううう!!!」

 

体からアドレナリンが放出されると一時的に感覚が麻痺することをルイは知らなかったが、確かに感情を高めるほど痛みが薄くなっていくのを自覚できる。この勢いでルイは只々目の前にいる敵を倒すためサーベルを構えた。幸いまだ右目でものが見えるのだ。体が動く限り武器を振るう。ルイは視界にレヴァの姿を捉え、斬りかかった。

 

「ほう、凄まじい胆力だな」

 

さすがのレヴァからも賞賛の声が出る。

 

しかし

 

『ボキッ』と鈍くて乾いた音が部屋の中に響き渡る。

 

「ぐ……!?ああああああ……!」

 

強烈な痛みと吐き気が襲ってくる。

涙でぼやける視界の中で、気がつくとルイの右手が明後日の方向を向いてプラプラと振り子のように揺らいでいた。レヴァが後ろ手にしてそのまま強引に捻じ曲げて骨折させたようであった。

 

「ふー……!ふー……!」

 

ルイは息を荒らげ一点を見つめながらただひたすら痛みに耐えるしかなかった。

 

「お、お前……。本当にホーリーネーションの女か?」

 

レヴァが何か言っているが、もはやルイの耳には届かない。彼女の頭の中は自分の境遇よりも他の事で一杯になっていたのだ。

 

いま自分はこんなところでは死ねない。

ここで死ねばアウロラとの約束が果たせなくなる。自分の目的の傍らで死んでいった者達が無駄死になってしまう。

 

そういった思いが自然と自分の体を突き動かしていた。

 

ルイは血ヘドを吐きながら汗と血が混じった額を床に擦り付けて芋虫のように地べたを進み始める。

 

「…………!!」

 

この光景を見てさすがのレヴァとピアは言葉を失った。

 

この娘を動かしている原動力は何なのだ。

ただのホーリーネーションの子飼いではなかったのか。

これほどの精神力を持った戦士は浮浪忍者にもそうそういない。

 

そんな言葉を交わしているかのように2人は顔を見合わせていた。そしてピアが絞り出すように口を開く。

 

「レヴァ……もういい。後はモールに判断してもらおう。ずらかるぞ」

 

微かに聞こえてきたピアの言葉を最後にルイの記憶はここで途絶えた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

夜が明けて光が射し込み、施設内の被害状況が徐々に明らかになっていく。浮浪忍者はくノ一三忍を含む最大戦力でモール脱獄を狙ったようで衛兵の死体が所々に散乱していた。どれも背後から急所を一撃で仕留められており、抵抗した様子もなく息絶えていた。

 

その様子を出張から帰ったカスケード審問官は無表情で眺めていた。

 

「……状況を報告してください」

 

近くにいる兵士はカスケードから静かに伝わってくる怒気に萎縮しながらも恐る恐る答える。

 

「高位パラディンのフラーケ様が戦死されました。歩哨も10名やられております」

「モールは?」

「はっ、ええと……代わりに三忍の1人ナイフを捕らえたようです」

「モールは!?」

「だ……脱走しました……」

「……許さん」

「あ、あの……」

「許さんぞおおぉぉお!!」

 

カスケードはそれまでの落ち着きぶりから想像できない奇声を発したのだ。

 

「ひ……ひぃぃ……」

 

兵士は恐怖のあまり尻もちをついた。

 

「私がどれだけ資源と!時間をかけて!モールを捕らえたと思っているのですかっ!!」

 

息荒く独り言のようにまくしたてるカスケードを周りの兵士はただ見ているだけしか出来なかった。そして呟きは続く。

 

「フー!フー!…………そうか。ルイですね……。彼女が来てモールの場所がバレたのか。バカそうな面をして私をハメるとはやるじゃないですか。……衛兵!!」

 

「ははっ!」

 

「ここにルイを呼びつけなさい。そしてナイフを速やかに処刑しなさい」

 

「は!……いや、しかし……」

 

「何ですか?」

 

「ルイは……浮浪忍者に抱えられ連れ去られるのを何人かの歩哨が目撃しているようです。大分痛めつけられていたとか……」

 

「……ではナイフだけで結構です!!」

 

「は!」

 

命令された兵士を目で追いやるとカスケードは般若のような形相でその場をあとにした。

 




本エピソードは残り4話ぐらいとなりました
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