Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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【遠征組】
ルイ、チャド、ガルベス
【拠点組】
トゥーラ、ナパーロ/ラックル/694番、シルバーシェイド、シャリー、
ヘッドショット、レイ、ジュード


91.スカウト

ホーリーネーションの軍事施設からモールとルイが連れ出されてから3日後。異変を嗅ぎつけたチャドは変装して顔を隠しつつ軍事施設の周辺まで足を運んでいた。

 

通りすがりの商人などに話を聞くと浮浪忍者が軍事施設を襲撃し失敗に終わったというのだ。だが、その際に高位パラディンのフラーケが戦死したらしい。また襲撃犯であるくノ一三忍の1人ナイフは捕えられ早々に処刑されたとのことだった。

 

(フラーケはグリフィンの護衛だった。ということはルイもここにいた可能性がある)

 

そして恐らくモールもここに収監されていたのだ。だから浮浪忍者の襲撃があった。ルイ達が来てからの襲撃ということはグリフィンの街に浮浪忍者の密偵が紛れていたことが考えられる。そいつがルイとカスケードが目指す場所(軍事施設)を特定した。ただそれだけでは結局モールが実際に施設内のどこに幽閉されているか分からず、襲撃が失敗したのだろう。現に三忍の1人が捕らえられている。

 

(しかし……ルイも見つけられないのはなぜだ?)

 

チャドは夜に軍事施設に侵入してみたがルイがいる気配がなかったのだ。考えられるのは施設内奥深くで厳重に捕まえられていることだ。モールを収監しているならばそのような施設があってもおかしくはない。

 

チャドはこぶしを地面に叩きつけた。

 

ルイには手を出すなと念を押したにも関わらず、所在が掴めないほどの場所に匿っている事にチャドは怒りを隠せないでいた。

 

ルイを奪還出来るのであれば自分の命は喜んで差し出せる。ただ、どこにいるかも分からない状況で無闇に特攻するほどの冷静さを失ってはいなかった。

 一旦戻ると約束した期日までにガルベスが待つウェイステーションに戻り、捜索メンバーを募って出直すことにする。チャドは悔しい思いを噛み締めながらもと来た道を戻り始めた。

 

 

 

途中、毛皮商の通り道を通り過ぎる際、グリフィンを拷問して白状させるべきとも考えたが、その後に動きにくくなる可能性を考慮して、安全策を取り今は放置すことにした。

 

(あいつはルイの居場所までは分からないだろう。ノーファクションを裏切った報いは後で受けさせる)

 

元メンバーへの殺意を秘めたチャドの目には並々ならぬ覚悟の光が灯っていた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

一方、ガルベスも都市連合領内のウェイステーションについてからイライラしながら暇を持て余していた。それを隣に座っている人間がチラチラ見ながら恐る恐る話しかける。

 

「あ、あの〜……俺はいつ解放してくれるんですか?体に巻き付けたサラシもきついんですけど……」

 

飢えた野盗から無理矢理スカウトしてきたスコーチランド人をチャドに見立てて変装させ、ガルベスに付き従えていたのだ。

 

「うるせぇな!もう少し待ってろ。今度文句言うと殺すぞ」

 

ガルベスは小声だが荒い口調で偽チャドを恫喝し続ける。

 

「というかお前もう少しピシッとしろよ……!食い物食わせて栄養足りてるだろう」

 

「は、はい……」

 

既にチャドに指定された10日がたとうとしていたが、いまだ連絡はない。

このまま拠点に戻るか判断しなければならない期日が迫っていた。

 

「よし、もういい。お前はそのままフードを被って北を目指せ。それで解放してやる。少し歩くと大きな街がある(嘘)からそこで仕事を探すといい」

 

ガルベスは偽チャドに命令した。

 

「わ、分かりました。ありがとうございます」

 

偽チャドが席を立ってBARを離れると、数分後に別の男も同様に出ていった。やはりホーリーネーションの密偵が見張っていたようだ。偽チャドの動向を確認するのかもしれないが、本物のチャドがここにいなかった事は悟られたくない。

 

(密偵は始末しておいたほうがいいな)

 

ガルベスも時間を置いてから席を立った。しかし、BARを出ようとした時、思わぬ人物に道を塞がれる。

 

「ちょい待ち。久しぶりだなぁ。ちょっと俺の話を聞いてくれねぇか?あまり時間はかけねぇ」

 

全身、侍鎧の出で立ちと鼻につく喋り方の男。レディー・ミズイの付き人スケサーンだった。

 

「またお前か!今度は俺に用かよ。悪いが今は急いでいるんだ。後にしろ」

 

「ホーリーネーションの密偵だろ?殺っておいたから安心してまぁ座れよ」

 

「……!」

 

偽チャドと密偵が北に向かってからガルベスが動き出したのは大分時間がたってからだ。追いつけると踏んでの時間であったが、期間的にはスケサーンが殺せる間は充分にあった。だが、理由が分からない。

 

「……本当か?なぜあんたがやる必要がある?」

 

「言い忘れたが俺は特憲だぜぇ?ホリネ要員は生かすはずないだろ。心配なら後で北に行って見てくるといい。死体が転がっている。サービスで偽チャドも殺ってやったよ」

 

スケサーンは相変わらず鎧兜をかぶっており顔は見えないが、口調からニヤついているのが分かる。ガルベスにとって偽チャドは元々自分を襲ってきた飢えた野盗の1人なので生死など気にするところではなかった。ただ、一時でも自ら雇入れ生かして逃した者を敢えて斬った来たこの男に不快感を持った。

 

「別にあいつは殺さなくても良かったのだが」

 

「ん?用済みになったんだろ?だったら速やかに排除じゃないか。養成学校で習わなかったか?」

 

この言葉にガルベスは身構えた。自分が特憲養成学校出身であることをこのスケサーンという男は把握しているようなのだ。

 

「俺は特憲じゃないんでね。で、何の用だ」

 

「あっちで何かあったのかぁ?何でチャドの変わり身を置いていた?拳聖とお嬢ちゃんはどこ行った?」

 

矢継ぎ早に問いただしてくるスケサーンに対して、ガルベスは素っ気ない回答を続ける。

 

「あんたには関係ない」

 

「ひっでぇなぁ。同じ雇い主を持つ仲間じゃねーか。協力してやるっつーのに」

 

「無駄口が多いな。俺はチャドより短気だぜ?」

 

「そうかい。俺はあんたと仲良くしたいと思っているだけなんだがなぁ」

 

「ああ?なんでだよ」

 

「お前が特憲に入るからだ」

 

「!!」

 

急に空気が冷たく凍てついた。過去の経験からガルベスには自分の道を誰かに決められることに大きな抵抗があったのだ。

 

「ミフネさんが残念がってるんだよ。お前が抜けちまって。傭兵稼業がある程度終わったら特憲にするつもりだったんだとさ」

 

「……俺は堅苦しいとこは苦手でね。それに今は別のとこに雇われてる」

 

「特憲はルイのとこより金の羽振りはいいぜぇ?それにそもそもお前が奴隷商を抜けることをミフネさんは許可してねぇ」

 

「いや、傭兵稼業の後は自由に決めていいって言われていた。もう奴隷商からは足を洗っている」

 

「なわけないだろう〜。お前みたいな猛者を手放すぐらいだったら処分してると思うぞ?」

 

「……!」

 

“処分”という言葉にガルベスは反応した。幼少の頃から選別され、選ばれなかった者達は処分されてきた。自分は処分を回避し生き抜いてきた。そして自由を得たと思っていた矢先、選定はまだ続いていたことに気づかされたのだ。

 らしくなく額から汗が滴り落ちる。そんな様子を見抜くかのようにスケサーンは優しい言葉をかけてくる。

 

「まぁ今すぐ決めろってわけじゃねぇんだ。ちょっと仕事内容を聞いてから判断でもいいだろ?」

 

「……話してみろ」

 

「よーし。まず特別憲兵隊は都市連合の兵士の中から選び抜かれた精鋭集団ってことまでは知っているか。では、全部で何人いると思う?」

 

「俺に規模を教えていいのか?そもそもアンタが特憲だってこともな。俺は入らないかもしれないんだぜ」

 

「くく、強がるな。それに俺は別に隠していないからOKだ。特憲は全部でおよそ20人いる。この数なんだか分かるか?」

 

「いちいち質問形式じゃなくていいから進めろ」

 

「20人はノーブルサークル上位貴族の数だ」

 

「はっ……貴族1人1人のお抱えってわけか」

 

「察しがいいねぇ。貴族に推薦されて認められれば晴れて特憲のメンバーになれるってわけよ。ちなみに1人の上級貴族につき特憲への推薦は1人までだ。特憲内でも貴族の派閥偏りが影響しないようにするためだ。分かるだろ?」

 

「養成学校の異常な振るい分けもそこに繋がっているわけか」

 

「だろうな。各貴族は素質ある奴を拾ってきては養成学校に放り込む。施設には奴隷商も出資しているし、彼らも今後ノーブルサークルに深く入りこんで行きたいらしい」

 

「だからミフネさんは俺を推薦したいのだな」

 

「そうだ。今、奴隷商推薦の特憲は不在だ。そして貴重な1人枠に出来損ないを入れたくもない。その点お前は見込みがあったってわけよ」

 

「ふーん……。で、あんたは誰の推薦で特憲になったんだ?レディー・ミズイか?」

 

この問いにスケサーンは声のトーンを下げて応える。

 

「……いずれ分かると思うが自分の推薦者は互いに明かさないのが一般的だ。派閥争いが特憲内のトラブルの元になる場合もあるからな。お前の場合はまぁ俺が説得を頼まれたから仕方ねぇが。で、どうだ、悪くないだろう。貴族にツテが出来たらお前もいつか上流階級の仲間入りだぞ?」

 

「……悪くはない。だがまだ肝心な仕事内容を聞けていないぞ。戦いは多いのか?ヌルいのは嫌いだ」

 

「おおー勇ましいねぇ。戦闘が好きなのか?望むならそういう任務もある。だが大抵は情報収集やスパイ活動が多いけどな。都市連合にとって脅威となりそうな組織に潜伏し内外から崩すスペシャリストとなる。面白そうだろ?」

 

「……取り敢えず前向きに考える」

 

「そう来なくちゃな相棒!じゃあ良い返事期待してるぜ!」

 

そう言ってスケサーンは席を立つのかと思いきやその場に居座り始めた。

 

「なんだよ、まだ用があるのか?」

 

「ああ、今度は本物のチャドにな。彼にも正式にポストを用意してんだ。ここに戻ってくんだろ?」

 

「チャドもかよ。そんなに引き抜きしてルイに何か恨みでもあるのか?」

 

「はぁ?ルイもテックハンターとして専属契約しているし同じ仲間だ。テックハンターに向いている奴を見つけたら逆にこっちからあの娘に人材を紹介するさ」

 

「疑わしいな。というか俺やチャドはテックハンターには向いてねぇのかよ」

 

「ああ、向いてないな。お前ら本当はもっと暴れたいんだろ?分かるぜ」

 

「……かもな」

 

ガルベスは否定しなかった。毛皮商の通り道への遠征に行くまで片腕のまま拠点で待機している期間が彼にとっては長すぎたのだ。そしてそんな微かな不満を察知して対処できる人は拠点にはいなかったのである。

 元々、暴れん坊のガルベスにとってスケサーンの性格はそこまで気になるものでもなく、むしろ自分の境遇を理解するスケサーンに少なからず好感を持ち始めていた。そしてチャドが来るまでの間、彼らは意気投合してしまうのである。

 

 

 

 そんな状況でついにチャドがウェイステーションまで戻ってくる。

 悪印象のスケサーンとガルベスが飲み明かしている様子を見たチャドは、ルイの捜索断念も相まって当然不愉快の様子になる。

 

「お前たち……何をしているのだ?」

 

「お!チャド戻れたか!ルイはどうだった?」

 

ガルベスはチャドの気も知らず質問をした。

 

「この男はレディー・ミズイの部下だろう。なぜ一緒にいる?」

 

「ああー、あんたにまた話があるんだとさ。俺も大分待たされて暇だったから話相手になってもらってたんだ」

 

チャドはスケサーンのほうを見やる。

 

「私にまた用があるのか?また手合せならばはけ口としてはちょうど良いが」

 

「あんたも戦いたがりかよ。歳なのに血気盛んだねぇ」

 

「……」

 

この挑発にチャドは回答しなかった。しかし、代わりにチャド周辺の空気が変化する。その場にいるだけで押しつぶされてしまいそうな重厚な闘気を発し、BARにいる護衛達も気配を察して戦闘体制に入ってしまう。

 

「待て待て!冗談だ!あんた意外と短気だなぁ。今日俺はアンタに都市連合からの依頼を持って来たんだよ」

 

「ならば自分の命を大事にすることだ。くだらない事で死にたくないだろう」

 

ホーリーネーションから一方的な依頼をされている中で今度は都市連合の依頼である。味方であるガルベスの酔いが冷めるほどの殺気がチャドからほとばしった。

 

「分かった分かった!じゃあ手短に。都市連合の軍隊を率いる将軍になって欲しい。これはノーブルサークルからの正式依頼だ」

 

「……!」

 

都市連合の将軍職。古くは残忍に反乱分子を一掃し続けその名を轟かせたアイゴア将軍しかり、直近だとホーリーネーション軍の侵攻に対してロジャー・バートという新興貴族が将軍として軍務を担い防衛に成功していた。

 バート家はその後急速に力をつけて今は都市の領主になっている。それほどこの将軍職の依頼は大きな意味があった。

 チャドはこの申し出に対して、表情を一つも変えずに黙って考え込んだ。

 




都市連合との因縁対決までは描き切りたいけれど……
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