Kenshi -20years later-   作:さわやふみ

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【拠点組】
トゥーラ、ナパーロ/ラックル/694番、シルバーシェイド、シャリー、
ヘッドショット、レイ、ジュード、チャド、ガルベス
【行方不明】
ルイ



92.それぞれの道

ルイ達が拠点を旅立ってから実に4ヶ月が経過していたが、その間、拠点の経営はルイから任されたトゥーラがこなしていた。

 

「ふぅ。今月は1万catの黒字か。やっぱり毎週の都市連合への献金が重いなぁ。中々資金が増えないわ」

 

今日もいつも通り皆が寝静まった部屋の片隅で帳簿をつけていたのだ。現在の収入はレディー・ミズイからの様々な依頼がメインになっているが、ミズイに接触できるような直接的な依頼はほぼなく、隊商の護衛であったり、街道に巣食った獣や野盗の一掃等の治安強化であった。

 

(こんなんじゃミズイがどこに住んでいるかすら分からない……技術統制機関の割にはテックハント業務すらないし)

 

早いところ、リドリィの捕らわれた場所をつきとめたいところであったが、めぼしい情報は全く出てこなかったのだ。

 

(今頃、ルイはどうしているかな……)

 

チャドとガルベスがついていったので、安全面はさほど気に留めていなかった。むしろデッドランドや毛皮商の通り道など未開の場所に赴けて、羨ましさすら感じていたぐらいだ。

それに比べて拠点に残ったメンツを取り仕切るのは相当骨が折れる業務となっていた。

 

 ヘッドショットとレイはいつも2人で行動していて、面倒な仕事にはあまり協力的ではなく、シルバーシェイドはそういう世界で生きてきたのかお金の要求が多かった。かと言って、残るはジュード、ナパーロ、シャリーである。

 

(皆、あんまり言うこと聞いてくれないしなぁ。年上の人はやっぱ私なんかに指示されるのは面白くないか……。ジュードにも手伝ってもらうか……)

 

トゥーラは椅子の背中にもたれ掛かり天を仰いだ。そこに外で見張り当番をしていたジュードの声が聞こえてくる。

 

「し、師範!おかえりなさい!」

 

ジュードの師範といえばチャドだ。ということはルイ達が帰ってきたことになる。トゥーラは椅子から転げ落ちて建物を飛び出した。

 

だがそこにはルイの姿はない。

 

「あれ?ルイは……?」

 

おもむろに尋ねるがチャドの表情は暗い。

 

「ホーリーネーションにさらわれた。跡を追ったのだが証跡が途絶えた」

 

「ど……どういう意味ですか?」

 

これにガルベスが舌打ちをする。

 

「意味も何もそのまんまだろうが」

 

だがトゥーラは相変わらず彼を相手にしない。

 

「チャドさん、もう少し詳しく教えて頂けませんか?」

 

「ああ、そのつもりだ」

 

2人とも長旅で疲れた様子であったが、そのまま小屋にいる拠点メンバーを起こし臨時で会議を行うことになった。そこでチャドは毛皮商の通り道で起きた事を皆に共有する。

 

 

 

 

「そ……そんな……」

 

トゥーラは愕然とした。リドリィだけでなく、1番の友であったルイの失踪はトゥーラの心を大いに動揺させたのだ。他の皆も同じような反応だ。そして沈黙を嫌ったのかヘッドショットがチャドに喋りかける。

 

「聞いた感じだとそのカスケードって奴はルイに危害を加える様子もないんだろ?」

 

「ああ、私が貴族のロード・オオタを殺せば都市連合に潜ませている密偵を使って何らかのアプローチをしてくるかもしれん」

 

「いやー……それは無理だろ。お前なら貴族の1人や2人は殺れるかもしれんがその後が大変だ。突き止められてこっちが潰されちまう」

 

「ああ、そうだろうな」

 

「どうすんだよ。お前がついていながらやっちまったなぁ」

 

煽るように喋るヘッドショットに対してチャドは静かに応える。

 

「話した通り、ルイの足どりはホーリーネーションの軍事施設で途絶えた。だからそこに監禁されている可能性がある」

 

「ああ、浮浪忍者のモールも囚われているかもって所ね。そこに仕掛けるってか?それこそ無理だろ。警備が街の比じゃねぇ」

 

「私たちの戦力では無理だ。だから国家の力を使う」

 

「国家って……都市連合に協力をあおぐってか?助けてくれるはずねーじゃん」

 

「私が都市連合の将軍に就任すれば可能だ」

 

突拍子もない事を言うチャドにその場にいる全員が固まってしまった。

 

「……いやいやいや。はい?なんて?将軍って言ったか?」

 

「そうだ。都市連合から将軍への就任依頼が公式に来た。私はそれを受けるつもりだ」

 

「マジかよ!お前、今まで嫌いだからって役職の申し出を蹴ってきたじゃないか」

 

「ルイを探し出すためには手段を選ばん。都市連合の密偵を使えば詳細が掴めるはずだからな。それにカスケードは私がロード・オオタに近づくために将軍になったと思うだろうから好都合だ」

 

「そ、そうか……」

 

ヘッドショットはこれ以上は食い下がらなかった。しかし他の者はまだ唖然としたままだ。そこに最初から知っていたであろうガルベスが喋りだした。

 

「俺もチャドについていくことにしたぜ。戦えそうだしな」

 

「お、俺も行きます」

 

乗っかってジュードもチャドが行くところについていく選択をする。

 

「ジュード。お前がついてくるのは許可するが戦えるわけじゃないからな。使うとしても私の伝令係だ」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

ジュードの離脱にショックを隠しきれないでいたのはトゥーラだ。限られた面子の中でリドリィ探しの仲間として事情を知っているのは彼だけだったからだ。ただ、ルイの捜索もリドリィと同様に優劣つけられない事案でもある。考えが纏まらない中でヘッドショットが追い打ちをかける。

 

「じゃあアタシ達もここにいる意味なくなって来たなぁ。かと言って軍隊に入るのも年齢的に億劫だし、レイとまた放浪でもすっかな。またルイが戻ったら教えてくれよ」

 

そうなると残るのはトゥーラを含めてシルバーシェイド、ナパーロ、シャリーの4人だけとなる。

 

(…………!)

 

トゥーラは信頼も薄くなっているこのメンバーで組織の維持を行うのは到底無理だと直感した。

 

「チャドさんは都市連合に入ってもルイを探し続けるのですよね……?」

 

「無論だ。そのためだけに申し出を受けている」

 

トゥーラは一呼吸置いた。一文なしからルイと2人で始めたこのチームは辛いことも楽しかったこともたくさんあった。それらの経験はかけがえのないモノだった。だからこそ、いざ自らその幕を閉じるとなると色々な思いがこみ上げてきて言葉が出てこない。それでもトゥーラは唇を噛み締めて気丈に振る舞う。

 

「……そうですか。分かりました……。では……ここは解散しましょう。皆さん今までお付き合い頂きありがとうございました」

 

「……そうか。君がルイと一緒に立ち上げたのにこんなことになってすまなかった……」

 

「いえ、あなたは私を助ける計画を立案し尽力してくれたとルイから聞いています。その節は本当にありがとうございました。私も今後テックハンターとしてやるべきことをやっていこうと思います。そして私も違う立場からルイを探します」

 

「そうだな……。分かった」

 

この決定にナパーロは自然と涙していた。ルイとトゥーラに拾われてから2人には本当によくしてもらった。別の人格がやったことではあるがトゥーラに酷いおもいをさせてしまった事に対して今後償いをしていき、いつか許してもらえたらと心の底で思っていたが最早叶うことはない。ルイの消息不明による解散という結末は初期メンバーとしては心に突き刺さるものがあったのだ。

 

シルバーシェイドも残念がっている。

 

「ここともお別れか。短い間だったけど仲間とは何なのか少し分からせてくれた気がするよ」

 

虫のように無感情で打算的なハイブ人であったが、この時ばかりは寂しそうにしていた。

 

 

 

 

数日後

 

 

 

それぞれの旅路に向けて各自支度を始めていた。そして先にチャド、ガルベス、ジュードの3人が出発する時間が来た。ジュードは申し訳なさそうにトゥーラに近づいてくる。

 

「トゥーラ、ごめんな。俺は何があってもチャドさんについていきたいんだ。君はこの後、何をしようとしているんだ?」

 

「私は取り敢えずブラックスクラッチにいるテックハンターの会長に会いにいこうと思う」

 

「今の会長は……トレップさんか。確かに何かしら支援を受けれるといいな」

 

「ええ、表向きは仕事やチーム探しだけどね」

 

「慎重にいかないとだな。気をつけろよ」

 

「ありがとう。あなたも気をつけて」

 

「ああ。じゃあ、またな」

 

こうして3人は都市連合の首都ヘフトに向けて皇帝テングJrと面会すべく旅立った。最も頼りになる者たちの離脱はトゥーラに一抹の心細さを感じさせた。

 

続いて、ヘッドショットとレイが旅支度を終えて出てくる。

 

「トゥーラ。アンタとは短い間の付き合いだったが、若いのによくやって感心していたよ。アタシらが出ていくのはアンタが嫌いだとかじゃないからね。むしろ好きなぐらいだ。アタシらと違ってアンタは見込みがある人間なんだ。頑張ってな」

 

「ヘッドショットさん……レイさんもお元気で……」

 

ヘッドショットは一瞬寂しそうな顔をすると振り返り砂漠の方へ歩いていった。レイもペコリとお辞儀をすると彼女のほうへ小走りでついて行きやがて見えなくなった。

 

 

 

 

「行ってしまったな」

 

振り返るとシルバーシェイドが立っていた。

 

「あなたはどうするの?」

 

「また何でも屋でも戻るさ。中々スリリングだったが良い経験をさせてもらったよ」

 

「あなたがいてくれると心強いのだけど」

 

「特別料金を貰うよ。なんてね。協力したいのは山々なのだが、私はもう歳を取りすぎたようだ。最近は戦いにもついていけてなかったのさ」

 

「そうだったの……。じゃあ無理は言えないわね」

 

「すまんな。また雑用とかあったら募集してくれ」

 

そう言ってシルバーシェイドも旅立っていった。

 

「さて……」

 

残ったのはナパーロとシャリーだ。

 

「トゥーラさん、僕はあなたについて行くのはダメですか?」

 

「申し訳ないけれど、どうしてもあなたを見ると嫌な記憶を呼び起こしてしまうの」

 

「そうですか……そうですよね……そしたら僕は皆が帰ってくるまでこの拠点を守っています」

 

「そう。分かった。ではこれは今までの報酬よ」

 

トゥーラはギッシリと膨らんだ小袋をナパーロに手渡した。

 

「え……こんなに?」

 

「私が持ってても使わないしね。じゃあ拠点のお守り頼んだわよ」

 

そしてシャリーだ。

 

(この子は連れていってもいいか……)

 

子犬のような眼差しで拾ってくれと言わんばかりに目を輝かせてこちらを見ていたのだ。

 

「……行く宛ないのよね?」

 

「は、はい!」

 

「じゃあ一緒に来てくれる?」

 

「喜んで!」

 

シャリーは2つ返事で身支度を始めた。

その様子を軽くため息をしつつ、自分の荷物を担ぎ上げながら小さな小屋に振り返る。ルイと旅を始めて小規模だけどここまでやってこれた。もうここに戻ってくることはないだろう。見納めと思うと今までの経験が懐かしくも蘇ってくる。こんな荒廃した世の中だけど希望はまだ残っているのだ。自分はテックハンターとして人類を再興する使命がある。強くなってリドリィもルイも助け出すのだ。トゥーラは新たな道を力強く踏みしめていった。




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